第30話クラウド家の客人(まれびと)

「スージィお姉様!今日は修練場へいらっしゃるんでしょう?」


 今月から7段位へ進級し、高位階へ入ったヘレナ・スレイターが、スージィへ問いかけた。


「ウン、今日は、行くよ。夏休みの間、皆どれだけ強くなったか・・・楽しみ・・・、よ?」

「え?スー姉様来られるの!?ヤッター!!」


 そう歓声を上げるのは、ヴィクターの妹の一人で、ヘレナと同じ7段位のメアリー・フランクだ。

 メアリーは、そのままスージィへ抱き付いて来た。


「あ!なんでアナタはそうやって直ぐ抱き付くの!ズルいわ!」


 そう言って、ヘレナもスージィに、ひしっと抱き付く。


 スージィの入校当初は、彼女への拒否反応を示していたヘレナだったが、学期最後の手合せを経て、今では、すっかりスージィの崇拝者へと変わってしまった。


 これこそが、『強い者を尊ぶ』と言うアムカムの村人の本質なのか……。と、困った様に笑いながらも、二人に手を添えるスージィだった。


「スーちゃんが行くなら、わたしも……」

「ミアは駄目よ!アナタは下級生たちに指導しないといけないんだから!」


 コリンが腕を胸元で組んだまま、メガネをクイっと持ち上げて冷たい目でミアに告げる。


「そ、そんなのコリンもビビちゃんも居るのに……」

「アローズが卒業して、オフェンスが得意な高位階はアナタだけでしょ?私もビビもディフェンス専門だもの。特に、今期から高位のカールには、今日こそは指導してあげないと!」

「でも、でもそれじゃスーちゃんと……」

「ミア頑張って!ミアに優しく、教えて貰えれば、みんなも頑張れると思う・・・、の!」


 ミアの手を両手で包みながら、そう励ます様に言葉を掛けるスージィ。


「終わったら、一緒に帰ろう、ね?」


 と、包んでいたミアの手をギュッと握りながら、ミアの目を見詰めるスージィ。


「!スーちゃん……うン、分ったよ。頑張ってみんなに教えて来るから、待っててね?」

「ン!」


 スージィとミアは笑顔で頷き合った。

 それを眺めながら、呆れた様にベアトリスとコリンが言葉を交わす。


「ときどき保護者が逆転するわよね!」

「まあ、基本的にスーの方が精神年齢高いモノね。しょうがないわよ」

「な、何言ってるの?!スーちゃんはわたしが居ないとダメなの!ダメなのっ!」

「あーハイハイ、そーですね。じゃ行くわよ、みんな待ってるんですからね」

「ンもぉーーー!」

「じゃねスー!修練場はよろしくお願いね!また後で!」


 ベアトリスの肩口から、齧歯目もキキュっとスージィへ鳴きかける。

 手をヒラヒラと振り、三人と一匹を見送っていると、ヘレナに手を掴まれた。


「お姉様!早く行きましょう!」


 そう言われながら、修練場へ手を引かれて進んで行く。


 修練場では今、此処で一番の年長者、ロンバート・ブロウクが下級生たちの鍛練の面倒見ていた。

 本来、最上級生であるダーナと、ロンバートと同学年であるアーヴィンの姿はココには無い。

 二人は今、スージィの提案で、毎日出来るだけの時間、走り込みをやっているのだ。


 元々はスージィが夏休み前の手合せの時に、卒業生の二人に比べて、ダーナとアーヴィンの『氣』の纏いが弱い事を指摘した事に始まる。


 これは未だに二人が、魔力操作がまともに出来ていない事に由来するのだが……。


 魔力操作は、前衛職でも重要な必須技術だ。

 装備に魔力を籠める事で、装備性能を底上げし、自らに強化をも施す事が出来るからだ。

 カーラが使用した分身も、魔力操作によるものだ。



 ダーナは、今まで瞑想に対する苦手意識で、魔力操作の鍛練を避け続けて来た。

 しかし今はもう最上級生だ。

 来年に控えるデケンベルの高等校への入学は、魔力操作が出来る事が必須条件だ。

 このままでは、進学する事が出来なくなってしまう。

 もう後が無いのだ。


 アーヴィンも他人ごとでは無い。

 高位階で魔力操作が出来ないのは、この二人だけなのだから。


「そー言われてもなー。瞑想しないと先進めないだろ?瞑想してると寝ちゃうんだよなぁ……」

「そうそう!あたしも寝ちゃう!どうにもジッとしてるの苦手なんだよねー……」

「それなら、動きながら、すれば良いと思う・・・、の」

「「え?」」


 スージィの言葉に、思わず二人が揃って聞き返した。


「何も考えず、走りながら、身体の中に、意識を向ける・・・、の。体重の移動。重心の位置。身体の何処に、力が入っているか。何処の力が抜けているか。感じ取りながら、走る、です。歩きながらでも、良いの・・・、よ?」

「そんなんで、……良いのか?」


 アーヴィンが、目を丸くして聞いてくる。


「重要なのは、余計な事を、考えない事。何も考えないで、ひたすら自分の、身体の中を観察する事・・・、なの」

「何にも考えないで走るのは大得意だよ!そんなんでイイの!?よーーーし!あたしちょっと走って来る!!」

「あ!待てよダーナ!オレも行く!!」


 目から鱗だとばかりに喜び、外へ飛び出して行く二人。


「さすがねぇ、……走りながら。とか私達からは出ない発想よねぇ」

「むかし散々、歩いてたり、立ってたりしながら、身体の中へ意識向ける、トレーニングしてた、です。日常的に、意識する事が、重要なの・・・、です!」


 と言ったやり取りがあったのが、新学期初日だ。

 それから毎日、二人は走り込みを続けているのだ。



「あ、スージィ。今日はコッチなのか?」


 子供達の相手をするロンバートは、修練場へ入って来たスージィに気が付き、言葉をかけて来た。


「ン!ロンバート、お疲れ様!」


 そのロンバートに、スージィは小首を傾げながら微笑んで答える。


「あ、あぁ、は、早く着替えて来いよ。折角だから今日は俺とも一手頼む」


 スージィの笑みに当てられ、視線をずらして頬を指先で掻きながら、手合せを申し出た。


「ウン、良いよ?ちょっとだけ、待ってて・・・、ね?」

「……うん、慌てなくて……いいからな」


 スージィの更なる笑みの重ね掛けに、顔を赤らめてしまうロンバート。


 ロンバート・ブロウクは、スージィやアーヴィンと同い年だが、13歳にして身長は既に170センチを超える大柄な少年だ。

 筋肉質な腕が握るのは、武骨な戦斧。

 見た目通りのパワーファイターだ。


 肩口まである、キャロットオレンジの切りっぱなしの髪がワイルドで、鼻筋が通った掘りの深い眼元は、優しげに澄んだブルーだ。


 そんな、心優しき大男を絵に描いた様な彼が、はにかむ姿が「なんとも可愛い♪」 とか思ってしまうスージィだった。


 フフッと口元を押え、笑みを堪えるスージィを、横からヘレナが訝しげに首を傾げて見上げいた。


「あ!スー姉!!」


 練場の中で、息を荒くして倒れ込んでいたステファンが、スージィに気が付きガバリと起き上がり声を上げた。


「スー姉!コッチでやんの?ならオレと!オレとっ!!早く!早く着替えて!」

「おいおいステファン。お前今、もうダメだって言ってたばかりだろ?」

「!い、言ってないし!ぜんぜん出来るし!!スー姉!ロン嘘ついてる!オレぜんぜん平気だし!!」


 ロンバートが右手を額に当て、溜息を吐きながら……。


「……お前、スージィの事、好きすぎ……」


 と呟くと。


「ち!ちげーーしっ!!そんなんじゃ無ぇーしっ!!もういいよ!ロン!どいて!スー姉来るんだから早くどいて!!」


 ステファンが真っ赤になってロンバートに喰ってかかる。

 スージィは堪らずクスクスと笑いを漏らしてしまった。


「わかったよステファン。ちゃんと相手して、あげるよ?だから、ちょっとだけ待ってて・・・、ね?」


 スージィが、イタズラにウインクを飛ばし、小首を傾げて微笑んだ。


 ステファンは「あぐっ!」と、真っ赤になってその場で硬直してしまった。


「スージィ……からかい過ぎだ」


 そう言って、頭が痛そうに額に手を当て首を振るロンバート。


「アハハ♪ごめん、ね?」


 とテヘペロするスージィ。


「もう!スージィお姉様は私の相手をして下さるのよ!アナタたちの相手はその後ですからね!」


 ヘレナがスージィにしがみ付きながら、威嚇する様に険しい視線を周りに向けながら宣言した。

 それを受けたステファンが再起動する。


「ヘ、ヘレナなんか5秒も持たないんだから!いつだって一緒ジャン!!」

「そう言うアナタは1秒持ちませんものね?」


 ヘレナが腰に手を付き、睥睨する様にステファンに言い放つ。


「も!持つし!ぜんぜん持つし!!!」


「ね?スー姉様、早く着替えましょ?」


 メアリーに促され更衣室へと手を引かれた。

 進みながらスージィは修練場の中をサッと見回し、中に居る子供たちを確認する。


 言い争いをしているヘレナとステファンを、呆れた様に見るロンバート。


 ステファンと一緒に転がっていた、クラークとアシュトンの双子も起き出した。


 スージィに気が付いた、今期から4段位に上がったイルマ・アトリーと、ジャニス・カーロフがキャアキャアと喜んでいる。


 学校初日にレイラ、メイベルと、一緒に机を並べた二人の男子、デヴィット・ブレイクとチャールズ・ボーマントが、一つ上のフランク・ジーライトに剣の型を教わっていたが、3人とも此方を見て嬉しそうだ。


 入口には、ヘレナ達と同じく今期から高位階へ上がったベルナップ・ロングとカーラの弟アラン・エドガーラが、入学したてのベアトリスの弟、エドワード・クロキと、エヴァとヴァレット・アヴァンズの二卵性双生児の姉弟を連れてきた。

 3人ともワクワクした顔をしている。

 

 更衣室の入り口前で、昨日まで研究会に一緒に居た、3段位のフィービー・カイツと、4段位デニス・ホートリィも修練場に居る事に気が付いた。

 二人とも、走って更衣室に向かって来ている。


「あれ?二人とも、今日は、コッチ?」

「ウン、スージィおねえちゃんがコッチって聞いたからコッチ来たの!」


 とフィービーが言えば、デニスも黙って頷いた。


「そか、じゃ早く着替えよ?」


 と二人の頭を撫で、更衣室へ入って行く。「やっぱりみんな元気で可愛いなぁ」賑やかな子供たちに囲まれていると、それだけで嬉しくなってしまう。

 ささやかな幸せを感じてしまうスージィだった。





     ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 帰宅すると、厩にレグレスを連れて行く人影が見えた。


(ジルベルトさんだ。ハワードさん今日馬車使ったんだ。特に何も聞いて無かったけど、お出かけしてたのね)


 ジルベルトというのは、クラウド家の主に馬の世話や、外回りの仕事をこなす通いの使用人だ。


 齢70を超える右目にアイパッチをした隻眼の小柄な老人だが、矍鑠かくしゃくとし実に快活な人物だ。

 スージィの事を「お嬢、お嬢」と呼び、見かけると良く飴玉をくれる。


 ジルベルトもスージィの帰宅に気が付いた様なので「ただいま」と手を振ると、嬉しそうに手を振り返してきた。


 手を振りながら家の中へ入ると、リビングから話し声が聞こえる。

 ハワードとソニア以外にもう一人、聞いた事の無い声、若い男性の声だ。

 気配を探ると、力強く若々しい穏やかな気質が見て取れる。

 リビングの雰囲気はとても楽しげだ。


「・・・ただいま、帰りまし、た」


 スージィがリビングへ顔を出し、帰宅の挨拶をすると「ウム、おかえり」「おかえりなさいスージィ」「お嬢様おかえりなさいませ」と大人たちが直ぐに挨拶を返してくる。


 そしてもう一人、こちらに背を向けハワードやソニアと談笑していた若者も、スージィに気が付き、ユックリと振り向く。


「!……ラ、ラヴィ姉!なんで!?どうして?ラヴィね……あ」


 スージィを見た瞬間目を見開き立ち上がり、驚きの声を上げた。

 しかし、目の前に居る者が、今名前を呼んだ人物とは別人であると即座に気付き、目を泳がせ、気まずげに下を向いた。


「あ、あの、スージィです。はじめ・・・まし、て」

「あ……申し訳ない。はじめまして、自分はウィリアム・クラウド。君の事はお二人から聞いていた。突然、不躾で失礼した」

「・・・お気に、なさらないで下、さい」


 ハワードとソニアが、辛そうな表情でスージィを見ている。


(あ、またこの目……。お二人のこんなお顔、あんまり見たくない……な)


「えと、部屋で、着替えて、きます。失礼・・・しま、す」

「あ……」


 ウィリアムが引き留めようと口を開けかけるが、それより早くスージィは2階へと上がって行ったしまった。


「ウィル、私がお話しして来ます。貴方はハワードと此処へ居て?」

「伯母様、申し訳ありませんでした。自分の浅薄な発言が、皆様に不快な思いをさせてしまいました」


 ウィリアムが深々と二人に頭を下げる。

 ソニアが笑顔で「大丈夫よ」と告げリビングを出て行った。

 ハワードがその後を継ぐ様にウィリアムに話かけた。


「気に病まないでくれウィル。これは我々が臆病になっていた事が悪いのだ。本来ならもっと早くに、あの子とは話し合って居なくてはならなかった。これは丁度良い機会なのだよ」

「しかし、伯父上。私は……」

「座ってくれウィル。後はソニアに任せよう。エルローズ、お茶のお代わりを貰えないか」





     ******************************





「うにゃ~~・・・ちょっと失礼だった、かなぁ?」


 今スージィは、生地の軽い室内着に着替え、ブーツを脱ぎ、室内履きに足を突っ込んだまま、ベッドに仰向けに倒れ込んでいる。


(さっき逃げる様に退出してしまって、お客様、気を悪くしてないかな?)


 と考えて、少し落ち込んでいる。


(でも、あんなお顔を、お二人にさせたままでは居られなかったし……)


 『ラヴィ』という名前がまた出てきた。

 自分を見て、その人の事を連想させてしまうなら、取敢えず顔を引っ込めなくては、と考えて、直ぐ様2階へ上がったのだが……。


「ちょっと、素っ気なさすぎ?・・・もうちょっと、言い様あったよ、ねぇ」


 と反省していた。

 「少し時間を置いて、お二人が落ち着いた頃に下に降りる様にしよう……」と考えている所だった。


 そこへ、ドアをノックする軽い音が響いた。


(あれ?エルローズさんかな?なんだろ?急ぎの用事?)


「はーい、今、開けます」(あれ?でもこの気配?)


 そう言って、エプロンを身に付けながら扉の前まで行き、ドアノブに手をかけ、ユックリと扉を開いた。


「!ソニアさん!?」


 扉の前にはソニアが立って居た。


「どうし・・・て?!ソニアさん?・・・階段を、登って?」


 スージィが慌ててソニアに手を伸ばす。


「大丈夫よスージィ。このくらい平気だから」

「でも脚が!息切れてます!ソニアさん疲れてる!」


 ソニアは少し息が乱れ、頬も気持ち赤味を帯びていた。


「そう?それじゃ少し座らせて貰おうかしら?」

「もちろんです!」


 椅子を用意しようとしたスージィを制し、ソニアはベッドに座る事を望んだ。


 ベッドに腰を下ろしたソニアに、コップに注いだ水差しの水を手渡し、ソニアはそれでユックリ喉を潤す。

 ソニアが落ち着いた事を確認して、スージィも一心地着いた。


 ソニアはコップをスージィに返すと、自らの左側をポンポンと叩き、スージィに自分の横へ座る様に促した。


「ソニアさん、どうして・・・こん、な」

「スージィとね、少しお話がしたかったの。……駄目かしら?」


 ソニアがスージィの問いかけを制し、柔らかい眼差しで自らの希望を伝える。


「ううん、駄目じゃ・・・ない、です。わたしも、ソニアさんの、お話・・・聞き、たい」


 スージィは、ソニアの瞳中に穏やかだが確固たる意志が宿る事を見て取り、静かに頷き返した。


「本当はね、もっと早くにお話ししなくてはいけなかったの。貴女が、この家に一緒に住んでくれると決めてくれた時、ちゃんとお話しすべきだったの」

「・・・ソニアさん」



     ◇



「ワシらは怖かったのだよ。ラヴィの事を知った時、あの子はこの家を出て行ってしまうのではないか?と。ワシらから離れてしまうのではないか?……とな」

「……伯父上、彼女はそんな……、そんな薄情な事をする娘なのですか?」

「違う!そうではない。……違うのだよウィル。あの子はとても聡明で思慮深く、そして唯々優しい子なのだよ」


「それならば何故、伯父上たちを捨て行く様な事をすると?」

「恐らくあの子は、既にラヴィの事に気付いている筈なのだ」

「それは、誰かが彼女に教えたと云う事でしょうか?」

「いや、言ってはおらんはずだ。ソニアを始め、先程のお前と同じ様に、あの子を見た者が、初見でラヴィの名を口にした。そんな者が何人か居るだけだ」


「そ、それは、返す返すも申し訳ない事を……」

「気にしないでくれ。それはそのままあの子を……、ラヴィを、それだけ愛していたと云う事を示しているのだからな」

「…………」


「今までスージィからラヴィの事を訊ねられたのは、ライダー・ハッガード只一人だ。彼は、スージィの問いに答えることが出来なかった……と。不用意にラヴィの名を、スージィの前で呼んでしまった事を、家までワザワザ謝罪をしに来てくれたよ」

「……それは、……自分も、ライダーさんのお気持ちが分ります。本当に申し訳ありません」

「だから良いと言うのに、フフ。お前もライダーも実直な漢だな?騎士団に関わる者はみな、そんな物かも知れんがな、フフフ」

「い、いや、それは……、ど、どうなのでしょうか?」


「スージィは、ライダーに問うた一度だけで、他の誰にもラヴィの事は聞いていないのだよ。あの子は気付いている筈だ、ラヴィの名を口にした者が皆、辛そうにする様を」



     ◇



「……スージィは、……ラヴィの事を、知っているのでしょう?」


 ソニアの目が僅かに揺れた。

 スージィはそれに気付き、膝の上で握るソニアの手に自分の手を重ねる。


「ありがとうスージィ……。やっぱり知っているのね?」


 スージィはソニアの目を見ながら頷いた。


「多分、昔、このお家に、いらっしゃった方・・・だと思い、ます」

「どうしてそう思うの?」

「初めて・・・お家に来た、時、出してくれた・・・お洋服。下着も、小物も。同じくらいの女の子が・・・いたのかな?て、でももう何年も・・・居ない、と」

「そう……、そうね」


「ときどき、わたしを、その方と・・・見間違えて、呼ぶ方が、います。わたし・・・似てます、か?」


「フフ、そうね、身長は今の貴女と同じくらいだったかしら?赤い髪を、いつも一本の三つ編みにして背中に垂らせていたわ。目は私と同じ灰味がかったグリーンで、ときどきキラリとエメラルドみたいに光るのよ。額が広いのをあの子は気にしてたけど、私は好きだったわ。いつも元気に外を走り回ってて、男の子にも負けて無かった」


 嬉しそうに話しながら、ソニアの目に涙が溜って行く。


「ソニアさんソニアさん!泣かないで!ごめんなさい。もういいです・・・ごめんなさい、泣かないで!」

「ううん、違うの、大丈夫よ?ありがとうスージィ。悲しいんじゃないの。違うのよ?こんなに、こんなに楽しくラヴィの事が話せるなんて思って居なくて、……嬉しいの」

「・・・ソニアさん」

「だから、最後まで聞いてね?」

「・・・・・・はい」


「ラヴィは、ラヴィニア・クラウドは私達の娘。10年前に14歳で亡くなった私とハワードが愛した、たった一人の愛しい娘よ」


――――――――――――――――――――

次回「ソニア・クラウドの昔語り」

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