第8話スージィ氣を使う

「スイマせんゴメンなさい調子乗ってました。夢とはいえチート激しいのでもしかしたらレイドも一人でやれちゃうんじゃないかなー?とか正直思っちゃってました。調子乗ってました!でも知らなかったんですこんなに威力が出るなんてアリエマセン!人が出せるキャパを超えています!夢でも山脈崩すのはやり過ぎだと思うんです!夢の中でこんな大破壊するとか実は相当ストレス溜まってるんスかね?確かに仕事でイラつく事多いけどここまでスか?それとも欲求不満スか?結構この中で欲求解消してると思うスけどまだ足りないっスか?もっとスか?もっと必要スか?!やれと言われればやりますよ!ええ!好きですから!どんどんやりますともさ!!淫行バンザイだよコンチクショーーーっ!!!」


 スージィは混乱している様だ。


「よーーしよし!良いかコレが夢だと云う事を忘れるな!夢なんだから!夢のハズだ!だから大丈夫だオレ!安心しろ自分!頑張れワタシ!」


 とにかく納得して、折り合いを付けようとしているらしい。



 今スージィは、ユックリと下山を始めていた。

 取敢えず気を落ち着ける為、綺麗な景観でも眺めながら歩こうか……、と思ってはいたがそうもいかない。

 何しろ、周りの樹木は悉く薙ぎ倒されているのだ。


 思わず頬が引き攣った。


 それでも、ブツブツと益体も無い独り言を延々と続けている内に、大分気持ちが落ち着いて来た様だ。

 いつの間にか周りは、ちゃんと樹木が林立した森になって来た。


 樹が立っている。

 そんな当たり前の事が、こんなにも安心できる事だったとは。


 尤も、綺麗に廻りの樹の全てが無事な訳では無い。

 所々枝が燃えている木もあれば、飛んできた岩石や樹木で折れ曲がり倒されている物も多い。


 しかしそんな物は視界に入らない。

 見えてさえいなければ、森林浴の癒し効果はバッチリなのだ。




 そうこうする内に、森にダメージが無い場所まで降りて来ていた。


 周りにも、ポツリポツリとMobが出始めている。

 あの騒ぎで、相当数のMobも巻き込まれた筈だし、生息域も変わっているだろう。

 しかし、どんな事態になろうと襲ってくるヤツは襲って来る。


 今も、近づいて来た巨大な蝙蝠を撃ち落とした。

 装備は既にDに落としているが、やはり爆ぜてしまう。


 弾け飛んだMobと、手に持った剣を見ながら、ふと何かを思いついた。


(このインパクト系って、『剣気』を飛ばしてるんだよな?『剣気』って、あの『氣』だよね?今までゲームやってる時みたいに、何も考えずに只『気』を入れるってやってたけど……、これってコントロールできんじゃね?強くしたり加減したりとか……。オレが知ってる『氣』なら出来るよね?)


 右手に持った剣を、ポンポンッと、ジャグリングでもする様に回しながら、そんな事を考えていた。


(随分前に、教えてもらってたしな……)


 と、昔の事を思い出しながら……。


「確かこう……」

(上前歯の付け根に舌先を付け、力を抜いてユックリ息を吐く。糸の様に細く長~~く)


 スーッと静かに息を吐き出して行く。


(そのイメージのまま、掌から息を出す様に、持っている剣に『氣』を流す)


 腕をダラリと垂らし、剣を軽く握ってバランスだけで持つ。

 腕の重さと剣の重さが良く分かる。


 胸の奥の方から、暖かいモノが腕に流れて行く、そのまま剣へと滴が垂れる様に流し込む。


 フッ……、と長かった息を止め、手に持った剣をユックリ持ち上げて、その状態を確認する。


「白?いや……、キラキラとしてるから白銀か?白銀の『氣』だ。水飴を纏ってるみたいだな」


 剣先を上に向け下に向け、トロリと粘りを感じるそれが、垂れて行かないか様子を探る。


「ふむ、安定してるのか」


 垂落ちない事を確認すると、もう一度両手をダラリト垂らした。


「……今度は吸い込む」


 スーッと先程とは逆に、『氣』を吸い込むイメージを試みる。

 やがて剣を纏っていた白銀が少しずつ薄くなり、最後には綺麗に引き消えた。


「……できた」


 満足げに呟いた。


「出来るとは思ってたけど、ココまでちゃんと出来るとは……。『氣』も見えたしな。昔は見えなかったから、チョト感動!まぁ実際には肉眼で見てるってより、『有るのが判る』とか『認識してる』って感じなのかな?」


 ……ま、夢だから出来たんろうけどさ。


 と付け加えるのを忘れない。


 その後、纏わせる厚みや薄さ、密度や量の操作を行ってみた。

 どれだけ薄く纏えるか?どれ程の量を注ぎ込めるか?等。

 武器ランクを変え、色々と試して確認していった。


「ランクが上がる程精密な調整し易いな、籠められる量も多くなる。Gに至っては天井知らずだ、幾らでも入ってく感じ」


あれ?もしかして……と思いつく。


「魔力ってのも似たように出来るのか?『氣』とはまた違う感じなんだが?……魔法使うと、ナンかこう消耗してる様な、疲弊するような感じがするのは判るんだけどね。これも使用量の調節とか出来るのかな?」


 これも検証必要だなぁ……と、独り語ちる。


「でも、まずは試し打ちか……」


 とりあえず『氣』の制御を試す為、周囲にMobが居ないか探索してみた。


「やっぱ北方向、山の上には居ないよね……。取りあえず南下しないと駄目だな」


 そこから少し南に進んだところで、先程も遭遇した巨大蝙蝠を発見した。

 地上2~3メートルのところで、倒木が多い木々が疎らな場所を飛んでいる。


「『シニアバンパイア・ブラックバット』年老いた吸血蝙蝠ってか?字面だけ見ると厄介そう……。でも、ま距離は50メートルってとこ?向こうの索敵外だな。

 まずは狙ってみよう。

 ……細く鋭く針を穿つうがつように……放つ!」


 左足を引き右を正面にする様に構え、前方へ右腕を突出し剣先を標的に向け……剣気を放つ。

 剣先から白いラインが走り、一瞬で標的を貫いた。


「を!爆ぜてない!」


 ちょっと嬉しい。


 地表に落ちた蝙蝠の状態を確認する。

 体長は2メートル程もあり、かなり巨大だ。翼長は8メートル近い。

 蝙蝠と言うより、ちょっとした翼竜の様だ。

 吸血種の為、犬歯が異常に大きく、鼻ずらも長くて犬顔だ。


 例えるなら、蝙蝠の翼をもった豚鼻のドーベルマンと言ったところだ。

 その胸の中心に、スージィの頭が楽々通る程の穴が開き貫かれている。


「見事に貫通しとるな、やはり制御を覚えたのは正解だね。今までどれだけ無秩序にぶっ放してたか!って事だ」


 と、こちらに近づく複数の存在を察知した。


「ふむ、この動きは、またオオカミ系かな?数は……、12……13か」


 コチラを包囲する様に、少しずつ距離を縮めて来ている。


「蝙蝠と縄張り争いでもしてたかな?或いは血の匂いを嗅ぎつけたか……、それとも……あ・た・し?」


 ウィンクしてハートを飛ばし、人差し指を口元で一言ずつ揺らしながら言ってみた。


 大外しである!大外しの『新妻ごっこ』だ。


 外しを自覚したのか、少し頬を染めて横を向く。

 ツッコミが居ないボケ程、寂しいモノは無いが、誰にも見られていないのは救いと言えば救いなのか。


 『新妻ごっこ』は外したが正解はそれだ。

 人の匂いにつられ集まって来たのだ。


 暫くすると前方……、西方向から数頭の狼が近づいて来るのが見え始めた。

 後方からも4~5頭ほど纏まって近づいているが、上手く樹木や茂みに隠れる様に接近している。


(なるほどねぇ……、わざと姿を見せて手薄な方へ逃げたら待ち伏せ……、或いは正面からやり合う事になったら、後ろから奇襲して挟み撃ち……とか?)


 狼ってちゃんと考えて狩りするんだなぁ~。……等としきりに感心していた。


「『ブラック・ヘルハウンド』地獄の番犬って感じ?体長は3~4メートルってトコ?上に居た白いのと比べると随分小さいな……。ランクが五つは下って感じ」


 体長3メートルの狼は、決して小さくはないのだが……。判断基準に若干ズレが生じて来ている様だ。


 群れの中に、他よりも一回り大きい個体を見つけた。間違いないコイツがボスだ。

 そう目星を付け、ソイツに向かいスージィは走りだした。




 獲物がこちらへ向かって来る事に気が付いたヘルハウンド達は、コレを迎え撃つ事に決めた。

 速度を上げたボスを先頭に、前後に体ひとつ分空け、左右に2頭目3頭目が続いて走る。

 三頭で、矢継ぎ早に攻撃を仕掛けるつもりだ。


 スージィとの距離が見る間に詰まる。

 射程に入ったヘルハウンドのボスが、スージィへ飛びかかった。


 喉元を狙い喰らい付き、全体重を乗せ押し倒すつもりだ。

 例えこれが躱されても、後から2手目3手目が姿勢を崩した所へ飛び掛かれば、そのまま身体を引きずり倒せる。

 倒してしまえば此方の勝ちだ。後は多くの牙で引き裂けば良い。

 ヘルハウンドは、獲物の捕獲を確信し悦に入る。



 スージィはヘルハウンドとの接触直前に、ユラリと揺れた。

 脊椎が柔軟なバネで出来ているかの様に、その身体がしなる。

 そのしなりに乗せ、胸元から開く様に剣を持った右腕を上方へ上げた。


 今、剣には薄く薄く『氣』を纏わせている。

 それを視認出来る者でも、余程注意深く視なくては分らぬほど薄く。

 そしてそのエッジには、剃刀の様な切れ味を、薄く鋭い刃をイメージし纏わせていた。


 ブレードは、何の抵抗も無くヘルハウンドの前脚を通り、顎の辺りから頭の後ろへ通過した。


 あれ?まだ動きに余裕あるなー……。などと思いながら左腕も同じ様に開き上げた。

 今度は足の付け根辺りから首元へ向けブレードが通り抜ける。


 まだまだ全然動けんじゃん!……と、左腕が上がるのとは逆に下へ回った右腕を再び上げる。

 更に左、更に右、左右左右……。

 まるで背泳ぎでもする様に身体を揺らし、左右の腕とブレードを交互に回して行く。

 エッジに反射する光が幾条もの筋となり、スージィを包み込んで行った。



 ヘルハウンドだったモノは飛び込んだ勢いのまま、乱切りにされた血肉を大地に撒き散らした。

 スージィは、飛び散る血液の飛沫も器用に避けながら、次に来た2頭目、3頭目のヘルハウンドも同じ様に刻んで行く。

 ユラリ、ユラリと踊るように。



 残ったヘルハウンド達は、何が起きているのか理解をしていない。

 先駈け達が見えない、何かが飛び散ったようだが獲物はまだ立っている。

 どちらにしても包囲は済んでいる、袋のネズミだ。

 このまま追い立てて、狩り取れば良いだけの話だ。


 残り10頭のヘルハウンドは、綺麗に輪を縮めてスージィに迫った。


 一閃。

 スージィがその場でクルリと回り、その周りに無数の光の線が走った。

 あと一跳びで牙が届くと思われたその時、ヘルハウンド達は無数の肉片となり飛び散った。


 ふぅーーー……と、少し長く息を吐く。


「思った以上に巧く使えるな、このままD装備で制御に慣れて行くのが良いかな?」


 精度の低い装備で縛りを与える事で、自分自身のコントロール能力を高めて行こうと云う事だ。


「……やっぱり防具も『氣』を入れる事で、強度的なもの変わンのかな?ウン、盾は間違いなく防御力上がるしな……」


 自分の防具の色々な場所を触りながら思考する。


「纏わせた『氣』で、ダメージ量がどう変わるとか検証したいな……あぁ!ってか、今のとこオレってば、Mobからダメージ受けた事が無いって事に今気が付いた!!マヌケかっ?!まぁそーは言ってもなー……、悉く攻撃が当たって無いんだからしょうがないよね!」


 んーどうするかー? と腕を組んで考え始めた。


「……もう陽が傾きかけてる。結構歩いたしなぁ……。ダメージ検証は明日考えよう。今日はもう、落ち着ける場所探して野営準備しないとねっ!安心安全の野営の為には、周りを綺麗にお掃除しないといけないからねっ!思う存分するためにねっ!!やっぱ水辺の近くが良いね、直ぐ洗えるし!さぁ!場所を探そう!場所決めよう!さっさと綺麗にして毛布の中へ一直線ーーーー!ぃやっふぅぅーーーーー!!!」


 何故かスージィは、テンションアゲアゲで飛び跳ねながら南下を始めた。

 この後の方針が決まったようだが……。ソッチ方面の決定にブレが無いのは流石なのか?

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