114話初仕事の結末

 結局のところ、盗賊拠点の砦跡どころか、山が綺麗に半分以上無くなる事態になってしまった。

 でも、砦は多少は残っていたんだよ?

 最も肝心で、最も重要な証拠品がある筈の倉庫は、かなり厳重で頑丈な造りだった様で箱ごと(?)残っていた感じだ。


 シェルターみたいなもんかな?実に運が良かった。

 結構蒼くなってワタワタ慌てて、ビビにも目一杯怒られたんだけど、肝心要の証拠品の書類が手に入ったので盛大にホッとした次第ですの。


 まあ、倉庫が何処にあるか分からないので、たまたま運よく無傷で生き残っていた連中……これがわたしを闘技場迄連れて行った3人組なんだけど!に案内させる事で、なんとか見つけられたワケで……。


 砦跡なんて4分の3位は吹き飛んでて、後は瓦礫ばかり。この辺じゃないかって場所のアタリを付けさせて、そこの瓦礫を吹き飛ばしてようやく出て来たワケですよ。

 いやぁー焦りました!

 冷や汗ダラダラでしたわよ!でも無事任務が果たせましたって感じ?


 中の書類を分別するのに、メッチャ時間はかかった。

 もっとも、わたしは朝方までしかやっていないけど……。

 とりあえず、ローレンス・ニヴンの名前が入った書類を見つけては、片っぱしから荷箱に突っ込む作業が終わったのは、その日の昼過ぎだったとか。


 デケンベルに戻る馬車の中で、更に気の遠くなるような分別作業をしたのだと、目の下に隈を作ったビビに後から教わった。ナンマイダ。


 ゴゥルやら盗賊の一味も殆ど無事だった。

 コレが運のいい事に、わたしが使った拘束魔法の魔力の蔦が、バリアー代わりになって保護してたっぽい。

 殆どが生き埋め状態になってたので、わたしの魔力を探知して掘り出した時には大体が瀕死になっていたが!まあ問題無い。


 運よく生き延びたとは言っても、これから先コイツ等に待っているのは、死ぬより辛い取り調べだ。

 コイツ等にとって、本当に運が良かったのかどうかは別の話だろう。

 ま、どうでも良い事だけどね!


 ゴゥルは、ロデリックさんがデケンベルに連行するとの事なので、ミアの魔法で蔦でグルグル巻きのミノムシ状態にされて馬車で引き摺られて行くそうな。

 う~みゅ、やっぱりミアもいい加減容赦がない。


 この馬車の『ウマ』は、マーシュさんが試作したモードチェンジの出来る特別製なんだとか。

 モードチェンジ後の最高速度は、短時間だが時速80キロを超えるとか聞いた時には耳を疑った。

 馬車も、その速度に耐えられる特別仕様なんだとか!

 なんじゃそりゃ?!


 そんなもんに引き摺られて、果たしてゴゥルは無事にデケンベルまで辿り着けるんだろか?

 元からアンデッドだから、ちぬって事は無いだろけどね。

 でも、ミアが高笑いしながらゴゥルを馬車で引き摺る画が頭に浮かんで来て、ちょいと背筋が震えたのはナイショ。



 そう!そんで地下室に居た母娘!

 ラリア(母)さんとビオラ(娘)ちゃんの2人!

 この2人がロデリックさんへの牽制で『出荷』されたのだと、ロデリックさんから合流した後に聞いた。

 要するにあの街中の拠点に居た人達がみんな、人身売買組織の連中によって、ヘクサゴムから連れ出されたと言うのだ。


 ロデリックさんは、その救出の為に人員を送り出したのだけれど、今どこに居るかは分からないし、現状いつ追い付けるのかも分からないのだと。

 ふざけんなよ!と思い、ビオラちゃんに預けたマーカーのチドリを起動させた。

 ロデリックさん達は急ぎでゴゥルをデケンベルに護送する必要があるので、救出はわたし単騎でやらせて貰う事にした。


 急遽、ロデリックさんとゴゥルを、ビビとミア、そんでルドリさん達にお願いしてわたしは単身チドリを追った。もう朝日が昇って小一時間は経ってからの事だ。



 連中の馬車は、ヘクサゴムから東へ20キロ程の山中の街道に居た。

 どうやら、そのままグルースミルから他国に入る予定だったようだ。

 追い付いた連中は10人ほどの賊だった。やっぱどいつもこいつも『人喰人獣ライカンスロープ』だ。

 最初、追手がわたし一人だけだと分ると嘲笑って来たけど、ま当然の様に瞬殺ですわ。サクッと輪切りにして差し上げた。


 結局、攫われて来た人達をその場で放置する訳にもいかないので、彼らの護衛をする形でヘクサゴムに向けて街道を戻る事になった。

 ようやくロデリックさんの所の護衛隊の人達と合流できたのは、もう午後の3時を回ってからだった。


 後の事を護衛隊の人達にお任せして、別れを惜しむビオラちゃん達とお別れした時は、もう陽が随分傾いていた。


 もうとっくにアニーの誕生パーティーは始まっている。

 ビビに、ハトを使って遅れる事を伝えて貰ってるはずだけど、アニーの晴れの姿を見れない事に、結構なダメージを受けている事を自覚した。


 全力で走って帰りたい所だけど、そんな事をしたら街道に取り返しのつかない破壊を与えてしまうという、確信めいた予感しか涌かない!!

 でも何としても早く帰りたい!


 そこで、フッと思いついた。

 ピッコーン!とランプが灯った感じ?


 『魔法障壁マジックシールド』踏み台にしたら、地面にダメージ届かないンじゃね?

 連続で足元に展開したら、それ踏んで行けるンじゃね?

 属性『対物理アンチマテリアル』の、特性『反射リフレクト』で自分側に向けたら十分持つンじゃね?


 と、そんな事をその時思い付いてしまったワケよ。


 ンで、さっそく試してみた所、コレが何とかなりそうな予感。

 走りながら足の下に障壁を張って行くのを、リズミカルに繰り返して行くだけ。

 障壁を展開するタイミングがシビアかな?と思たけど、意外と何とかなる物だった。


 最初はランニングでもする感じで軽く走るところから始め、段々とペースを速めて行った。

 これイケちゃうんじゃね?!

 とか思ってつい調子に乗ってスピードを上げようと思い切り踏み込んだら、障壁をバキリと踏み抜いて、そのままバランス崩して街道を20メートルくらいゴロゴロ転がったのは、色々と痛い思い出だ。


 障壁の耐久性に問題があるか……。もっと強度を上げる?それとも逆に柔らかく?いっそトランポリンみたいに弾き返す様な仕様には出来なかろか?

 ちょっと帰ったら、セイワシ先生かジョスリーヌ先生に相談してみよう。


 てなことを考えながら、障壁が壊れない速度を模索しつつ、デケンベルへ向けて1人ひた走ったのだ。

 それでも速度は結構出ていたと思う。

 最終的に、多分時速にすれば100キロは出てたんじゃないかな?

 シックスミリオンダラーのマン的な?!


 課題は沢山あるし改良余地も幾らでもある。

 いずれ音速を越えて走ってやる!と、夕日に向かって秘かな誓いを立てたのだった!




 この時期の日没時間は早い。結局わたしがデケンベルに到着した時には、もう既にトップリと日が暮れてしまっていた。


 その日街を襲ったというアンデッドの処理も、既に大方片付いた後だった。

 実に手際よくカーラ達が処理して行ったと、フィリップ叔父様が教えてくれた。

 流石アムカムの兄さん姉さん達だ。


 アンデッドの処理はダーナやロンバート達が集めて、それをアローズが焼くって流れだったらしい。

 片っぱしから、人型の消し炭を製造して行ったそうな。

 中途半端な攻撃じゃ中々動きを止めないアンデッドを、綺麗に処理するには燃やすのが一番だからね。


 勿論、街中だから炎の制御能力も問われる。そういう意味ではアローズは適任だったわけだ。


 ただ、アローズのテンションが上がり気味だったのが、ちょとコワかった。目付きもちょいキレ気味でヤバかったし……。


 大体アローズがキレる時って、カーラが目の前で危ない事をした時って相場が決まってる。

 普段、大人しい普通の人だけに、キレるとホント怖いのよ。

 目付きが鋭くなって、指をパチンパチン鳴らして豪炎撒き散らすとか、どっかのアルケミストな大佐様か?!ってなモノよ。


 カーラも自覚があるのか、アローズと目を合わせてなかったし。

 ……きっとなんかやったんだな、この姉さん。


 デケンベルが思わず大変な騒ぎになった様だけど、アムカム勢が大活躍だったんじゃん!

 と思っていたのだが……。

 何故かウィルを始め、領事館防衛に当たったという兄さん姉さんたちは気落ち気味だ。


 特にアーヴィンはかなり凹んでいる。

 何やら、同じ相手に二度も後れを取ったとかなんだとか。

 ふむ、精進しようね。後で修行るかい?


 みんなは、追い詰めていたのに逃げられた事が相当悔しかったらしい。

 こちら側は、ヴィクター、コリン、ウィリーに十分余力が残っていたから確実に仕留められる筈だったと、ジェシカ姉さんがホントに悔しそうに言っていた。


 うん、なるほどヴァンパイアか……。

 ニヴンの長男ね。

 分かった、見つけ次第に塵にしよう。


 まあ、わたしにとっては、その日のうちにアニーに「お誕生日おめでとう」を言えた事が、最も重要な事だったんだけどね!

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