43話朝練
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「どうだ?送った装備の調子は?」
「うん、凄いよコレ!力や防御力がイキナリ何倍にもなった!アムカムの皆んなも、コレ使ってるんでしょ?」
「うん、まあスズのは試作の一点物だから、他より性能は良いんだけど、皆のもそれに準じた感じかな」
「そっかぁ……、それでも!こんなのを皆んなが使ってるなら、『溢れ』も怖くないね!森の浅層位なら、結構な人が到達出来るんじゃないかな?」
「もう、浅層は脅威では無くなってるな」
「ふわぁ、凄いなぁ、スッゴイなぁ!魔法も大系化しちゃったんでしょ?、なんか、アムカムがドンドン逞しくなって行くよね!」
「あのハイエルフの協力で、エーテルアーカイブの確保と、そこへの記録が可能になったからな」
「わたし達が使っていた魔法を、皆も使える様になったんだね」
「そうだ、この世界に元からあった魔法と共に、大系化してくれたからな」
「……わたし達が、この世界に来てから使えた魔法ってさ、わたし達が小さい頃、2人で考えたお話が元になってる……よね?」
「そうだな、オレ達があの頃考えた物が大半だ」
「わたし達の空想が、現実になっちゃったんだね……」
「魔法はそう言う物だよ。高いイメージ力と、強い意志の力が現実を創造するんだ」
「……わたし達が、……この世界を変えちゃったのかな…………」
「スズ。もしお前が責任を感じるとか言うなら、それはお門違いだからな。これがスズのせいだと言うのは違うぞ」
「でも、わたし達がこの世界を変えている事に違いはないよ。これから、わたし達がやろうとしている事だって……」
「スズには何の責任も無い。スズはそんなものを背負う必要はない。そんなものはオレが全部引き受けてやる。最初にそう言ったろう?」
「……トール君」
「そんな事より、船が完成したぞ」
「え?」
「航路もオセアノスの協力で確保できた。今度こそ、直接そっちへ行けるぞ!」
「ホント?!」
「ああ、今月中には出航する予定だ。随分待たせたな」
「ホントに?……ほんとだよ!前に一年以内て言ってたのに、半年も伸びたんだから!」
「わ、悪かったよ。思ってた以上に船が大掛かりになってさ……」
「うん、わかってる。トール君が頑張ってくれてたの、分かってるから」
「でも、外海をぐるっと周るから、二か月はかかるって話なんだ。それでも、約三か月後にはスズに会える」
「……そう、あと三か月……ふふ、夏真っ盛りの最中だね!」
「お、おう!今年は真夏のバケーションを、船の上ですごさせて貰うよ!」
「あ!それずっるーい!」
「はは、そっち着いたら少しくらいは船に乗せてやるからさ」
「ホント?ふふ、約束だからね?」
「ああ、まかせろ」
「うん……うれしい」
「待たせたな」
「……うん、待たされた」
「もう少しだけ、待っててくれ」
「うん、待ってる。ずっと待ってるから。大丈夫だよトール君」
「……スズ」
「大丈夫、待っているから……トール君。大丈夫だから」
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週明けの今日、朝のアムカムの鍛錬にカレンを誘ってみた。
当初、早朝にわたしが起き出す時にカレンも目を覚ましていたので、起こしてしまったのかと謝っていたのだが、「地元にいた頃も、このくらいの時間には起きていた」とは言っていた。
ここ最近で、カレンも身体を動かす事が好きなのだと分って来たので、どうせなら今日からは一緒に走らないか?と誘ってみたのだ。
そうしたら、「え?一緒に行っていいの?」と、思ってた以上にカレンの食い付きの良い答えが返って来た。
嬉しそうにトレーニングウェアに着替えるカレンを見ていると、やっぱり誘って正解だったなと思えて来る。
一緒に走ってみて分かったのだが、やはりカレンの足腰はかなりハンパなかった!
これはビビやミアどころか、アーヴィンにも負けていないんじゃなかろうか。
やっぱここは、アリシアに任せてみるのが良いと思う。
何と言ってもアリシアは、既に空拳科で、『アイアンナックル』という格闘の上級クラスに就いている、アムカム勢随一のタフネス姉さんだからね!
で、走り込みが終わった後、当初の予定通り、カレンをそのアリシアに預けてみたのだ。
2人はお互いの自己紹介をし終わった後、それぞれの形を確かめ合う様、軽い組み手をし始めた。暫くすると2人共、メッチャ楽しそうに蹴りやら突きやらの応酬を繰り出し合っている。
やっぱこの2人相性が良い?何か通じ合う物があるのか?
正直、こんな楽しそうなカレンを見るのは初めてだ。やっぱ絶対この子ってバトル系の人だよね?!間違いなく!!
ビビやミアは勿論、アーヴィンや先日から朝練に参加し始めたデイビス君迄、驚いた顔して二人の立ち合いを見てた。
試しにアーヴィンに、カレンと立ち会ってみるか聞いてみたら「いや、オレ無手だったら、多分勝てないと思うわ……」と言ってた。マジか?!
アーヴィンの言葉に、デイビス君も心底ビックリした顔してたよ。
「アーヴィン!ちょっとコッチおいで!」
そんな話を聞いていたかの様なタイミングで、アリシアがアーヴィンを呼び付けた。アーヴィンは呼ばれた一瞬、ビクリと背筋を伸ばしたが、直ぐに諦めた様に小さく嘆息すると、そのままアリシアの方へと進んで行く。
「この子、カレンってば、対人訓練の経験が殆ど無いんだってさ」
「……はい、お恥ずかしい話ですが、ここ5~6年は、単独での鍛錬のみでした」
「それでさ、得物を持った相手との組み手とか、まるで経験無いって言うんだよ」
「お、おう」
めっさ楽しそうに話すアリシアと、少し恥ずかし気なカレン。
それを聞きながら、「あ、何させられるのか分かったわ」と言いたげに短く返事をするアーヴィン。
「まずはアーヴィン相手でやってみようか?とりあえず、アタシが見本を見せるからさ!カレンはちゃんと見てるんだよ?!」
「ハイ!アリシア先輩!!」
なんだかイキナリ2人の距離感、随分縮まってんじゃないの?!
アリシアはアーヴィンに、そこで剣を振り下ろす様に指示している。
アーヴィンが「やれやれだぜ」と言いたげに剣を上げると、「気合を入れろ!」アリシア姉さんの激が飛ぶ。忽ち気の籠った構えを取るアーヴィン。
2人が構えあった所で、「よし」とアリシアのアイコンタクトでアーヴィンが動き出す。
アーヴィンが剣を素早く振り下ろす。アリシアが僅かに身体をずらしながら、その剣を何気ない動きの右手で捌いた次の瞬間、アリシアの左の肘が、アーヴィンの右脇腹に埋まっていた。
「ぅげぼっ!」
そんなおかしな声を零しながら、アーヴィンがその場で脇腹を押さえて崩れ落ちる。
「まあ、こんな感じ!最初はゆっくりで良いから形は正確にね」
「ハイ!」
「ホラ!アーヴィン、早く立って構えろ!」
「よろしくお願いします!ハッガード君!」
「……お、おう」
「とりあえず今朝は、コレを50本くらいやってみようか」
「はい!」
「形が取れるようになったら、次を教えるから」
「ハイ!」
「
「ハイ!ありがとうございます!アリシア先輩!!」
アリシアの言葉に、ダーナとロンバートとカーラがピクリと反応していた。
アリシアは、カレンに『アムカム十番勝負』でもやらせる気なのか?
まあ、カレンが楽しそうで良かったけどね。
ホント、まさか体育会系の先輩後輩が出来上がる瞬間を、こんな所で見せられるとは思ってもいなかったよ。
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