115話理事長からのお呼び出し
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「無事に出産を迎えたよ」
「は?今なんて?」
「アラサーにして、孫が出来た件…………」
「ちょぉっ?!いや、いやいや!待って待って待って待って待って!!1年ぶりの連絡なのにブッ込みエグない?!いや!確かにわたし達も10代で親にはなったけど!なったけど?!」
「まずは落ち着け」
「何でアナタは落ち着いてるのよ?!」
「既にその道は通り過ぎている」
「はぁあぁぁ~~~~…………。そう、これが言い出せなくて今迄連絡が無かった訳ね?」
「いや、決して……それだけでは、無いんだけれど……ね」
「相手は?」
「あ~~~、ヘンリーさんとこの……次男」
「ハッガードね!結局ハッガード家なワケね!!」
「……先週婿入りして貰った」
「
「最初は驚いてたけど概ね喜んでいる。良い跡取りが出来た……と」
「……そう。はぁ~~~~~……。そうよね!コッチの世界?国?じゃ15~6歳で親になる子、珍しくないもんね!」
「まあ……、そうだな。そうなんだけどな」
「でも、監督不行き届き」
「いや、もう返す言葉も……と言うか、報告がもう一つあってな!」
「話題変えようとしてる」
「いやいや!これも最初から報告する予定の事で!学校!学校を作ったんだよ!」
「またイキナリ……でもないのか。確かに前からそんな話はしてたよね」
「良い場所が見つかってね。今は神殿庁管轄なんだけど、此方からの資金提供で本格的な教育機関を作る事に神殿側も乗り気になってくれたんだよ」
「良く説得したわね」
「神官教育も併せて行えるように設備投資も此方が持つ事にしたんでね。向こうも後継者育成は資金も人手も必要だからな。それに元々、市井に対する教育への意欲もあった」
「どこにあるの?」
「デケンベル村って言って50世帯も無い小さな村。アルコンネン領の南にある。アルコンネン家の庶子だった子爵家屋敷があった場所なんだ」
「場所的にどうなの?あの辺って周り
「南北に通る街道をそこを中心に整備する予定だ。何よりマグアラット河が麓に流れてる。河を利用した流通の中心地にも出来る」
「成程、目処は立ってるって事ね」
「もうひとつ。少し前に貴族派の大きな拠点を潰した時に出て来た物なんだが……」
「ちょっと!まだ自分から率先して危ない事をやってるの?!」
「い、いや!そんな事は無い、ぞ?!ちゃんとリスクヘッジを考えて人員も揃えたし計画も慎重に進めた!」
「……怪我はして無いのね?」
「してない!」
「……なら良いわ。くれぐれも自分から危ない事には首を突っ込まない!わかった?」
「…………わかった」
「………………はぁ、まあいいわ。で、何が出て来たの?」
「色々出て来たが、先ずはこれだ。同行したハイエルフに訳して貰った。スズの意見を聞かせてくれ」
「とりあえず教えて」
「『狭間に至らんとする者よ、知恵あるならば慈悲を以って勝利を掲げよ。その栄光は美しき円環となり、許しと嘆きに満たされた盃を囲む。火と水は虚を生み、大地と共に虹を得る。虹の果てに金の鍵を持つ者のみ、その扉は開かれん』わかるか?」
「いきなりポエムを語りだされたかと思ったわよ!なんのこっちゃ!よ!」
「100年程前に発掘された、古代バスティウムの石碑にバティン語で書かれた碑文の写しだそうだ」
「ハイエルフさんの見解は?」
「創世神に関わる記述だと思うが、それが何を示しているのかまでは分からないそうだ」
「属性の話が入ってるのかな?とは何となく思うけどね」
「どちらにしても、ハッキリとした事は分からないのが現状だ。それよりも此処で押収したブツがヤバイ」
「今度は何?邪神の卵とか言わないでよ?」
「高純度のマナクリスタルだ。結晶体の構造が普通の物じゃなかった。しかも籠められているものも普通の魔力じゃない。あれは純粋な神力。間違いなく『神宝』だ。それが全部で5種。厳重に保管されていたよ」
「ちょっとちょっとナニそれ?どういう事?」
「こちらでは手に余るのでね。神殿庁に預ける事にした。何しろ五柱の女神に属する神宝だ。どこか旧時代の神殿遺跡から持ち出された物かもしれないからな」
「そうね、そうするのが間違い無いでしょうね。それにしても、連中の狙いはなに?」
「主犯格達はもう居ないからな。どちらにしても碑文に関係してるのではないか?と言うのがハイエルフの見立てだ」
「余り良い感じは受けないわね。無理はしないでよトール」
「ああ、お前も気を付けろ。連中……貴族派の生き残りは、まだまだ画策を続けている」
「分ってるわ。お互い守るものが増えているしね!」
「そういう事だ。……お互い、な」
「……まあ、ガンバレおじいちゃん」
「ちょ!それ言ったら、おま――」
「は?!なんて?!」
「………………いえ、なんでもない……です」
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その日の朝、突然お呼び出しを頂いた。
それも、学園理事長様、直々のものだと言う。
何ソレ?!正に寝耳に水!
ちょっとイキナリ過ぎて、朝からビビリまくりなんですけど!
週明けの朝イチで寮室に寮監様がやって来て、授業前に理事長室へ行く様に言われたら、そりゃ普通ビビるわよね?!
同室のカレンは、慄くわたしに笑顔を向けながら「優しい人だから大丈夫だよ」と言って来た。
何だ?カレンは理事長の事知ってるのか?
カレンは訝しむわたしの背中を押して、サッサと部屋から追い出した。
まぁ、カレンが大丈夫言うなら心配無いんだろうけど……、問題は何で呼ばれたかなんだよねー。
心当たりが全く無い。
…………いや、本当か?全く無いか?
わたしゃ何もやらかしてないか?
思えばつい一昨日、貴重な史跡を破壊している?……気もする。
ちょっと前にはメイドコスで街の石畳にクレーター作った?……気もする。
しかもその直後!街の一角を瓦礫にした?……気もする!
そんでそれよりちょい前には、無断外出の上、人間サッカーとかをかましてる?……気もしるっ?!
ヤッッバ!!
『やらかしてる』なんてもんじゃ無いんじゃん?!
ちょっとぉ!何やってんのよ自分んン!
コレってまさか断罪イベント的なヤツではあるまいね?!
うひぃ〜〜〜!
ビビとか一緒に行ってくれないかしらん!
え?1人で行けって?
ぅにゃやゃあぁ〜〜〜…………。
取り敢えず1人で盛大にビビリ倒した。
それでも理事長室があると言う、本校舎とは別の『御屋敷』と呼ばれる建物へとやって来たわけで……。
ココは文字通り、元お貴族様のお屋敷を改装したものなだそうな。
石造りの二階建てのお屋敷で、かなり豪勢な建造物なのは分かるんだけど、今のわたしにはその重厚な建築様式に感じ入るだけの余裕などは欠片も無い。
恐る恐る重みのある玄関扉の前で行けば、執事然としたロマンスグレーでダンディなおじ様が待っていた。執事様はわたしの名前を確かめると扉を開けて、中へと案内してくれる。
扉を潜るとそこは絵に描いたような大きなお屋敷の玄関ホール。
ここでも、わたしにプレッシャーをかける演出か?!
更に案内されるままに奥へと進めば、いかにも館主の執務室といった体の重厚な扉の前。
執事様が扉をノックして、「いらっしゃいました」と声をかければ「入って頂きなさい」と中から響く声。
もうこの時点での緊張感がハンパ無い!
改めて執事様が扉を開いて中へと導かれれば、やはり見るからにお貴族様の執務室!
「やあ、よく来てくれたね。待っていたよ」
と、正面に置かれた大きくて重厚感ハンパ無い執務机から、張りのあるお声が掛けられた。
その執務机の後ろにはデッカイ窓が在り、そこに座る人影は分かるが、逆光でそのお顔までは良く見えない。
「お呼びに預かりましたスージィ・クラウド、です。お目にかかれて光栄でござい、ます」
そのまま深く礼をして挨拶をさせて頂くと、机に座られていた方が椅子から立ち上がった気配がする。
う!ココでなにか処分とかを言い渡されちゃうのか?!
ヤバイ!緊張が更にマシマシになりゅ!顔が上げらんねぇぇ!
「相変わらず元気そうだ。仕事の疲れは出ていなさそうで何よりだよ」
「お、恐れ入りま、す?」
ん?思わず労われた?
あれ?「相変わらず」とか言った?どっかでお会いしたっけ?
てか、どっかで聞いた事ある……声?のような気が。
そンな事を考えてる間も、軽ろやかな足音が近付いて来る。
その音が近づいて来る度に、頭の中でクエスチョンマークがポンポンと増える。
「取りあえず顔を上げて、こちらへどうぞ」
「あ、ありがとうございま、す?」
顔を上げるとその方は、執務室内に設置されているソファーの脇に立ち、こちらへおいでとわたしを手招きしていた。
誘われるままにソファーへ座ると、執事様がこの部屋の主様に「お飲み物は如何いたしましょうか」と聞いている。
その方は、「コーヒーを頼む。彼女にはミルクティー……で良かったかな?」と問われたので、「お願い致します」と答えをお返した。
ソファーに座って向き合うと、理事長様はまだお若い事がよく分かる。『理事長』と言う言葉のイメージだと、白いお髭でも蓄えたそれなりに年輪を刻まれた方を想像していた。ハワードパパみたいなね!
でもそんな事は無く、多分まだ30代くらい?
栗色の髪を整髪剤て綺麗に整え、質の良そうのスーツを身に付けておられる。
少し垂れ気味の灰色の目はとても優しげで……。
……ン?この目?
「いや、一昨日はお疲れさまだったね。想定以上の成果で我々は大変驚かされたよ」
理事長様は、目の前に出されたカップに口を付けてから、そんな風に切り出された。
「あ、そでしたでしょう、か?」
「当然だよ。まさか
う〜〜む、やっぱりこの目に見覚えがあるな。
それにこの声も……。
どこだ?どこでだっけ?
それまであった緊張感などどこへやら。
埋もれている自分の記憶をひっくり返そうと躍起になっていると、ふとテーブルの上に置かれている花瓶が目に入った。
漂って来るその花の香に気が付いたからだ。
薔薇だ。
その花瓶には、可愛らしい白やピンクの薔薇の花が活けてあるのだ。
「いい出来だろ?」
「この時期に薔薇です、か?」
「グリーンハウスの中で育てた物だよ。庭の子達と比べても、全く遜色は無いと思うんだ」
理事長様は、わたしの視線の先に気が付いてそう言って来た。
そうだよね、今は庭の薔薇園は時期じゃないものね。あるとしたら温室で育てた物になる。
そうか薔薇ねぇ……。薔薇園かぁ……。
うん?薔薇園?
「薔薇園の庭師の『おにいさん』!!」
「おや?気が付いていなかった?」
改めてよく見ればそうだよ!薔薇園の庭師をしてる『おにいさん』じゃないか!この人!!
何でこんなトコに居んの、この『おにいさん』?!
え?理事長?!
「いやぁ~、カレンは一目で気が付いたからね。君も直ぐに分かると思っていたんだけど…………。あっははは!そうは行かなかったみたいだね!」
ぐぬぬぬぬ……確かに直ぐに気付かなかった自分が不甲斐ないが、楽しそうに笑うそのお姿が妙に悔しい!
でも!此処へ来た当初は!断罪を言い渡されるのかビクビクしてたのだから、お顔を確認する余裕なんて無かったワケで……ワケで!
ちょっと笑い過ぎでないですの?
ぬぅ……。執事の方も、やれやれといった顔をしておられる。
コレってもしかして遊ばれている?
「さて、戯れはこのくらいにして本題に移ろうか」
やっぱり遊ばれていたぁ!
「実は君に、護衛依頼をお願いしたいと考えている」
理事長様は、コーヒーを一口飲んだ後、そんな風に切り出してきた。
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