96話ヘクサゴムの酒場

 宿屋で食事が出来ると教えてもらった場所は、お世辞にも小綺麗とは言い難いお店だった。

 またしても場末の酒場だよねコレ!

 最近こういうトコの縁が増えてんじゃないかな?


 ま、わたしゃ別に嫌いって事は無いンだけどさ。

 ごちゃごちゃした下町の居酒屋みたいで、居心地は悪くない。という声が、遠い記憶の奥から聞こえて来る気がする。


 やっぱり、気を張らずに皆で食卓囲んだ方が、食事も美味しくなるってもんじゃない?庶民らしく!


 だけど、同時に周りからの無遠慮な視線に晒されてしまう事も、どうしようもない。

 まあ、このメンツだから目立ってしまうのは致し方無いんだけどね。


 まずクライアントであるロデリックさん。

 ずっとご機嫌な様子で、実に楽しそうに笑っておられる。

 ロデリックさんが大きな笑い声を上げるたび、周りから視線が向けられる。



 そして、今回の護衛任務のリーダーであるルドリさん。

 そのルドリさんチームのメンバーでエルフのお二人、ナミエナさんとサレイナさん。


 ルドリさんは身体が大きくシーハ〇クでダイナマイトなバディの人だから、その凹凸はえげつない。

 ある意味アリア並?いあ、メリハリ度合いはルドリさんの方が上だとスージィアイが言っている!

 その身に纏う革の軽鎧も民族衣装みたいで肌の露出はかなり多め。

 お尻なんて紐一本じゃね?

 それFUNDOSIちゃうの?!


 前部に下まで垂らした草摺りから、チロリと覗く健康的な内腿の見え方はかなり凶悪だと思う。

 突き出された大型胸部装甲も、革鎧に収まり切れず、今にも弾き飛ばしそうに見える。

 全体的に刺激は強めのお姿だと思うわけです!



 サレイナさんは魔法職だけあってローブを着用しているが、ローブ横のスリットが矢鱈深くて歩くたびに腰の付近まで開いてその白いおみ足を衆目に見せ付ける!

 椅子に座っていると、空いたスリットから覗く腰までのライン……。

 その見え方はひょっとしてHAITENAIンじゃないの?!

 胸元は…………あぁ、確かに細やかなモノではあるが、開きは大きいので角度によっては危険……キケン……かな?かなぁ?


 ナミエナさんもアーマー装備なのに、何故にそんなに肌率が高いのか?

 健康的な白い腿はニョキッと飛び出し人目を引いている。金属の草摺りがその腰回りに付いているけど、その中はなんで際どいハイレグをお召しに?!その切れ込みってば軽く腰の上まで行ってますよね?

 上半身は……、結構厳ついけど胸元が大きく開いた金属装甲は……まあ、収まりは良い。


 ココは、ナミエナさんもサレイナさんも余り触れてはイケナイ領域なのかもしれない。

 そう思ってそっとお二人から視線を逸らすと、何故かそこにいるビビと目が合った。

 再びソッと、何も見なかったという様に視線の先を彷徨わせる。


 ひぃぃいいぃっ!

 ビビが凄い目で見て来るる!!

 何でも無いんですゴメンなさいぃぃ!ンにゅうはステータスだ!とか言ってませんン!!


 ま、まあ、要するにルドリさんチームは実力もさる事ながら、十分人目を引く方達だと言いたいワケで。

 ロデリックさんの注目度も必然的に上がる事になる……と。


「ちょっとお待ちよ!どう見てもアンタが一番…………、ひょっとしてこの姫さん、無自覚かい?」


 ルドリさんが驚いた様に見開いた目でコチラを見たけど、直ぐに何かを確かめる様にビビへと視線を移す。

 ビビはそれを受け、溜息を吐きながら大きく頷いている。


 ナニ?どゆ事?

 わたしが目立ってるって言いたい?

 いや!自分の造形が整っている自覚はあるよ?

 あるけど、ルドリさんのダイナマイトな存在感には及びもつかないでしょ?

 大体ミアが隣に居たら、その圧倒的な物量にわたしの存在など霞むって!

 大体にしてわたしは今変装してるんだから!

 そでしょ?!ねぇ?!


「……あぁー、なるほど。無自覚か」

「はい?」


 ルドリさんが、呆れた様に乾いた笑いを溢している。

 どゆこと?!


 そしてそのビビとミアとわたしのアムカム勢3人。

 わたしはウィッグを付けたお嬢様仕様だけどね!

 こう言っては何だが、美人さんしかいないよココには。


 そんな美人さん6人に囲まれたロデリックさんは、側から見れば正にハーレム状態!

 男どものギリギリと言う歯軋りの音が彼方此方から聞こえて来る様だよ。


 座る順は、ロデリックさんを中心にわたしがその左側に席を置く。

 わたしの左にはビビとミアが座り、ロデリックさんの右側にはルドリさんナミさんサレさんと続いて、丸テーブルを7人で囲んでいる。


「いやいや、実に見事に敵愾心が向いておりますな」


 ロデリックさんが如何にもお気楽に、そんな風に仰った。




 さて、ココで少し唐突だけれど、デケンベルの行政について説明しよう。


 デケンベルのあるナサントルカ郡には、他所の郡とは違って頭首となる家が無い。

 行政の中心は『7席』と呼ばれる郡議員に依って執り行われている。

 郡議員は、各郡の領事達と有識者によって構成されていて、この最高議席の『7席』は7年に一度、郡議員の中から選出される物だ。

 要するに選挙があるワケだね。


 そして来年はその7年目にあたり、今年は議員達により頻繁にパーティーが執り行われているのだそうだ。

 まあ、其々の繋がりや派閥の確認の為の政治的な集りって事なんだろうね。


 そんなワケで、今年行われるパーティーには、現在の『7席』。及び次代を担うであろう方達は必ず出席している。

 再選出や席の入れ替わりが、選挙の結果として出て来るからね。

 こういった場でのロビー活動は、欠かせない物なのだそうですよ。


 明後日のアニーの誕生パーティーも、そんな集まりのひとつなのだとか。

 子供の誕生パーティーを政治に利用するなんて……とか言われちゃいそうだけど、アニー自身もその辺はちゃっかり心得ていて、『パーティーが大きくなる分、お友達も沢山呼べるからそれだけ楽しめる!』なんて言う強かさも持っていたりする。さすがリリアナ叔母様の娘である。


 因みにロデリックさんは、現在の『7席』のお一人だ。

 なので明後日のパーティーには、当然出席のご予定だ。


 だが、ロデリックさんの存在を疎ましく思う者が居るのなら、是非とも欠席して欲しいと考えるだろう。

 もしかしたら、それ以上の事を目論んでいるかもしれない……。


「それでも用心深い相手なら、こんなタイミングで出かけるなんて、裏があるんじゃないかと勘繰るものだけどね!」

「末端は殆どが考え無しだな」

「流石にコッチの力までは分からないと思うよ」


 テーブルに並んだ料理を口に運びながら、ルドリさんとビビ達は、そんな会話をコソコソと交わしている。


 そんなテーブルの中心にいるロデリックさんが、ゴホンと一つ咳払いをして、テーブルに座るわたし達を見渡した。そして徐に言葉を発する。


「では、予定通り明日の朝一番で我々はリエンキャナルまで向かう。此処ヘクサゴムへ残すこの子の事をよろしく頼んだよ!」

「「おまかせ下さい!」」


 なるべく周りにも聞こえるようにと、大きな声を出すロデリックさん。

 それに負けじと、ビビとミアもまた大きな返事で頷いた。

 そして二人に「よろしく」と小さな声で呟いて見せるわたし。


 まあ、ロデリックさん言う所の「この子」と言うのは、わたしなワケなんだけど……。

 コレ大丈夫ですか?三文芝居に見えちゃいませんか?

 

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