第9話スージィ食料を探す

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「どうです?結構平気だったでしょ?」

「まぁ平気って言や平気だけど……、痛かったよ?」

「でも、平気な顔で受けてたじゃないですか」

「平気って言うかさ……痛いけど、耐えられない訳じゃ無いな……、くらいな?」

「今のかなり強めに殴ってましたからね?普通の素人なら、耐えられない位の力入れてましたから」

「そうなの?まぁ痛かったよ?確かに結構平気だったけどさ」

「それが『型』の効果って事なんですけどね」


「さっきやったヤツだよな?なんだっけ?『サンチン』だっけ?」

「まぁ完全に極められる程、先輩は出来上がっていないんで、ただの紛い物なんですけどね」

「左様で御座いますか、えーそーでしょーねぇ」

「さっき教えた様に手を広げるときに、小指から拳を閉じて、腕のココの所に『氣』を意識すれば、その位の効果は出るんです」

「ここの肘から小指の付け根にかけての腕の側面だろ?確かに意識するとココが暖かくなったね」

「『型』っていうのは所作、動作を正しく取るのは当たり前なんですが、その上でそう云った意識を正しく持つ事で本来の力が出るんです」

「なんか難しい事言い出したな?」


「簡単な所だと、三つ指付いてお辞儀して体を起こす時に、こう胸の真ん中、カラー〇イマーがある辺りから、棒でも出て身体を持ち上げる。と言う意識で体を起こすと、大した力もいらず体が起こせます。上から抑えられてても、少し位の力なら、やはり大した抵抗も感じず楽に起こせますよ」

「実は大和撫子最強説!?」

「日本の作法や所作って実は『氣』が効率よく流れる型だったりするんです。お箸も正しく動かすと『氣』がきちんと流れるんですよ。この機会にちゃんとした作法も習得してみては如何ですか?」


「でもさぁ、さっきの『サンチン』だっけ?出来ればアレみたいに強くなる技覚えたいよな!アレだろ?ちゃんと出来る様になると、痛みとか感じなくなれるんだろ?」

「いや、痛みは普通にあると思いますよ」

「え?そうなの?」

「いいですか。痛みって言うのは重要な情報なんです。痛みが無いって事は、身体がどんな状態なのか分らないって事です。そんな状態じゃ何処までが無茶なのか判らなくなりますよ?

 痛みは拒絶するのでは無く、理解する事が大切なんです」


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 昨日は結局、最初に野営をした滝の場所まで戻って来た。

 森の中の道……北に向かった時の跡だが……を見つけたので野営場所を探すなら、それを辿るのが手っ取り早い、と思ったからだ。


 検証するなら、森の浅い所でやりたいと云う理由もあった。


「ダメージ検証するなら、まずは低い防御力の装備、もしくは防具無しの状態で試してみるのが良いよな!上位の装備では、この辺のMobの攻撃受けても確実に弾くだろうし……」


 その状態で攻撃を受けるなら、イキナリ狼の牙とか熊の爪とかはちょとイヤだな。

 せめて最初は、もっと優しい相手が良い……という初心なお願いである。


 自分は今まで散々弾け飛ばしたり、乱切りにしたり、ミンチにしたりして於いて、何を今更言っているのか?という話もあるが、ここにツッコミはいない。



 そういう訳で、今は滝を使ってシャワーの様に水浴びをしている。

 何故そういう訳かは、そう云う事をした後だからだ。


「こうやって早朝に水浴びしてても寒くないってのは、今の季節は7月とか8月って事なのかな?」


 滝の水に打たれて、形の良い乳房を揺らしながら何となく口にする。

 すると、ク~~~……と、随分可愛らしい音が辺りに鳴り響いた。


「……腹減った……」


 胃の辺りに手を当てながら、悲しげに呟いた。

 今ところ食事は、空腹感が限界に来るまで摂らずにいた。

 理由は……。


「また味気ないメシか~~。……腹減ってるのに、こんなに食事が憂鬱なんて……」


 文字通り、持っている食料に味が殆ど無いのだ。


 バシャバシャと全裸のまま滝から離れ、水辺へと上がって行く。

 インベントリからタオルを出し、体に巻きつけるとガッツリ脚を開き、手近な岩の上に腰を下ろした。

 とても年頃の娘さんが人前で晒せる格好では無い。

 まあ、中身は娘さんと違うが!


 もう一度インベントリから今度はシチューを取り出し啜る。

 いつでも出来たてのホッカホカである。

 しかし……。


「……美味くない~~~」


 とりあえず、胃に入れれば何でも良いとばかりに一気に掻き込んだ。


ひょふほぅひひょう食糧事情はんほはひはいほはなんとかしないとな……」


 口に入れながら喋るもんじゃない。


 スージィは、そのまま強引に一気に飲み下す。


「くはぁーーーっ!……やはりナル早で人里へ出る事考えないとイカンなぁ。人には、味のある食事が必要なのだと切実に思うよ!!」


 無理やりの食事を終わらせると、ヨッと声を出し立ち上がった。

 そのままタオルを脱ぎ取りインベントリへ仕舞い込むと、次の瞬間にはD装備に身を包まれていた。


「あ、待てよ。もう爆ぜさせずに狩れる様になったんだから、普通に食料も狩れるか?鳥とか行けんじゃね?」


 ハタ!と思いついた様に顔を上げた。


「そうだよ!行けるよね?よし!ダメ検証するついでに食糧も採ろう!ウン!そうしよう!!」


 嬉しそうに南方を見ながら独りごちた。


「とりあえず、5~60キロ南下すりゃいいかな?人里が近づけば、ちったぁ可愛げがあるのが出てくんだろ!」


 そう言うと、さっさと南へ向かい飛びだして行った。





     ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 結論から言えば……、散々だった。




 でっかい猪みたいなMobが居た。

 ナントカヌシみたいな奴だった。


 コレは食える!と思った。


 取敢えず初期の炎系魔法を撃った。

 燃えた。炭になった。

 炭の味しかしなかった。


 次はヤツは、輪切りにしてから適当な部位を切り取った。

 何がどこにあるのか分らなくて、グチャグチャになりながら赤身を見繕って切り出して焼いた。


 すっげー獣臭くって、腐った肉の匂いがした。

 せめてハーブとか、匂い消しが必要なのかもと思った。

 一口、無理くり口に含んだら、勝手に涙が溢れてきた。

 求めてた濃い味はコレトチガウ。

 エグエグと泣いてしまった。


 もしかしたら 、Mobつまりモンスターは食材に適していないのかも?と思い、普通に鳥を採ってみた。


 でっかい鷲みたいなのが居たので、小石を拾って『氣』を纏わせ指先で撃ち出す、指弾だ。

 楽勝で撃ち落とせた。


 よし料理だ!と思ったが。

 どう捌いて良いのか分らない。

 この時、自分がサバイバルスキルゼロだとハッキリ自覚した。


 仕方ないので、そのまま火にかけて焼いてみた。

 羽根が皮にこびりついて、スゲー食い辛かったので皮をそぎ落として食べてみた。

 なんか固くて筋っぽくて、レバーっぽい臭さが鼻についた。


 が無理やり食べた。

 レバーは嫌いじゃないけど、コレは勘弁して欲しい。


 やっぱり泣けた。

 せめて塩が欲しい。胡椒が欲しい。醤油が欲しい!

 素材の味を生かした、ワイルド料理はオレには無理ムリです!!


「ラーメン食いたい。家系食いたい。千家のねぎチャーシューの大盛り食いたい!!」

 シクシクシクシク……。



 捌く事も、料理も出来ない事が、とても悔しい。


「せめて攻略サイトを!頼むよ夢チート!簡単解体動画プリズーーー!!!」


 無理だった。





     ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「気を取り直して、本日本命のダメージ検証しるよ!」


 四つん這いになって落ち込んだが、無理やり拳を握って立ち上がった。

 とても人間らしい食事とは言い難かったが、とりあえずお腹は膨れた。

 お腹が膨れたのに、何故かとても悲しい。

 なので、今日本来の目的を果たす事にした。




「ン~~……、アレなんかどうだ?『フォレストバシリスク』。バシリスクって石化してくるだけのデカいトカゲで、大した事なかったよな?デカいって言っても、2メートルは無さそうだし……。上にもでっかいトカゲ居たけど、アレは10メートルは超えてたもんな。確か『アイスリザード』と、やっぱり『ホワイトバシリスク』。あれの赤ん坊みたいなサイズだし、ま、大丈夫だろ」


 2メートルのトカゲと云う時点で、大した事あるのだが、やはり基準値がどうにかなっているようだ。



 その姿はトカゲと云うより恐竜に近い。

 強靭な後足、前に出した前脚は小さいが、強力な爪を持つ。

 首は長く小さ目な頭を支えている。

 小型のラプトルのような姿だ。


 全身は青緑の鱗で覆われ、頭にはトサカの様なヒレを持っている。

 首の所で途切れたヒレは、背中でまた大きく広がる。

 その金色の目がスージィを見つけ、真っ直ぐに向かって来た。


 スージィは武器を収納し、重装備だけで待ち受ける。


 5メートル程の距離で走りながら首を高く上げ、眼を一際輝かせたが何も起こらない。

 バシリスクは、一瞬訝しげな表情を見せたが、直ぐにスピードを上げ突っ込んで来た。


 バシリスクの石化の眼光を、スージィがあっさりレジストしたのだ。

 石化に抵抗する相手は少なくない。

 一々怯んで居てはコチラがやられる。


 石化が効かないのであれば、麻痺毒を持つ牙と爪を突き立ててやれば良い。

 後脚の筋肉を膨張させ解き放つ。

 一気に距離を詰め、首元を狙い飛び掛かった。


 だが口は虚しく空を切る。

 ならば、と避けた先へ前脚の鎌の様に鋭い爪を引っ掛けて、引き寄せようとする。

 しかしそれも紙一重で避けられた。


 なら身体を直接ぶつけ、その重量で潰そうと身体を倒すが、もう相手は其処には居ない。

 透かさず長い尻尾を振り回す。

 自分はこれでバランスが取り戻せるが、逃げたソイツに当たれば只では済まない。


 だが、その尻尾も空を切った。




(あれ?何だか、やたら当たらないなぁ~と思ってたら、コレ自分で無意識に避けてね?)


 まるで風に揺れる柳の様。

 スージィは、自分自身が特に意識もせずに、相手の攻撃の勢いを体が勝手に察知し、避けている事に気が付いた。


(これはレベル補正ってヤツか!コイツとはかなりのレベル差あるって事だな?こりゃ意識して攻撃受けないと当たらないかも……)


 と、幾度も攻撃を躱され、業を煮やしたバシリスクが強力な頭突きを放とうと身を低く構え、力を溜め始めた。


「お?来るか?よしゃっ!おねーさんの胸に飛び込んでいらっさい!バッチ来ーーい!!」


 バシリスクが地を蹴り突進して来た。

 スージィは腕を開き迎え入れる体勢を取った。

 頭がぶつかる瞬間、胸を突出し受け止める!と、バシリスクの頭が砕けて弾けた。


「うわっぷ!?ぱらぱぁっぷっ!!」


 盛大に、脳漿やら何やらを顔から浴びてしまった。


「うあ!ぺっぺっ!ぷぺっ!うげぇ~~ぺっ!な、なしてぇ~~?」


 インベントリから水の入った壺を取出し、頭から水をかぶり洗い流す。


「うあっぺっ!くっさぁ……!あ……、ぺっ!……ま、まさか!ぺっ!……アタシの胸は、ぺっ!凶器だったのね!?ぺっ!」


 そーじゃなくてっ!


「ぺっ!あれか……ぺっ!『氣』を纏ってたから、ぺっ!闘気の籠った、ぺっ!拳で殴ったのと、ぺっ!同じことになった?ぺぺっ!」


 水で何度も何度も口をすすぐ。


「う~~、まだ口ン中キモチ悪いぃ臭いぃ~~……。今日はもうサッサと水浴びしたい……!!!」


 何杯目かの水瓶シャワーを浴びた後、突然小さな爆発音を響かせて、高速で飛来した何かを、指先で瞬時に掴み取った。


「さっきから周りを飛び回ってたのはコイツか……。『ブレッドビートル』?頭が棘だらけのカナブンみたい。うわっ!かったいなぁコイツ」


 ビッと指先で弾き、掴んでいたビートルを指弾の様に飛ばした。

 そのまま、次に飛んできた2匹目にヒットさせ相殺粉砕する。



 クイッと首を右へ傾げ、3匹目を躱す。

 躱された3匹目は、スージィの後ろにあった、ひと抱え以上もありそうな樹木を貫通し、その根元にあった岩へと減り込んだ。


「うっわぁ、ホントに弾丸みたい。なんかワラワラと集まって来てるな……。縄張りにでも入り込んだか?」


 三桁は居るよなぁ……と、ウンザリした様に呟いた。

 地面に減り込んだビートルを、プチリと踏み潰しながら周りを警戒する。


「ていっ!」

 4匹目を右正拳で打ち抜く。


「とりゃ!」

 5匹目を左手刀で断った。


「ほあっ!」

 6匹目を右の裏拳で払って粉砕する。


「っつお!」

 7匹目を左の鈎突きで砕く。


「うぉっとったっ!」

 8、9匹目を右、左で。


「たっ!てぃ!ほぁっ!ほぁたぁ!」

 爆発音を発しながら、矢継ぎ早に飛んで来るビートル達を、次々と両の拳で打ち落とす。


「あたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた」


「だぁぁぁぁっっ!!一体どこの伝承者かぁっっ!?もぉぅーーっメンドクサイわっっ!!」


 瞬間、剣を装備し剣気を前方に放った。


「砕け散れぃぃっっ!!」


《インパクト・ストーム》

 前方のビートルの群れをまとめて吹き飛ばした。

 ついでに周りの樹木も結構な範囲で。


「……あ」


 崩れかけた樹が、メキメキと折れ倒れて行く。

 ちょっとだけデジャヴ。


「ツイ勢い余っちゃった……。てへぺろーー」


 てへぺろぢゃねぇよっ!

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