123話夜の襲撃者

     -**--*--**--*--**--*--**--*-



「スズ!答えろ!答えてくれ!!畜生……冗談だろ?スズ!スズ!!!」


「なんだって、こんな……。くそ!貴族派の奴ら……!生き残りを見逃して来たオレの責任だ!スズ!頼む答えてくれ!!」


「もう現地では三ヵ月以上経っている筈。まだ其方の事態は落ち着いていないのか?…………それとも……まさか。いや!そんな!そんな筈は無い!」


「スズ!頼む!生きていてくれ!……でなければ、オレは……オレは!」



     ◇◇◇



「…………やはり通信の形跡も無い……この1年間での受信記録はゼロ……」


「今まで何人も其方に送り出しているが、未だお前の痕跡さえ見つけられない……。やはり、もう……」


「経済的にも戦力的にも貴族派の力をここ迄削いで来た!長い時間をかけた根回しも実りつつある!お前の目指したこの世界の民主化まで、もう目の前だっていうのに!!」


「…………畜生!何故こんな!おまえが何をしたと言うんだ!突然こんな世界へ連れて来られ!家族からも引き剥がされ!勇者に祭り上げられた挙句、敗戦責任を押し付けられて人身御供だ!そしてここまで来て、最後はこんな風に命を奪われるだと?!ふざけるなよ!!!」


「結局……結局オレは守れていない!こんな世界の為にお前を!!畜生!畜生っっ!!」


「オレはどうしても許せない!お前から全てを奪ったこの世界を!お前を奪ったこの世界を!!」


「わかってる……わかってるよスズ。でも駄目だ。お前の居ないこんな世界……オレは……オレは!……スズ。…………スズ!!」



     ◇◇◇



「……スズ、分かったよ碑文の意味するところが」


「決めたよ……。オレは扉の向こうを目指す」


「分かっているよスズ。お前ならそんな事は許さない。……確かにオレにもこの世界にも守りたいものは出来た」


「でも駄目なんだよスズ!お前が居ないこんな世界では!!」


「…………オレは奴の口車に乗る事にした。石の場所は分かっているからな。オレは居るだけで何もしない神の力になどには頼らない!」


「そして盃を手に入れる。それがどんな非道な行いとなろうとも……」


「大丈夫だ……。大丈夫だよスズ」


「連続する時間全てに存在する扉の先に手が届くのなら……そこに、お前ともう一度会える可能性があるのなら……オレは!その結果、この世界が滅ぶ事になっても!」


「大丈夫だスズ。オレ達はまた会える。逢って見せる!……涼香!」




    -**--*--**--*--**--*--**--*-




「スーちゃん起きて」


 アルマさんの静かだけど僅かに緊張感の含まれた声で、わたしは瞬時に目を覚ます。

 声はテントの外からだ。

 反射的に、テント内の枕元に置いてある折り畳み式の置き時計を見ると、夜の11時を指そうとしているトコロだった。

 夜警の交代時間にはまだちょっと早い。

 なるほど緊急事態か。

 すぐさま寝袋から這い出て、アルマさんに起きた事を伝えながら、装備を身に付けテントの外に出る。


「広範囲から此処に向けて、複数の敵対反応が向かっているの。既に幾つも迎撃してるけど、スーちゃんにも奇襲に備えて欲しいの」

「奇襲……です、か?アルマさんでも把握し切れない相手、だと?」

「地中を移動しているものが随分居るのよ。土の中だとハッキリと場所を捉えられないのよね」

「それは厄介です、ね」


 アルマさんの索敵魔法は、空気の振動を捉えて索敵範囲内の状況を捉えるのだそうだ。

 地上を進むもの、空を飛ぶものなら、ほぼ完全に把握出来るのだとか……。

 つくづく、アルマさんの索敵魔法はとんでもないよね。


 だけど地中を動いていると、ある程度その移動の振動で捉えられるけど、残念ながら正確な位置までは分からないのだとか。


「ああいうのなら楽なんだけどね」


 そう言いながら、アルマさんが顔を前方の山の上へ向ける。

 その目線の先のはるか彼方には、コチラに向かって飛来する二体の魔獣。

 距離にして500メートルほど先。上空100メートルってトコか?

 この月明かりの中、これだけの距離ではさすがに視認はまだ難しい。わたしは自前の探索で分かっているけど、アルマさんもご自身の索敵魔法で捉えているのだろう。


 ソイツらは結構なスピードで飛行していた。

 身体もそこそこ大きいから、距離が100メートルを切った辺りで十分目でも追えるようになる。

 それは『ピグミールフ』と呼ばれる大型猛禽類の魔獣だ。

 体長は2メートル近い。脚が普通の鷲なんかと比べると、アンバランスなほど長くてデカい。爪なんて、人くらい余裕で掴み取れる大きさだ。


 距離が5〜60メートルまで近付いた所で、アルマさんが手を胸元まで上げ、片手で印を結ぶ様にして魔法名を唱えた。

共鳴斬レゾナント・スラッシュ

 アルマさんのコールと共に、光のラインが地上から空に向かって描き出された。キィンと耳鳴りの様な甲高い音が辺りに響く。


 そのラインは黄色の光を放ちながら、猛禽類達を横切る様に動いた。同時にその身体が、光がなぞった場所で綺麗に切り分けられる。

 魔獣達の断末の声が夜空に響いた。


 更に続けて、2本目3本目のラインが空に走る。

 アルマさんの指先が、ラインを操る様に細かに動く。


 複数のラインが、魔獣達の身体を更に細かく切り刻む。

 最早魔獣達は、まるで細切れにされた紙屑だ。

 うわ、エッグいわぁ……。と思ってアルマさんを見たけど、なんだか少し難しい顔をしている。


 そのアルマさんの目線の先にある、魔獣達の残骸に再び目を向けて見ると……なんか動きがおかしい。

 風に巻かれて落下している筈なんだけど……、なんかウニョウニョ?

 あれ?空中で破片同士がくっ付いた?


「あれはノソリ君が見つけた『線形魔力生命体エーテリアルワーム』じゃな」


 いつの間にか傍に来ていたモリス先生がそう口にした。

 そうか、あのウネウネにはそんな名前が付けられていたのか。全然知らんかった。え?わたしが聞いていなかっただけ?


 そうこうしてる間に、魔獣達の破片はどんどんくっ付き合っている。前に街で見た魔獣よりも回復力が高いのか?

 そして幾つもの欠片は遂にひとつの塊に!

 なんと2匹いた魔獣がひとつになったのだ!!

 でもなんかグチャグチャした形だ。翼なんかは四つもあるけど全然飛べてないし、やっぱ結局落下してるし!

 あれじゃただの肉の塊じゃん?!キモいわッッ!!


 そこでアルマさんが指をひとつパチリと鳴らす。

 すると、一際太い光のラインが上空の魔獣の肉の塊に向かって伸び上がった。


 光の柱が塊に命中したその瞬間、激しい音を響かせてその肉塊が爆散した。

 汚ねぇ花火でつか……。


「コイツら、切り裂いたくらいじゃ終わらないから面倒なのよね」

「うむ!やはりセイワシ君が言う通り、高圧魔力を打ち込むのは有効じゃな!」


 アルマさんは、ご自分の索敵内に入った魔獣を、今の様に片っ端からぶっ飛ばして処理していたそうだ。

 今の2体は、態々わたしに実演して見せる為、見逃してここまで近づけさせたらしい。


「空から来る分には、楽で良いんだけどねぇ」


 遮蔽物の何も無い空からの敵は、広範囲に索敵を広げるアルマさんにとっては、単なるまとでしかない。

 索敵範囲に入った物から、順次撃ち落として終わりなんだそうだ。


 でもね……、とアルマさんは続ける。


「今日ばら撒いたチップだと、地中の相手にまで打撃を与える力は無いのよ」


 少し悔しそうにアルマさんが言う。

 なるほど。だからわたしにも警戒にあたれと仰ったワケか。


 索敵範囲外の超高空から来ることもあり得るだろうけど、それならばまとが索敵範囲内に入ってから狙って撃てば良いだけだ。

 しかし、地中からいきなり現れるとなると、出て来た所を叩くしかない。

 それはもう広範囲でモグラ叩きをする様なもので、かなり面倒臭い事になる。


 今のところ近距離では現れていないけど、いきなりすぐ目の前で複数の魔獣が出て来たら、厄介な事この上ない。


「だからスーちゃんにも警戒をお願いしたいの」

「なるほど」


 ならばと、わたしも探索で辺りを探ってみる。

 すると…………居るな。

 わたしの探索にも、コチラに向かって来る敵対反応が複数確認出来た。

 一番近いものは1キロも離れていない。大体5〜600メートルってトコ?


 腰のソードホルスターから白銀剣シルバーソードを抜き、右手の一本だけで一番近いターゲットに向け狙いを定める。

 地中を随分とジグザグに動いている。地層の硬い岩盤とかを避けて、掘りやすい所を選んで進んでいるのかな?

 いるのは『アースバーム』と呼ばれる、大型犬くらいのサイズがあるオケラの魔獣だ。


 射線上には岩盤とかが色々ゴチャゴチャとあるのかもしれないけど、まあ問題ないだろう。

 伸ばした右手で持つ剣先に軽く『氣』を籠め、細く細く絞った『インパクトブラスター』を撃ち出した。


 ゴッ!と圧縮された『氣』が辺りの大気を押し退けた。剣先から白い光と化した剣氣が伸びる。

 それは目前の山の中腹に到達し、一瞬でそこを穿つ。

 次の瞬間には、放った技が目標に到達した手ごたえを感じた。一拍置いて、山の向こうの大地が弾けたのが分かる。

 剣先を降ろしてから少し間を開け、ズシリとした衝撃音がわたし達の所まで響いて来た。


「……スーちゃん、オーバーキル過ぎ。やり過ぎ」

「はへ?」

「そんなモン撃ちまくったら、この辺の地形が変わりまくるじゃろが!!」


 アルマさんとモリス先生からダメ出しを喰らった!

 アルマさんは、現場の様子も索敵魔法で確認出来るらしい。凄いなアルマさんの魔法。そんな事も分かるんだ。

 それによると山裾に結構デカいクレーターが出来てるっぽい……。


 おふ……。まだ込める『氣』が多すぎるってか?

 もっと細く絞り込まないとダメだってか?ぬぅ~……どうしてくれよ。


「……いっそ複数を一度に狙ってみたら?」

「にゅ?」


 アルマさんの何気ない言葉に、『ふむ』と考えた。


 この前街で、犬の全身に居るウニョウニョを一度に狙ったアレなら使えるか。

 アレだと一度に沢山狙えるけど、一つひとつの威力が随分抑えられる。

 ここはいっちょ試してみよっかな。


 もう一本の白銀剣シルバーソードも抜いて、両手を上げて二刀を上方へ突き上げた。

 そのまま探索で、自分の索敵範囲内の敵全てを把握する。

 捉えた数は全部で64体。内、地中に居るのは31体。結構いるな。

 でも狙う数は百も無い。楽勝だね♪

 一つひとつをシッカリ捉え、そのまま一気に『インパクトブラスター』を撃ち放つ。


 上空へ撃ち出された『インパクトブラスター』は、直ぐに花火の様に大きく開く。

 そして細かく分かれた白いラインが、其々狙ったターゲットへと向かい落ちて行く。

 直ぐに連続で地を穿つ衝撃音が響き渡った。よし、特に大きな土煙とかは上がって無いな!


 狙ったターゲット本体は……うむ、問題無い。全部綺麗に爆ぜている。

 どうですかお客さん?!とばかりにアルマさんを振り返って見れば。なにやら中空の一点を見詰めておられる。


「…………うん、それ程地表の被害は大きく無いわね。それ程までは……」


 また索敵魔法で、着弾地点周りの様子を確認しているっぽい。

 それによると、ボコボコあちこちに穴は開いているけど、大きなクレーターみたいなものは無い……らしい。

 大きなものはね!……と釘は刺された。


「今ので、この一帯の魔獣は地中の物も含め全滅ね。まだ2~30キロ先にはいるけど、此方に来るまでには1時間以上はかかると思う」


 地上の魔獣は目に付き次第潰して行くから、もう焦る必要は無い。とアルマさんは仰る。


「でもなんで今、いきなり襲って来たんで、しょう?これまでは、魔獣の襲撃は無かったのでしょう、か?」

「野生動物は時折近くまで来ることはあったらしいんじゃが、魔獣の類いは一度も見ていないと言っておるぞい」


 モリス先生が、バイトさん達から話を聞いてまとめてくれたようだ。

 一週間前からココに居るバイトさん達の話では、やっぱここに最初から魔獣なんかは居なかったそうな。

 そりゃそうなんだよね。アムカムじゃ無いんだから、森に入ったら魔獣が襲って来るとか、そうある話じゃない。

 そう!アムカムじゃ無いんだから!



「不思議です、ね。何か特別な事でもあったのでしょう、か?」


 こんな多くの魔獣が、突然自分の縄張りでも無い所へ集まり襲って来るなんて、なにか特別な事でも起こらない限りある筈が無いのだ。

 一体ココに何があると言うのか?

 と、そんな疑問を口に出したワケなのだが……。何故かモリス先生とアルマさんが、妙に生温い目をわたしに向けて来る。……あ?バイトさん達も、か?


「……な、な、なに、か?」


 ちょっと小首を傾げて聞いてみた。


「スーちゃん……かな?」

「うむ!姫さんの魔力じゃろ」

「はい?」


 アルマさんもモリス先生もわたしのせいだと言っている?なんでよ?どゆ事よ?!


「アレだけの魔力量を一度に放てば、否が応でも目立つじゃろが?!魔獣共が反応しても不思議は無いじゃろ」


 いや!そりゃ元はわたしの魔力だけれども!だけれども?!

 使ったのわたしじゃ無いジャン!

 わたしのせいみたいに言うの、ヒドくなくない?!

 ちょっとムクれちゃっても良いですかしらっ?!


「あとはやっぱり……この場所に手を出されたくない誰かが居る……とか?」

「アルマさん?」

「その誰かが、放出されたあまりの魔力量に流石に看過できない、と脅威を感じた……とか?」

「……それってどう言う?」

「そんなが居るのかも知れないって事」

「…………」


 少しばかり抗議をしてくれよう!と息を巻いたのだけど、何処かを見詰めながら語るアルマさんの声と表情にまるで温度が無い。

 その有り様に、思わず戸惑い息を飲む。


 アルマさんは一体何を言おうとしているのだろう?

 その意味を教えて貰おうとした時、高速でコチラに近付く反応をひとつ捉えた。

 それはかなり小さい。そして敵対反応を示す物では無い。


 夜だけど直ぐにソレを視界に捉えた。

 見慣れた魔力を纏っていたからね。

 あれはクレイゴーレムの『ハト』だ。きっとビビが飛ばした物だろう。ハッキリとあの子の魔力を感じる取る事が出来る。

 『ハト』はかなりな速度で一直線に飛んでいる。恐らく時速にすれば100キロ以上は出ている筈。


 それでも近くまで来ると翼を広げて制動をかけ、瞬時に速度を落とす。

 そしてわたしの目の前までゆっくりと降下して来た。

 わたしは『ハト』を迎える為、左腕を目の高さまで上げる。『ハト』は迷う事無くフワリとその腕に取り付いた。

 そのまま『交感』をする為に、『ハト』を自分の額に近づける。

 『ハト』が額に触れると、そこに込められたメッセージが流れ込んで来た。


『キャンプ地に於いて大規模な襲撃を迎撃中!至急合流されたし!』


 ビビの切迫した声が頭の中に響く。

 本当に緊急だったのだろう。ハトには本来もっとずっと長いメッセージを込める事が出来るのに、収められていたのはこの短い一文だけだった。


「……何かあった?」

「『野外授業』が襲撃を受けている様、です」


 アルマさんの問いに、静かに答える。

 ビビ達とは、何かあった時にはお互いハトで連絡を取り合う手筈になっていた。

 そんなビビからの緊急連絡だ。


 あの子達なら、アムカムでもないこの辺の土地で、多少の魔獣が湧いたとしても十分対処が可能な筈だ。

 大抵の事なら自分達で何とかしてしまうだろう。

 しかし、ハトのメッセージからは事態が切迫している事が伝わって来る。


 理事長様たちは、襲撃がある可能性を危惧しておられた。

 でも、そんなイザという時の時の為、ルドリさん達バウンサーチームを幾つも付けていてくれたのだ。

 それでも、こんな風に援軍を求めて来るとは……。その緊急性が窺い知れる。


 アルマさんはさっき、ここに何かあるのでは?と言った。

 カレンの実家があり、彼女の不幸が始まったこの山に。


 この山の調査を始めた途端に襲って来た魔獣達。

 しかも例のウニョウニョを体内で飼い、超回復をもつ魔獣ばかりだ。

 これはあの時、街でカレン達を襲った魔獣共とは無関係か?

 そして時を同じくして、今カレンの居る『野外授業』も襲撃を受けている。

 果たして襲って来ているのは何者なのだろうか?

 あの行方知れずの元長男は今どこに居る?


 わたしの中で何が1本に繋がろうとしていた。


「行くのね。スーちゃん」

「コチラをお任せしても、よろしいでしょう、か?」

「大丈夫よ。おかげで対策を準備する時間は出来たから」


 アルマさんは腰のポシェットから出した、例の木製チップの表面に指先で何かの印を刻んでいた。


「新しく刻んだコレを撒くわ」

「あれはバティン線文字じゃな」


 次々と刻んだチップを量産するアルマさんを見ながら、モリス先生が刻んでいる物の事を教えてくれた。

 先生は、わたしの横でバイトさん達に指示を飛ばしている。バイトさん達は何やら荷物を持ってあちこち走り回っていた。


「あの文字一つひとつに魔法効果が籠められておるんじゃ。アルマ姉ちゃんはバティン魔法の使い手じゃからな」


 バティン魔法と言うのは、現代では失伝されている古代魔法だ。

 学校の授業でも、かつて存在していた魔法の一系統だと一文が載っているだけで、詳しい事は何も分からない。

 そんな魔法の使い手だと言うアルマさん。

 ひょっとしてこの方もンの凄い人なんじゃなかろうか?

 いや、凄いのは今日一日で十分わかったんだけど……。この方の底が全く見えない。


「これなら地中に反響エコーを飛ばして、正確に場所を特定できるわ。その上で捉えた地中に魔法の発動も可能よ」


 そう言いながらアルマさんが、新たに刻んだ手の中のチップを次々と風に飛ばして行く。

 発動出来る魔法は、『石封ペトリファイ』という対象を石に封じ込める魔法なんだとか。

 地中で発動させる為、効果はかなり高いそうな……。正に「いしのなかにいる」だぬ!


「こっちも準備が整ったぞい!」


 モリス先生が声を上げたのでそちらを見ると、何やらスティック状の物が突き出た四角い箱を持っていた。

 なんだろ?よく爆発の起爆に使うスイッチ的なアレに見えるが?


「こんな事もあろうかと用意しておいた『岩石鍛造ロックフォージング』の積層筒型魔方陣マジックチューブを使うぞい!姫さんが魔力を詰め込んだ魔法蓄積筐体マジックカートリッジの魔力を転用するアダプターも接続済みじゃ!これでほぼ無尽蔵に使い放題じゃよ!ガハハハ!」


 おおぅ!頂きました『こんな事もあろうかと』

 ありがとうございます!


 この『岩石鍛造ロックフォージング』という魔法は、強固な石壁を作る物で、砦などの防壁制作に使われる物だそうだ。

 籠める魔力量が大きければ地面の中にも壁が作れるので、今回のように地中から迫る敵に対しても効果が見込めるのだとか。


 バイトさん達がさっきから走り回ってキャンプ地を囲う様に設置していたのが、その『岩石鍛造ロックフォージング』の積層筒型魔方陣マジックチューブらしい。先生が手に持っている起爆スイッチみたいのが、それの起動スイッチなんだそうな。


「だから安心して行って来て良いわよ」

「ありがとうございますアルマ、さん。モリス先生もくれぐれもご無理はされません、ように」


 アルマさんが、チップを次々と風で飛ばしながらそう言ってくれた。

 わたしはお礼を述べ、モリス先生にもご無理はされないように伝える。

 お2人は「行ってこい」と笑って送り出してくれた。


 わたしはすぐさまそこから走り出しす。装備は既に全て身に付けている。目指すのは、午前中まで居たローハン火山の麓の自然公園。

 全力で『野外授業』の場所まで戻るのみ。

 時間は恐らく余り無い。だが必ず間に合って見せる。


 そうだ!セイワシ先生に相談しながら改良したアレを使ってみよう。

 今度こそ、音の壁を超えてやろうじゃないか。





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