93話ターミナルシティ

 ヘクサゴムの街中へ入って直ぐ、わたし達は馬車から降りる事になった。


「このまま支店へ馬車を置いて来る。君達はこの子を連れて、先にホテルへ向かってくれたまえ!」


 ロデリックさんが馬車の窓から顔を出し、ビビとミアに向かって必要以上に大きな声で告げられる。


「わかりました!このままホテルに向かいます!皆様もお早く合流下さい!」


 ビビがそれに負けぬ声で答えを返す。


 周りも喧噪で騒がしいとは言え、この距離でここまで大きな声は必要ないと思うんだよね。

 ちょっとアピり過ぎじゃね?わざとらしくなってね?

 御者席のルドリさんは、素知らぬ顔で視線をあらぬ方向へと彷徨わせている。

 その口元、ちょいとばかりニヨニヨし過ぎじゃありませんか?



 そのまま馬車を見送り、ロデリックさん達とは一旦別行動を取る事になった。

 わたし達はおのぼりさんよろしく、通り沿いのお店を覗きながらホテルへの道を進んで行く事になっている。


「……ちゃんと釣れてるっぽいわね!」

「うん、今のところ2人……かな?」


 ビビとミアが言っているのは、わたし達の後を着いて来ている連中の事だ。

 馬車から降りてまだ10分も経っていない。

 まあ、降りる時にしっかり目立ったって事だろか。

 入れ食い過ぎんだろ!と思わなくも無いが、これがただのナンパ野郎とか、スリの類いの可能性もある。

 でも距離は5メートル以上離れているし、少し様子を見るのが正解か。


 今わたし達が歩いているのは、この街のメインストリートなのだと思う。行き交う人で真っ直ぐ進めない程人通りが多い。

 カライズ州東部の物流が行き交う街だけあって、デケンベル程では無いけれど露天や商店が道の両脇に連なっていて、それなりに賑わっているとは思うのだけれど……。どうにも雰囲気がよろしくない。


 何がどうよろしくないのか、言葉にしようとすると上手く言えないのだけど……。今一つ活気が乗り切ってないって言うの?

 強いて言えば、皆周りを必要以上に気にしている……ような?そんな感じ?


 まあ、街中をグルリと見回して気配を探って視れば、自ずとその理由も分かるんだけどね……。



 さて、ここで少し動いてみようかと、ビビとアイコンタクトを取る。

 別に走り出す訳じゃ無い。

 人と人の間を縫う様に移動して、少しだけ歩く速度を上げるだけ。

 あれだよ、親子連れで子供が突然人混みの中で何かを見つけて走り出した……みたいなイメージ?

「あれって何かしら?!」とか言ってみたり?


 決して速すぎない速度で、スルスルと人混みの中を抜けて行く。

 ビビとミアも、わたしの後をピタリと付いてくる。


 うん、ちゃんとしっかり付いて来ているね。

 改めてソイツ等に意識を向け、シッカリと視て確認する。



 わたしはスキルの『探索』で相手をタゲれば、その強さの程度が色のイメージで視る事が出来る。

 これはゲーム仕様の残滓みたいなものなのだろうか?

 多分、相手のエーテル情報を読み取っているのだと自分では考えているのだが、実は強さ以外にも識別できるものがある。


 ゲームの頃はPK、つまりプレイヤーキルをしたキャラは名前が赤色で表示されていた。

 所謂『赤ネ』さんと言うヤツだ。


 この世界でも、赤く視える人間がいる。


 本当に赤い色が見えるワケではない。ただ、そうだと分かるだけだ。

 どうやら無抵抗の相手に対し、事に及んだ者がそう視えるらしい。

 何度も繰り返している奴や、直近にやっているヤツ程色が濃くなる感じだ。

 その事にハッキリ気が付いたのは、去年盗賊団とか海賊を討伐した時だ。

 連中、どいつもこいつも真っ赤っかだったのだ。


 デケンベルに来た時も、チラチホラとそう言う類の奴を見かける事があった。やっぱり大きな街だと人も多いので、必然的にそういった輩と出会う確率も増えるって事なのだろう。


 スラム方面では更に沢山見かけた。

 夜のお掃除に出かけた時も、やっぱりゴロゴロ居た。

 アジトらしき場所から出て来た連中の殆どが赤かったので、簡単に仲間だと判断できたのだ。

 あのフルークってのも十分赤かったから、手加減する気なんて起きなかったんだよね。


 こう言うのって、いつもいつも視てるワケじゃ無い。

 普段から街中で視まくっていたんじゃ、鬱陶しくてしょうがないからね!

 通常は意識しないと視えない様に調節している。

 まあ、身体能力をセーブしているのと同じ要領だね。

 ギュッと絞って感度を抑えてるって感じ?


 ……なんか思ったんだけど、視えるとか視えないとか、まるでオカルトっぽい事言ってるよね、自分。

 ひょっとして視ちゃう子ちゃん?!

 まあ、魔法とかアストラルとかエーテルとか言った世界に居るから、似た様なモンなのかもしらん?よく分からんがっ!


 で、だ。

 着いて来ているそいつらは漏れなく赤い。ウム実に分かり易い。

 これは確定で良いかな?と、ビビとミアと目配せをして頷き合う。


 わたし達はそのまま角を曲がり、大通りから一本、二本と裏の通りへと入り込む。

 奥の道を進む程に、人が居なくなっていく。

 そこの角を曲がれば完全に人気が無くなりそうだ。


「待て!そこの三人!」


 人気の無い路地に入った所で、わたし達の後ろから慌てた様に声をかける者が居た。

 掛かった!と思ったのだけど……。

 ん?あれ?あれあれ?

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