48話ミアは無慈悲な茨の女王
ロ、ローズ・ウィップ?!
ミアってば何て物を持ち出してんのさっ?!!
これ本格的にキレてね?ヤバくね?!
「……カレン。模擬戦前に、彼女達とミアとの間に、何がありました、か?」
「え、えっと……先に支度をすると言って中に入ったルゥリィ達は、中々ロッカールームから出て来なくて……」
改めてカレンに、ここに至る前に更に何か無かったか?と聞いてみれば、どうやらロッカールーム前でも、ちょいとばかり、やりあっていたらしい。
それと、ルゥリィ嬢達の後にロッカールームに入ってみると、用意されていたミアのローブが水浸しになっていて、ミア用の
わお、結構な事してくれてるよねルゥリィ嬢。
でも……。
「……その程度の事で、ミア、キレるかしらね?」
「う~~~ん?」
ビビと二人で首を傾げてしまう。
一般的な見方からしたら、随分酷い事なんだと思うけど、ミアがその位でキレるかなぁ?あの子の沸点、常識枠からしたら随分外れてるんだけど。
大体にして濡れたローブなんて、軽く『ドライ』で乾かしてしまった筈だ。
水気を操る事を得意とするミアにとって、水を使った嫌がらせなど、何の効果もありゃしない。
ただ、カレンの話ではロッカールームに入る前、そこでのルゥリィ嬢達との問答の後、ミアの様子がちょっと変わった様な気がしたと言う。
ふむ、どんなやり取りがあったんだろか?
「……でも、嫌われちゃったのは……」
「え?なんです、か?カレン」
「あ、いえ!えと……それよりミアちゃんがこんなに簡単に魔法を使えている事に、驚いてしまって……」
「そ、そうですわ!
カレンやコーディリア嬢だけでなく、周りの生徒からもチラホラと、この事に疑問を零す子達がいる。
ミアの暴発は、魔法を学ぶ生徒達にはそれなりに有名だったのだろう。
「あんなもの!ワザとやっていたに決まっているじゃない!」
「「え?」」
「あの子、ワザと暴発させる事で、
「そ、そんな……そんな無茶な事!
「そのギリギリを攻めてしまうのが、あの子のイカれた所よ!」
ビビが2人に、ミアが暴発させていたワケを教えていた。2人は言葉を失い、信じられないと言う顔をしている。
無理もない、常識から考えれば、有り得ないやり方だものね。
普通なら、ゆっくりと
確かに魔法が暴発すれば、その時使用していた
こんなやり方は先生は薦めない。寧ろ普通に止める。
だがしかし、ミアは普通とは違った。
因みに、
彼女は努力を怠らない。
常に上を目指し、真摯に堅実に歩みを進めるその姿は、本当に尊敬に値する。
わたしの自慢の友達だ。
学園に入学してからコッチ、20年に1人の秀才と言われているのも、当然の事だと感じている。
だが、もう一人の自慢の友であるミアは、間違いなく100年に……いや、200年に1人の天才だ。
彼女は、ビビとは根本的な所が違うのだ。
別にビビとは逆に、ミアが怠惰な人間だと言いたい訳では無い。
この子もやはり探究心に溢れた人間なので、物事を追及する姿勢は他の追随を許すモノでは無い。
一度のめり込んだ時の集中する度合いが、尋常では無いのだ。
ミアは直感で魔法を理解し、感覚だけで人並み以上に行使してしまうという、常識の範囲外に居る、極めて特異な魔法の天才なのだ。
想像して欲しい。
努力を怠らず、探究心に溢れた200年に1人の天才が、一つの事に没頭して行くとしたら……。
それが一体どれほどの不条理な結果を齎すかと云う事を。
この暴発鍛錬はミアの強い希望で、先生方の監督の元……アーシュラ先生とジョスリーヌ先生のお二人なのだけれど……そのお二人の監督の元行われていたのだ。
監督をしていた先生方は、ミアのその、あり得ない魔力のバランス感覚と、壊れる寸前まで攻め込むその大胆さに、始終顔面蒼白になっていたとか。
更にミアによると、最初の一週間で基本魔法と初級位魔法は、指を鳴らせば展開出来るまでになっていたのだそうだ。
そしてその後の一週間で、自分が得意としていた木属性の魔法も大体は使えるようになっていたという。「でも、十日位で出来ると思ってたのに、二週間もかかっちゃったのは、ちょっと時間使いすぎたかな?」とかミアは
そんな、あり得ないくらい常識外れのミアの成長速度を目の当たりにした先生方が、大いに頭を抱え、盛大に何度も引き攣りまくったのは無理も無い話だと思った。
うむ、実に同情を禁じ得ない出来事だ。
そして現在、ルゥリィ嬢達は、そんな人外とも言うべき非常識な存在を相手にしているワケだ。
自業自得とはいえ、コチラもやはり同情を禁じ得ない。
と、その時、『ピシリ!』と何かを鋭く打ち付ける音が辺りに響いた。
ミアがローズ・ウィップを地面に打ち付けたのだ。
更にルゥリィ嬢に顔を近づけ、彼女に何かを呟いている。
オイオイ、ミアに何か言われたルゥリィ嬢が、顔を引き攣らせて小さく悲鳴をあげたよ?
蔦がギリギリと四肢を締め上げてるけど、アレ、大丈夫なのか?あれ以上やったら折れそうじゃない?ルゥリィ嬢スゴイ涙目じゃん!
うわ!顔にも蔦が、口を塞ぐ様に巻き付いて始めたよ?!
ちょっと!女の子が人様でして良い顔じゃ無くなってるぞ?!ホントにダイジョウブなのか?!
「大丈夫?でも安心して欲しいかな。わたしでもチョッとした癒しは使えるから、折れても直ぐにこの場で治して上げられるよ?」
「?!」
「でも、スーちゃんみたいに綺麗に元通りには出来ないから、曲がって継いじゃったら……ごめんね?」
「!!!」
「あ!でもそしたらまた折り直して、その後綺麗に治して貰えばイイのかな?ネ?うふふふふふ」
「ンーー!ンンーーー!!!」
コワッ!なんかミアがコッワッッ!!
何だかこんなコワイ会話をスージィイヤーが捉えてしまったよ!
……ま、『スージィイヤー』言うても、風魔法の『集音』で聞き耳立てるだけなんですが……。
ミアが腕を振えば、その足元から力強い破裂音が辺りに響く。
ローズ・ウィップが地面を叩いた音だ。
まるで猛獣使いの鞭の様に、ローズ・ウィップが振るわれる度、茨の蔦が
ローズ・ウィップは、ミアの青い魔力を纏い、空間に
それはとても綺麗で、人の眼を惹き付けずにはいられない物だけれど、だが同時に、とてもコワイ
ウィップが打ち付けられる音が響く度、ルゥリィ嬢達だけでなく、周りにいる生徒達の中にも、ビクリと身体を跳ねさせる者がいる。
そしてミアが、その薄い笑みの口元を更に深め、一際大きくウィップを振るおうとした時……。
「よーーし!そこまで!!勝負ありだ!!!」
そのタイミングでキーラ・シャンドラ先生が、声高に模擬戦終了の合図を告げた。
いつの間にか
大体にしてジョスラン先生、ずっとココで解説あんど観戦に夢中になってたものね!仕事をしろ担当教師!!
終了の声と共に、ミアはルゥリィ嬢達の身体を茨からアッサリと解放した。そしてそのまま観客側に視線を巡らせた。
直ぐにわたし達を見つけると、ミアはとてもとても良い笑顔を見せながら、ヒラヒラと手を振って来る。
それを受けてわたしは、少しばかり頬を引き攣らせながら手を振り返す。
手を振りながらミアは、直ぐにコチラへ向かって小走りでやって来た。
それをビビが腰に手を当てながら迎えている。
「アンタ!素人相手に随分ね!らしくないんじゃない?!」
そのままビビはミアに、キレてたけどどうしたのだ?という意味合いの言葉を投げかけた。
「それがね!聞いてよビビちゃん!あの子ったら言うに事欠いて、スーちゃんをお妾にしてやるとか言い出したんだよ?!」
「「はぁ?」」
思わず、ビビと2人で間の抜けた声を出してしまった。え?一体ダレが?誰の?ナニに?
「あの次男の、二号だか三号だか四号だかに囲ってやるから、ありがたく思えー。みたいな事を言って来たから、当然……かな?」
オイオイオイ、ナニ言い出してんのさルゥリィ嬢!
何処をどうやったら、そんな話が出てくンのさ?!
ツッ込みドコロ満載だぞ!!
「……成程!話は分かったわ!それじゃアタシは
「うん!任せたよ!」
「ちょっ?!ちょっ!ちょ!ちょちょっっ!!」
何言ってんのビビ?!なんでアンタまで過激な事言い出してんのさ?!!
大体にして、な、な何を引きちぎる気よっ?!
「何って?首根っこだけど?!」
「もっと過激だった?!!」
「いい?スー!これは明確な、アムカムへの宣戦布告よ!」
「ぅえ?!そ、そんな大げさ、な!!」
「これが
「え?ど、どうなるって……」
「更に!御頭首の耳になんて入った日には!全面戦争が起きる未来しか見えないわよ!!」
「ぅえええええぇぇぇええええぇえぇぇぇええ!!」
「そうなったが最後!グルースミルなんて土地は、ペンペン草も残らない荒れ地に変るわ!!」
「!!!!」
あ、な、なんだろ、確かに今、黒い装備に身を固めたハワードパパが、先陣を切って走っている姿が幻視できた?!
「わかる?!そうならない為には、コレが一番堅実なやり方なのよ!!幸い
た、確かに、頭から毛布を被せられて、先生方に抱きかかえられる様に連れて行かれた時、エグエグと子供みたいに泣いてたしね。幼児退行起こしてなきゃ良いんだけど……。
「後は、あの
「収まる様な気が、全然しないよぉ?!!」
ビビの話が飛躍し過ぎて、わたしの目玉がグルグルになっていく!
なんでそんな大事になるの?!大体にして、妾がどうのってトコロから、わたしは付いて行けていないよ?!
ああ!わたし達の様子を窺っているカレンとコーディリア嬢が、思い切り引いているのが分かる!!
冗談よ?本気にしないで!
これはアレよ?!アムカムジョークってヤツだからね?!!
そうこうする内に、それぞれのクラスに集合する様、声がかかった。
「大丈夫だよ。ちゃんと約束通り、わたしが守るからね」
「……あ、う、うん。あ、ありがとう……」
ミアとカレンが連れ立って、「じゃあね」とわたし達から離れて行った。
それを見送るわたしとビビ。
そして何故か、少し切な気な顔で二人を見送るコーディリア嬢。
「……やっぱり、
ザワザワと周りに騒がしさが広がる中、そんな風にポツリと小さく零したコーディリア嬢の呟きが、わたしには聞こえた様な気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます