44話選択クラス

 今週の午後の授業からは、選択科目が加わる事になる。


「とりあえずは、自分に合うかどうかの、確認だと思って下さいねーっ」


 一回生のうちは取りあえず自分の適正確認だと、アーシュラ先生は仰っていた。

 これは、将来自分がどんな『クラス』を身に付けるかに関わって来る大事な選択だからね。


 そうは言っても、アムカムウチの様に戦闘を日常としていない人々からすれば、これはひとつのステータスでしか無いのだとコリンは言っていた。


 国境の端々で時折起こる諍いや、国内でも稀にある揉め事を除けば、ここ150年もの間、戦闘とは無縁に過ごしている国なのだから、これは無理も無い話なのだ。


 それでも!アムカムウチ勢のテンションが上がるのは間違い無いけどね!


 そんで、選択科目は大きく分ければ『物理』と『魔法』に分けられる。

 これは言うまでもないと思う。


 更に『物理』という括りの中でも、前衛か、後衛か、索敵か、てな感じで細分化されてく。

 アーヴィンなんかは、前衛も前衛の騎士科一択だそうだ。

 やっぱ、ライダーの後追いをしたいらしい。

 ま、アーヴィンの今の実力なら、ライダーと同じ様に飛び級して、さっさと正騎士になっちゃいそうだけどさ。


 『アックスファイター』であるロンバートは、重量武器を主に扱う闘戦士科だ。

 これは、アリアやコンラッドさんの様な『ハーキュリーズ』に連なる、『バーサーカー』を育てるクラスなんだそうな。

 ……でも、なんだろ、「バーサーカーを育てる」って字面だけ見ると、結構コワイ物があるよね。



 『魔法』も当然、アタッカーか、回復か、支援かって感じで選択肢が分かれている。

 わたしは根っからエンチャの人なので、選択は支援科一択なのですけどね!

 何か知らんけど、先生方には「え?何で支援?」みたいな顔されたけどさ!別にいいじゃんね?!

 大体にして、もう既に『吟遊詩人バード』だし?!


 ビビもわたしと同じ支援科だ。

 でもビビの場合は、目指すのがお父様であるサイレンスさんと同じ『ソウルロード』なので、祭祀系に分かれて『詩い人フィリ』なってるんだよね。

 これはコリンと一緒だ。

 まあ、コリンは上級生だから、既に『詩い人フィリ』の一つ上の『ウィッチドクター』なのだけどね。



 そしてミアは当然の様に魔導科だ。

 既に、基本職の『マジシャン』になっているのだから、これも当然なんだけどさ。


 派手な魔法をぶっ放せる魔法職って、やっぱり人気があるものらしく、そっちに行く人はそれなりに多いらしい。


 でも、魔法の扱いってのは結局、魔力を扱うバランス感覚とか嗅覚?とか、先天的なセンスの部分が大きく関わって来るから、一般職の『魔術師ソーサラー』や『魔法使いウィザード』にはなれても、上級職の『ソーサレス』や『アークメイジ』になれる人は、それ程いないらしい。

 まあ、ミアはそんな事を心配する必要、まるでないけどさ。


 そう言えば、カレンも魔導科を選択するって言ってたんだよね……。

 だけど、今朝の様子を見ていると、どう考えても『空拳科』だと思うんだけどな。


 アリシアもそう考えていると思う。

 カレンが空拳科を選択しないと知ったら、きっとアリシアはガッカリしてしまうんじゃ無いだろか。


 カレンにそう言っても「小父様に薦められているので……」と、少し寂しそうにしてしまう。


 うーん……、こればっかりは自分の意思で決める事だと思うんだけどな。

 まあ、この後いつでも選択は変えられるから、最終的に、後悔のないモノをカレンには選んで欲しいと思う。





 そんな訳で午後は、ビビと一緒に自分達がこれからお世話になる、支援科へと足を運んだのだ。


 教室に入ると、見知った顔を見つけたので、思い切りの笑顔をたたえて挨拶をしてみた。


「これはキャスパー様、ごきげんよう」

「まあ!クラウド様!ごきげんよう。……それと、クロキ様……ごきげんよう」

「……ごきげんよう!」


 んーー、なんだろ?やっぱこの二人は妙にギクシャクするな。

 わたし的には、コーディリア嬢とはもっと距離を縮めたいと思っているんだけどね。


 最初の印象こそ強烈だったけど、人となりもそんなに悪い物だとは思えないし、何より同じクラスであるカレンの事もお願いしたい。

 出来れば、今後は仲良くしたいと思っている相手なのだ。


 なのに2人共、笑顔ではあるのだが、その仮面っぷりがモロに出ているので、ちょとコワイ!

 ビビに言わせると、コーディリア嬢が一方的にライバル視してるってだけ、って言うんだけど……。それならそれで、ビビももっと柔和な態度で接すれば良い物を、何気に対応が塩だ。


 ……意外とこの二人って、似た者同士だったりするんだろか?

 とりあえずコワいから、目の前でバトるのだけは止めてね?


「そうですわ!クラウド様!先日ウチのキャサリンにお送り頂いたハーブティー!おかげさまで、とても良く眠れて、疲れも取れたと申しておりました。本人に代わってお礼を申し上げます」

「まあ、それは何より、です!お見かけした時に、お顔の色が優れなかった、ので、差し出がましいとは思いまし、たが、喜んで頂いて何よりです、わ」


 あのおっきい子は、キャサリンって言うらしい。どうやら元気になった様だ。

 休日の前に、アンナメリーにお願いしておいてよかったよ。


 そして、思っていた通りコーディリア嬢がここに居るのは、『レンジャー』を経てからの『テイマー』ではなく、『吟遊詩人バード』からの『召喚術士サモナー』経由で『テイマー』への移行を狙っている為だそうだ。


 ちょっと恥ずかし気に、そんな事を教えてくれた。

 うん、なんとか仲良くやって行けそうかな?




 そうこうする内に、この支援科を担当する先生が教室に入って来られた。


「わたしが、支援科の諸君らを担当するキーラ・シャンドラだ。」


 来られた先生は、パンツスーツを格好良く着こなした、妙齢の女性の方だった。

 頭の上で纏めた黒い髪が、光の加減でラズベリー色の輝きを零している。

 黒ぶち眼鏡をかけているけど、スーツでは隠しきれていないダイナマイトなバディが、なんともセクシーな先生ですよ!


「バッファーは、パーティー全体の力の底上げを可能とするクラスだ。ヒーラー同様パーティーには必須の存在となる。バッファーの存在の有無で、ミッションの成功率、若しくは生存確率が大きく変わってしまう。その事を十分理解し、学んで行ってくれたまえ」


 この先生は分かっていらっしゃる!


 そうだよ、その通りだよ!バフが掛かっているのと無いのでは、狩りの難易度が全然変わってしまうからね!

 狩りの途中でバフが切れようものなら、全滅の危機に陥ってしまう事だってあるんだから!

 しっかりバフの管理をする事も、バッファーには重要な仕事なのですよ!


 ついつい先生のお話に同意しまくって、テンション上がって拳を握って一々頷いてしまった。

 だからビビさんや、そんな胡乱な目付きでコチラを見るのはやめて下さいませ。



「支援監理科から派生するクラスも多岐にわたる事も踏まえ、自分の適性に合ったクラスを選択をするようにして欲しい」


 配られた資料に目を通しながら、支援科についての説明を受けて行く。

 今日は初日なので、簡単な自己紹介を済ませた後に、『魔法試技場』で先生の実演を見せて頂く事になっていた。


 自己紹介は、わたし、ビビ、コーディリア嬢を含めても、全員で7人しかいないので直ぐに終わってしまった。

 バッファーの仕事は派手さが無いから、あまり人気が無いのだろうなぁ、とは予測していたけど。

 ま、これから人の変動はあるとは思うけどね。




 そんなこんなで皆で『魔法試技場』へ向かう事になった。


 あ、『魔法試技場』って言うのはアレだよ、霊印エーテルシールを刻んだ時に、マジックシールドの練習をした、射撃場みたいな場所の事だ。


 学園内で、魔法の試行をする際は、そこを使う事になっているそうだ。


 で、試技場の入り口まで来てみたら、何やら中が騒がしい。

 想像するに、既に魔導科の子達が来て、実演を見ているのかな?と思ったのだが、どうもちょっと様子が変?


「模擬戦?!新入生が?!」

「しかも3対1だと?!!」

「魔導科の新入生同士?やらせるの?!」


 ほむ?何やら不穏なワードが聞こえて来るんですけど?

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