47話ルゥリィ・ディートの誤算
何でこんな事になっている?
ルゥリィ・ディートは、現状に理解が追いつかずにいた。
どうして?こいつは魔法が使えなかった筈だ。
現にコイツが魔法を失敗している姿は、自分もこの目で何度か見ている。
新入生の中で、魔力が一番大きいとか言って、それなりに話題になっていた様だが、肝心の魔法が使えないなら意味は無い。
ただデカいだけの木偶の坊だ。
連日魔法を暴発させて座り込んでいる様は、いい気味だと胸がすくのを見る度に思っていた。
しっかり魔法が使える自分の方が、間違いなくコイツより立場は上の筈だ。
それがどうしてこうなった?
何故コイツは魔法が使えているんだ?
しかも
それどころか、自分達が放った魔法を綺麗にかき消す程の威力だ。
自分が使う障壁は、魔法の力を半減させれば上出来だと言われていたのに、こんな事があるのか?
更にコイツはやはり詠唱もせず、複合属性である木属性魔法まで使って来てる!
一体どう言う事さっ?!!
ルゥリィ・ディートは全身を茨で締め付けられながら、声にならない叫びを上げていた。
そんなルゥリィの目の前に、足を進めたミア・マティスンが静かな笑みを浮かべて立っている。
コイツは、何かが違う。
コイツは、自分が知っている常識とは違う所に居る。
ルゥリィはミアの姿に、その自分の理解の及ばぬ存在に、うすら寒い感覚を覚えずにはいられなかった。
◇
その日、昼を回って直ぐ。
ルゥリィ・ディートは、取り巻きの2人を引き連れて、選択授業を受ける為、魔道科の教室までやって来た。
入学試験時に、火の属性で『35』という数値を出していたルゥリィは、魔導科を選択するのが当然だと考えていた。
魔力量『35』という数値は、一般的な受験者の魔力量が、平均20と言った所からすれば十分に誇れるものだからだ。
あく迄も『一般的な範囲内』での話だが。
そして今、その教室の前でルゥリィ・ディートは、自分の中からドス黒い感情が込み上げてくるのを感じていた。
「……カレン!!!」
「…………ルゥリィ」
有らん限りの力で、目の前にるカレン・マーリンを睨みつけた。
「よくもまあ抜け抜けと、アタシの前に顔出せたもんだね!!」
「そんな!ルゥリィわたしは……」
「うるさい黙れ!!全部お前のせいだ!!!」
学園に来てからの全ての嫌な出来事は、今目の前にいるカレン・マーリンのせいだ。
ルゥリィ・ディートは腹の底からそう確信している。
コイツには、その落とし前をつけて貰わなくてはならない。
「すっかり自分の立場ってもの、忘れちゃったみたいだよね?!」
「……そ、そんな」
「改めて最初から、アンタには教育が必要みたいよね?!ねぇ?!」
学年クラスでは教室が別の為、接触する事が出来ずにいたが、幸いこの選択クラスでは、同じクラスを選んだ様だ。
ココで昔の様に、その性根に立場の違いを教え込んでやる!
ルゥリィ・ディートがそんな考えを巡らせて、仄暗い笑みを浮かべた時、後ろから突然声をかけられた。
「そろそろ教室に入りたいんだけど、いいかな?」
「な?!お、お前!!」
教室の前で、自分達の事を遠巻きに見ている生徒が殆どの中、その相手は何の気負いもなく声をかけて来た。
その相手を見て、ルゥリィは目を見開く。
間違いない!コイツは例の赤毛の取り巻きの1人だ!
そして、カティアに『魔力オバケ』と言わせたヤツだ!!
それに気がついた時、ルゥリィはその相手を思い切り睨み付けていた。
「なに?わたしに何かご用かな?」
「お前!カティアに何をした?!!」
「え?誰のことかな?」
「とぼけるなよ!お前がカティアに何かした事は分かってるんだ!!」
「うーーん、何を言ってるのか分からないなぁ……。人違いじゃないかな?」
「この!とぼける気か?!」
「そー言われてもねぇ……。どっちにしても、教室に入らないと周りの迷惑になるかな?」
「……コイツ!」
コイツがカティアに何かしたのは間違い無い。
それなのに、言葉を強く問い詰めても飄々としらを切る様は、自分をナメているとしか思えない。
コイツら赤毛の仲間は、心底自分を苛つかせてくれる!
「フン!どうせお前、あの赤毛の腰巾着なんだろ?!」
「フフン、わたしとスーちゃんはいっつも一緒に居るからね!」
「チッッ!!ちょうど良い!お前らに程度の差ってのを思い知らせてやるよ!」
「……ホントにさ、良く分かんないんだけどさ」
「ああ?」
「どうして、そんな不毛な事を平気で言えちゃうのかな?」
「は?!!」
「普通はそんな頭の悪そうな事、とても口にはできないよね?」
「なっ?!お前ぇぇ!ふざけんなよ!!」
「最初は、そっちがふざけてるのかと思ってたんだよ?」
「思い上がりも大概にしとけよ!!」
「ウ~~ン、わたし達はちょっと、思い上がるとかは出来ないかなぁ」
「意味ワカンねぇ事言ってんじゃねぇよ!!」
始終、惚けた口調で言葉を紡ぐミアに、カレンは顔色を無くしていく。
対するルゥリィは、今にもミアに掴みかかりそうな勢いだ。
結局、その直ぐ後に担当の教師が来た為、その場は解散させらる事になった。
しかし、オリエンテーションの後、ジョスラン教師にミアと模擬戦をする許可を取り付けた。
模擬戦でわたしが魔法を使って見せれば、魔法が使えないコイツに、自分の立場という物をその身に刻んでやれる筈だった。
準備の為に先に入ったロッカールームでは、ヤツのローブを水浸しにしてやったし、
なのに!何事も無かったようにローブを着て来るし、おまけに
なんでさ?!!
◇
「立場……だっけ?」
ミアは笑みを深めながら、ルゥリィの耳元で小さく囁く。
「お、お前!いつも魔法を暴発させてたじゃないか!な、なんでこんな事が……」
ルゥリィが、納得がいかないと言う様に声を荒げて叫ぶ。
しかし、ミアはそれに取りあおうともせず、目を細め、降ろした右の指先を再び『パチリ』と鳴らす。
その音に応えるように、足元から茨の蔦がミアの掌へと伸び上がる。
そして蔦はミアの手の中で、一本の長いロープの様に編み上がった。
ミアは、手慣れた様に手首を振ると、編み上げられ、長く伸びた蔦が空気を裂き、高い音を立てて地面を打った。
ルゥリィの身体はその音に反応し、一瞬ビクリと跳ねる。
「その『立場』ってものを、少しだけ……分かって貰おうかな」
ミアの眼に、無慈悲な光が仄めいた。
――――――――――――――――――――
本当はルゥリィの取り巻き二人にも名前があるのですが、出すタイミングを逃してしまいまつた。
〇エマ
ルゥリィの取り巻きその1
小柄でちょっとポッチャリ。水属性
先祖が没落貴族。父親はグルースミルの役所の上級公務員
〇ゾーイ
ルゥリィの取り巻きその2
痩せ型、そばかすアリ。風属性
父親がアフィトリナ大商会の支店長の1人
てな設定を考えていましたが・・・ここでご供養なんぞを(≡ω≡;)
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