第29話アムカムの夏休み その2
夏休みも後半、4の
それでも、月の上旬にはみんなで海水浴にも行ったし、時間が合う時は立ち合いもやったし狩りもした。
そんな月も半ばを過ぎた頃、多分これで最後だから、村の北西にある高台へ皆でピクニックへ行きたい、とカーラが言い出した。
そこは
わたしも初めての場所なので、是非行ってみたい!とカーラの提案に乗っかった。
当然の様にミアもダーナとコリンも。しょうがないわね!とビビも。
結局やっぱり女子8人全員参加になったので、当日は神殿もお暇させて貰い、9時ごろにわたしの家に集合して、皆で出発する事になった。
距離はウチからおよそ5キロ、標高差は200メートルくらいなのかな?
それをのんびり歩いて行って、湖畔のお花畑を見ながらお昼にするのだ。
何だかスタートからワックワクしちゃって、最初から興奮気味だ。
「そう言えば、みんな揃って、ピクニックって、はじめて?・・・、なの!」
「そうだよ、スーとこうしてピクニックするのは最初で最後なんだよね」
カーラがちょっとしんみりする様な事を言い出した。
「最後じゃない!もの!また・・・する、もの!」
わたしがそんな事言わないで欲しいと否定すると。
「も~~~!スーの可愛さが止まんないーー!」
とアリシアが抱き付いて来る。
「ふみゅぎゅ」
「あーーっ!一人で抱き着くの禁止~~!」
とジェシカにも、後ろから腰回りに手を回され抱き付かれた。
「ぁひゃン!ジェ、ジェシカ!くしゅぐった・・・、い!」
そんないつもと変わらぬ安定の愛玩動物的扱いで、皆ではしゃぎながらハイキングの道中を楽しんで行った。
今日の帽子は大きめのストローハットだ。
頭周りを太く巻き、側頭部で大きなバラの様に編み広げられたリボンが陽の光で白く眩しい。
今日も髪型は、すっかりお気に入りに登録されたピッグテール。
ノースリーブで勿忘草色のワンピースは、フリルの白さと相まってとても涼しげだ。
生地も軽くスカートの丈は膝上なので、下から上がって来る高台での風には注意が必要なのだ。
一度、強い風が吹き上げて来た時は危なかった!
飛ばされない様右手で帽子を押え、もう片方の手でスカートを押えたのだけれど、巻き上がる風で太腿まで捲れ上がり、危うく中の布地が晒される所だった!
ちょっと前まで、スカート捲られパンツを見られても何とも思わなかったのに、何を今更!と思われてしまうかもしれませんが……。
えーと、何と言いますか、その……自分が『思春期の女子』であると自覚する様になってからですかね?
前も言いましたが、どんどん恥じらい的な物が、大きく育って来てるのですよ!
まるで、年相応な物に早く大きくなれ!と言わんばかりに急速にっ!
な・の・で!!今のわたしはパンツは絶対死守なのです!
スカートめくり!ダメ!ゼッタイ!!
この物語は痴漢行為やセクハラを、肯定増長するものではございませんっ!!
登りの途中で、小さな滝と沢で水に足を浸して小休止を取った。
沢の水は、強い日差しで火照った体にはとても気持ち良くて、皆で並んで座ってバシャバシャと水を蹴り上げて遊んでしまう。
蹴り上げた水が体にかかってくると、誰とはなしに始まる水のひっかけっこ!
キャーキャーと黄色い声を響かせて、水辺で無数の水滴が宙に舞い踊る。
ひとしきり遊んだ後、水辺を後にした。
高台の湖はもう直ぐだそうだ。
多少皆の服が濡れて色んなとこ透けているけど、この日差しの中を歩いていれば直ぐに乾いてしまう。
広葉樹に挟まれ、長いスパンで丸太を使った階段が作られている山道を進んで行くと、ちょっと先に木々が途切れて空間が広がっているのが見えてきた。
「ね?あそこ?あの先に、湖ある・・・、の?」
と先を指差してカーラに聞いてみた。
「そう!あそこの先にあるよ。あそこまで行けば直ぐ湖が見えて来る!」
「やったーー!・・・いそご!早く・・・行こう!ミア!ビビ!・・・、早く!!」
そう言って二人の手を掴んで、引っ張って行く。
「あ!待ってよスーちゃん!あぶな!あびない!スーちゃん速い!速いよ~~!!」
「待ちなさいってば!スー!アンタ速いんだから!速い!速いから!待ちなさいーー!!」
と制止を求める二人の手を持ち、半ば強引に引き摺って山道を登って行く。
大丈夫よ?ちゃんと転ばない様にバランス見てるもの!フフン♪
樹木の切れ目が見えた辺りから感じている。ここまで香りが漂って来ているんだもの!
木々の間を抜け、開けた空間へ出ると思わず目の前の光景に息を飲んでしまった。
一面に広がる黄色い花々は揺れそよぎ、まるで水面の様に大きく波打ちうねっている。
思わずその只中に飛び込むと、むせ返る様な花々の香りに全身が包まれた。
辺りを埋めている黄色い花は、草丈がわたしの腰の上まである。
中には顔の近くにまで伸びている物も!
一つ一つの花は小さくて、一本の茎の先にブドウの房を逆さにした様な感じで沢山の花をつけていた。
群生の中へ入り込むと、黄色の波間の只中に居るみたいになる!
そのもの……こんじきののにおりたつべし!的な絵面だと思うんですよ!!
あ!着てる物も薄目だけど青系だ!
思わず両手を広げ、黄色い群生の中を走り回ってしまった!
なんか楽しくなって、いつの間にか口元から笑い声も漏れちゃってた。
ひとしきり走り回ってから皆の元へ戻ったら、またお姉様方が悶死しそうな顔してた。どうしたんだろ?
あれ?ダーナも?ミアは……あ、これは平常運転かな?最近判ったわ。ウン。
で、1人近づいて来たコリンが。
「これは『黄金の杖』と呼ばれている花なの、消炎作用があるから傷薬として使えるし、煎じて煮詰めれば風邪薬にもなるの。だから乾燥させたハーブティーは香りも良いけど、風邪予防にもなるのよ。あとでお土産に摘んで行きましょうね」
ニコリと微笑みながら、この花について教えてくれた。
さすが物知りな優等生コリン!いつでも沈着冷静に周りを見て状況分析出来る人って頼りになるよね!
でもあれ?ちょっとミカン目がいつもより垂れ気味?
メガネ少しずり落ちてるよ?口元も何か我慢するみたいに、モゴッモゴッっとするし……ん?
そういえば、もう一人のいつも冷静な筈のビビはどうした?と目で探すとミアの横に居た。
目が合うとプイっと明後日の方を向いてしまったゾ!何故!?顔が赤かった気がしたけど……何で目を逸らすのよベア子!?解せん!!
「あぁ、今日のスーも安定の天使ぶりだわ……でも飛ばし過ぎよ!はぅぅ!」
なんか、アリシアの呟きが聞こえて来た気がする……気のせいか?
『黄金の杖』の群生している先には水面が広がっていた。
前に見た高原湖と比べると随分小さい。
でも、ホジスンの池よりは大きく、水の透明感がとにかく凄い。
水の色がエメラルドグリーンで、まるで宝石が湖底に敷き詰められているみたいだ!
湖の周りの緑地に、所々纏まって空に伸びている針葉樹。
湖畔にはココに咲いている黄色い花以外にも、白や赤紫の色とりどりの花々が咲き乱れていた。
水面には幾種類もの水鳥が漂っている。
時折、水面から跳ね上がる魚が居るので、それを狙っているのかな?
湖畔に立ち、そんな湖の様子を眺めていると、心地よい風が吹き抜けて行く。
湖面で冷やされた風に優しく頬を撫でられ、スカートの裾もフワリと広がる。
風の心地良さに身を任せていると、後ろからカーラが来た。
「スー、こっち来てご覧。ココで一番の見所だよ」
カーラに手を引かれて行くと、村方面へ視界が広がる場所に出た。
丸太で手すりが添えつけられている、展望台の様なところだ。
手すりから先は樹木が殆ど無くて、緩い勾配が下へと向かっている。
その斜面には、所々に岩が突き出てるけど、殆ど一面を青紫の芝桜の様な小さな花で埋め尽くされてた。
溜め息が漏れた。
絨毯だ。青紫色の絨毯が敷き詰められて村まで広がっている。
そんな風に見えた。
帽子を取り、胸元で押え持って眼下の景観に見入ってしまう。
ココからは村が一望できるんだ……。
初めてアムカムに来た日に見て感動した麦畑も、今は綺麗に狩り取られ枯色の縞模様が広がり、所々に麦わらロールが転がっているのが見える。
左手の方、ココから見ると東になるのかな?小さいけれど我が家が見える。
チラチラと白い物が見えるのは、今朝はエルローズさんを手伝えなかった洗濯したシーツだろう。帰ったらわたしが取り込むから待っててね。
その右手には白い建物の神殿だ。
アムカムの村役場も良く分る。
さすが元アムカム辺境伯居城!ココからでもその荘厳さが見て取れる。
スレート葺きの屋根が、黒く輝いているのが良く分る。
もっとずっと東には、ここからは見えないけど、先月皆で行った海があるのだろう。
北にはアムカムの森が広がり、その先にはデイパーラ山脈が聳えている筈・だ・が、……わたしには何も見えない!
主に自分の精神衛生上の問題で!!
「どう?いいロケーションでしょ?ワタシ、村を離れる前に、皆と一緒に此処へ来たかったんだ」
「うん!凄いよカーラ!・・・わたしも、皆と・・・来れて、良かった!」
「ありがとうスー。お別れしてもワタシ達の事忘れないでね。忘れちゃ嫌だよ?」
カーラの握っている手に力が入るのが分る。
「忘れない!忘れるワケ無い・・・モン!お別れなんて・・・いうの・・・、やだ!」
涙腺が緩む様な事を言い出すカーラの手を、両手で握り返し叫んでしまった。
すると、今度は別の手が後ろから肩を抱き、耳元で……。
「ありがとう、ボクも決して忘れないよ。可愛いボクのベイビィ」
わたしの総毛が逆立つのと、カーラのコークスクリューが減り込むのは、ほゞ同時だった。
プギュルッ!と何かが潰れる様な音を出し、『ソレ』は後方へ飛ばされて行った。
「アンタ!!どっから、……どうやって湧いたぁっ?!!」
構えを取り、鋭い目つきで『ソレ』に問いかけるカーラ。
完全に戦闘態勢に入ってる。
ソレは何事も無かった様に涼しげに、綺麗なプラチナブロンドの髪をかき上げ。
「およしよ、愛し合う僕達に距離や場所など関係ない。何処から?なんて意味が無い質問だろ?」
フッと目を伏せながらイミフな事語ってるけど、鼻血がダラダラピュッピュと出てますよ?
騒ぎを聞きつけ、直ぐに皆が集まって来た。
「ヴィクター!?どうしてここに!?」
「どう云う事!?何故アナタが此処に居るの?!」
ヴィクターは、アリシアとジェシカの問いに答える様に……。
「愛する人に逢いに行くのに、理由などいらないよ?逢えない時間が愛を育てるのだからね。リルガール」
どっかで聞いた事あるセリフな気がするが……、そんな台詞をダーナの後ろから返してきた。
ダーナの背中に密着し、左手でダーナの左手首をそっと持ち、右手を這わせる様に後ろから腰に回し……、そのままダーナの右肩に顎を乗せながら、耳にフッと息を吹きかけた。
「みぃぎゃやあぁぁぁぁっっーーーー!!」
あ、ダーナも総毛立ったのが良く分った。
直後、ダーナは何処からか取り出した棒状の物を、勢い良く振り下ろす。
それは折り畳み式の警棒の様にジャココンッ!とスライドして伸び、短槍になった!
ダーナはその短槍を素早く回し、ヴィクターの脇腹へ振り抜き叩き込んだ。
メキョバキッ!!
と何かが砕けたか折れたかした音を響かせ、ヴィクターの身体が横に『くの字』に曲がり、思い切り吹き飛ばされて行く。
そのまま横に広がるブッシュに突っ込み、その奥に在った大木が、何かが当った様な音を響かせ大きく揺れた。
「皆気を引き締めて!アレはこの位じゃ終わらない!」
ジェシカが皆に声をかけ指示を飛ばす。
「ダーナ!アレが飛んで行った北側をそのまま警戒して!カーラ!カーラはその場所で南を!アリシア!貴女は西を!コリンはダーナを!ビビはアリシア!私はカーラに!それぞれ補助と警戒を!ミア!アンタはスーから離れるな!アレの狙いは間違いなくスーだ!!!」
な、なんだか気合の入り方って言うか、緊張感とかチーム連携とかが、月頭に皆で森の浅層に狩りに行った時よりも、集中度合上がってね?
みなさん目が怖くてよ?
「なんなんだよ!イキナリこんなトコで沸くとか……、意味ワカンネェ!」
ダーナが周囲を警戒しながら呟くと……。
「まぁ本当にたまたまなんだけどね。妹たちと暫しの別れの思い出作りに此処へ訪れたら、マイハニー達が揃っているのだもの。これってもう運命だと思わないかい?ねェ?マイリルガール」
ダーナの腰を抱き寄せながら、ヴィクターが語り出した。
ダーナが驚いた顔で目を見開きヴィクターを見る。
あぁ!今ヴィクターの手がダーナのお尻を撫でた!
「いぃやぁあああああぁぁぁぁああぁぁーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
わぁ!珍しくダーナの口から女子っぽい悲鳴が出た!!
ダーナが涙目になって短槍を高速で振り抜くが、槍は虚しく空を切る。
ヴィクターは既にそこには居ない。
「ボク達に必要なのは争う事じゃない。愛し合う事だ。そうは思わないかい?マイダーリン」
ヴィクターを確認してダーナの元へ走るアリシアの腕を後から掴み、引き寄せ抱きながら、ヴィクターがどっかの愛の戦士たちみたいな事を囁く。
「アンタに必要なのは、肉体言語による剛直且つ直接的な教育的指導よ!!!」
アリシアがヴィクターの首に肘をかけ、そのまま右へ引き倒す。
と同時に外側へ脚を払い、ヴィクターの身体をグルリと右方向へ回し倒す。
しかしその身体が地に着く前に、既にヴィクターの姿は無い。
カーラが何かを察した様に、近くに立つ高い針葉樹の上へ幹や枝をクルクルと回る様にして登って行った。
地上から15メートル程の枝に乗り、油断なく地上を見回してる。
「同じ言葉を語るなら、その愛らしい唇を合わせながら、甘い愛の言葉を語ろうよ。マイスイートハート」
ヴィクターがカーラを後ろから抱き、カーラの唇に自分の口元を寄せながら更に寝言を語っていりゅ!
カーラはスルリとヴィクターの腕から逃れ、その後ろに周り込み、両腕で抱き付き拘束する。
そしてそのままスープレックスでもする様に、頭から地上へ向けて落下した!!
あぁぁ!!そ、それは忍法I綱落とし!カーラ!その技はスカートでする物ではなくってよ!!!
「アンタは大地と唇合わせてなさい!!!」
ヴィクターの頭が地上と接触する寸前、カーラはヴィクターから離脱し空中で何度か回転してから地上に着地した。
それとほゞ同時に、ヴィクターの頭は地響きを響かせて大地にぶち当たる。
しかし!地面に抉れた後を残したまま、その姿は何処にもない!
ナニこの人!?この神出鬼没と不死身さ加減!ホントに人間!?
「口付けを交わすなら、この可憐な唇に愛の甘さを教えて上げるのが、男子の務めだとは思わないかい?ボクのベイビィ」
いつの間にかヴィクターが、わたしの左頬に右手を添えて顔を近づけながらそんな事を囁いて来た。
あ……か、顔が……男の人の顔がこんな近くに、息が頬に当たる……なんで?なんで身体動かないの?
ぁぁ……吐息が鼻に触れた……思考が…止まっちゃう……。
メキョミキッバキキョッッ!!
おかしな音を響かせ、ヴィクターの顔に綺麗な脚が回転しながら減り込んだ。
そのまま彼の首も、捻られながら身体に潰れる様に埋まって行く。
アリシアの錐揉みキックが、ヴィクターの顔面に炸裂し彼を吹き飛ばす!
マジ卍キック!!
ヴィクターから解放され、息を盛大に吐き出した。
どうやら呼吸をする事を忘れていたらしい。
胸の動悸が……、心臓が、物凄い速さで脈打っている。
耳の奥に、自分の鼓動が響いているのが分る。
思わず力が抜け、膝から崩れ落ちそうになった。
「ス、スーちゃん大丈夫?!スーちゃん!!」
そこをミアに抱き留められた。
ミアが心配げにわたしの顔を覗き込み、何度も名前を呼んでくる。
何故わたしは彼の接近に気が付かなかったんだろう?普通に考えても行動意識を持っていれば、察知できない筈は無いのに……。
そう言えば……昔、後輩が言っていたっけ……。
『化け物みたいな師匠でも、不意の一撃を貰らう事があるそうですよ。まぁ子供から、だそうですが。二歳の甥っ子の振り回していた玩具が、スパコーン!と座っていた師匠の頭にヒットしたそうです。攻撃や行動する意識を持っている人ならともかく、純粋無垢で邪気の無い子供の一撃は、師匠でも察知出来なかったそうです』
もしそう云う事なら、彼の行動はやましい気持ちも邪気も何も無い、純粋無垢な行動と云う事になる……。
ナニソレ?逆にコワイんですけどっ!
欲望衝動無分別を、純粋な本能と反射でやっているようなモノなの?
ヤダ!ホントにキモコワイ!!
思わず自分の肩を抱き、ブルリと震えてしまった。
「スーちゃんそんなに怖かったの?もう大丈夫よ?大丈夫だからね?」
そう言ってミアが抱き締めて来た。
嗚呼、この温もりと柔らかく包まれる堕肉の心地良さが、わたしを落ち着かせる。
今は何も考えず、この至福の脂肪を掻き抱き埋まろう。
「ス、スーちゃん……あの、あのね、唇……触れちゃった?……の?」
思わずピクリと反応して、ミアを見上げてしまった。
「あ!ご、ごめんなさい!思い出しちゃったね?ごめんね!」
「ううん!違うの!触れて・・・ないから!されて・・・ないから大丈夫!、なの!」
「ホント?!ホントに?……良かった、ホントに良かったぁ……、スーちゃんの初めて……大丈夫だったのね?良かったぁ」
ミアはそう言って、わたしを強く抱き締めた。
わたしの後ろでは、怒りの闘気が吹き荒れているのを感じる。
お姉様方だ。
ミアと抱き合っているので直接は見えてないけど、闘気が物凄い勢いで吹出しているのが分る。
「ヴィーー・クぅーー・タぁーーーーぁっ!覚悟は……出来てるわよね!!?」
「今日と云う今日は、アタシも本気で潰すよ?……磨り潰すからね!!!」
「お!お尻まで撫でてきてっ!!その上スーにまで、あ、あ、あんな事をっ!!!」
「コリン、ビビ。二人はメアリーとシェリーを探して来て。きっとあのおバカは、妹たちの事を放り出して来てる筈だから。あ、この後の事を見せたくないから、成るべく遠回りして連れて来てね?」
ドッドンッ!ドドドンッッ!!!と凄い衝撃音が響き始めた。
強烈な打撃音、破壊音が断続的に轟き渡る。
わたしは、ミアを見つめながら考えてしまう。
男だった記憶があるとはいえ、今は少女の身体で娘心も育っている。
このまま成長して行けば、何時かは男性を異性として意識して、そういった行為をする事になるのかもしれない。
でも、今はまだまだそれはキツイ!
男を異性として受け入れるには、絶対的に時間が浅すぎだし、わたしにはハードルが高い。
十分に心の準備を整えてからじゃないと、到底無理な話だ!そんな日が来る事すら、想像ができない!
そう思うのに、思ってたのに……。それなのに、男性の顔があんなに近くに来ただけで、身体が強張るとか……。確かにヴィクターは、顔だけ見るとドキリとするくらい美形なんだけど……。
口元が近付くだけで、動悸が速くなってしまうのは、肉体が勝手に反応しているからなのだろうか?
もしかして、わたしってば迫られたら拒めない押しに弱いタイプなのか?
自分が思ってるより早く、そんな時が来ちゃう?
文字通り心の準備なんて出来ないよ?!
せめて、このミアみたいに柔らかそうな唇なら……。
こんな優しそうな口元が、わたしの唇に触れてくれれば良いのに……。
こんな……、こんな綺麗な……。
「……スーちゃん?」
ハッとした。
わたしの視線に気付いたかな?物欲しそうな顔してたかな?
居たたまれなくなってミアの胸に顔を埋め、恥ずかしさを隠そうとした。
「……ね、スーちゃん。お顔、見せて?」
イヤイヤとミアの胸に顔を埋めながら首を振る。
今、自分がどんな表情しているか判る。
こんな顔ミアに見せられない!
「ね、お願い、スーちゃん……見たいの」
ミアの手がわたしの頬を包む様に広げられ、指先がわたしのうなじをサワリと撫で上げる。
「ひあぅン!んン!」
あぁ!そんなトコロそんな触られ方したら……!
ビクピクンっと身体が跳ね上がり、顔が上ってしまった。
そのままミアに頬を包まれ、顔をミアの方に向けられてしまう。
息が上がってる、……頬も熱を持って瞳が潤んでるのが分る。
今、わたしきっと凄く、はしたない顔をしてる。
「スーちゃん……あぁ、スーちゃん!こんな可愛い顔のスーちゃん、初めて見た……」
「・・・やぁン」
恥ずかしい!
凄く恥ずかしくって顔を隠したいのに、ミアがわたしの顔を覗き込んでくる……。
羞恥で更に頬が赤らみ、胸の鼓動も大きくなる。
きっとミアの胸にも、わたしの心臓の鼓動が伝わっている。
膝から力が抜け崩れそうになり、ミアの背中に腕を回してしがみ付く。
するとミアの顔がもっと近づいて来る……。
このままだと、……ダメだ、ミアの唇からもう目が離せない。
自分の唇がわたしの意志とは関係なく、何かを期待する様に薄く開いて行く。
「スー……ちゃ……ンん」
束の間、唇に触れる柔らかい感触。
温かくって包まれるように吸い付いて来て、溶けてしまいそうになる。
でも、それはほんの一瞬で、直ぐにその感触は失われてしまう。
もっと……もっとそのままで居たいのに……。
「・・・ぁ」
唇から離れるモノが名残惜しくて、切ない声が漏れてしまう。
今わたしの目は、とても物欲しそうに離れて行くミアの唇を追っている。
そんな私の顔を両の掌で包んだミアは、とても優しげに微笑んで……。
「これがスーちゃんの……初めて、……かな?」
そう嬉しそうに聞いて来た。
「・・・ン」
恥ずかしくて目線をミアから外してしまう。
「……もしかして……嫌、だった……かな?……わたしの事、キライに……なっちゃった……かな?」
ミアがわたしの頬から手を離して、悲しそうにそんな事を言って来た。
わたしは勢い良くミアに顔を向けていた。
「ならない!
つい剥きになって否定したけど、『
しかも、好きとか言っちゃってるし!
恥ずかしすぎるぅ!!
また顔が赤くなるのが分って、顔を隠す様に下を向いてしまった。
「ありがとスーちゃん。わたしも……大好きよ」
そう言ってもう一度わたしの頬を掌で包んで、額と額、鼻先と鼻先を優しく擦り合わせ、鼻先に優しくキスをして最後にギュッと抱きしめられた。
「・・・ンぁ」
あ、もう唇にはしてくれないのかな?
思わず吐息が漏れてしまった。
物欲しそうな顔になってたかな?
ミアは今まで見た事の無い様な、嬉しそうな微笑みを浮かべていた。
その目は、初めて見るミアのその目は、酷く蠱惑的で真っ直ぐ目線を合わせられない。
自分の中の、浅ましい物を見抜かれているみたいで、居たたまれなくなる。
でも、もっと見ていたい。
見られてたい。
わたしの頬を包んでいるミアの手に、わたしも手を重ねてミアの手に頬摺りしてしまった。
ミアの目が、更に嬉しそうに細くなる。
ぁ、わたし、この目好きぃ……。
さっきまで、わたしの頭を占領してたヴィクターの事も、男性との今後の事も、どうでも良く成ってしまった。
遠くの方ではまだ、地響きが連続で響き渡ってた。
◇
この後、拘束されたヴィクターがロープでグルグル巻きの簀巻きにされ、高い木の枝に逆さミノムシで吊るされて、やっと落ち着いた。
メアリー、シェリーとも合流して、都合10人でのランチを水辺で楽しみ、ひとしきり水辺の花園で楽しんだ後、村へと戻った。
村へ帰ってからヴィクターを吊るしっぱなしだったのを思い出したが、まぁ彼だから良いっか。
と直ぐに頭からデリートした。
わたしの彼に対する認識も、やっと皆と足並みが揃った様だ。
その日の夜は、なかなか寝付けなかった。
色々な事を考え、妄想だか願望だかがグルグルと頭を廻り、いつも以上に何度も色んな事し続けてしまった。
嗚呼、わたしってば……、一体何処へ向かおうとしてるのでせうか?
◇◇◇
夏休みも残り後3日、この日カーラ達はデケンベルの高等校の寮へと向かう。
わたし達は、コープタウンの駅馬車の停車場まで見送りに行った。
カーラ、アリシア、ジェシカと順番に抱き合って別れを惜しんだ。
アローズにも握手で。ヴィクターも居たかもしれないけれど、視界に入らないのでよくワカラナイ。
出発間際にもう一度3人とお別れを言ってカーラに「じゃサヨナラね」と言われたら、急に何かが込み上げて来て「サヨナラしたくない」と勝手に口から洩れて、涙もポロポロ零れてしまった。
その後は涙で霞んで周りが見えなくて、ミアにしがみ付いてしまったから余り良く分らなかったんだけど。
3人のお姉様方も泣き出して「やっぱり行かない!」とか「スーを持って行く!」とか「離れない離さない!!」とか、ひとしきり騒動になったらしい。
それでも駅馬車は定刻通り出発して、車窓から身を乗り出し手を振るカーラ達を、此方も涙を溢れさせながら手を振り返して、お見送りを済ませた。
その日、周りの大人達により傷心になったわたしを少しでも慰めようと、一番仲の良いミアの家へのお泊りイベントが計画実施された。
確かに寂しさは癒やされ、物凄く慰められた刺激的過ぎるお泊りになった……。
どんな慰められ方したかは言えないけれど……、言える訳が無いけれど!!!
こうしてアムカムに来て最初の夏が、わたしを少しだけ成長させて過ぎて行った。
やがて月が替わり、5の
そして、新学期が始まって3日後。
その週の半ばに、彼が村へとやって来たのだ。
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