116話野外授業

 今週末から一回生は、『野外授業』という集団活動が行われる予定だ。

 これは、『自然の中で生きる術を学ぶ』と言うもので、いわゆる『ブッシュクラフト』というヤツだ。

 このキャンプが、この週末から二泊三日の日程で行われる。


 場所は、ボルトスナンのローハン自然公園。

 コーディリア嬢のご実家があるところだ。


 この自然公園は大変歴史があり、観光スポットとしても有名な場所なのだそうだ。

 自然公園はローハン火山の地熱でこの季節でも大変過ごしやすく、温泉や間欠泉も所々に見られるという。

 湧き出た温泉は麓まで通っていて、その麓は温泉街の賑わいを見せているのだとか。


 自然公園自体は、人里から結構離れた山深くにあり、世俗とは隔絶している。

 川や泉は魚影も濃く、野草や木の実も豊富で山の恵みに溢れた場所なのだとか。


 この自然公園で二泊三日のキャンプをし、自給自足で過ごすのが今回の『野外授業』と言うわけだ。



 だが自然公園とローハン火山の間には深い森があり、そこには多少の魔獣も居るそうだ。

 それでも、脅威値は精々0.3から0.6程度の1にも満たない連中ばかりなんだとか。


 火山の近くまで行けば、脅威値10を越える魔獣もそれなりに生息しているらしいが、かなり森深くまで入り込まなければまず出くわさない。

 まあ、自然公園には十分な結界が張ってあると言うので、それほど心配する事でもないのだろう。

 どちらにしても、アムカムの森とは比べるまでも無い。



「今回の『野外授業』で、生徒を護衛をするという事でしょう、か?」


 庭師の『お兄さん』こと理事長は、今週末に護衛を頼みたいと言って来た。

 今週に行われる『野外授業』と、先日カレンに及んだ一件を併せ、そういう事なのか?と判断して理事長に聞いてみたのだが……。


「アムカムの諸君には、毎年指導する側に回って貰っていているんだよ」


 わたしの問いかけに、理事長は笑顔を溢しながらそんな風に返して来た。


 確かにアムカムの人間なら、森の中で一日二日野営をするとか普通にやってる。

 何よりアムカムの民は、14歳になったら誰でも一週間たった一人で森で生き抜く経験を積んでるしね。


 理事長曰く、アムカムの人間がキャンプチームに入ってしまうと、周りが置いてきぼりにされて学習にならないのだとか……。

 ご尤もです。


 だから、アムカム出身者には「なるべく手を出さず、最低限の助言とアドバイスを与えるに留めて貰っている」のだとか。

 この『野外学習』に限っては、アムカム勢は生徒側で無く監督する立場に居るのだそうだ。


「……なので、生徒への警備は不自然なく、やって貰えると思うんだ」


 先日のカレンの話は、フィリップ叔父様からシッカリ聞いている。

 ニヴン家の長男だった奴に狙われているのは間違いなく、身辺警護は今も続いている。

 特に、アムカムの兄さん姉さん達のやる気がハンパ無い。

 あまつさえウィルに至っては本来ならもう騎士学校へ戻っている筈なのに、キャリー様のお父上の許可を取ったとかで、戻りを1週間ほど伸ばして学園の守りについているそうだ。


 わたしとしても、カレンのみならず双子ちゃんにまで凶手を伸ばそうってな輩なぞ、自分の探知に引っ掛かり入り次第、速攻原子に還してやる心積もりでいる。



「分かりまし、た。カレンの警護はお任せくだ、さい」


「うん。彼女については、最初から君に任せて問題ないと判断してるんだけどね……」


「?」


「でもその前に少しばかり、とある方達の護衛に当たって欲しいんだよ」


 はて?カレンの護衛じゃないの?

 と、カップを持ったまま、理事長の顔を訝しげに覗き込んだ。


「ムナノトス鉱山までの護衛をお願いしたい」


 え?それってカレンの実家のこと?

 どなたの護衛を頼まれるお積りなのでせう?

 頭のまわりに、クエスチョンマークがピョンピョンといくつも飛び出した。

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