女キャラで異世界転移してチートっぽいけど、雑魚キャラなので目立たず平和な庶民を目指します!

TA☆KA

序章:はじまりの大森林

第1話スージィ森で目覚める

 初夏を思わせる白い積雲が伸び上がり、その向こうには澄み渡るスカイブルーの空が、どこまでも広がっている。

 そしてその真下には、空と同じように何処までも広がり続く深緑の大森林。

 森林の続くその背後には、白く聳える山々が、紫煙に霞み壁の様に連なっていた。


 そこは、見渡す限りに深い木々の波が地平の果てまでも届く、まるで緑の大海原の様だった。


 そんな樹林の海に、風が吹き結び深緑の波がなびく中、そこだけ木々が薙ぎ払われた様な場所があった。

 草木も無く、荒地の様に岩や土くれが剥き出しになった広い空間。

 その広場のような空間を、見下ろす様に隆起した一つの高台がある。

 植物に覆われながら、岩肌を覗かせるその高台の上に、ひとつの人影が静かに、ひそやかに立っていた。



 スッと立つ、存在感を感じさせない静かな佇まい。

 外に跳ねる様に広がるショートボブの赤い髪は、風になびき陽の光を透すと、紅玉ルビーの様な光を振り撒き、深緑の中にあってより一層際立ち煌めいている。

 右から左へと流れる前髪が、風に揺れて左の瞼を優しげに撫でていた。


 両の目は閉じているが、細く流れる眉はその人の意志の強さを伺わせる様だ。

 小さいが、形の良い筋の通った鼻。

 軽く閉じた小さな唇は、光を湛えた薄桃色だ。

 幼さを残す丸みを帯びた頬のラインが、小さな顎へと続いていた。

 それは、人形の様に整った容姿を持つ、美しい女性の面差しだった。



 そのたおやかな身を包むのは、頑強なプレートアーマーだ。


 暗緑色をベースにしたボディは、光によって翡翠色に輝き、蔦や茨が纏わる様に刻まれた幾筋もの白銀のラインは、その表面に静かな彩を与えていた。

 堅固な装備のはずだが、それには露出部分も多い。

 二の腕や大腿部、そして胸元も大きく開き、その形の良い白い谷間を見せ付けている。

 纏う薄紅色のマントが、時折その身を隠す様に風にたなびき、そこに縫い込まれた金糸銀糸が光を辺りに散らせていた。



 そして、その手には女性が持つには武骨な武器が二振り。


 それは、獣の骨さえ容易に断ち切りそうな肉厚の、鈍い黄銅色に輝くブレード。

 握り近くの刀身に、獣の頭蓋骨の様なレリーフがあり、その中心に深紅色の玉石が埋め込まれていた。そこからルビーレッドのレリーフが血管の様に剣先へと伸びている。

 更にその刀身は、薄青いオーラと、バチバチと放電発光する、小さな雷光まで纏っていた。


 そんな禍々しい様相を示す剣が二振り、その女性の左右の手に一本ずつ握られていた。




 今、身じろぎもせず佇んでいたその有り様に、静かに動きが起きようとしていた。


 頬が風に優しく撫でられると、愛らしく小さく収縮する。

 胸が大きくせり上がり、ユッタリと深く息を吸い込んだ。

 目元がピクリと動き、その瞼が静かに開く。

 開く目の中で、水面が煌めく様に薄緑の光が反射する。

 半ばまで瞼が上がった事で、それが澄みきった南洋の海の様な、コバルトグリーンの瞳の反射だと判る。

 しっかりと開いた目は、長い夢から覚めたかの様にゆっくりと瞳の焦点が合い、やがて光が灯りはじめた。

 少し切れ長だが、零れる様な大きな目に、少しずつ理性が宿って行く。


 そして、ゆっくりと首を廻らせ周りを見回すと、訝しげに眉を寄せ口元が動いた。

 唇がユックリ開き言葉が漏れる。


「あれぇぇ??」





     ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「え?あれぇぇぇぇ?」


 もう一度繰り返した。


(ココ何処?っていうか今の声、オレ??)


(手には……、ネメ剣持っているな……。ンで、オラ重を着ている……と)


(で、だ……、コレは……胸、……か??)


 そんな事を考えながら、自らの胸元を指先で突き、その柔らかい感触を確認した。


「鏡だ!鏡を要求する!!!」


 誰へとなく叫ぶが、その声は虚しく木々の間へと消えて行った。


(……えーと、落ち着け!まず思い出せ!!)


 眉を寄せ目を瞑り眉間に指を置く。取敢えず、ハッキリしている所から記憶を辿ろう。


(仕事から帰った後、飯食ってシャワー浴びて、PCを点け、何時もの様にゲームにINして……)


 もう10年以上続けているMMORPGだ。

 19歳の時に始めたので、もう13年目になる。

 10年の間には何度も休止や復帰を繰り返し、今もダラダラと続けているルーティーンだ。


 特定キャラを育て上げる事よりも、複数のキャラのレベルを均等に上げて育成を楽しんでプレイしているので、キャラの練度は総じて低い。

 ゲームのカンストレベルは150であるのに対し、彼のキャラの最高レベルは100より下だ。


 トッププレーヤーたちから見れば一般人、雑魚キャラである。


 そんな雑魚キャラ達を使い、其々のデイリークエをこなしたり、仲間とダラダラとチャットをしたり、と日々温いプレイを楽しんでいた。



 最後の記憶でも、仲間と狩りをしデイリークエストをこなした後、翌日が休日なこともありグダグダと仲間達とチャットで盛り上がり……。


「寝落ちしたな……」


 ナルホド!と手を叩く。


「これは夢か!」


 結論付けた。


(つまり、使っていたキャラその物になってゲームをしている!……って夢か!!)


「ナルホドな~、これが明晰夢ってやつかぁ~~。……ネットではよく読んでたけど、こんなにクリアなんだな~。スゲーーーッッ!」


 エンチャントチャネラーの『スージィ』

 ヒューマンメイジの女性キャラ、それが彼が最後に使っていたキャラだ。


『エンチャントチャネラー』は支援職だ。

 パーティーメンバーを強化する為の、エンチャントスキルを使用するのが主な仕事だ。

 また多少ではあるが回復も出来、重装備も装備可能なので、そこそこ前衛もこなせて無理をすればソロも出来る。

 なので、自分的には使い勝手が良いとメインで使っていた。


「それにしても、スージィのまんまとは……」


 クルクルと回りながら、自分の身体を見下ろして眺める。


「結構、欲求溜ってるの……、かな?」

(近いうち、伊勢佐木町にでも行くかー)


 などと、鎧から覗く胸の白い谷間をフニフニと触り、その感触を楽しみながら考えた。


「でも、まっ!夢だから女体プレイもありかっっ!」


 割り切ったようだ。


「で、ココは何処だ?コレ何の森?マップは……、出ないのか」


 ゲームでは、マップを出して現在位置を知る事も出来たが、今はマップもウインドウも出ない。

 周りを見渡すと、どうやらここは深い森のど真ん中らしい。

 今立っている場所は、他よりは高く見晴らしも良いが、周りの森の終わりが見えない。


 ちょうどこの高台の目の前は、木々が切り開かれ広場の様になっている。

 陸上競技場程の広さだろうか。

 この空間だけ草木も生えず、地肌が露出し荒地の様に大小の岩が転がっていた。


(廃れたキャンプ地跡?何かのイベント空間かな?)


「でも妙にリアル仕様だなぁ……。ウインドウくらい出てくれても良いのに。レーダーは……あ、これは有るって事で良いのか?Mobの居場所が分るぞ」


 レーダーは、自分の見ている画面には表示されていないが、近くに居るMobをドット表示して、相手の居場所を認識する機能だ。


 『Mob』とはMoving Object(ムービングオブジェクト)の略だ。

 一般的には群衆(モブ)という意味で使われるが、スージィが居たゲーム内では、モンスター等の敵対行動するNPCを指していた。


(『見える』んじゃなくて『判る』って感じか?GPSみたいなイメージでも浮かべばまだ分り易いけどなぁ……本当に感覚的に『判る』って感じだ。なんだか不思議感覚♪……でも、結構な数いるなぁ……)


 もう少し情報が見て取れないかと、認識した一つに集中を深めてみた。


(距離感とか、強さも判る……のか?みんな真っ青なイメージだけどね!)


 ゲームに於いて、レベル差がある相手は、色分けで表示される。

 『青』は、自分よりレベルがマイナス25以上離れている弱い相手だ。

 今は色が見えている訳ではない、只、そうだと『判る』だけだ。


(一番近くに居るのは、この高台から降りて、右後方25~6メートルってとこかな?)


「とりあえず、安全マージンって事でやってみるかな♪」


 この高台の後方は、急な斜面になっている。

 一番近いそのターゲットに向かい、高台から駆け下りながら……。


(スキルは……あ、コレ。こ、こうかな?!)


「抜きます!」


《アサルト・ダッシュ》

 エンチャントチャネラーのスキル

 敵に向かって高速で突進し、短時間スタン状態にさせる。

 チャネラー初手の、定番スキルだ。



 手に持った二本の刃を敵に向け、姿勢を低くし地を蹴った。


 その瞬間、破壊の権化と化したその身体は音速を超えた。


 音の壁を突き破る轟音を周りに轟かせ、射線上の樹木を粉砕しながら、20メートルほどの距離を一瞬で詰めた。

 そして、その切っ先がターゲットに達した瞬間……。


「爆ぜたぁぁぁっっ!!??」


 禍々しい存在であった筈の、巨大な獣に見えたそのモノは、その瞬間爆散した。


 制動をかける為、足を穿ち、大地を削りながら更に10メートルほど進んで停止する。

 凶悪なまでの爪痕を、その地に深々と残して。


「…………オーバーキルにも、程がある」

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