22話威圧?知らない子ですね
「全く!!どうなる事かと思ったわよ!!!」
教室に入るなり、ビビが目を剝いてそんな風に言って来た。
あれ?叱られた?え?
結構上手く立ち回れてなかったかな?
ちゃんと何事も無く終わったよね?
こんな勢いで叱られる程の事だった?
「え?ぇ?ちゃ、ちゃんとお嬢様っぽく出来てたよ、ね?よね?!」
「そうじゃなくて!!あんな濃厚な殺気、冗談でも漏らすとかあり得ないでしょ!!」
はぁ?殺気って何?お嬢様的立ち回りの事じゃないの?
大体何さ殺気って?
いくら何でもそんなモン放つワケ無いじゃん!
「…………その顔、無自覚って顔ね?!」
「無自覚も何も、出してない、し!」
「はぁ……、まあ僅かに滲み出てた程度だけどね!」
「そうだよ、なんて言うか『あ、鍵開けた』って分かった感じ?」
ミアまでが、ウンウンと頷きながらビビの言う事を肯定している。
えぇ~?そうかぁ?ナニかが滲み出てたの?
確かに、ちょいとばかりムッとしたのは確かだけど…………出てた?
「まあ!あの位だったら、普通の子は気付かないでしょうけどね!でも!感度の良い人間なら、それなりに察知は出来ると思うわ!」
「スージィの威圧は、シャレにならないからな」
立ち合いの時は、それに
とか、傍で聞いていたアーヴィンまでが口を挟んで来た。
えぇー?わたし立ち合いで、そんなハードル出してないし!
「いあ!でも大体にして立ち合いじゃ無いんだから、廊下で威圧なんかしない、よ?」
「アンタが本気で威圧したら、只じゃ済まないじゃない!だから気を付けなさいって言ってるの!」
「そうだぞ、ビビの言うとおりだ!スージィが普通に威圧なんかしたら、その辺の人間なんて簡単に心臓麻痺起こすぞ?」
うっわ!失礼!
アーヴィンってば、スッゴイ失礼な事言って来やがったわ!!
いくらなんでもそこ迄じゃ無いでしょ?!ねぇ?!!
…………あれ?え?なんで?何でみんなそんな目?
アーヴィンとビビだけじゃなく、何でミアやロンバートまで、薄く笑って遠い目をするの?
え?何で?え?…………そ、そうなの?
そうなんでつか?
「兎に角!アンタが威圧を放ちそうだったから、大慌だったんだからね!」
ビビは、わたしが殺気を漏らすまでは、陰からわたしのお嬢様対応の様子を観察しようとしていたらしい。
ちゃんとわたしが成長していて、一人でも対応できるか見守っていた、とビビさんは仰る。
そんなモノ、見守らないで良いから、直ぐに助けに入って来てよ!
だが、雲行きがヤバいと思い、急いでわたしの傍まで出て来たのだそうだ。
「そりゃニコニコしてりゃ良いとは言ってたけどね!流石にアタシも、まさかアンタがニコニコしながら、あんな強烈に殺気を振りまこうとするとは思わなかったわよ!」
「ふ、振りまいてないけど?!で、でも、その……お、お手数をおかけしまし、た?」
「大体にして……、あんな小物相手に、アンタが真っ当に相手してやる必要なんて無いんだからね!正直!アタシが、『お里が知れるチンケな小物よね!』とか言ってやりたかったんだけどさ!!」
「や、やめて!それは止め、て!絶対に戦争になる、から!!絶対に止めて、よ?!」
「だから言っていないじゃないのさ!」
ぅわぁ、なんだろ、ビビがケンカ売って、ルゥリィ嬢との口撃戦が展開される図が容易に想像できてしまうよ……。
「まあ!あの小物連中はバカなだけでなく、相当鈍そうだったから、アンタの漏らした威圧なんて、てんで分りもしなかったでしょうけどね!」
「それでも、分かる子には分かってたんじゃないかな?周りには顔色変ってた子、何人か居たよ?」
「……そりゃそうね!この学校に入っているんだから、逆に居ない方がどうかしてるわね!」
と、ミアの言葉を受けてビビが、ふむ、と考えるような素振りをしてから答えていた。
「兎に角!被れる物は被れるウチにシッカリ被って置きなさい!どうせ時間の問題だろうから!」
ビビが酷い事を言っている。
そこまでかぁ?と思い、周りに視線を巡らせば、ミアもアーヴィンもロンバートも、揃ってウンウンと頷いていた。
やっぱり皆がシドイ!シクシクシク……。
まあ、確かにいつ迄も猫を被ってられやしないのは、自分でも自覚はしておりますけどね!フンだ!
そんな事よりも、今はカレンの事だ。
ルゥリィ嬢の、カレンへの態度が気掛かりなのだ。
……やっぱり、ニヴン家の次男の事も含めて、グルースミルの事は少し調べておくべきだな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ど、ど、ど、どうしましょう?!怒ってた?怒ってらしたわよね?!」
「落ち着いて下さいコーディリア様!大丈夫です、コーディリア様にお怒りを向けていた訳ではありませんから」
「でも、でも!わたくし、あんな押し付けるような事してしまいましたし……」
「大丈夫です!そんな事は気にしてお出ででは無いです!……多分」
「ああ!やっぱり!やっぱり?!」
教室に入ってからずっと、落着きを無くしているコーディリアを諫めようと、ルシールは尽力していた。
廊下であった第2組の女子グループとの衝突を、成り行きで第1組のクラウド嬢が引き受けてくれた形になったのだが、その時に彼女が漏らした怒気に中てられて、この始末である。
確かに彼女が発した怒気からは、自分達が温室育ちである事を叩き付けられ、思い知らされた様な気にさせられた。
ちょいとばかり、コーディリアが落ち着きを無くすのも無理は無い。
あの怒りの波動を、第2組のルゥリィ・ディート嬢とその仲間は、何とも感じなかったのだろうか?
それとも、あの程度の怒りでは、問題に成らない程の耐性を持っているという事か?
……いや、さすがにそれは無いか。
動揺を懸命に押さえ込もうとしているコーディリアとは別に、横に居るもう一人の付き人、自分の従妹の様子を横目で見ながら、『それは無いな』、と首を振る。
大体にして、あんな一番近くで発せられたのに、何も感じなかったなんてあり得るだろうか?
きっと彼女達は途轍もなく鈍感なのだな……間違いない!とルシール・ムーアはこの件に結論付けた。
自分の横に立っている従妹のキャサリン・ムーアに目をやれば、彼女たちが鈍感の極みだと云う事くらい、直ぐに分かると言う物だ。
キャサリンはルシールの横で物も言わず、いつものクールな無表情を維持しようと必死になりながらも、その眼には涙を湛え、全身がカタカタと小刻みに震え続けていた。
どれだけ動揺してんのよ!とルシールは突っ込みを入れたくなるが、……しょうがない。
これでいて、キャサリンは感性が中々に鋭い。
恐らくは、このクラスの誰よりも鋭い感性を持っていると、ルシールは常々思っていたのだ。
それがこんな状態に陥るのだ……。
「大丈夫ですかキャサリン。保健室まで付き添いましょうか?」
「だ、だ、だ、だ、だいじょじょじょぶぶ、で、ですルルルルシールルルル」
「あ、話さなくてイイです。無理に話さなくて良いですから」
唇をキュッと結んで、小さく首を縦に振るキャサリン。
自分達は、かなり間近で怒気に中てられたのだから無理も無い、とルシールは思う。
実際自分もキャサリン程では無いが、あの一瞬、身動きが取れなくなっていたのだから。
他にも何人か、あの気配を感じた者も居たようだけど、全員では無いのは第2組の子達を見ても明らかだ。
あれが察知出来てしまうのが、良い事なのか悪い事なのか、今のルシールには分からなかった。
だが、『この程度の事も察知出来なければ、自分の前に立つ資格は無い』とでも言われている様にも感じていた。
あれがアムカムの姫の力の一端かと思うと、背中に薄っすらと汗が浮かぶのが分かる。
そして、気にかかる人物がもう一人。……あの出来事の中心に居たあの子。
始終、落ち着かなげだったが、少なくとも今は、比較的落ち着いている様にも見える。
「彼女も、心中穏やかでは無いでしょうに……」
「…………」
ルシールの呟きに応える様に、コーディリアが眉根を寄せ、苦し気にその彼女に向け視線を送る。
そして、彼女……カレン・マーリンを見詰めるコーディリアの横顔を、その心の内を図る様に、ルシール・ムーアも静かに見詰めていた。
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次回「蒼い微睡」
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