第2話スージィ驚きを覚える
森の一部が抉られ、白煙を上げていた。
「いや、いやいや!いやいやいやいやいやいや!」
自分の作った『跡』を見て改めてビビる。
「只のダッシュ技だよ?!攻撃力無いスキルだよ?!」
ターゲットだったモノは最早欠片も無い。
「えぇ~~?なんでぇ?Mobとレベル差があり過ぎって事?だとしても、夢だからって派手すぎでしょ!?」
メキメキと音を立て、抉り砕かれた木々が崩れ落ちていった。
「でっかい熊みたいなMobだったなぁ……。タゲると名前も『判る』っぽいけど……、直ぐ爆ぜちゃったからなぁ」
ナントカ・ベアだったかな? と、自分の抉った惨状から目を背けるように、一筋汗を垂らせながら呟いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
響き渡る大音に驚き、多くの生物たちはその場から遠ざかるように逃げ出していた。
しかし、中には逆にそれで引き寄せられるモノ達もいる。
自らを『強者』と自覚するモノたち。
ソレは苛立っていた、突然の衝撃と大音に動揺を覚えたことが、ソレのプライドを傷付けたのだ。
生物としての本能に従うのなら、何らかの脅威を感じたならば、速やかにそこから離れるべきだ。
知恵なき獣ならそれで良いだろう、だがソレは『強者』である。
自らに脅威を与えたものを、そのままにしてはおく訳にはいかない。
誰に対し牙を向けたのかを、相手に知らしめる必要がある。
ソレはその憤りを隠そうともせず、音の発した方向へと足を急がせた。
ソレがその場所を確認した時、改めて驚きを覚えた。
その惨状にでは無い、そこに居た者に対してだ。
本来こんな場所には居る筈の無い者。
もっとここから遠い、この森の端まで行かなくては遭遇できない『人』だ。
しかも『若い牝』だ。
ソレは、驚きや苛立ちが悦びに変わるのを感じていた。
最早、大音を轟かせた正体も原因もどうでもいい。
目の前に滅多にお目にかかれない極上の獲物がいるのだ。
『人』は簡単に抑え込める。
稀に武器を持っている者も居るが、奴らの貧相な刃物では、こちらの毛皮にはロクに傷など付けられない。
脚で抑えればそれで終わりだ。
それにこいつ等は、その身に爪を軽く立てるだけで直ぐに音を出す。
特に『牝』の出す音はとても
タップリと音を絞り出させ、啜るように味わってから肉を喰らおう。
これから楽しめる饗膳を想い、サーベルタイガーを思わせる巨大な牙を備えた口元が歪む。
3メートルに達する黒いネコ科を思わせる巨体が、ゆっくりと地面を這うように沈み込んだ。
肩口から延びる2本の触手が震え、金の眼がスッと細まると、その存在が薄まっていく。
【隠形】インヴィジビリティ
魔力操作で己の存在を空間に溶け込ませ、他者から認識する事を不可にする。
『人』では到底見つける事は出来ない。
魔力を持って探知をする者も居るが、『人』の魔力量程度でこれは捉えられない。
このまま組み伏せ、爪を食込ませながら姿を現わせてやろう。
きっと、とても
そう冷ややかな愉悦に浸り、ソレは獲物へと飛びかかった。
身体を右に
派手な破裂音と共に、飛びかかって来たモノは破裂した。
「うわっぷ!」
破裂した水風船の如く、黒い毛皮と血肉が飛び散った。
「うあああ、また爆ぜたぁ……。やっぱ盛大にオーバーキルか。……今のヤツは『クァル・ジャガー』って名前だったかな?この辺のMobは、初期村クラス並なんだろか?」
飛び散った血肉、脳漿や内臓の破片などを眺めながら、独りごちた。
(結構グロい状景なんだが……、何気に平気だな?オレってグロ耐性高かったのか?やっぱり夢だからだな、ウン)
等と納得していた。
「でも、スキルの使い方も判ったっぽいし!」
スキルは、意識の中にイメージとして有る様だ。
ゲーム画面の様に、アイコンが目の前にある訳では無い。
使いたいスキルを、使いたいと意識すれば発動するようだ。
ほぼ、パンチをストレートにするか、フックにするかを選択する様な物だ。
「魔法を使うのも同じ感じかな?とりあえずエンチャはしとくか」
そう言うと、剣を持ったまま両手を頭上に掲げ、揺れるように踊り始めた。
その口元から、囁く様な
すると、その
ホーン、リュート、ハープ、ドラム、ギター、オルガン等、様々な楽器を演奏する小妖精が現れ、それぞれ演奏を奏で始めた。
HP、MPの増加及び回復値、攻撃、魔法、速度、物理魔法防御、回避、クリティカルの発生及びダメージ力、移動速度、各種属性の抵抗値、精神や身体の異常に対する抵抗力。
等々、身体能力が次々と大幅に増加していく。
(魔法も同じ感じで使えるな。しかもマクロ組むようにセットして使えるっぽい?スキルのコンボも試してみるか……)
やがて、演奏を終えた小妖精たちが、静かに消えて行く。
「さっきのでかい音で随分散っちゃったけど、まだ近くにはMobは結構居るな」
周りを見渡しレーダーで……自らの探索能力で、Mobの位置を確認をする。
舌でペロリと上唇を舐めた。
「さて、そんじゃちょいとばかり試してみよっかなっ!」
少し強気な笑みを浮かべ、最も近い敵へと向けて飛び出した。
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