83話甘々と南瓜
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「トール君……トール君!答えて!……トール!トール!!ねぇ!お願い!返事をしてよ!!」
「…………大丈夫だ……スズ。大丈夫、心配するな」
「良かった!!トール、トール!怪我は?!もう動いても平気なのね?!」
「大丈夫だ。深手って程じゃなかった……。傷ももう塞がってる」
「ホントに?本当に大丈夫なのね?」
「大丈夫だ心配ない。あの子も無事だ」
「……よかった、本当に良かった」
「あの子は、
「今はアナタの事よ!お願いだから無茶はしないでって言ったじゃない!!」
「だが、これでアムカムを長年に渡って搾取して来たアルコンネン家も、もう終わりだ」
「それでも!!」
「アルコンネンは、バルデモンテに次いで、貴族派の大派閥だ。これでお前も動きが大分楽になる」
「……それはそうだけど!」
「お前の影武者も限界が来ていた。時期的にも此処でやるしか無かったんだよ」
「でも!それでアナタに何かあったら……どうするのよ!!」
「オレの事はいい。お前は大丈夫なのかスズ?もう身体を動かしても平気なのか?」
「わたしは平気。わたしは大丈夫!だから!アナタは自分の身体の事をもっと気遣って!!」
「……お前が無事ならそれで良い」
「…………ばか、ばか!」
「……今回は、オレがヘマをした。迂闊だった。もっと慎重にするべきだった……心配かけて済まない」
「もう!直ぐにそうやって…………本当に、もう無茶はしないで。お願い」
「……ああ。約束する、もう無茶はしない」
「本当だよ……約束だからね!」
「……いつか、いつかあの子を連れて、またそっちへ行くよ」
「…………うん」
「だから、そう出来るように、後は任せても良いか?」
「うん、その為にわたしはココに居るんだから!わたしに任せて!」
「分った、スズに任せる……」
「うん!任された!」
「……少しだけ、休んでも良いかな?……少しだけ」
「良いよトール。ゆっくり休んで……」
「いつか……いつかさ、あの海を3人で渡ろう」
「うん、うん!トール!きっと渡れるよ!いつか3人で……あの船に乗せて」
「……ああ、いつか」
「……うん、いつか」
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今日も大食堂は中々の盛況具合だ。
元の世界での土曜日にあたる今日は、生徒の皆は午後の時間は自由に過ごす。
生徒達はみんな、午後はどうするかと食事をしなら、又は食後のデザートを頂きながら、わいのワイのとお喋りを楽しむのだ。
今食堂ではパンプキンフェアをやっていたりする。
そこではカボチャ料理だけで無く、カボチャを使った色々なスイーツもメニューには数多く並んでいるのだ。
わたしが今日選んだのは『かぼちゃのプディング』だ。
これはかぼちゃの香りがとぉっても濃厚で、口に含めば香ばしいカラメルソースと相まって優しい甘さが零れそうになる。
一口頂けば忽ちお口一杯に幸せが広がり、思わず顔がフルフルしてしまう。
「スー、コッチのパイも食べてみようか?ホラ、あ〜〜ん」
「カーラずるい!スーちゃんコッチケーキも美味しいよ!はい、ア〜〜ん」
「いやいや、スーはまず、わたしのババロアをほしがってるよ!ハイ、あ〜〜ン」
「こっちはチョコと合わせたマーブルケーキだよ!ほら、ア~~ン」
カーラがミアがアリシアが、そしてジェシカがいつもの様にスプーンを突き出して来る。
わたしはエサを待つヒナでは無いと言うに!
それでも!目の前にあるスイーツを拒むなど出来ようはずも無く……。パイをケーキをババロアを、拒む事なく口が受け取ってしまうのだ!
「「「「美味しい?」」」」
「美味……しい、の!」
そしてやっぱり頂く度、頬に手を添えてフルフルしてしまう。
これは、体が勝手に反応してしまう反射の様な物なのだ!だから仕方がないのだ!
ココのスイーツが、どれも絶品なのがイケナイのよさ!
「………………」
「呆れないでもらえる?いつものことなので!」
「あはは……、初めて目の前で見ると、ちょっとビックリするよね……」
ん?なんかテーブルの端の方にいるコーディリア嬢に、ビビとカレンが何か言っている?
特に変わった事は無いと思うんだけどな?
今このテーブルにはルシール嬢、コーディリア嬢、カレン、アリシア、カーラ、と並んでいる。
そしてその対面に、キャサリン嬢、ビビ、ミア、わたし、ジェシカ、と並び座っていた。
ダーナとコリンは今いない。
ダーナはいつもの様に食事を掻き込むと、サッサとお昼の鍛錬だと言って出て行ってしまったし、コリンは生徒会の用事があるとかでやはり居ない。
なので今日はこの10人でテーブルを囲んでるワケだ。
そんな感じでスイーツのスプーン攻勢は、両脇と正面から次々と繰り出されているのだたたた!ぁふン!
カレンはあれ以来、すっかり人が変わった様に明るくなった。
今迄の彼女は一体何だったのだろう?と言いたいほど、オドオドとした自信無さげな様子が鳴りをひそめ、屈託の無い笑みを辺りに振り撒く様になった。
学園内でルゥリィ嬢達とニアミスした時も、特に腰が引ける様子も全く無かった。
コチラとしてはヒヤヒヤして見守っていたのだが、その堂々とした態度には、ルゥリィ嬢達も呆気に取られていた様だ。
控えめな性格のカレンしか知らないと、この変化には戸惑ってしまうのも分かる。
しかし、コレが本来のカレンなのだとコーディリア嬢は言う。
やっとカレンと会えた気がするとコーディリア嬢は嬉しそうに語る。
コーディリア嬢は、昔カレンに酷い言葉をかけてしまったと後悔していて、仲直りの機会を探っていたのだとか。
それも自身の暴走気味の性格が空回りを起こし、上手く行っていなかったとはルシール嬢の言葉。
カレンも、ずっとコーディリア嬢と仲直りがしたかったのだと言っていた。
カレンはカレンでやはり昔、コーディリア嬢を拒否した事がずっと引っかかっていて、顔をまともに見る事が出来なかったのだと言う。
その2人が今目の前で、笑顔で語り合う姿を見ていると、そんな事情を聞いた身としてはホッコリとせずにはいられない。
そんな彼女達に、ビビも感じるトコロがあるのだと思う。
コーディリア嬢に対する当たりの強さが無くなっている気がするよね。
「でも、確かにこのプディングは美味しそうだよね」
「そ、そうですわね」
「コーディも食べてご覧よ。ハイ、アーン」
「じ、自分で食べられますわ!」
「アーン」
「で、ですから!」
「アーン」
「も、もお……、ぁーん……ン」
「おいしい?」
「ぉ、おいしい……です、わ」
「良かった!コーディも変わらず可愛くて嬉しいよ」
「ま、また!カレンは直ぐそう言う事を!」
「……ダメ、だった?」
「……ダメじゃ……無い、……です、わ」
「ホント?!良かった!」
「も、もぅ……」
「………………」
なんだ?
今我々は何を見せられた?
何だこのオトコマエ女子?
何だこの真っ赤になってる可愛い生き物?
「「……てぇてぇ」」
思わず溢れた言葉が誰かと被った。
声の発した方をチラ見れば、キャサリン嬢と目が合う。
互いに無言で交わし合うサムズアップ!
うむ!彼女とは上手くやって行けそうな気がしるよ!
「皆様、可愛いらしいお客様がいらっしゃっていますよ」
そんなわたし達のテーブルに、同じクラスのセルキーさんが声をかけて来た。
青い髪のセルキーさんの後ろに、チョコりと覗く小さな姿。
それは直ぐに前に進み出て、綺麗にカーテシーを披露して見せた。
「みなさま、お昼どきにしつれいいたします」
そこには、愛らしく礼をとるアニーの姿があった。
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