10話ミリアキャステルアイ寄宿学校


「…………ぁ、あの……。よ、よろ……よろしく……お、ぉね、おねがい……します」


 やっとの思いで声を出したのだろう。消え入りそうな声でそれだけ言った後、その子は真っ赤になってそのまま俯いてしまった。


 わたし達が寮に入ったその日の夜、寮室に寮監様が連れてきたその子は、カレン・マーリンさんと名乗られた。

 馬車のトラブルで遅れに遅れ、学園の到着がこんな時間になってしまったそうだ。

 本来なら、正門が閉まった後では入寮など出来ない筈なのだが、こんな時間に締め出す事など出来ないという、寮監様のお取り計らいらしい。

 やっぱりこの方、ミセス・シェルドンは、当たりは凄く厳しいけれど、とてもお優しい方なのだな……と思い、思わず笑みを向けてしまった。 


「程なく消灯時間です。速やかに就寝の支度を整えなさい」


 そう言うと静かに部屋から離れて行った。

 うん、表情を変えずに笑顔をスルーさせるとちょっとコワいよね!やっぱり背筋が伸びちゃいましたよ?!


 直ぐにカレンさんを部屋の中心に連れて来て、ご自分のベッドに腰掛けさせた。

 わたしは新しくお茶を淹れ直し、カレンさんにも淹れたお茶を勧めると、やっと一息ついて落ち着いてくれたようだった。

 長旅と馬車トラブルで、相当疲れているだろうからねぇ、これで肩の力が抜けてゆっくり休めるとイイんだけどね。


 カレンさんは、鳶色の髪と、伏し目がちだけど大きな灰色の目が綺麗で、とても可愛らしい人だった。

 うつむきかげんで目を合わせてくれないのは、まだ初対面だから遠慮しているのかな?

 頬を染めて、落ち着かなさげな態度が、そう言っている気がする。

 なんか、ドロッとした気だるげな雰囲気を纏っているのも、相当に疲れが溜まっているからなのかも。


  アムカムの子達が、みんな怖いもの知らずの強気な子ばかりだから、これはちょっと新鮮な反応だよね。

 まあ、アムカムの外では、これくらいが当たり前なのかもしれないけど!


 お茶を頂いた後、改めてお互い自己紹介を済ますと、やっぱり緊張してたんだねー。カレンさんの笑顔が、幾分ほぐれて来た感じがした。

 ベッドに入ると安心したのか、カレンさんは直ぐに健やかな寝息を立て始めた。

 来た時は、憔悴し切った感じだったから一安心だ。

 疲れが確実に取れる様に、『ヒール』でもかけて上げようかな?

 いや、長旅の溜まった疲労だったら、異常状態を治す『キュア』の方がイイかも?

 えーい、両方使っちゃえ!


 でも、正直どんな人と同室になるかと、結構ビビっていたワケなんだけど……。こんな可愛い子で良かった。

 この子となら、上手くやって行けそうな気がするよ。



     ◇◇◇◇◇



 わたし達がこれから過ごす、ミリアキャステルアイ寄宿校は、王都を含めいくつもの大都市に姉妹校を持つ、全国でもその名を知られている全寮制の学校だ。


 その創設は、500年を超えると言われている。

 元々は、デケンベル近隣の村々の子供たちに教育を施す、昔の日本で言う『寺子屋』的なモノだったらしいけど、いつしか貴族や富裕層の子息達の、礼儀作法や教養を身につけさせる為の寄宿校になって行ったのだそうだ。

 そして、200年ほど前からは魔法教育も取り入れられ、その研究も盛んに行われる様になった。


 ミリアキャステルアイには、わたし達が今居る中等教育舎以外にも、6歳から14歳までが学ぶ初等教育舎も存在している。

 こちらは全寮制という訳ではなく、殆どはこのデケンベルに住居を持つ子供達で、日々学校へ通う事が困難な遠方からの就学希望者だけが、寮生活をしているそうだ。

 更に、この初等舎、中等舎以外にも、ミリアキャステルアイには大学施設も隣接している。

 魔法大学としての水準は、王都魔法大学にも劣らず、国内でも一二を争う魔法研究の施設を持っているのだそうだ。


 高い水準の基礎教育。心と共に技を鍛える身体。そして高度な魔法知識とそれを正しく扱う技術。

 『ミリアキャステルアイ魔法学園』は、【先人の知識と技を正しく伝え、与えられた力を他者にも用い、常に成長する事を怠らず、その行動を以って世界に貢献する。】という学園理念の元、今では数多くの優秀な人材を輩出する教育機関として知られているのだ。




 そして、週が開けて、いよいよわたし達も正式な学園の生徒となる日がやって来た。

 その日朝一番に、新入生は全員講堂に集められ、入学式が執り行われた。


 それは代表者が一人前に出て、『学園の理念を元に学びます』と言った内容をの宣誓を行い、他の新入生達がそれに続く形で行う宣誓式だ。

 代表に選ばれ、一人前で宣誓を行ったのはベアトリス・クロキ!

 そう!我らのビビだ!!


 ビビの通る声は、高らかに講堂内に朗々と響き渡り、その堂々とした佇まいは我が友ながら何とも誇らしい!

 宣誓を終え、列に戻るビビがわたし達に向け小さくサムズアップをする。

 ウン!最高だったぜビビ!



 でも、思ったよりも、随分アッサリした入学式だったかな? 

 宣誓式の後は、クラス分けされた教室に移動した。

 一クラス25人前後で、一学年の総数は100名余り、クラスは4つ。

 わたしのクラスは第1組。クラスには、わたし以外のアムカムから来た4人も一緒だ。

 どうやら一学年目は、出身地域でクラスが振り分けられるらしい。これは貴族の寄宿校だった頃の名残だそうだ。

 なのでカレンさんとは別クラスだ。講堂を出る時に、また後でね と手を振ってそれぞれの教室に向かっていた。


 式はアッサリ終わったけど、みんな入学したことで高揚感はあるのか、ザワザワといつまでも教室内はざわついている。


「みなさん、お静かにお願いしまーす!」


 誰かの声が教室の中に響き渡った。

 だが声はすれども姿は見えない……、何だ?これは何か隠ぺい魔法の類か?!


「みなさん!ご入学おめでとうございます!これから3年間!みなさん一緒に、このミリアキャステルアイで充実した時を刻んで参りましょー!」


 声の出所を探せば、教壇の向こうで髪の毛の束が、ピョコピョコと飛び跳ねているのが確認できた!教壇の向こうに何かが居る?!

 やがて、跳ねていた髪の束が諦めた様に静かになると、その本体が教壇の前に姿を現した。


「私はみなさんの……この第1組の担任を務めます、アーシュラ・ルインと言います!」 


 幼女だった!!出て来たのどう見ても幼女ぢゃん?!!それが担任だって?!!どう見たって10歳より下……アニーと幾らも変わらない様にしか見えないんですけどぉぉ?!

 教壇の後ろで跳ねてた髪の毛の束は、ポンパに纏めた髪で作ったちょんまげだった!今も頭の上でユラユラ揺れているよ!!


「あ!こう見えてとっくに成人してますからねー!実年齢の詮索は禁則事項に含まれますので!聞かれてもお答えできませんよー!!因みに当然ヒューマンです!担当は【魔法基礎教理】ですので、みなさんと接する事も多いと思いますー!」


 幼女は担任で成人してるとのたまった!教室騒然である!!


 合法ロリだ!合法ロリ教師だ!!新入生の担任が合法ロリ教師など、一体なんという鉄板かっっ?!!!

 ドワーフとかエルフとかの長寿種なら、まだ分からなくも無いと思ったけど……純粋なヒューマンだとぉ?!!

 『魔法教理』の教師という事は!なにか未知の魔法でも使用した結果か?!


「さてー!そろそろ静まって下さーい!まずはとっとと生徒証と教科書を配ってしまうので、名前を呼ばれた人から前に取りに来てくださいねー!最初の人はー……、アーヴィン・ハッガード君!!」


 幼女先生……アーシュラ先生は、教室内のざわめきに負けない様に声を上げていた。

 もともとの声は決して大きくは無いんだろうな……、だからあんなに一生懸命大きい声を出そうとしてるんだね……。そう思うと、なんかキュンキュンしたモノを感じてしまうよ。

 名前を呼ばれたアーヴィンも、それが分ったのか直ぐに前に出て、生徒証と教科書を受け取っていた。

 最初の一人がグダグダやってたら、後に続く連中もダラダラに成りかねない。それじゃ、一生懸命やってる先生が可哀そうだもんね!


 そんな風にドンドン生徒証の配布が進み、わたしの番になり前に進み出ると、わたしの生徒証の名前とわたしを見比べて……。


「……あ、貴女がクラウドさんですか……。お手柔らかにお願いしますね?」


 と、困ったような、はにかんだ様な笑顔を作りながら、先生は小さい声で仰った。

 え?ナニ?どゆこと?!わたし既に学校で何かやらかしたっけ?あれぇ?


 全員の生徒証を配り終えると、先生は簡単に学校生活に関する注意事項をされた後、明日以降の予定を説明されて今日は終了だと仰られ、そのまま教室を出て行った。

 もう、帰っても良いと云う事なんだけど、直ぐに教室を出る生徒はそれ程いなかった。やっぱり、アーシュラ先生のインパクトが強烈だったんだろうね。クラスの騒めきは未だ続いている。


 先生の居なくなった教室内を見渡すと、アムカム群の他の村々から来た子達も何人かは居るけれど、殆どが知らない土地から来た人ばかりなんだなぁ……と言う事に改めて気づかされる。


 新しい人付き合いを、これから上手くやって行かないといけないのだけれど、人見知りのわたしとしては、そこはかとない不安が募るワケですよやはり!ウン!


「誰が人見知りですって?!」


 ぅえ?!なにビビ?!今人の考え読んだ?え?!読心スキルとか持ってたの?!えぇ?!


「ナニ驚いたような顔してんのよ?!別に読心なんて出来ないわよ!」

「え?えぇ?じゃ、じゃあ、な、なんで?なんで?ええ?」

「アンタがそんな風な顔してたからよ!分かり易いのよアンタは!」

「ぅえ?そ、そうなの?わたし、わ、わかり・・・やすいの、かな?」

「……ま、まあ、そこそこの付き合いだしね!それなりに……分かるわよ!」


 ビビがプイッと横を向いてそんな風に言い放った。アルジャーノンがビビの肩口で、「そうだ」とでも言いたげに、キュキュっと鳴いて小首を傾げてる。

 ……そうか、わたしは分かり易いのか……ちくそー。

「大体にして、アンタが人見知りなワケ無いじゃない……」と顔を背けたまま、ブツブツ言っているビビの呟きも聞こえて来た……ちくそーー。


 まあいいや。今はまず、この後上手くやって行く為に、この初めての連中に、知らしめておかねばならない事がある!

 こう云うのは最初が肝心だからね!最初にビシッとしとかないとイケナイからね!!


 わたしは姿勢を正し、毅然とした態度で教室のある場所へと足を踏み出した。

 雑談で溢れ騒めく教室の中で、カッカッとわたしの靴が静かに床を鳴らして進む。


 さほど広くはない教室の中、その目的の場所には直ぐに辿り着く事が出来た。

 わたしはその場で、スゥッ!と両手を静かに前へと上げる。


「あれ?スーちゃん?どうしたにょぉおぁあぁああ!!」


 わたしは、ちょうど椅子から立ち上がったミアの背後に静かに立ち、その両脇に手をスルリと差し込むと、そのまま一気に腕を伸ばし、そこにある二つの巨大な質量に、自分の両の手指を思い切り埋没させたのだ!!


「スッ!スーちゃ……ンんむゅ!な、な……ぃにゅンんーーーっっ!!」


 ふっ……、相変わらずわたしの手になど収まらぬ大容量!その大きさ重さ柔らかさを掌で存分に味わい尽くす!!


「ひにゅっっ!ス、スーちゃん……ま、待っンん!……だっ!ぁみゅ!!」


 ふっふっふっ……見ているな男共!分かっているんだよ!!おまいら!今日は最初からミアのココに視線釘付けだっただろが?!ええ?!うりゃ!


「ンにゃぁああぁ?!!」


 おまいらが、朝から何処を見てたかなんて完全に丸判りなんだよ!

 更に!コレをどう云うつもりで見ていたかなんてな!わたしには全部まるっとエブリシングお見通しだ!うりゃりゃぁ!!


「ちょぉ……ンんっ!まっっーーー!」


 だが残念だったな!こりは!このお宝は、わたしのモノだーーーっっ!くわわっ!りゃりゃりゃぁーっ!!!


「だっっンにゅぅーーまっっ!ンん!っって……!」


 どうだ!羨ましいか?!羨ましいかろ!わははははーーっ!!ぅりゃりゃりゃりゃりゃーー!!!!


「ンんっ!んにゅ!だ……、も、もうっ!ぅンン!!」

「わはっわはは!わははははははははは」

「いい加減にしなさい!!」

「ぉふっ!」


 高笑いするわたしの後ろ頭に、ビビが今日配られた教科書を丸めて、ハリセンよろしく、バチコン!と綺麗に振り切り、鋭いツッコミを入れて来た!

 はっ!つい掌に感じる心地良さに夢中になり過ぎていたか?!


「アンタ何考えてんの?!学校初日にクラスのみんなドン引きじゃないのさ!!」

「…………スーちゃん……」

「はぅっ?!」


 ミアがゆらりとコチラに振り向いた。

 あ、あれ?ミアさん?顔に影が落ちてますわよ?あ、あれ?ヤバイ?ヤバくね?調子に乗り過ぎた?反撃?反撃が……く、来るにょ?

 近付く笑顔がコワいんですけど?!

 はっ!腰を押さえられた!に、逃げられにゃひぃぃ?




「お邪魔すしますわよ!!!」


 その時、教室のドアが勢いよく開けられ、ババーン!と効果音でも背負うようにして、女生徒が教室内に入って来た。

 突然の事にわたし達3人は勿論、事の成り行きを見守っていたクラスメイト達も固まり、思わずその女生徒に視線を向けていた。


「此方の教室だと伺ったのですけれど……」


 そんなクラス全員の視線に怯む事無く、その女子はフサリと長い髪を片手で振り払い、教室内に視線を巡らせた。

 ぅおお?!金髪縦ロールだと?!この世界に来て初めて見たぞ!!正統派お嬢様キャラじゃないの?!そういえば両脇にお付きの人よろしく女生徒が一人ずつ陣取ってるぞ!ンで周りに威嚇するような視線を投げてる!!れいじょうだ!コレは令嬢キャラだ!!上がるるるぅぅぅ!!


「ベアトリス・クロキ!いらっしゃいますかしら?」


 その令嬢の言葉に、思わずわたし達3人は目を見開き顔を見合わせた。

 でも直ぐに、フフンと鼻を鳴らしながら、ビビも肩にかかる髪を片手で振り払い、教室入り口で仁王立ちしている令嬢に視線を向けた。


「アタシがベアトリス・クロキですけれど?どちら様でしょうか?!」


 そのままビビは腰に手を当て、相手に一歩も引かない様子で仁王立ちで令嬢に向き合った。をを……流石ビビ!頼もしす!!


「……貴女がそうですの?」


 令嬢が片眉をピクリと動かし、ビビをギロリとねめつけた。

 ぅわ!ビビと令嬢の視線がぶつかり合って、バッチバチと空中で火花が散ってる気がしるよ!


「貴女!20年に一人の才女などと呼ばれて、思い上がってお出ででなくって?!」

「はい?」

「主席入学など!ただ運が良かったに過ぎません事よ!!」


 ドビシィッ!力の限り伸ばした指を、ビビの正面に思い切り突き立てながら、身体を仰け反らせ気味にして令嬢はビビに言い放った!


「所詮はまぐれ!ただの星の巡り会わせ!たまたま勘が冴えた結果でございましょ?!そんな偶然は二度は起きませんわ!!その事を努々お忘れになりませんように!!」

「………………」

「そんな奇跡は二度とありません!ええ!わたくしが起こさせはしません!!代表などという栄誉が再び訪れるなど、この先在りはしません事よ!覚悟しておきなさいませ!!」


 令嬢のテンションがメッチャ上がってるゾ!両脇に居る二人も、なんかウンウンと頷いてるし?!


「本日はご挨拶がてら、その事を教えて差し上げに参りましたのよ!」


 ありがたく思いなさい!と言いたげに、フン!と鼻を鳴らして再び金髪ロールをフワリと片手で振り払う。


 フム、ビビは入学試験で、筆記、体力、魔力測定の総合で主席合格だったからね!宣誓の時も実に堂々としていて、友人としては実に鼻が高いし、アムカムの仲間としてもとても誇らしい事だった。

 でも、このご令嬢にとっては、それが余りお気に召さなかったのかな?


「…………それで?」

「は?」


 言いたい事を言い切ったらしく、満足気な令嬢に向け、ビビが冷ややかに言葉を投げた。

 そのビビの態度に、令嬢の眉がピクリと上がる。


「恐れ入りますが!どちら様かというコチラの問いに!お答え頂いておりませんが?!」


 ビビの問いかけに、彼女は一瞬だけ目を見開いたが、直ぐに目を細めて不敵な笑みを浮かべた。


「……あら、コレは失礼しました。わたくしボルトスナンから参りましたコーディリア・キャスパーと申します。以後お見知りおきを」


 コーディリアさんと名乗ったその方は、軽く会釈をされながらそう自己紹介をされると、取り出した扇子で小さく笑みを浮かべていた口元をスッと隠してしまった。

 ぅほぉぉお!扇子!センスざますよ!令嬢キャラの必需品じゃないっすか!!ってか、どっから取り出したのさそれ?!!


「これは、ご丁寧なご挨拶、痛み入ります」


 ビビがスカートをちょいと摘み、軽く膝を曲げるカーテシーで、コーディリア嬢に挨拶を返した。

 そのビビの姿に、向かい合う三人が満足気に頷いている。


「ボルトスナン、旧伯爵家のご息女自らご足労頂き、誠に恐れ入ります」


 ほぅ!旧伯爵家なのか!

 って、ホントにご令嬢じゃないですか!本物の伯爵令嬢だ!スゲーー!!

 それにしても、ビビは良く知ってるなぁ。流石いつも社交の場でお世話して頂いている事はあるよ。口調もいつもの強いものとは違って、静かな慎ましやかな態度になってる!こっちもスゲーな?!

 コーディリア嬢もお付きの二人も、知ってて当然と言いたげに、満足そうな顔でウンウン頷いてる。ウーム、やっぱスゲー。


「コーディリア様からのご挨拶に、我らアムカムの次期頭首も、殊の外ご満足されているご様子です。ありがとう存じます!」


 ん?!ナニ?何言い出した?ビビ?!


 ビビがそう言いながら、身体をスッと一歩引き、わたしの横に立ち位置を取る。

 ミアまでが、わたしの左側に寄って来た。

 二人とも両脇の一歩下がった位置に立ってるから、わたしに付き従う従者の様よ?ってか、二人共、口元に不敵な笑みが?!


「此方が、アムカム旧辺境伯息女、我らが次期頭首たるスージィ・クラウド様に御座います」


 ぅおぉいぃぃ?!!


「じ、次期頭首……?し、しかし!た、たかが辺境伯など……」

「コ、コーディリア様!辺境伯は侯爵と同等。特にアムカム辺境伯の権威は、その昔、それ以上とも言われていたそうです……」

「!?……ふぐ!……む、むっ!!」


 ビビが、メッチャ大仰な事吹きまくっておる?!!おかげで、おかしな雰囲気になったじゃないのさ!!

 ンで、コーディリア嬢の傍にいる子が、小さな声で囁いたら更に空気が重くなったよ?!!

 こ、これはナントカしないと!!

 とりあえずご挨拶はしとこう!ウン!しとこう!!


 そう思って、ビビの様にカーテシーをしようとスカートに手を伸ばしたら、ビビにその手をとめられた!

 え?!なんで?

 ビビを見ると、目でダメだと言ってくる。


 ぅえェええ……しょうがない!これは笑って誤魔化してしまおう!

 とりあえず、いつもみたいに小首を傾げてニッコリしてしまえぃ!!


「ス、スージィ・クラウド、です……。よろしく、お願いします・・・ね?」

「ぉ……あ、……くぉぉ!きょっ、今日のところはこれで失礼しましゅわっ!!」


 コーディリア嬢の顔が、勢いよく赤くなってく……目ん玉もグルグルになってる?

 大丈夫ですか?と問う間もなく、バタバタバターっと三人で教室を飛び出てしまった。

 来た時と同じで、退場する時も派手な方だ。


「よし!勝った!!」

 

 ビビが、Yes!とでも言うようにグッと拳を握った。


 なんでアンタ戦ってんのよ?!

 こういう戦いは勘弁して欲しいんですけどぉ!!


――――――――――――――――――――

次回「ルシール・ムーアの憂鬱」

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