第44話紅の殲滅者

 はじめ、アンデッドの集団と聞いていたから、居るのはスケルトンやゾンビばかりなのだと思っていた。

 アムカムハウスで見せられた映像にも、映っていたのはその類だったから、エルダーリッチとかが率いているのかと勝手に思ってた。


 でも、奴等がわたしの探索範囲に入った時、何体ものヴァンパイアを捉えた事で、そうではない事が分った。



 最初に見つけたのは白いヴァンパイアだった。

 しかも、わたしが知っている人を含め、3人もの方が、そいつらに囲まれ瀕死状態だ。


 視認した白いヴァンパイア、……レッサーヴァンパイアは全部で8体。

 どれも白いメイドのような服装なくせに、四肢をつき獣の様な四つん這いで、耳元まで裂けた口から赤く長い舌を伸ばして、クスクスと嗤いながら倒れ伏した人の血を舐め取っていた。

 ああやって、犠牲者がギリギリ死なない状態を保ち、生き血を啜っているのだ!

 ホンッっっトに悍ましい連中だ!!


 レッサーヴァンパイアは、わたしに気が付くと牙を剥き出して、シャー!シャー!と獣の様な威嚇音を出しながら、コチラに飛びかかろうとしていたが、そんな攻撃を一々待ってやる程コッチも暇では無い! 


 ダラリと垂らした左手に『氣』を集める。

 濡れた手を下に降ろして、水滴が指先に集まるイメージだ。

 そのまま左手を、そいつらに向け軽く振り切った。

 滴が指先から飛び散る様に、レッサーヴァンパイアに向け、無数の細かい『氣』が高速で穿たれる。

 ヴァンパイア達は、シャボン玉が弾け散る様に、白い粒子になって大気に溶け消えて行った。


 綺麗に汚物が片付いて、これで木の間に居るのは、傷を負った3人の騎士団の方達だけだ。

 皆一様に大量に出血しているからだろう、肌に血の気が無い。でもまだ生きておられる! 


 そしてそう!そこに居られたのはジモンさんだ!

 マグリットさん、ライサさんと村で一緒に過ごしたジモンさんだ!!

 そのジモンさんが酷い傷を負っている。肩口が大きく裂け、そこからの出血が酷い。肺も損傷していそうだ。


《チェーン・リジェネレーション》

 ターゲットとの間を生命力のラインで繋いで、その線上に居る者全てのHPを修復し、少しの間、持続的に生命力を回復し続ける治癒スキルだ。


 レグレスで走り抜きながら、速攻でジモンさんにこの回復魔法を放った。

 この魔法はMPまでは回復しないから、まだ動けないだろうけど、皆さん傷は完治しているので、このまま先に行かせて頂きますね?


 取り敢えずこの時に、わたしの中でヴァンパイアに対する殲滅優先度が、更に一つ上がった事は間違いない。



 ジモンさん達を越えて行くと、アンデッドがボチボチと現れた。

 皆んな骨だけどね!生意気に甲冑なんぞを着けてるのも居る。

 それを目に付く端から潰す!

 レグレスの蹄で、牙で貫き砕いて進んだ。

 離れているヤツは、微量の『氣』を乗せたわたしの拳圧で吹き飛ばし粉砕した。


 すると直ぐに、骨共がワラワラと集まっている場所に出会した。


 ドームの天井部分を切り飛ばした様な、円形に配置された壁に、ウゾウゾと群がってる。

 うわぁ、なんか虫の群体みたいで気持ちワルっ!!

 壁の高さは所々崩れているけど、3メートルから5メートルってとこかな?


 重なり合ったアンデッドが、時々溢れる様に壁の内側に落ちてるけど、それを中で迎撃している様だ。

 肉の付いたゾンビっぽいのも結構居るから、もう、ゾンビ映画みたいで怖気おぞけがしゅる!

 ぅあ!豚だ!豚ゾンビまで居りゅぅっ!!

 怖気おぞけが5割増しだよコリはっっ!!!


 キモいからとっとと、一掃する!


 右で白銀剣シルバーソードを逆手で抜きながら、刀身に『氣』を乗せる。

 そのままレグレスの進行方向を少し左に向け、右側面を壁に向けたら剣を一気に振り、『氣』を載せた衝撃波を放つ。


 豪ッ!!と言う撃風に撒き散らかされる様に、アンデッド共が吹き飛ぶ。

 豚のゾンビとかは、腐肉がその骨格共々飛び散り原子に返り、骨なアンデッド共は、そのまま光の粒子になって消えて行く。


 よし!これで見える範囲のアンデッドは一掃した!三桁近くは片付いたかな?壁の向こう側にはまだまだ居るけど、取り敢えず進路の邪魔は取り除いた!


 レグレスをそのまま真正面に突っ走らせて、壁を飛び越えさせる。

 レグレスは勢いを付け、まるで飛ぶ様に空に向け駆け上がった。

 物のついでで、上空から見える範囲のアンデッドも、左の剣の衝撃波で吹き飛ばした。

 なんだか北の門(?)の辺りを守ってる騎士さん達が、突破されそうに見えたからソコを中心に薙ぎ払った。

 デッカイのも何体か居たけど、一緒に飛び散ったから暫くは安心だと思う。


 宙を飛んでいる最中、見つけた!ハワードパパだ!

 この壁の中の、ほぼ中央にいらっしゃった!!


「ハワードパパ!!」


 レグレスがまだ滞空してる途中にその背から離れ、真っ直ぐハワードパパに向かい飛び降り、そのまま、そのお身体に縋り付いた。


「パパ!パパ!ハワードパパ!!」


 横たわるハワードパパの脇に膝を付き、その胸元に手を当て、お名前をお呼びする。

 体中の彼方此方に酷い傷を負っていて、顔に全く血の気が無い!

 そのお顔も、何かで引き摺られた跡の様に酷い状態になっている。

 どうしてこんな酷い事に?!!!

 思わず視界が涙で歪んでしまう。

 でも、目蓋が僅かに動く。わたしの声に応えてくださっているんだ!


「今、直ぐに、お、御助けします……、から!」


 思わず涙声になってしまったけれど、お声をかけて直ぐ、回復魔法を使う。


《ヴァイタリティ・リリース》

 一気に、自分の周りの味方のHP・MPを全回復させる、神化回復職『グレートワイズマン』のスキルだ。

 すぐ傍に、ジルベルトさんとコンラッドさんも、包帯に包まれ横になっていたので、これで一緒に治す!


 わたしを中心に、光の波紋が壁の中一杯に広がった。

 ハワードパパは勿論、ジルベルトさんやコンラッドさんも、そして壁の中に居る人全てが光の柱に包まれた。

 これで大丈夫だ!お顔の傷も見る見る消え、血色も戻っている。

 そして、ハワードパパの目蓋が、ゆっくりと上がって行った。


「パパ!ハワードパパ!よかった……」

「…………スー……ジィ?……スージィ……なのか……ね?」


 ハワードパパが、目蓋を重そうにやっと開けた後、目を細め、わたしに視線を向けると、信じられぬと言いたげにそう仰った。



「…………夢……では……幻では……ないのか?」

「わたし、です!スージィです!本物、です!!」


 ハワードパパは、力なく持ち上げた手でわたしの頬に触れ、そんな事を呟かれた。

 わたしはその手を押さえ、本物だと告げる。

 あぁ、あの力強かったお手が、こんなに弱々しいく!

 また目頭がジワリと熱くなった。


 ……でもおかしい。何か変だ。

 『ヴァイタリティ・リリース』は体力だけで無く、魔力も回復させる。

 たとえマナが消耗していても、それも回復する。

 なのに何故、ハワードパパは未だこんなにも衰弱しているのだ?


 改めて、ハワードパパの体力の状態を確認してみた。

 やはりおかしい。体力の上限が微妙に変動している。


 『ヴァイタリティ・リリース』は、使用すると体力を回復した後も、短時間持続的にその回復効果が続く。

 上限が変動していると云う事は、減った体力をスキルが回復し続けていると云う事だ。

 傷は塞がっているのに、体力が減っている?

 おまけに魔力まで減り続けている!

 何故?!


「……まさか、此処で…………スージィに会えるとは……、思っても……いなかったよ……」

「わたしは、居ます!ここに居ます、から!」

「……我が友の眠る地で、我が娘に看取られる……か、…………我が生涯は……なんと満たされた……最期で、あろうか……」

「そんな!……嫌です!最期だ、なんて!仰らないで、下さい!」


 ハワードパパは、そう仰った後、目を閉じそのまま意識を失った。


「パパ?ハワードパパ!……助けます!必ず、わたしがお助けします、から!」


 意識の無いハワードパパの手を握り、思わず声を上げていた。

 気付けば、持続回復の効果が切れていた。

 ハワードパパの体力が、どんどん減って行くのが見て取れる。コンラッドさん、ジルベルトさんもだ!


 直ぐに回復魔法を使う。

《フィールド・グレーターヒール》

 選択した相手を中心に、範囲で回復を行う治癒魔法。

 これも、持続回復効果がある魔法だ。


 広がる治癒の光が、コンラッドさん、ジルベルトさんも包んで行く。


 減っていた体力は全快したけれど、やはりまだ上限が変動してる。

 これは毒か何かの状態異常なのか?!


 試しに『グレーター・ピューリファイ』を唱えてみた。

 これは、毒は勿論、麻痺や石化など、あらゆる物理的な異常状態を解除する、高位の浄化魔法だ。

 清浄な光が、ハワードパパを包んで立ち昇る。


 でもダメだ!まだ体力の上限の変動は治らない!

 何?!一体何が影響を及ぼしていると云うの?!


「ふむ、やはりコレは呪いの類いだと思うね」


 突然、後ろから声をかけられた。

 振り向くとそこには、長い綺麗な金髪で、耳の長いエルフの方がいらっしゃった。

 確か調査団に同行されている、魔導力学の先生だったかな?

 その後ろに居るハーフエルフのお姉さんも、もの凄い勢いで頷いていらっしゃる。


 呪い?それなら、と『ブライト・オブ・パージ』を使用した。

 これも『グレートワイズマン』のスキルで、呪いは勿論、全てのデバフを解除する事が出来る、最上位の魔法だ。

 ハワードパパの周りに、幾つもの光の輪が現れ、回転しながら収束し、最期にガラスが割れる様な音を立てて砕けて消えた。


 でもやっぱりダメだ、変わらない!呪いって言ったジャン?!!

 溢れて来た涙が飛び散るのも構わず、もう一度振り返って先生を見た。


「ふむ、恐らくだけどね。ずっと深い霊的な部位に影響を与えている様に感じるね。さらに深みに目を向け淵源えんげんに至らなければ見える物では無いと思うね」


 先生はそう早口で仰った。

 …………もっと深い?霊的な?……目を向ける?


 改めてハワードパパに視線を向ける。

 肉体の視覚で見るのでは無く、もっと自分の奥から視野を広げて意識で見る様に……。

 そう、いつも読み取っているエーテル体の情報では無く、エーテル体そのものを意識の視野で捉えるんだ。もっと深く、広く……。


 そうやって、ハワードパパの霊質を捉えて行くと、そこに違和感がある事に気が付いた。


 ハワードパパ達のエーテル体が薄いのだ。

 何と言うか……ほぐれてる?


 その、解れたエーテルが身体から外へ、糸の様に長くどこかへ続いてるのだ。

 まるでセーターの端が解れて、糸が一本だけ遠くに伸びて、解れ続けているかの様に……。


 それは三人共一緒だった。


 三人から伸びている糸は、揃って同じ方向に向かっている。

 そう、ここから北へ……。
















―――――そうか!そこかっっ!!!―――――











 わたしが、糸の様に続くエーテルの行き着く先を見つけたのとほぼ同時に、南の壁の一部が崩れた。


 壁の中の人達は色めき立ったみたいだけど、わたしには見えていた、アリア達だ。

 アリア達が追い付いて来たのだ。


 ハワードパパの治療を始めて、もう30分近く経っているものね。


 アリア達は、壁が脆くなっていた部分を崩し、そのまま中に入って来た。

 南側にはもうアンデッドは居ないしね。


 時間も惜しいので、アリア達を出迎える前に、わたしはやるべき事を済ませる事にする。


《プレイオブジニー・ドラム》

 体力、持久力を5割上昇させる。

 続けて『リラッシングコンチェルト』でハワードパパ達の、HP、M Pを更に上乗せで上昇させ、回復速度も上げた。


 更に、空に向かい手を上げ指を鳴らす。

《サモン・ユグドラシル》

 上空から巨大な種が落ちて来て、一瞬で世界樹の若木が育つ。

 この木蔭に居れば、体力と魔力の回復速度が上がるのだ。


《サモン・ライトフェアリー》

 呼び出した妖精が、指定した相手のHPを一定間隔で回復をし続ける。

 召喚した妖精が、直ぐにハワードパパを回復し始めた。

 よし!これで暫くは安心だ。


「うおぉお?おぃぃい…………」


 アリアが何だか素っ頓狂な声上げてるな?

 ま、いいか。取り敢えず近くに来たアンナメリーにお願いしておこう。


「アンナメリー……。ハワードパパを、お願い出来ます、か?」

「畏まりました。……お嬢様は如何なさいますか?」

「元を、取り除きに行き、ます」


 わたしが北に視線を向けて一言告げると、アンナメリーは静かに微笑んだ。


「旦那様の事は、このわたくしにお任せ下さい。お嬢様は、どうかご存分にそのお力をお奮い下さいませ」


 そして深々と頭を下げながら、そう言ってくれた。

 わたしは小さく頷くと、アンナメリーから少し離れ、近くに積んであった武器の一つに手を伸ばした。


「お借りします、ね?」

「……ぁ、あ?あ!はい!」


 近くに、整備主任のフレッドさんが居たので、一言お断りを入れて槍を一本手に取った。

 ここに置いてあるのは、前線で戦う騎士様達にお渡しする為に集めてある、予備の武器郡だそうな。


 手に取った槍を軽く振ってみた。長さは2メートルくらいかな?結構軽い。

 身体に纒わす様に廻すと、ギュルンと風を切って良い感じだ。

 強さは、Dの下位ほどだね。

 まあ、このくらいで丁度いいだろう。


 わたしは槍を持ち、北を向いたまま首を巡らせ、アンナメリーに「頼みます」と頷き、そのままハワードパパに視線を向け「行ってきます」と小さく呟いた。

 とにかく時間が惜しい。一二歩助走を付けその場で地を蹴り飛び上がり、壁の外側へと急いだ。


 飛び上がる勢いが、少し強かったかもしれない。

 ドン!と云う衝撃が広がった気がする。

 風圧で外套マントがはだけ、フードも外れて纏めていた髪も解けた。

 でも気にしている場合では無い。


 バタバタと外套マントが風に巻かれて音を立てる。

 わたしの身体は、壁の周りに自生する高さ15~6メートルほどの木々を越えて上昇していた。

 そして、そこから目標である物を視認した。


 ココからの距離は1キロも無い。精々700~800メートルってトコロか?

 そこに、北へ行く道を塞ぐ様に黒い壁が東西に伸びている。


 あれだ、あれが『黒岩』だ。


 横に長い『エアーズロック』みたいな?

 まあエアーズロックの実物見た事無いけどさっ!


 黒岩を目視して直ぐ、木々を越えて昇ったわたしの身体は、重力に引かれ地上に向かう。

 下降しながら周りを見れば、散り飛ばしたはずのアンデッドがまた集まり始めていた。


 その中には幾つもヴァンパイアも混ざっているな……。

 ウゾウゾと居る白いレッサーヴァンパイアの他に、エルダーヴァンパイアも何体か居る。

 けど、今のアリア達の敵には成り様が無い。

 進路に居るのだけ排除で良いか。


 地上に足が付いたのと同時に、100メートル程先にいるヴァンパイアに向け地を蹴った。

 今度は周りに人は居ないから、地を蹴るのに遠慮なんかしない。

 蹴った地面が砕けるのと同時に、わたしの身体は音の壁を突き破り、圧縮した空気を抜ける事で一瞬生まれる白い雲を突き抜けて、0.3秒でソイツに迫りそのまま蹴り飛ばした。

 青白い肌をしたソイツは一瞬驚いたような顔してたけど、次の瞬間やっぱりシャボン玉みたいに爆ぜ、光の粒子になって消えて行った。


 ワザワザ相手にする必要無かったかもだけど、ソイツ見た瞬間なんかムカッとしたので取敢えず蹴った!


 再び地上に足が付く前に、手に持っている槍に微量に『氣』を籠めた。

 そして、慎重に狙いを定め、着地と同時に投げ放つ。


 十分に気を付けなければ、組伏されているあの方まで傷付けてしまう。

 加減を間違えない様、ギリギリ掠める様に投擲すると同時に走り出す。


 投擲した槍が狙い撃つ地点を中心に見立て、扇を描く様に左方向へ大きく回る。

 そのまま左の白銀剣シルバーソードを抜き放ち、木々の間を縫う様に、投げた槍よりも速く走り抜きながら、周りに居るアンデッドを蹴散らし消し飛ばす。


 この辺りの樹木は幹は太いけど、結構疎らに生えているから、そんなに細かく蛇行せずに盛大にアンデッド共を吹き飛ばせた。

 槍は、突き進む射線上に居たアンデッドもついでに粉砕しながら目標物ターゲットに到達し、ソコに居た標的を吹き飛ばす。

 槍はそのまま飛び抜けようとするので、わたしはその前に回り込み、槍を右手で受け止めた。


 槍を受け止めると、今さっきその槍に吹き飛ばされたヴァンパイアが、ちょっとばかりわたしの前の方を転がり吹き飛んで行く。

 槍がソイツの少し側面を掠める様にして吹き飛ばしたから、槍の射線上よりも幾分ずれて吹き飛んでるのだろう。

 纏っている黒いドレスみたいな布切れがが引き千切られて、頭部を吹き飛ばされたエルダーヴァンパイアが、その身体だけドカンゴロンと縦に横に盛大に転がりながら飛んでった。

 ……アイツ、ドレスしか身に着けて無いのか?下に何にも着けていない??

 ドレスが捲れ上がってて、色んなモノが掘り出されているけど……ま、どうでもいっか!

 それよりもカイル様だ!ヴァンパイアに抑え込まれていたカイル様の体力は、もう殆ど無い!


 急いで近付くと、大地に倒れているお姿がチラリと見えたので、直ぐに回復魔法を放った。


《ブライトヒール》

 一瞬で体力魔力を全回復させる、単体用回復魔法だ。


 危ない所だったけど、これでもう大丈夫だ。

 そう胸を撫で下ろしながら更に近付き、そのお姿を改めて確認した時……!


「はにゅびゅっ?!!!」


 全力で顔を背けて視線を外した。猛烈な勢いで顔面に血流が上がっているのが分かりゅ!!

 なななななんて格好してんにょっ?!カイル様っっっ!!!

 にゃんでそんにゃとこ肌蹴てモロ出…………!!

 ゲフンげふんガフン!!

 たたたた確かに嘗ては付いていた馴染みのブツの記憶はあるががが!!今は乙女の身!

 そそそそんなもの見て良いモノじゃにゃいいぃぃっっ!!?!


 とりあえず落ちている枝を拾って、それでカイル様の身体の下に敷かれているマントの端を引っ掛けて、ブツを直視しない様にしながらマントをバサッと下半身に被せて隠した!!


 その直後、傷の癒えたカイル様が意識を取り戻し、いきなり起き上がろうとしたので、慌てて魔法でソッコー眠らせた!!

 そのまま起き上がって、折角被せたマントがズレ落ちたら、どどどどどうするのさっっ?!!


 プシュルルルゥゥ~~っと、本来の物とはまた別種の緊張感が抜けて行く……。



 気付けば、さっき吹き飛ばしたヴァンパイアが、起き上がってコッチに来ていた。

 カイル様に影響出ない様、加減したからな……。頭吹き飛ばしたのにもう新しいの生えてるし、ホントしぶといわぁ。

 でも、新しい顔は爬虫類っぽいな。蛇女かっ?!


「お前か!お前の仕業かっ?!許さんぞ小娘!許しませんわよっ!!跡形も無く消し飛ばして差し上げますわ!!!」


 いきなりぎゃあギャア喚き始めた。

 やかましいなぁ……。ヴァンパイアって、皆んなこう云ううるさいモンなのかな?

 蛇女はそのまま手を頭上に掲げ、上に向けた掌に魔力を収束し始めた。

 それは直ぐに、高速で回転する炎になった。

 炎は炎弾となり、幾つも連続でコチラに撃ち出されて来た。


 わたしはその炎弾に向け、突き出す様に『氣』を籠めた左拳を向ける。

 そして、バッ!と五指を弾く様に勢い良く開き、纏った『氣』を前方に飛ばす。

 向かって来た幾つもの炎弾は、吹き消したマッチの火の様に一瞬で全て立ち消えた。


「ケルム・エイゴ・スペロ・エウデ。アムカムに連なるクラウドの娘スージィ・クラウドが求め、大いなる火の導き手サラマンデルに訴える。その焔を以って我が敵を討ち払い賜え《ファイア・ブレッド》」


 開いた掌を向けたまま、蛇女に向け祝詞を唱え魔法を放つ。

 蛇女は、わたしの掌に収束する魔力に驚いたのか、一瞬目を見開いてたじろいだけど、もう遅い!撃ち出した『ファイア・ブレッド』は豪っ!!と唸りを立て、一瞬で蛇女を蒸発させ、辺りの木々と地面を削りながら一本の太い道を作り上げた。

 遠くの方で、何かを打ち付けた様な響きが伝わって来た……。


 ………………くぁ、ヤリ過ぎ……た?

 いあ!誰も居ないからセーフだよね?セーフ!!

 うん!近道が出来たと思えば問題無い!問題無いよ?!



 と云う訳で、このまま出来た道を進んでしまおうかと思ったんだけど、カイル様をこの状態のままで放置するのは余りにも不憫!

 なので護衛を置いていく事にする。


《サモン・キャットザキャット》

 初期魔法職の召喚スキルで、呼び出した召喚獣が術者を護り、回復までしてくれる。


 地上に魔法陣が光り、そこから三頭身くらいのでっかい頭で、人の身長程のモッコモコの巨大ネコが二本足で立ち上がって来た。

 ニャンニャンと、挨拶する様に鳴いてくる。

 うい奴め!


 足にはでっかい革ブーツを履き、同じ色の革のチョッキを着て、頭には探検家みたいなゴーグルを乗せている。

 そして、手がとっても大きい。


「よし!ニャンタロ隊員には、カイル様の護衛を命じる!」


 ニャン!と勢いよく敬礼をして、それに答えるキャット。

 するとそのまま、トットットッと北の方へと走り出した。

 そして、木々の間から現れたアンデッドに向かい、巨大肉球パンチを叩き込む!

 華麗なジャブを当てられたアンデッドは、破裂でもしたかのように吹き飛び砕け、身に着けていた甲冑共々、光の粒子になり一瞬で木々の間に消えて行った。


 うむ!全く問題無いね!

 戦闘力の差は圧倒的だ。その辺にまだアンデッドは散らばっているけど、キャットが居れば何の心配も無い。

 キャットも腕を胸の前でクロスしてからそれを力強く開いて『押忍!』とでも言う様にして ニャニャン! とか言っておる!

 うみゅぅ!可愛いじゃにゃいか!こいつめーー!!


 ついモフりたい衝動に駆られたけど、今はそんな場合では無い!

 一刻も早く事を済まさねばならないのだ!

 事が終わったら思う存分モフろう!!モフり捲ろう!!!


 この近辺のアンデッドは、これで問題無い。

 ココからチョット離れたトコロに、エルダーヴァンパイアがまだ一体居るけど…………、うん、アリアが向かっているな。なら大丈夫だ!


 わたしはキャットにその場を任せ、直ぐに目標に向かって走り始めた。


 目指すは黒岩。

 そこからワラワラと溢れる様にアンデッドが沸いているポイントに向かい、地上を飛ぶ様に突き進む。


 行く手を阻むアンデッド共は、槍で軽く吹き飛ばす。

 槍の一振りで十数体吹き飛ぶ骨は、最早只の積み上げた枯れ枝の山だ。


 抹消対象はもう目の前だ!直ぐに終わらせてやる!!


――――――――――――――――――――

次回「絶望を齎す者」

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