第33話スージィ・クラウドはじめてのお使い

「明日の昼間、スージィにお使いを頼みたいのだが……どうかな?」


 ハワードさんから、夕食後のお茶を頂いている時に頼み事をされた。


「明日、ですか?学校ある、です、よ?」

「うむ、午後からで良いのだ。ヘンリーと、コープタウンへ行って欲しいのだよ」

「ヘンリー先生と、です、か?」

「そうだ、ヘンリーはコープタウンの神殿に用向きがある。スージィには、一緒にコープタウンへ向かい、そこで受け取って来て欲しい物があるのだ」


 なんだろ?一緒でって事は、要は先生のお供って事かしらん?


「……本来なら、ワシが自ら手渡してやりたかったのだが……。明日はどうしても外せぬ集会だ。だが、マーシュは明後日には王都へ向かってしまう!明日、どうしても受け取らぬ訳にはいかんのだ!」


 ハワードさんが、悔しそうに拳を握った。

 ソニアさんってば、それを見てクスクスと笑っている。

 あ、でも、マーシュさんって確か、コープタウンの鍛冶師の方のお名前だった筈……。あぁ!ピンと来た!!


「もしか、して・・・武器が、剣が打ち上がったです、か?!わたし、の!」

「そうだ。最後の仕上げに、持ち主に持たせて調整するとマーシュが言うのでな。明日、スージィに受け取りに行って貰うしかないのだよ」

「行く!行くです!行きます、です!よ!」


 一気にテンションが上がってしまった!


 夏にあつらえて貰った皮鎧の装備。

 ソレの対になる様にと、ハワードさんがコープタウンの鍛冶師の方にお願いしてくれたのが、一月ほど前。

 普通にオーダーして、剣二振りを一ヶ月で納品してくれるなど、破格のスピードだ!


 マーシュさんと言うのは、アムカム郡の、アムカム護民団の方々が使用する、武器、防具等の制作やメンテを受け持つ工房の、親方に当たる方だ。

 その方が、手ずから制作にあたって下さったと言う。

 これは是非とも直接受け取って、お礼を申し上げねばならない!


「そうか、行ってくれるか……。返す返すも、ワシが自らスージィに手渡しかったのだが……、残念でならん!」

「もう、ハワードったら、そんな何度も繰り返さなくても」


 ソニアさんがコロコロと笑っている。

 わたしは椅子から降り、ハワードさんの傍まで行ってその手を取り、わたしを見る優しげな眼を見上げながら……。


「ハワードさんから、贈り物、それだけで嬉しい・・・、わたし、幸せ者、です」


 そう言って、ハワードさんの大きな手を両手で握り締め、感謝の気持ちをお伝えした。

 ハワードさんは「そうか?ウム、ウムウム」と微笑んで喜んでくれた。


「……こんな、目尻の緩んだ伯父上を見るのは……、初めてかもしれません」


 何言ってんのウィルってば!

 ハワードさんは、いつもこんな優しい笑顔で答えて下さるよ?珍しくはないのよ?


「フフフフ、ハワードはスージィが可愛くてしかたないのよ」


 そんな恥ずかしいソニアさんの言葉に、「流石だスージィ……」とウィルが呟いた。

 それは褒められたの?


「それでは明日、スージィは修練場には来れないと云う事だね?」

「はい、ウィル、みんなの事、よろしくお願い、します、ね?」

「ああ、任せておいてくれ!特にダーナには最上級生らしい指導をしよう……、しっかりと!」


 ウィルが最後の方を、少しだけ目を細ながら、ちょっと遠くを見る様にして呟いた。

 ああ、ダーナ御愁傷様。自業自得だけどね。





     ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「こんにちはスージィさん。今日はよろしくお願いします」

「こんにちはヘンリー先生。こちらこそ、よろしくお願いしま、す」


 お昼休みが終わる少し前、ヘンリー先生が学校まで馬車で迎えに来てくれた。

 ヘンリー先生の馬車は、ウチの真っ黒な物とは全く違い、真っ白で、細かな金の細工が施された、重厚さと清らかさを併せ持つ馬車だった。

 流石神殿の馬車!といったところか?


 ヘンリー先生のお話しでは、どこぞの元貴族のお金持ちからの奉納品らしい。

 「私には単なる空費に感じてしまうのですが」と先生は仰る。


 それを引くのは白馬で……白馬、馬かな?どうしても未だにトカゲに見えるんですよね。

 トカゲに見えても、ウチのレグレスは私にも懐いてくれたようで、最近では可愛くなって来たのだけれど……。まぁ!白馬、で。


 だけどこの白馬と白い馬車って、結婚式とかに使ったら絵になるんじゃないかしらん?てな事を思ったので、お訊ねしたら……。とっくに使っているそうだ!サスガデス!!


 そんな結婚式にも使われる白い馬車に、何故か内面ではちょとばかりテンションアゲアゲで、鎮座させて頂いた。


 今日は若草色のスカートだったけど、白のワンピースとかだったらもっとテンションが上がってたかもね!

 そして、いつものピッグテールに白いストローハットを頭に乗せて、ヘンリー先生の隣でお行儀良く、コープタウンまでの道中を過ごさせて頂こうと思う。


 で、道中どうせだからと云う事で、先生が魔法講座の続きをして下さることになった。



 今回は、『アストラル体』『メンタル体』の次の領域のお話しをして下さるそうだ。


 ザックリと言えば、『メンタル体』の先は『魂』の領域なのだそうだ。

 【超意識】だとか【超自我】とか、人間には知覚出来ないヨウワカラナイ領域を、『コーザル体』と云う器に入った『魂』って事になるらしい。


 この『コーザル体』って云うのは、『思考体しこうたい』とか、『因果体いんがたい』とか呼ばれていて、繰り返されてきた前世の記憶が年輪の様に重なり大きくなって行き、その人間の意志の方向性を示し、決定している物なのだそうだ。


 だから『コーザル体』の大きさは、そのまま『魂』の大きさなのだそうだ。

 『メンタル体』と『コーザル体』を合わせた領域を、『マナス』或いは『識心体しきしんたい』と呼ばれていて、この『マナス』の大きさが、魔力の大きさに比例する。

 ……と云うのが、現代での魔法学の常識なのだそうだ。


 さすがにここまでの話になると良く分らないよね。

 『魂』とか言われてもピンと来ないもんね!


 先生も「ざっと知っているだけで良いですよ」と仰って下さった。

 この辺から先はもう、神学とか大学とかで勉強する領域なんだってさ!


 でもね、気になる事も教えて頂いた。


 人の感情を煽って、大きくさせてそれを喰らう魔獣とか、『魔物』と呼ばれる類も居るそうだ。


 『感情』、つまり『アストラル体』だ。

 感情を『痛み』や『恐怖』『怒り』とかで煽って大きくして、『アストラル体』を取り込むのだそうだ。


「ヴァンパイア・・・とか、です、か?」


 ヘンリー先生がピクリと反応されて「ご存知でしたか……」と静かに仰られた。


「ヴァンパイアは忌むべき存在です。奴らは『アストラル体』だけに留まらず、『マナス』の一部領域まで侵食し、自らの魔力の一部として取り込みます。奴らの犠牲となった人々はその魂の一部まで囚われ、奴らが滅びるその時まで、輪廻の輪から外れてしまうのです……」


 『マナス』が侵食され傷付けられると、そのまま肉体とエーテル体との繋がりも希薄になり途切れ、やがて肉体は死を迎える。

 この肉体とエーテル体の繋がりを修復する、『蘇生魔法』も存在しているそうだけど、成功率は極めて低く、『マナス』を侵食している者が居る限り、意味を成さないのだそうだ。


 ちょっとばかり頭頂部にチリッとしたものを感じた。

 ソニアママをあんなに悲しませた奴ら!

 先生の仰る通りなら、未だラヴィさんは救われていない!!

 私の中でそいつらは、最優先殲滅対象になった。


 だが、……ヤバイ。

 少しピリッとして暗い雰囲気になってしまった……。

 しまった、とっても気まずいぞ!

 ここでいきなりニコッとかするのも、変な子だと思われるだろうし、どうしてくれよう……。

 とか悩んでいたら。


「スージィさん、デイジーから道中にどうぞ、と預かっていた物がありました」


 と、ヘンリー先生が「荷台に在るバスケットを開けて下さい」と仰ったので、荷台に手を伸ばして取って、膝の上で開いてみた。

 すると中からは、なんとなんと!バラの様なアップルパイが顔を出して来た!!


「ふおぉぉぉぉぉ!!」


 思わず感嘆の声を出してしまった!


 林檎の実を薄くスライスして、バラの花びらの様に巻き、小さなカップ型の生地に入れ焼き上げている!

 可愛綺麗すぐるるるっっ!!


「デイジーが、スージィさんにと今朝焼き上げたんですよ」


 そうヘンリー先生はニッコリと微笑みながら仰った。

 デイジー先生ぇ!!素敵過ぎですぅぅっっ!!!


 もう一気に、さっきまであった重い空気がどっか飛んでった!!

 甘々なアップルパイに蕩けながら、残りの道中はとても幸せに過ごすことが出来ました。

 ありがとう!デイジー先生!!



     ◇



 コープタウンは、駅馬車の停車場を中心に、デケンベルへ向かう街道をメインストリート……大通りとして、碁盤状に広がる街だ。

 わたしの目指す工房は、大通りから2本ばかり裏に入った道沿いにある。


 ヘンリー先生の向かう神殿は、大通りの反対側だ。

 1時間ほどで用事は済みますので工房で待たせて貰って下さい と言われ、大通りで降ろして頂き、そこで其々の用向きに向かう事になった。



 工房はレンガ造りの建物で、入口の上に金床かなとことハンマーの透かし彫りが取り付けられていた。

 ウン!鍛冶屋の看板だ!


 入り口のドアを開けて入ると、直ぐにカウンターがあり、その中に机が並んでいて、お姉さん?お嬢さんかな?が一人事務仕事をしている様だった。

 なんか郵便局とか、銀行のカウンターみたいだな、と思った。


 わたしに気が付いたお嬢さんが、用件を尋ねて来られたので、自分とハワードさんの名前を告げ、用向きを伝えたところ「少々お待ちください」と奥にある扉から、部屋の向こうへと引っ込んで行った。


 扉を開けた時に、鉄粉と鉄の焼ける匂い、金属を叩く音や、グラインダーで金属の削られる音が聞こえて来た。

 ああ、カウンターは銀行っぽいけど、奥は間違い無く鍛冶工房だ。


 やがて、先程のお嬢さんが「お待たせしました」と言って戻って来た。

 そのすぐ後に、ズングリとした体型で、顔中を長く蓄えた髭で覆われた、赤ら顔の筋肉質なおじいちゃんが事務室へ入って来た。


「工房長のマーシュ・カウズバートです」


 とお嬢さんに紹介された。

 おじいちゃんがカウンターを出て、こちら側へ出て来たので。


「スージィ・クラウドです、よろしく、お願い、します」


 と握手を求めると……。


「……ンム」


 と、短めな言葉で握手に応えてくれた。

 けど、わたしを上から下まで胡乱な目で眺めても、目は合わせてくれない。

 気難しい職人さんなのかな?

 ……あれ?でもこの方って、もしかして……?


「ドワーフさん、です、か?」


 わたしの言葉に、ピクリとマーシュさんの眉が上がった。


「あら?お嬢さんはドワーフを見るのは初めて?」


 とカウンターの向こうから肘を付いて、面白そうにコチラを見ているお嬢さんが訊ねてきた。


「やっぱり、ドワーフさん、ですか?初めて、お会いしま、す」

「お嬢さんはアムカム村からでしたよね?アムカムには今、ドワーフは居ないから無理もないのかな?」


 このお嬢さんのお話しでは、もう何年もアムカム村にはドワーフは住んでいないのだそうだ。

 こりは田舎者って思われちゃったのかしらん?


「実は私もドワーフなのよ?分ります?」

「ほへえぇぇっ?!」


 ちょっと隙を突かれたような気がした。

 見た感じは15~6歳に見える。

 これが幼女な姿なら、おじいちゃんドワーフとセットで、ピンと来たかもしれないんだけど……、やっぱ知ってるドーワフと幾分違うのか?



 マーシュさんが「少しこのまま待て」と仰って、カウンターの中へ戻って行った。

 するとカウンターの中のお嬢さんが、色々と話しかけて来てくれた。

 話を伺うと、このお嬢さんは28歳で、マーシュさんの娘のマリーベルさんと仰るそうだ。

 お嬢さんでなく、お姉さんでしたのね……。


 ドワーフって寿命が130~150歳を超えるそうで、マーシュさんは今90歳。働き盛りのドワーフさんなのだそうだ。

 で、マリーベルさんの28歳ってのは、まだまだ子供同然なのだそうだ。

 ドワーフの女性は50歳を超えた辺りから髭が生えて来て、60になる頃には男性と同じように髭が生え揃って、やっと一人前として認められ、そこから結婚適齢期になるのだそうだ……。


 ……あぅ。なんかすいません。

 わたしには、ちょっと刺激が重くて衝撃の渦なお話しでした……。

 やっぱり違うン!

 知ってる世界と違うんン!!

 ドワ娘で転移してなくてホント良かった!!と思う、今日この頃なお年頃ですぅ……。


 そんな話をしてる間に、マーシュさんが事務室の金庫の様な棚から品物を取出し、カウンターの上に次々と並べて行った。

 並べられた物は、鞘に納められた二振りの剣と、ソードベルトだ。


「まさか、こんな小柄な娘の物とは思わなかった……。一振りでもそれなりの重さがある。とても二振り扱えるとは思えんのだがな……」


 眉間に皺を寄せ、カウンターを周り込みながらそう言った。

 歩きながらも「ハワードのヤツ、欲目が過ぎるんじゃないか……?」とかもブツブツ言っておられた。

 カウンターから出てわたしの前まで来ると、カウンターに置いてある鞘に入った剣を一振り取り、わたしの前に差し出して来た。


 わたしがその剣を軽々と受け取ると、そんな簡単に持てると思っていなかったのか、驚いた様にマーシュさんは目を見開いておられた。


 とりあえず、サクッと抜いてバランスを確かめてみた。

 ウン、ちょっと軽めだけど握った感じは良い。


 更にちょいと軽く振ってみた。

 ヒュヒュンっと、風を切って振り具合を確かめる。

 ウン悪くない。

 そのまま、シャコンっと放り込む様に鞘に入れてみる。

 すべりも収まりも良い。鞘も良い感じだ。


 もう一度抜いて、目の前で刀身を立ててジックリと見てみる。

 白銀で綺麗な刀身だと思った。

 両刃りょうばの刀身は大体70センチ位かな?わたしには使い易い長さだ。

 刃幅は7~8センチ程。

 あまり多くの装飾は無いけれど、刀身の腹にアウローラ文字が刻んである。


「『理なくして剣を握らず。徳なくして剣を振るわず』かな?」

「……ナルホド話通り、見た目ではないと云う事か……。それは、ハワード氏の座右の銘だそうだよ」


 目を見開き、呆気にとられていたいたマーシュさんが教えてくれた。

 「此方にも刻んであるぞ」と、もう一本も抜いて見せてくれた。


「『我が娘に我が誓いと共に』ハワード氏の想いだ。しっかり受け取ってやりなさい」


 そう言って二本目も渡してくれた。


「・・・はい・・・ありがと、ござい・・・、ます・・・!」


 ソニアさんに続いて、ハワードさんも娘と言ってくれてる……。

 これは不意打ちだ……ズルい。

 思わず胸が詰まってしまう。

 鞘に納めた二振りの剣を、ギュッと胸元で抱きしめた。


「すまないなお嬢ちゃん、感傷的にさせちまったか?少し休んでいてくれ、落ち着いてからで良い、本来の用向きを済ませよう」


 瞑目して呼吸を整え、ハワードパパの暖か味だけ残して気持ちを落ち着ける。


「あ、・・・すみません、もう・・・大丈夫、です。何を、するです、か?」


 マーシュさんは、わたしが即座にセルフコントロールを行ったのを見て「ほぉ」と感心された様だ。


「なに、難しい事じゃない。その剣に、お嬢ちゃんの魔力を籠めてくれれば良いだけだ。武器に魔力を籠めるのはやった事あるんだろ?」

「はい、どの位、籠めれば、良いです、か?」

「ん?そりゃ籠められるだけ籠めてくれて構わないぞ?」

「分りました・・・、始め、ます」


 この剣が、どの位の魔力許容量があるのか分らないので、様子を見る様に少しずつ籠めてみる。


 ん?最初に籠める時、ちょっと抵抗があったかな?

 でも直ぐにくだが広がる様に、少しずつ抵抗が減って行った。


 恐る恐る入れて行ったから、少し時間が掛ったかもしれない。

 1分程流し込んで、剣が魔力で大体一杯になったって感じ。


 ふむ、攻撃力的にはゼロランクの中位。ハワードさんのロングソードと同程度だ。

 けど、魔法力はゼロランクの上位に近い?

 どちらかと言えば、これは魔法武器と云った位置付けかな?


「な、な、な、なんだと……!?」


 マーシュさんが何だか目を剥いている……ん?


「ちょ、ちょっとそのまま待っててくれ!そのまま維持して待ってられるか?!」

「あ、はい、大丈夫です、よ?」


 マーシュさんが、慌てた様にカウンターの中へ入って行き、棚の中から何かの道具を取出し戻って来た。


「ちょっとだけそのままで居てくれ」


 と、わたしの握っている柄の柄頭に、何かを取り付けて行く。

 そのまま、その道具の何かを調節している様だ。


「驚いたな、何だこりゃ?!計測器の測定値を超えてるのか?この剣に此処までの魔力許容量があったか?!!」


 マーシュさんはわたしから剣を受け取ると……。


「暫くそのまま待っててくれ、直ぐに『魔焼き』入れちまう!」


 と言って、慌てる様に工房内へ入って行った。


「ごめんね、今お茶を入れるわね」


 マリーベルさんがそう言って、カウンターの中から出てきた。


「でも凄いのね、向こうから見てても判ったわ。あんなに剣に魔力が籠められるトコロ、初めて見たわよ」


 カウンターのこちら側に在る、応接用のソファーに向かい合って座りながら、マリーベルさんがお茶お啜りながら説明してくれた。


 あの剣には魔力を籠めやすい様に、ミスリル銀を織り込んであるのだそうだ。

 ミスリルの合金で強度を保たせるには、かなりの技術が必要で、それはもう秘伝の域にあるらしい。


 剣に魔力が充填されている様は、ドワーフであるお二人にはしっかり視認出来ていたそうだ。

 それは、鍛冶師ならば誰でも、鉄の焼けた色を見て鉄の状態を把握できるのと同じで、魔力を扱う武器を打つドワーフであれば、持っていて当然の眼なのだそうだ。


 今、マシューさんがされているのは『魔焼き』と言って、剣を使う者の魔力を剣に定着させて、剣の中のミスリルに使用者の魔力を記憶させる、と云う物らしい。

 それによってその使用者がその武器を使う時に、効率的に魔法を使用する事が出来る様になるのだそうだ。


 剣に織り交ぜた『生』のミスリルに使用者が魔力を籠めて、その状態で『魔力焼き』という技法を使うそうなのだ。

 が、それもやっぱり『秘伝』なんだって!


 で、今わたしが籠めた魔力は、マシューさんが想定していたよりも、かなり大量に充填されてしまったそうだ。

 見ていた感じ、今にも溢れ出しそうでおっかなかった。とマリーベルさんは笑いながら仰った。

 それでマーシュさんは、慌てて工房へ剣を持って行ったそうだ。


 それは申し訳のない事をしてしまいました。と頭を下げたら、「そんな気にする事では無いから大丈夫よ」と笑って答えて下さった。


 そんな話をしていたら、マーシュさんが奥の工房から戻って来た。


「もう一度、魔力を籠めてやって貰えないか?」


 と剣を差し出して来られたので、二本とも受け取り鞘から引き抜き、軽く握って両側に垂らす様に持ち下げた。

 そのまま、両方の剣に魔力を流し込んでみる。


 あ?さっきみたいな抵抗も無くサラリと入って行くぞ。

 それに入る魔力も増えてる感じ?

 これなら、Dランクの下位武器並みの魔法攻撃値になってるかも。


「なんて魔力キャパだよ……、何時ワシはハイグレード品を造ってたんだ?!!」


 マーシュさんが最早呆れた様に此方を見ている。

 ちょと汗が垂れた……。

 ホントは、『氣』の注入もやって見たかったんだけど……、此処では止めておいた方が良さげかな?



 その後、剣と一緒にソードベルトも装着してみた。

 腰回りの長さに合わせた後は、バックルをハメ込むだけなので着脱は楽だ。


 後ろの腰の部位にオーリングが付いていて、そこにからベルトが四つ、エックス型に伸びている。

 上の二本は腰回りに廻すベルト。

 下の二本は其々ソードホルスターが付いていて、剣を鞘ごと固定できる。

 このホルスターの位置や向きが、結構自由にできるので使い勝手は良い。


 ソードベルトを装着して、そのまま剣を抜いては振り、鞘に戻すという動きを何度かやって使い心地を確かめた。

 ウン!何かカッコ気持ちいい!!


「……ふむ、そのヒラヒラしたスカートで、剣を腰に吊って振り回すってのは……、どうなんだ?ちっとチグハグしとりゃせんか?」

「・・・え?」


 マーシュさんの評価に、ちょっと汗が出る?

 ハシタナイって事なのかしら?!なのかしら?!!


「もう!父さん頭硬いよ!そのミスマッチが格好良いじゃない!中々に可愛いよ、お嬢さん!」


 よかったー!マリーベルさんには高評価だ。

 マーシュさんは「そうか?」と納得しなさげだったけど、わたしとマリーベルさんは目を合わせて笑い合った。


――――――――――――――――――――

次回「アムカムの昼下がり」

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