第13話アムカムの評議会

「では、現時点では問題無いと云う事か?」


 オーガスト・ダレスが低い声で聞き返した。


「はい、『チームアリア』から報告を受けて直ぐ、Aグレードを含むチームを3つ。昨日の内に哨戒に当らせていますが、現在の所、魔獣の異常発生の報告は上がっていません。『溢れ』は小康状態かと」


 書類を手にした職員の報告を聞き、執務デスクに座るオーガストは眉間の皺を深めていた。


「御頭首には申し訳ないが、今回は彼女の試練中だった事が幸いしたな……」

「いや、今回に限った事では無い……。あの子には幾度も世話になっているぞ」


 力を抜きながら発するオーガストの言葉に、サイレンス・クロキが口を挟んだ。


 ベアトリスの父であるサイレンスは、今年48になるクロキ家の現家長だ。

 娘とよく似たアンバーの瞳と大きな額、少し癖のあるとび色の髪は短く切り揃えてある。

 掘りの深い目元から覗く眼光は鋭く、深い洞察力を持つ事を伺わせる。


 今サイレンスは、アムカムハウスの村長執務室内のソファーに腰を降ろし、オーガストと共に職員からの報告に耳を傾けていた。


 オーガストは執務室のデスクの正面に立つ職員から、斜め前方のソファーで寛ぐサイレンスへと視線を巡らせる。


「そうだな、全くその通りだ。我々は彼女に、返し切れぬ借りを作っている……」

「借り……か、尤も、彼女はそうは思っていないだろうがな……」


 サイレンスがテーブルに置かれたカップを持ち、一口茶を啜りながら、独りごとの様に呟いた。


「だとしても、だ。我々は彼女に報いねばならん。嘗ての村と同じ轍を踏みはしない」


 オーガストはデスクに立てた両の手を握り合せながら、静かな口調で力強くサイレンスへ告げた。

 サイレンスはカップに口を着けながら、「無論だ」と小さく呟いた。


「それで、我らの『姫様』の儀式はどうなった?」

「はい、先程恙なく終了したと知らせが届きました」


 オーガストの問い掛けに、職員が手元の書類を確認して答えた。


「そうか………会議は10時からだが、程なく御頭首とアルフォンスは来そうだな」

「うん?まだ早いのではないか?8時を回ったばかりだぞ?」

「御頭首の娘自慢が、アルフォンス1人で収まるものか!当然此方にも鉾が向く。俺達を捕まえて話を聞かせようと、ウズウズしている御頭首の顔が目に浮かぶ様だぞ!」


 オーガストとサイレンスが、執務机の正面の壁に据え付けてある、大型のロングケースクロックに目を向けながら会話を交わす。

 細かな彫刻を施された大型の時計は、美しい細工で埋められた盤面を黄金色に輝かせ、その下で時を刻む振り子が穏やかな心音にも似たリズムを奏でていた。


「なんとも……御頭首の親バカぶりには良い加減、程度と云う物を知って欲しい物だな……」

「……サイレンス……お前がそれを言うのか?親バカの程度を知れ……と?お前が?」

「……何だ?何か可笑しな事でも言ったか?」

「……いや、なんでもない、気にするな」


 静かに口元にカップを寄せ、一口茶を口にするサイレンスを、何とも言えぬ表情で見つめていたオーガストと職員は、ユックリと目線を合わせてから諦めた様に吐息を吐いた。


 静かな執務室の中、只重厚で正確に節奏を刻む音だけが、揺蕩う空気の室内に響いていた。





     ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「えっと……アンナ……メリーさん……です、か?」


 あれ?やっぱり聞いた事あるような気もするなぁ?

 わたしは、訊ねる様にお名前を復唱してみたら……。


「アンナメリーです。お嬢様、アンナメリーとお呼び下さい」

「あ……え?え?」


 間髪入れずに返って来た!思わず一歩引いちゃったわよ!


「アンナメリーです!お嬢様」


 もう一度、ズイッと顔を近づけ繰り返された!

 大事な事なんですね?大事な事だから繰り返すんですね?アンナメリーさん!!

 そりゃお名前ですものね!大事な事ですよね?!


「この子は今まで、アムカムハウスでハウスメイドをしていたの。ホラ、収穫祭の時に、貴女の着付けを手伝ってくれていたのだけど……憶えていない?」


  ソニアママの言葉に「……あ」と声を上げた。

 そうだ思い出した、この鼻に乗せているフィンチメガネには覚えがある。

 あの時、ドレスを着る為のコルセットを締めるとか、着付けを凄く丁寧に手伝ってくれたメイドさんのお1人だ!

 そう言えば、あの時も自己紹介されてたっけ?


 思い出した!とか言う顔をしたんだろうか……、アンナメリーさんがわたしの顔を見て、もう一度ニコリと微笑みながら頷いてくれた。


「あ、そ、その節はお世話に……なりまし……」


 わたしが頭を下げようとすると、アンナメリーさんは 待って とばかりに掌を此方に向け……。


「お嬢様、お気使いは不要です。それがわたくしどもの仕事で御座います。それに何よりこれから毎日、お嬢様のお世話をさせて頂くのですから!」


 と、力強く仰った。

 え?毎日?え?何言ってるの?この人!とソニアママの方を向き目で問いかけると。


「アンナメリーはね、貴女の侍女になって貰う為に呼んだのよ。これから毎日一緒なのだから仲良くしてね?」


 と、それはそれは素敵な笑顔で仰った。


 は?!じじょぉ??

 ソニアママは何を仰っておられるのでせうか?侍女ってのはアレよ?お貴族様とか、良いトコのお嬢様とかに付いて居る人のコトでつよね?

 ビビのお家なら分るけど、わたしに侍女?無いわぁ……あり得無いわぁ……。

 貴族制度のあった頃のクラウド家なら分りもするけど……。今は貴族ないのよ?普通のお家よ?身の丈に合ってません!わたしには分不相応と云う物です!

 良いですか?わたくし、庶民ですのよ?こんなのよそ様から見たら、身の程知らずも甚だしい、恥ずかしおバカ娘になってしまいますですよ?なしてわたしに侍女ですの?!


 イミガワカラナイ!


「あのね、スージィ?そんなに難しく考えなくていいのよ?」


 わたしがこの予期せぬ出来事に頭ン中が捻じれ回って、目玉もグルグル渦巻きになっていると、ソニアママが まあまあ と言う感じで声を掛けて来た。、


「エルローズが昔、アムカムハウスで責任ある立場に居た事は知っているわよね?」

「……あ、ハイ。確かハウスキーパーをされていた、と……」

「ええ、もう10年以上前の事だけれどね……。それで、そんな事もあってアムカムハウスからメイドの子が時々、研修的な名目でエルローズの元へ送られてくるのね。ウチでは良く、そんな子を受け入れてメイド修行の手助けをさせて貰ってるの。それが今回はこの娘、アンナメリーだったのよ」


「え……、じゃぁ、アンナメリーさんは、研修で、ウチに暫く、来られるのです、か?」


「……そうね、研修……、そうね研修ね!アンナメリーは侍女に成る為の研修に来たの!だからそのついでに礼儀作法、立ち居振る舞いを教わると良いわ!そう!ついでよ、ついでなの!」


 そうなのよ!と胸元でポンと手を叩いて、ソニアママは話を続けられた。


「だからね、スージィはアンナメリーにシッカリと侍女として仕えて貰わないといけないの!でないと研修に成らないモノね?!分った?スージィ!」


 そんなソニアママの言葉でも、わたしががまだ戸惑っていると……。


「……それにね、これは前からハワードと話し合っていた事なの……」


 そう言って、わたしに近付き、お話を続けられた。


「もう判ってると思うけど……、ウチは余所様とお付き合いしないといけない事も多いの。出来ればね、そんな時の御作法を、スージィにも憶えて居て欲しいと思っていたの」


 ソニアママは更に一歩前に出て、わたしの手を握りながら話を続けた。


「勿論、貴女がそう言った事が苦手なのも承知しています。貴女が本当に嫌だったら、そんな所に顔を出す事もしなくていいわ!……でもね、私達は貴女に、出来るだけの事はしてあげたいと思っています」


 そう言いながら、ソニアママは握ったわたしの手を、ご自分の胸元へと持って行った。


「お作法は、私やエルローズでも教えて上げられるけれど、どうせなら、歳の近いお姉さんに教えて貰った方が、スージィも気が楽なのでは無いかと思ったのよ?なにしろアンナメリーは行儀作法の知識は完璧ですから」


 ソニアママがそう言うと、アンナメリーさんは微笑みながら「お任せください!」 と頷いていた。

 わたしはただ「あぁ……はい」と返事をするしか出来なかったのだが……。


「さあさあ!いつまでもこんな所に居ないで、お家に入りましょ!スージィもお風呂で汚れを落として、着替えていらっしゃい。アンナメリー、お願いね?」

「承知いたしました奥様。さ!お嬢様、参りましょう!」


 わたしはアンナメリーさんに、まるでダンスのエスコートでもされる様に、腰に手を回され手も添えられ、家の中へと連れて行かれる。


「しっかりと磨き上げさせて頂きます!お嬢様!」

「え?磨き上げ?……え?お、お風呂?ア、アンナメリーさん……、が?」

「アンナメリー、です!お嬢様。ご安心ください。シッカリ……隅々まで丹念に……、お磨き致しますからね?」


 そうアンナメリーさんが耳元に口を近づけきて、そっと小さな声で囁いた。


「ぇ?そ……?!ぃえ!ひ、1人で……、ちょ……、まっ!」


 ワタワタと慌てているわたしを余所に、アンナメリーさんは嬉しそうに、わたしをお風呂場までズルズルと引き摺って行ったのだった。


 



     ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 アムカムハウスこと旧アムカム辺境伯邸は、『北の宮殿』と呼ばれる国内でも有数の荘厳な建築物だ。

 その造りは、宮殿母屋から門に向かって抱え込む様、方形に伸びる二つの翼。それらの四角の壁に囲まれる中庭という、城砦建築の発展型であるのが見て取れる。

 その外観は、石壁の打ち出し模様で形成され、段差を繰り返す石の凹凸が、建物全体に力強い存在感を与えていた。

 母屋を囲う壁の四隅で、一段外側へ広がる外郭塔はその在り様を、四足で鎮座する獣の姿と捉える者も居る。その屋根は高く、勾配の急なスレート葺きの寄棟だ。

 その漆染めの様な屋根が、陽の光を浴び重量感のある建屋に静かな輝きを添え、北の大地に於いてより一層の存在感を与えていた。


 そんな重厚な建築物の、宮殿最奥に据えられた一室。

 この城に務める者達からは『奥の間』と呼ばれている、アムカムハウスで最も大きな会議室、『アムカム評議会議会室』だ。


 『評議会議会室』

 そこはアムカム12班に依り構成され議会員のみ入室を許される、謂わばアムカム護民団の中枢だ。


 母屋の3階で北側に面するその部屋は、幾つもの大きな窓を持ち、部屋に居ながらデイパーラの山々を一望できる。


 部屋の壁は一辺が10メートルを超え、窓の向かい側、南側の壁には大きな盤面が取り付けられ、そこに小さな木札が整然と並んで置かれていた。

 それはアムカム護民団、団員の名札だ。


 それは日本の道場に見られる様な名札掛けと違い、木片を横にしてはめ込まれていた。

 横にされた木札が幾つも縦に並び、更にそれが帯の様に左右に伸びている。

 それが3段。上中下と、壁を埋めていた。


 下段に納められているのは1stファーストから3edサードまでの者。

 中段は4thフォースから7thセブンスまで。

 上段は8thエイスから10thテンスまでと、上団位、中団位と言った呼ばれ方の元になった物がこれだ。

 今日、その最後列に、また新たな札が一枚収まる事にもなった。




 部屋の東側の壁には、巨大なマントルピースが設えられている。

 その上には金で細かな細工を施され、厚みのある豪華な額縁に納められた肖像画が掛けられていた。まるでそこに描かれた人物が、室内全てをを見渡している様だ。

 白い髭を蓄え、威風堂々とした肖像画の人物は、どこかハワード・クラウドに似た面影を持っていた。


 正面に向かい、鋭い眼光を発しているその肖像画の前に、やはり鋭い眼光で正面を見据える男が居た。ハワード・クラウドその人だ。

 ハワードが座る椅子はマホガニー製の重厚な物だ。

 背もたれは真っ直ぐに高く、施された装飾の見事さが、その椅子が部屋の主の物である事を示していた。


 今ハワードはその椅子に腰を落とし、軽く握った左手でテーブルに頬杖を付き、会議の進行を静かに見守っていた。



「それで?確認に向かったグレード持ちは誰だ?」

「ラムジンの倅のライアだ」


 アムカム随一の戦士と謳われる、ハッガード家の家長ハリーの身長は2メートルを超える。

 ハリー・ハッガードがその巨躯を巡らせ口にした疑問に、オーガスト・ダレスが答えた。


 ライダーとアーヴィンの父でもあるハリーは、二人と同じく時折金色に輝くアンバーのウルフアイズと、ダークブロンドの髪を持つ。

 これはハッガード家の者の特徴でもあり、今は村に居ない長男のバートも同じ物を持つ。


 ハリーはその長い髪をオールバックに撫で付け、『獅子』と呼ばれるに相応しい風貌をしていた。


「キャンベル家の長男なら、問題は無かろう?」


 とサイレンス・クロキがハリーに同意を求めると、彼は黙って頷いた。


「では『溢れ』は小康状態だと?」

「まだ分らん、は落ち着いたと言うだけだ」


 マティスン家の家長リチャードが確認をする様に問いかけた。

 それにオーガストが首を振りながら「予断は許さぬ」と答えを返す。


 ミア・マティスンの父であるリチャードは、娘と同じウルトラマリンの瞳と緩いウェーブの掛ったナチュラルブラウンの髪に口髭を持つ、見た目だけなら線の細い男だ。

 だがその二つ名の『群青の殲滅者』とアカシックロードのクラスを持つ彼は、アムカム切っての高火力の持ち主でもある。


「他の村からの支援要請は続いているんだろう?」

「ウアード村が特に厳しい。村長のブラムが鉱山が使えないと言って来た」


 フランク・ロングが続いてサイレンスに問いかける。


「山にコボルドが沸いているそうだ。とにかく数が多くて手が足りんらしい……」

「どの村もも似た様な物だ。とにかく手数が欲しいと」

「手数が足りんのは此方も同じだ」


 オーガストがサイレンスの説明に補足を入れ、アルフォンス・ビーアスが現状を伝える。

 それを聞くゲイリー・メイヤーズが、腕を組み渋面を作った。


「それでも手は回さねばならん。今残っている戦力はどうなっておるのだ?オーガスト」

「はい、12班家長の半数近くはご覧のとおり出払っていますからね。必然的にグレード持ちも半数以下です」


 ハワードの問いに、オーガストが壁の名札に目線を移しながら答えを返した。


 今此処に12家の家長は7人しか居ない。

 会議室に置かれた円卓には、ハワードの正面に議長のオーガストが、その右手にはサイレンス、左手にはアルフォンスと御三家が並び、ハワードの左手、部屋の南側にゲイリーとフランクが、北側にはハリーとリチャードが其々席に着いて居た。


 壁に掛けられている名札も上段は半数が、中段も三分の一が白い札になっている。


 名札は、表を黒地、裏は白地で名前を刻まれ、村に滞在している者は黒、村から出向し不在な者は白札として壁に掲げられているのだ。


「ライダーの出立を許したのは、少々早まったか……」

「行かせてしまったものは仕方が無かろう。ハリー、ウアードにはお前に行って貰う。とにかく手数が必要との事だ。最低でも5チーム、選抜したら此方へ知らせてくれ」


 正面の名札掛けに目をやりながら、顎を摩り考え込んだハリーだったが、オーガストの言葉に「了解だ」と頷いた。


「他の村はどうするのだ?何なら私も向かうが?」

「アルフォンス。これは2~3日の出張で済む案件では無い。お主ら三家の家長が、長期間アムカムを留守には出来まい?」

「そう云う事だアルフォンス。申し出は有難いが今回は遠慮しておく。それで、マルヴェルにはゲイリーに、アーゴシにはフランク、ワンドにはリチャードに行って貰う。これでアムカムに残る12班は我々三家のみだ」


 アルフォンスの提案をハワードが制止した。そのままオーガストが残り3人の向かう村を告げ、アムカムの残存戦力が三家のみだと肩を竦めて見せた。


「お前達3人が居て、戦力に何か不安があるのか?」


 とハリーが可笑し気に言った。


「まあ、村の事は我々に任せて、お前達は好きに暴れて来ていいぞ」


 口角を上げているハリーに、サイレンスも不敵な笑みを送っていた。


「サイレンスやめろ!ハリーを煽るな。鉱山そのものを潰しでもしたらどうする」


 オーガストの言葉に「そこまでするのか?」とサイレンスがハリーに視線を送れば、ハリーは「さあな」と肩を竦めて答えをはぐらかす。


「いずれにしろ他の村は未だ『溢れ』が続いている。此処の小康状態もいつまで続くか分らない。長期戦の覚悟だけはしておいてくれ」

「この状況で、来月には騎士団の到着か。……やはり人手が心許ないな」

「確かにグレード持ちは出払う事になるが、10thテンスのチームは十分居る。騎士団の同行者は、彼らから選抜して問題あるまい」


 オーガストが室内の者達に視線を巡らし、腹づもりを告げた。

 しかし、ゲイリーが翌月に訪れる騎士団のイロシオ探索に同行する人員についての危惧をするが、サイレンスの言葉に「ならば良いが」と頷き、一応の納得を示した。


「つくづく、今この時に、お嬢が居てくれて助かっているな」

「全くだ、彼女が居なければ村の守りにまで手は周っていないぞ」


 ハリーがテーブルに両方の肘を突き、その手の甲に顎を乗せながら、今日最後列に加えられたばかりの、真新しい木札を眺めながら呟いた。

 それを受けリチャードも目線を壁に向け、ハリーに続きその札の主を賞していた。


「それで?どうだったのだ?アルフォンス。我等の『姫君』の試練は?」

「ん……?うむ……あれだ。恙なく、ご立派に勤め上げられた……ぞ」


 フランクが今日の儀式について尋ねるが、アルフォンスの返事は今一歯切れが良くない。


「……?そうか?それは何より……だな?……それより何より試練中、数多くの魔獣も倒し、レッドポンゴもほぼ1人で片付けたのだろう?」

「ああ、そうだ、ライア達がが集めた骸も検分させて貰った」


 多少の疑問を感じながらも、更に試練中の話を尋ねれば、アルフォンスの答えで、やはり見事な活躍ぶりだ。フランクとリチャードがハワードに祝いの言葉を送った。


「いや、実に大したものだ!御頭首、改めておめでとう御座います」

「おめでとうございます、御頭首」

「うむ、ウムウム!ありがとう、フランク!リチャード!娘も……スージィも、今回の結果に満足しているよ。土産まで用意する余裕があった様だ」

「ほう!土産ですか?それは大変な余裕ですね!一体どんな物を?」


 ハワードの言葉に思わずゲイリーが興味を示し、それは何か?と問いかけた。

 その時、ハワードの目が輝いた。

 アルフォンス、オーガスト、サイレンスの三人はそれに、ピクリと反応を示したが、当のゲイリーはソレに全く気付いていない。


「フフ……、コレだよ」

「コレは……彫刻ですか?」

「ああ、彫刻だ。此れはワシを掘った物だそうだ。テントの中で過ごす時間の手慰みで、つい作ってしまったのだそうだよ……。手慰みでも……実に良く出来ている。そうは思わんか?」

「は、左様ですね……実に荒削り……というか、大胆と言うか……」

「そうであろう!ナイフの切り口が残っているのが良いのだそうだよ。そこが味なのだ、と!此処の角を利用して、ワシの鼻を作ったそうだ、似ているかな?」

「そ、そうですか……なるほど言われてみれば……そう見えなくも……」

「そうであろ!そうであろう!この鼻の下に威厳のある髭を表現するのが難しかったと言っておったわ!十分良く出来ているではないか!なあ?!はっはっはっはっはっは」


 ゲイリーが「そうですな」と声を出す背中を連打するハワードを見て、オーガストは軽くデジャヴを感じていた。

 同時に、此れは暫く続く事になるぞ……。と、深い溜息と共に諦めを感じていた。

 アルフォンスとサイレンスも、憐れんだ様な眼でゲイリーを見ている。「あぁ、朝の再来だ」と。


 バンバンと大きな音を立てるゲイリーの背中も、揺れが少しずつ大きくなっている。「そろそろ止めねば、ゲイリーの出発日が遅れてしまうぞ」と、オーガストは痛む背中を摩りつつ、ハワードを止める為席を立つ。


 未だ評議会の議会室は、ハワードの高笑いが響き渡っていた。


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次回「クラウド家の侍女」

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