33話闘い終わって

 決闘騒ぎの後、嵐の様な日々が襲って来た。


 何故だかあの直後、知らない人達に囲まれて、声をかけられ話しかけられ、お茶会のお誘いを受けたりしまくったのだ。おかげで目ん玉がグルグルになった!


 大体、何でわたしに来るのかな?

 決闘したのアーヴィンじゃん!アーヴィンに行けば良いじゃん?!


 ま、アーヴィンも囲まれてはいたけどさ!

 でも、それはビビがてたんだけどさ!

 どうせなら、わたしに来てた人達もどうにかしてよっ!と言いたいんだけどさ!

 まぁ良いけどさっ!

 アンタにとっては、アーヴィンの方が大事だって分かってるからさっ!


 女の友情なんて、所詮そんなモンだよ。悲しいったらありゃしない!フンフンぐしゅんぐしゅんミーンミーンだっ!!


『この程度、自分で処理しろ』って事なんだろけどね。

そういう目でビビ、コッチ見てたし。

それに、アーヴィンの方が大量の人の波に飲まれてたからね……分かってますけどね!


 でもマジ大変だったんだから!

 結局、キャリー様からのお茶会へのお誘いは断らなかったし、断れる訳無かったし!シクシクシクシク……。


 流石に今回のお誘いは前回みたいに当日って事はなかったけれど、招待状をお持ちになった、笑顔を絶やさぬ侍女の方の有無を言わさぬ雰囲気は、その後ろにキャリー様がモロに透けて見えてて、ホント凄く怖かったのよさ!





 キャリー様のお茶会は、最初のお誘いの時に恐れていた様な、お姉様方に囲まれての物だった。

 いや!ホントにガッチリ囲まれたんですけど!


 そのお姉様方……、キャリー様の取り巻きの3人の先輩方。

 お一人は、赤茶の髪をミディアムボブにした、ジョシー・マッコイとおっしゃる先輩。

 溌溂としたお姉様で、姉御肌と言うのかな?3人のまとめ役と言った感じの方だ。


 もうお一人は、健康的な褐色の肌と、艶やかな黒髪がお綺麗な、ヴァレリー・ブラウンとおっしゃる先輩だ。

 多分この中で一番の良識人だ。行き過ぎるキャリー様の言動を、時々諫めておられた。キャリー様もそれを嫌がってはいない。きっと良いご関係なのだろう。


 そして最後のお姉様は、金髪碧眼のメロディ・バレンタインとおっしゃる先輩だ。

 柔らかなブロンドと愛らしいお顔立ちで、お人形さんみたいな方なんだけど……、この方なんか距離感がおかしい!会った瞬間抱き着かれて、ほっぺにブチュ~~ってキスされたよっっ!!他の先輩方の反応を伺うに、この方、天然不思議ちゃんキャラっぽい!キャリー様に次いでキケンなお姉さんだ!!


 校内の植物園で催されたティーパーティーは、園の東屋ガゼボ内に設えてあるベンチに座りながら行われるモノだったのだが、そこではお姉様方に、ガッチリホールドされる様に囲まれ挟まれ、『今度は此方よ』『次は此方へ!』『早く戻っていらっしゃい!』ってな感じでお姉様方の間をグルグルと回され、わたしの目玉もグルグルになって、それはもう大変な目にあったのよさっ!!


 更にキャリー様ってば、お茶を頂きながら、お姉様方にガッチリホールドされたわたしを正面から見据え、実に楽しそうに恐ろしい事を仰られる。


「貴女の騎士の戦いぶり、実に素晴らしかったわ。アーヴィン・ハッガードの実力は、一昨日の決闘において学園内に余す事無く広まった事でしょう」

「……は、はぁ、あ、ありがとう、ございま、す?」


「もう一人、確かブロウク家の……」

「ロンバート・ブロウク君です、キャリー様」

「ありがとうヴァレリー。その彼、ロンバート・ブロウクもアーヴィン・ハッガードと等しい実力を持っているのかしらね?スー」

「そ、そうですね、立ち合いではいつも、良い勝負をしていま、す」

「ふふ、流石ね。ダーナやコリンが言っていた通り……いえ、それ以上だわ」

「は?はぁ……」


「そして高い魔力と、五つの属性全ての適性を持ち、この十数年の入学試験の中でトップの成績を収め、『20年に一人の才女』と呼ばれるベアトリス・クロキ」


「四つの属性への高い適性と、学園史上最高の魔力を示したミア・マティスン」


「それらを纏め従える、アムカムの次期頭首たるスージィ・クラウド。うふふ、お見事ねスー?入学後わずか半月にも関わらず、既に学園内での貴女の立ち処たちどは、最早揺るぎのない物になってしまったわ」

「ふぇ?へ??ふへぇぇえぇぇ?!」


 何なのよ?何なのさ?!その立ち処たちどって?!なんなの?揺るぎない物ってぇぇっ?!そんなもの要らないのよさ!!

 キャリー様の笑顔もホント怖くって、マジ泣きそうだったのよ?!


 コリンとジェシカがお迎えに来てくれなければ、きっとそのままキャリー様に、ほんとのホントに『お持ち帰り』されていたに違いないのよさ!いや、マジで!!




 そんな怒涛の日々を乗り切って、迎えた週末は兼ねてからの約束通り、フィリップ叔父様のお屋敷へ伺う事になった。

 叔父様のお屋敷は、アムカムの領事館でもあるのだ。

 なので今回は、アムカムから出て来た全員で、総領事である叔父様へ、ご挨拶を兼ねての訪問でもあったのだ。


 なので、今日は『大きな前庭ビックフロントヤード』でのお仕事はお休みにしてもらっていた。

 シルキーさんメルルさんお二人も、今日はお休みと言っていたので、お店に行くのはカレン1人だけになってしまう。

 わたしはそれがとても心配だ。



 因みにこの前、お店に行く為の近道を、メルルさんから教えて貰った。


 これは学園のある高台から駆け下りる様な感じで、馬車を使わずにショートカットして、下の街迄降りて行けるんだけど、これがまた結構ハードなルートなのだ。


 メルルさんは「他の子には内緒なんですけど……」と言っていたが、教えたからと言っても、そう簡単にこのルートが使えるとは思えない。とてもでは無いが、『深窓のご令嬢』なんかが使って良い道では無いと思う。

 イヤ、所々道ですら無いトコ通った気もしたが……身体能力の高い、半獣人アニマルハーフのメルルさんならではの近道なのではなかろか?

 そんなルートを、「全く、メルルときたら……」と呆れた様に言いながら、一緒に駆け下りてたシルキーさんもいい加減凄いとは思った。


 勿論、ウチのメンツも難無く付いて行ける。

 アムカムの森の中を走る事に比べれば、特に危ない訳でもないしね。

 メルルさんが、平気で付いて来るわたし達を見て、軽く眼を開いていたのを、わたしは見逃していない。


 だが、それ以上に目を見開いていたのは、やはり平気で付いて行くカレンを見た時だ。うん、これにはわたしも驚いた。


 走るのは好きだとは聞いていたが、まさかこんな楽しそうに急な下り坂や、障害物があるルートを楽し気に、皆に遅れる事無く付いて来るとは思ってもいなかった。


 メルルさんも、最初はわたし達の様子を見て、スピードを抑えていたと思うんだけど、途中から本気になっていたよねアレは。お店に着いた時には、チョイと息を切らせてたモンね。


 それにしても、カレンの身体能力の高さには驚かされたよ。

 ビビやミアより確実に上だよ?

 お店に着いた時には二人とも、結構息が上がっていたけど、カレンってば平気な顔してたし。


 カレンを見るメルルさんが『……バケモンか?』的な呟きを吐いたのを、スージィイヤーは捉えていたからねっ!


 でもホントにこの子、魔法職に進むつもりなのかな?二つの属性に適性があるとはいえ、逆に勿体無い気がするんだよね。


 大体にして、今やあのダーナやアーヴィンでさえ、2属性は持ってるんだからさ!

 うん、やっぱり今度、ウチの走り込みやトレーニングに誘ってみよう。


 まあ、そんな感じなので、カレンが独りでお店に行くまでの事は、そんなに心配はしていない。

 では何が心配なのかと言えば……、彼女のお仕事が終わった後の事だ。終わった後が心配なのだ!


 あれは先週のお仕事が終わった後の事だ。

 この日カレンは寮には戻らず、このまま弟妹が居る施設に向かい、そこにお泊りをして今夜は三人一緒に過ごすのだと語った。


 その為に外泊許可も取ってあるのだと、凄く楽しそうに話すカレンに、何気にホッコリしていたのだが、同時にわたしはそこはかとない不安も感じていた。


 何と言うかね……、この子の醸し出す薄幸な雰囲気が、夜の街を独りで歩かせるという事に、とてもとても不安を覚えてしまう訳なんですよ。

 いや、過保護?と言われればその通りなんだけどね!


 カレンに、独りで行けるの?大丈夫なの?と聞いても、大丈夫問題無い。と答えて来る。

 だけど!わたしはメッッッチャ心配だったので、施設まで一緒に付いて送って行く事にした。


 メルルさんからは「過保護だ!」「お母ちゃんだ!」と指をさされたが、それがどうした!わたしは行くよ!シルキーさん、後でその猫〆といて下さい。


 んで、ビックリしましたわ!くだんの施設、結構凄い所に建っていた。


 そこは、繁華街の端っこにあったんだけど、2つ先の通りは、呼び込みのお兄さんお姉さんが客寄せをして、お客を飲み込む建物が所狭しと並ぶ繁華街。

 しかも風紀的に、余り子供には見せられない様なお店ばかりなのだ。


 まだ陽が陰り始めたばかりなのに、既に営業を始め、人が出入りしているお店も何軒かある。

 こんな立地の施設で大丈夫なの?とカレンに聞くと「昼間は、人が殆ど居ないくて、静かな時間が多いんだけどね」等と、なにかピントのズレた答えを返して来た。


 コレはイケませんよコレは。

 わたしの感は間違っていなかったよ。

 こんな場所、こんな時間、カレンを独りで歩かせてはイケナイ!

 こんな薄幸体質のカレンにこんな所を歩かせていては、その内にとんでもないトラブルに巻き込まれかねないよ!!


 見張りかガードを付けるべきか……、寮に戻ったらアンナメリーに相談しよう。叔父様にも、この事は相談して何か良い案は無いか聞いておこう!

 デケンベルの街の事だし、叔父様からなら、何か良いアドバイスが頂けるかもしれない。


 取り敢えず、わたしはカレンに、認識阻害が付与されているフードを貸してあげる事にした。


 これは、アムカムで子供達と森に入る時、狩には参加させないが経験を積ませる為、低位階の子達を連れて行く時に身に付けさせていた物だ。


 強力な付与では無いけれど、森の浅層に居る脅威値2~3くらいの魔獣には、十分に効果を発揮する。

 まあ、そんな代物なので、脅威値でいえば0.2すらない街中のゴロツキ程度が相手であれば、全く何の問題無い。


 これを身に付け、怪しげな場所は通らない様に移動してね。とカレンに渡したのだ。


 カレンは最初、「そんな高レベルの付与がされた装備とか、そんな高価な物とんでもない!」と思い切り遠慮しようとしていたが、「身に付けて貰わないと、わたしが心配でどーしようも無い!」と半ば無理やり押しつけたのだ。


 そんなこんなで、少しばかり強引ではあったけれど、なんとかこれを身に付けてくれる事にはなったので、一安心ではある。


 でもやっぱり、いずれ見張りか何か付けるべきかな……。大体にして、あの施設がある道にも、平気で酔っ払いが寝てたりするんだから大問題だ!何でそんな所に施設を作るかな?!

 ……いや、いっその事、あの辺一帯を綺麗にしちまうか?汚物は消毒するに限るもんな!


 ンな事を、ブツブツと口に出して呟いていたらしい。

 聞き付けたビビが「マジでシャレにならない事になるから、ヤメなさい!」と、真剣な顔して詰め寄って来た。


 いや、流石に大それた事などしない。と言っても「アンタは加減というモノを知らないんだから!」と返して来る。


 そんな!わたしだって、ちゃんと成長してる!

 普通に加減位は出来る!

 と訴えれば。「アンタの普通は一般的なモノとはほど遠い!」とか言われる始末。

 ぅええ?そんなこたぁ無いでしょ?ねえ?と皆んなに聞けば「圧倒的にビビが正しい」と皆さん揃って頷いて来やがった。


 ちょっとぉ!皆んなが何かヒドイんですけどっっ!!


――――――――――――――――――――

次回「領事館へのご招待」

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