第18話アーヴィン・ハッガード目を奪われる

 その子はまるで人形みたいだった。


 白く透き通る様に綺麗な肌。

 小振りでツンと尖った鼻。

 小さくて艶のあるピンクの唇。

 吸い込まれそうに大きくて、緑の宝石みたいにキラキラしている眼。

 そして、帽子から覗くルビーみたいに輝いている髪。


 そんな女の子が、コッチに向かって走って来る。


 一体何処の誰だ?

 オレが固まっている間に、その子は荷馬車の所までやって来て、荷台を覗き込みながら……。


「これ・・・が・・・つーへっど、ぼあ?」


 と聞いて来た。

 オレは、ついそのまま無言で頷いてしまったんだけど、直ぐに……。


「おま!……キ、キミは誰だ?何処から来たんd……の?」


 と聞き返した。

 こういう時は、まず相手が誰なのか知らないとダメだ!とバートアニキが言ってた。


 するとその子はコッチを見て、ちょっと小首を傾げながら。


「わたし・・・スージィ。・・・クラウドさんに・・・つれて・・・くれて・・・きた・・・、です」


 やっべぇ!今なんか心臓が跳ね上がった!

 こっち見てる目がすんげぇ、でっかい!!


「そそそっか!スージィって言うんだ!?オオオレ、アーヴィン!ええっと、ク、クラウドさん?そうか!これクラウドさんが仕留めたって言ってたもんな!一緒に見に来たのか!?」


 なんか一気にまくし立ててしまったけど、その子は小さく「ウン」と頷いた。


「これ・・・どう・・・する、の?」


 ボアの皮を突きながら、スージィと名乗った女の子が聞いて来た。


「え?こ、これ?ボアの事?」


 スージィが、小さな顎を引いてコクリと頷いた。


「あー、これから役場に持って行って……その後、直ぐ解体すると思うな」


 なんかこの子の言葉、少したどたどしいかな?

 外国から来たのか?クラウドさんの親類?


「かいたい?・・・たべ・・・たり・・・する、の?」


 あ、やっぱり国外の子だ。

 この土地の人間なら、魔獣を食べるとか考えないもんな!


「食べないよ!魔獣は食べられない!知らないのか?」


「たべ・・・れ、ない?」


 目を大きく見開いて驚いてる。

 魔獣の事、ホントに知らなかったみたいだな。


「普通に獣を狩りしても、直ぐに血抜きをしないと肉の味が落ちるだろ?時間が経ってからじゃ匂い出て来るし。魔獣の場合は更に『魔抜き』ってのしないとダメなんだって」


「ま・・・ぬき?」


「そう『魔抜き』!魔獣ってさ、魔力が澱んだ瘴気が凝り固まって受肉したもんだろ?だから直ぐに魔力を抜いて落とさないと、瘴気が中でどんどん澱んで行くんだって。だから食べるなら、直ぐに血抜きと魔抜き同時にしないと、臭くって食えたもんじゃ無いって話しだよ。もっとも、食べられる様になったって、瘴気で出来てる魔獣を食べようとする人間なんて、今時いまどきまず居ないよね!」


 そう説明すると、何か物凄く落ち込んだような顔になった。

 なんだ?ひょっとして食べたかったのか?

 大丈夫かと聞いたが。


「ん・・・だいじょぶ・・・なんでも・・・、ない」


 と、力ない笑顔を返してきたけど。


「アーヴィン・・・いろいろ・・・しってる・・・すごい・・・、ね」


 その後そう言われてニッコリされたら、また心臓が思いっきり跳ね上がった!


「そそそそそそんなことなな無い…z……よ!!!」


 あ、また笑った。その笑顔ヤバいって!


「だだからさ!コイツら解体したら皮や骨は加工すれば使えるけど、肉は肥料にもならないから、処分するしかないんだよ!」


「やっぱり・・・アーヴィン・・・しってる・・・すごい・・・、よ?」


「……う、うん、あ、ありがと」


 やべぇ!すげぇ楽しいんだけど!どうしよう!


 歳を聞いてみたら、少し恥ずかしそうに『十三』だって答えた。

 オレと同じじゃん!!

 そう言ったらスージィは「そうなの?」と驚いてた。


 なんか歳が近いかな?と思ってたけど、一緒だと分ると余計に嬉しくなってきた。

 もっと色々話したいと思ってたら、スージィがクラウドさんに呼ばれてる。


「ごめん・・・いかないと・・・ありがと・・・ね・・・アーヴィン」


「ああ!また会おうぜ!」


「うん!・・・また、ね!」


 そう言うと、スージィはクラウドさんの所へ戻って行った。でも、さっきからクラウドさんから妙に圧力を感じる。顔は凄いニコニコしてるんだけどな……。


 あ!この感じ、前にも経験あるぞ!


 去年の収穫祭の時、ビビを迎えに家まで行った時。ビビの親父さんからこんな圧力感じたんだ!

 妙に怖かったのを覚えてる。


 今のクラウドさんも、笑顔なのにスゲー怖い……。


 で、でも昨夜ゆうべ父さんに、朝早くからロングさんの手伝いに行け!って言われた時は、ツイて無いって思ったけど……。

 なんか、実はすげぇツイてたんじゃないか!?


 スージィか……。いつまで村に居るのかな?また会えると良いな……。

 あ、フレッドがびっくりした様にスージィ見てる。

 あ、こっちに来た、何か聞きたそうだな……。

 へへ自慢してやろ!


――――――――――――――――――――

次回「スージィ家へ帰る」

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