第9話スージィ・クラウドのサバイバル その2

 

 わたしが野営地に選んだ小山は、それ程高い物では無い。

 周りにはここよりも高い丘陵が幾つもあり、周囲から見れば埋もれている。


 北側にある丘陵を下れば、そこでセーフゾーンが終わりになる。

 その北の丘陵の上に、アリア達が陣取っているのが分る。


 セーフゾーンの外側を警戒する様に此方をガードしてくれているのだと思う。



 今は太陽も真上にかかり、もう昼時だ。


 テントも張り終え、野営準備は大体整った。

 『ブラウンクロウラー』を相手に時間取られた位で、結構順調に作業が進んだおかげかな?




 テントは木と木の間にロープを張り、それに引っ掛ける様に三角テントを張った。

 三角柱を横に倒した感じだね。

 東西の木の間にロープを張ったので、東側を出入り口にした。

 ちょっとした竈もその脇に拵えてある。


 トイレも……作った。

 陽のあたり難い北側に作るのがベストなんだろうけど、北側にはアリア達が居る丘陵がある。

 絶対見られる!!ゼッタイヤダ!!

 でも日の当たる南側は違う気がするが、そんな事は言ってられない!

 なので南側に穴を掘り、その周りを伐採した木で杭を作り囲う事にした。

 なんだかたった一週間の仮設の筈なんだけど、ちょっと本格的な物になってしまったかしらん?


 前に野宿してた時は、トイレの事なんて気にもしてなかったんだけどなぁ。


 常に水辺だったから、そこで用を足してたし。

 何より『女の身体おもしれーーっ!!』とか言いながら、かなり恥ずかしい事をやっていた。

 今考えるととんでもない!あんなの只の変態だ!!思い出すだけで顔が火照るのが分る。

 何であんなこと出来たんだろ?!あーーっもうヤダヤダ!


 だけどあの時は最初は夢だと思ってたから、もしやってしまったら布団が大変な事になる!いい歳しておねしょとかシャレに成らねーっ!って限界まで我慢してたんだよね。

 でも限界超えて、致してしまってから『はっちゃけた』ってのもある。

 だからと言ってアレは酷いワ!バカなのかわたし?!信じらんないよ!!



 はぁ……でも今思えば、あの野宿の時はアイテム使いまくりのチート野宿だったんだよねぇ。

 テントも一瞬で出し入れ出来て、手間要らずだったし。


 でも今回は、ちゃんと自分の手で一からやるんだ!わたしも成長したと云う物だ!ウン!

 なんてったって、獲物の解体が出来るんだよ!わたしは!


 鳥の羽も毟らないで火に入れるとか、何処のボンボンよ?!バッカじゃないの?

 ちゃんと鳥は裸にしてバラそうよ!ねぇ?



 そんな事を考えながら、石を積んで作った竈でお湯を沸かし、食事をする準備を始めた。

 さっきからお腹が、クークー鳴き出してるのだ。

 聞いてる人が誰も居ないから良い物を……、この辛抱無しめ!

 

 それにしても……、やっぱり今回の野営もチートなのかな?何よりこの魔法が便利なのよね!


 ポットに入れた水も、水属性の魔法で呼び出した物だ。

 ちゃんと必要な量だけ出せてるのがエライでしょ?

 いきなり軽自動車並の水球出してた奴とは、もう人間が違うのですよ!


 ま、こういう微調整できるからこそのチート野営かもしんないけど……やっぱ便利よ。


 穴を掘るのも土属性で一瞬だしね。

 これはわたしが全属性持ちっていう、十特ナイフ的な便利存在って事もあるのかも。


 取敢えずわたしはお茶を入れ、お弁当を開きお昼にする事にした。


 これはお家から持って来る事を許された、唯一の食糧にして食事。

 塩、胡椒と幾ばくかのハーブは携帯を許されているけど、食料は基本現地調達なので、これが試練中、最初で最後の日常的な食事になるのだ。


 それはソニアママから「大事に食べるのよ?」と渡されたお弁当。

 小さなバスケットの蓋を開けると、現れたのは鹿肉のカツサンドとBLT。

 初めてソニアママに作って貰った時のお弁当だ。


 パクリと一口頂くと、口の中に広がる甘辛いソースの風味。


 あ、やっぱりあの時と同じ味だ。


 嬉しさを感じたのと同時に、グニュっと視界が歪む。


「ゥエ……エぐ……え、うぇ……」


 勝手に嗚咽が漏れる。

 涙も後から後から零れてくる。

 思い出の味が何かを溢れさせて来た。


 これで暫くはソニアママの手料理が食べられない。

 試練が終わるまでは、ソニアママにもハワードパパにも会えない。


 そう思ったらドンドンに勝手に涙が出て来た。


 たった一週間なのに、何でこんなに簡単に泣けてしまうんだろうか?

 お二人に会えないと思っただけで、泣いてしまうなんて……。


 あの日の夕食時にも思ったけど、ホントに幼い子供みたいだ。

 わたしのこの新しい身体の精神は、それ程に未成熟なのだろうか?


 寂しさに心が千切れそうになるのを感じながら、お弁当を口にした。

 一口一口噛み締めて、涙と一緒に嚥下する。



 食後のお茶を口にする頃には、心も落ち着きを取り戻していた。


 心がどんなに乱れていても、直ぐに落ち着きを取り戻せるのが我ながら凄い所だと思う。


 別に無感情になっているのでは無い。

 ちゃんと心が感じた波を包括しつつも、精神は落ち着いている……そんな感じだ。

 これが精神と云う水面が、深く広くなっていると言う事なのだろうか?



 それにしても、……迂闊だった。

 迂闊にも、カツサンド一つであんなに泣いてしまうとは……出がけにハワードパパに心配されてから、まだ数時間しか経っていないと言うのに何と云う事だろうか。

 ハワードパパに知られる訳には行かない!これはシッカリと秘匿事項としておかねば!!


 ハッ!だが待て!ココはアリア達からの視界内だ!

 護衛しているアリア達から完全に見えなくなるのも、彼女達からしたら都合が悪いかな?と藪や木を適当に刈り込んで、ギリギリ見える様にしてしまった。

 食事してるこの場所は、アリア達からの視界はクリアの筈!


 クッ!食べながら泣いてる所を見られたかもしらん!

 ひ~~ん!アリア!お願いだからパパには内緒にしておいてくださいぃ!きっと滅茶苦茶心配されてしまうぅぅ!



 ……はあ、それでも何時までもへこんでる訳には行かないし、やる事はやっておかないとね。

 それでも、野営の準備は半日で済んじゃったからなぁ。

 ホントなら野営地の下地作りからの準備なんて、丸一日は掛る物だと思うけど……やっぱ、魔法ってチートだよねぇ。


 食事を済ませたばかりだけど、早いうちに食材の調達も考えないとね。

 持って来た食料は、今食べたお弁当でおしまい。

 それ以上持つ事は許されていないから、残りの一週間、食料の調達は現地でしなければならないのだ。



 取敢えず、もう少しココを片付けてから狩に出てみるかな。


 先ず、トイレ周りを囲った木材の余りを薪にしてしまおう。

 でもこれだけじゃ一週間分には少し足りなさそうだから、あと適当な木を何本か伐採しようと思う。


 薪にする事が前提なので、直径20センチほどの木を選んで切り倒した。

 今度はブッシュナイフに氣を纏わせて切って見た。

 剣ほどの量は籠められないけれど、結構簡単にスパンスパンと切れてる。


 こりゃもしかしたら棒っ切れなんかに氣を通しても、同じ様にスパッと切れたりするかもね。

 ちょっと試してみよかな?


 その辺に落ちている枝から払った小枝の中から、適当な物を選んでみた。

 ズイッと氣を纏わせてみると、ブゥンってな感じで小枝が氣に覆われた。

 小枝の周りに、薄い光の膜が覆っている様なイメージを感じる。

 なんかライ〇セーバーみたいだ!

 振り回すと、ブゥゥンブウゥゥゥンとかって音を出してる感じがして、スんゲーアガるんですけど?!!


 そのまま近くの幹を切り倒すべく、握った小枝を振り切った。


 ガスゴゴンッ!!ってな感じの音を響かせ、幹が粉砕された。

 切れたのではない、ブチ折った感じだ。

 持っていた枝も、バラんバランに砕けてしまった。

 もう中から爆散して裂け散った感じ。

 木の方も無理やり折られ、とても綺麗に切れているとは言えない状態だ。


 フーム、コレはどう云う事だろ?

 状況だけで判断すれば、持っていた枝には、物を切るだけの鋭利さが無かったって事かな?

 ただ氣を纏わせただけだから、ただの『丈夫な枝』になっただけ……とか?

 ンで、わたしが木を叩き折るだけの力籠めたから、枝の方が耐えられなかった

……てな感じかなぁ?


 うーん、この砕けた枝も、もう少し多目に氣を籠めたら、それだけで砕けそうだったしなー。


 やっぱ、その辺の枝に氣を籠めて武器にするってのは、難しい話なのかなー。


 出来て精々強度を上げるくらいか?それも籠める量を上げ過ぎると砕けちゃう?

 でもピンポイントの強化なら、そんなに氣を籠めなくても済むのか?

 先の方だけ鉄並にすれば?分銅見たくすればメイスっぽく使える?


 イヤイヤイヤ!イヤ!メイス作ってるんじゃないし!木を切り倒そうとしてるんだから!

 なら、ピンポイントに、細いラインで強度の高い部分を作るか。


 それこそ枝に、剃刀の様な薄く鋭く強い刃を纏わせれば……できるかな?



 試してみよか……。


 新しく拾った枝を持って、一本の木の前で腰を落とした。

 切っ先……枝先か。

 枝先を右下に下げる様にして持って構えた。

 脇構えってやつだっけ?


 そのまま息を細く吐きながら枝に『氣』を籠めて行く。

 兎に角少ない量で剃刀の様に薄く薄く。


 あ、これエッライ難しぃ?!枝の中、すっごいでこぼこガチャガチャしてる手応えがある?!

 『氣』が通り易いって言えば通り易いんだけど、メッチャくちゃムラがある感じ?


 例えるなら、剣が舗装された道だとしたら、これは荒地だ。

 吸い込みは良いんだけど、アッチこっちにブツかって安定してない。

 無理クリ通すとパキッと折れちゃいそうだ。

 細かい調整、スゲーむずいんですけど?!


 コレ綺麗に通すには結構修練必要だな。

 ウム、この試練中にやる事見つけちゃったかな?


 ま、それはそれとして取敢えず目の前の仕事を片付けよ。


 腰を落としたまま、フッと短く息を吐き握った小枝を振り抜く。

 

 瞬刻。


 小枝を振り抜いた幹がズズズズっと、滑り落ちて行き、そのまま地面に倒れ落ちた。

 木が倒れた振動が足元に伝わってくる。


 フム、なんとか出来たかな?

 木は切れたけど、持ってる枝もボロボロだ。

 これは要練習だねー。


 でもコレ、使いこなせるようになったらチョット良いよね?

 その辺に落ちてる枝拾って、敵をバッサバッサとやっつけるとか、達人ぽくてカッコいくない?

 ウヒ、ちょっと頑張って練習しよ♪



 その後は切り倒した木々を、適当な長さに片端から切落として行った。

 竈に入るくらいの長さだから、3~40センチってトコロかな?


 練習も兼ねて枝に『氣』を纏わせて切って行く。

 上手く行ったり行かなかったりで、意外と時間を食った。


 切り揃えた木は積み上げて魔法を使う。

 火、風、水の三属性を組み合わせた《ドライ》。

 木の内部から水を吸出し、熱風で乾燥させる魔法だ。


 生木が一瞬で薪になるとか、やっぱ魔法ってチートだわ。

 薪の乾燥なんて普通なら、2年くらいかけないとイケないんじゃなかったっけ?



 刈り取った藪と薪の山を片付けて、やっと野営地が落ち着いた感じかな?


 修行を兼ねた薪作りが意外と時間かかったね。

 もう4時を周ってる。


 春先の昼はまだ短い。

 直ぐに陽も暮れる。


 本当なら初日は、野営場所の確保が出来れば良いみたいなんだけど……。


 どうせだ、狩りもしちゃえぃ!

 獲物もさっきから感知範囲に居るの判ってるしね!

 サクッと獲って来ちゃおっと♪


 実はわたしには、ここから100メートルほど東に獲物が居るのが視えていた。


 一応、剣をソードホルスターへ戻し装備を整える。

 そのまま速やかに獲物の元へ向かう。


 あ、でもバカみたいな速度はださないよ?あくまで常識の範囲内での早い動きよ?

 人の眼があるんだからその位の配慮、わたしにだって出来るのですよ?


 足音を立てぬように気を遣い、その場所へ向かう。

 そこは小さな谷で、水も流れてちょっとした沢になっている。

 ソイツは沢の岩陰から鼻先をヒクヒクさせ、顔を覗かせていた。

 角兎ジャッカロープだ。

 周りを警戒しながら水を飲みに来たのかな?


 距離はおよそ20メートルとちょい。


 クンカクンカ周りを警戒しているね?だがここはアイツから見て風下だ。

 こちらにはまだ気付いていない。

 隠行的な隠れ身スキルなんかを使ってる訳じゃ無い。

 ただ普通に息を殺して近付いている。


 ま、それだけでも気配が消えて、『岩化け』的な状態になってるかも知れないけどね。


 わたしは腰に吊るしているナイフシースから、スローインナイフを一本抜き、右手の中に納めた。

 そのまま間を置かず、アンダースローでナイフを投げ飛ばす。

 ナイフは縦の高速回転で地を這う様に獲物へ向かう。


 一瞬、角兎ジャッカロープは大気を切り裂く音に気付いた様だが、次の瞬間、トンッ!と眉間にナイフが突き立った。

 角兎ジャッカロープはその勢いで頭を仰け反らせ、そのまま動かなくなった。


 よし!仕留めた!


 結構でかい、体長は1メートルほど?柴犬くらいの大きさかな?

 コレで何日か分の食料が足りそうだ。


 とりあえずココは水場だし、このまま解体してしまおうと思う。


 ベルトに付けているポーチの一つから細いロープを取出し、手早く角兎ジャッカロープの後脚に結わい付け、そのまま手近にある木の枝に括り付けた。


 後はそのまま皮を剥いで行く。

 解体は、脚に括り付けてあるシースナイフを使って行う。


 この、足を残して股に刃を入れて切り開くって、中々画面的にエグイと思う。


 でも、初めてやり方教わった時は結構引いたんだけど、……すぐ慣れちゃったんだよね。

 やっぱりコッチ来てからグロ耐性、かなり上がってる。

 無神経になってるって事は、無いと思うんだけどな……。

 やっぱ、精神的な許容量が大きくなってるって事なのかなぁ?


 ズルンッと皮を下へ向けて引き摺り剥がす。

 シャツを脱がす様に綺麗に剥ける。


 そのまま角と耳を切り離し、毛皮を身体から取り払うと、もうお肉にしか見えない。

 直ぐに木から降ろして川の淵まで持って行き、お腹を開いて内臓を取出し洗う。


 川の流水で血を洗い流しながら、内臓も丁寧に洗って行く。


 身の方は今夜食べても良いんだけど、2~3日熟成させないとアンマリ美味しくないんだよねー。

 なので今夜はホルモンパーティーだ!


 新鮮な角兎ジャッカロープの内蔵は、かなり美味しいのだ!


 ジュルリっ!おっとイケナイいけない涎が……、わたしとした事がはしたない。




 陽が山の影に入って、谷であるこの沢はもう薄暗くなって来た。

 ここは、もう幾らもせずに暗くなる。

 手早く済ませてキャンプに戻ろう。


 

 綺麗に洗った内臓を、別のポーチから袋を取り出し、そこへ入れる。

 角兎ジャッカロープの身も布でくるんだ。

 後、この沢に食べられる野草もあったので、少し採って行く事にした。

 これも別の布で包み、直ぐに沢を出て野営地へと引き返す。


 野営場所へ戻ると、沢よりも少し高い場所にある為、まだ西の空に太陽が見えている。

 でも、後30分もしないで山の間に陽は沈んでしまうだろう。


 今の内に、竈に火を入れておく。

 一掴みの小枝と太い薪を一本持って来て竈に入れ、《ファイア》を唱えた。

 直ぐに小枝が燃え上がり、薪にも火が回っていく。


 ウム、やっぱ魔法チート。


 獲って来た獲物の素材を広げる。

 小一時間で結構な成果だねー、フフン♪


 ウサギの身は、2~3日保管して熟成させておきたいからね。

 これは、土の中に作った石壁の部屋に入れて置けば良いかな?


 あ、でもアバラ周りだけは今日つかっちゃお。


 まず内蔵を拾って来た岩塩を使い、ガシガシ揉み洗いする!

 砕いた岩塩を惜しみなく使って洗うのだ。


 身の方には持って来た塩を全体に揉み込んだら、アバラ周りを切り離して残りを石室に仕舞った。



 この石室作ったのもイイ加減チートだよね。

 土属性の《ロックブロック》で出した岩を、白銀剣シルバーソードで切り出して板にして組んだ物だ。

 今、まな板代わりに使っている石のテーブルも、同じく岩を切った物。


 ウン、普通、岩は切れないの……かな?……ウン。

 でもそれは、マーシュさんの腕がいいから!

 マーシュさんの打ったこの剣が、凄いって事なんだと思うな!ウン!そーいう事だ!おかげで私は楽させて貰ってるって事だね!あっはっはっは!



 そんな事よりも!……切り出したアバラ周りを、水と一緒に鍋に入れて火にかける。

 内臓も端々は適当にブっ込んじゃおうかな。


 ああ、やっぱり根菜が欲しいなぁ……。

 根菜と内臓だけで、美味しい煮込みが出来そうなのに……あ、そうだ!明日もう1~2羽狩って『もつ鍋』作ってしまおうかな?新鮮だから水炊きでも十分味出るだろうしね。



 摘んできた山菜も入れてしまおう。


 これは『ノビル』と云う野草。群生した細い葱みたいな野草だ。

 群生してるから雑草にしか見えないんだけどね。


 これは引っこ抜くと根元が丸い球根になっている。

 玉ねぎみたいに大きくないけど、らっきょ位かな?味は根生姜みたいで辛みが美味しい。

 このノビルの根は知っている物より随分大きい。

 これを刻んで入れれば臭み取りになりそうだ。


 他に『フキ』もあった。

 これも知っている物より随分太い。

 この土地の『フキ』はセロリみたいな苦みがあるけど癖になるんだよね。

 スープに入れれば良い旨味が出てくれるから、コレも入れちゃおう!


 フキは一度小さな別の鍋で湯がいてから周りの筋を取り、一口大に切ってスープに入れた。


 コトコトと丁寧に灰汁を取りながら煮詰めて行くと良い感じになってきた。

 塩コショウで味を調え、持って来ていた香辛料ガラムマサラを一摘み入れてみる。

 ををぅ!いきなりスパイシーな香りになったよ?!

 一口お味見してみる……ウン、スープはこんなもんか?




 ふと気が付くと陽は沈み切り、周りはもう真っ暗だ。

 明かり一つない森の中で、竈の火だけが辺りの闇を開いている。

 その火の明るさが、付近をオレンジ色の世界に変えていた。


 ちょっと鍋に夢中になり過ぎてたかな?


 ランタンに竈から火を移し、テーブルの上にその小さな照明を添える。

 さて、ディナーを始めてしまおうか。


 スープをお皿によそって、竈の上に網を載せ替えた。

 この上でホルモンを焼きながら頂くのだ。

 ホルモンには岩塩を洗い落とした後、持って来た塩と胡椒を揉み込んである。


 焼き上がるまではスープを啜る。


 うん、角兎ジャッカロープの出汁が凄い出てる。

 やっぱり根菜があった方が、もっと味に深みが出るのかな?

 でもこれはこれで美味しい。

 なんともワイルドな味わいだと思うよ。


 やがてホルモンも焼き上がって来た。

 ああ、立ち昇る匂いが堪んない!!


 白味でクルンと丸まってる身を、早速口へ放り込む。

 噛み締めると、ジュワリと脂が口の中に広がって行く。


「あ……うっま!シロコロ、うぅンまっ!!」


 嘗てよく食べていた物とは違うけど、それ以上の美味しさと言って良い!

 あぁぁ……脂が、脂がホンットにおいしぃーのぉぉ!

 ハツがまたコリコリっと!

 塩で頂くレバーがまた!やっぱ新鮮だからこそこの旨さっ?!


 ビールがっ!ビールが欲しいぃぃ!

 ビールをください!ビールをぉぉぉぅ!!


 ……っと、失礼しました、つい魂の叫びが……それ程もでにホルモンがンまい!



 まあ、さすがに今の14歳で飲酒はOUTだしね。

 何時かお酒が飲める様な歳になったら、ホルモンでビール行きたいわよホント!

 飲酒が認められるのは二十歳だっていうんだから、マジで法治国家だよねココは!


 でも、この世界にビールがあるのは知ってるんだ!

 ハワードパパはビールは余り飲まれないんだけど、モルトウィスキーがお好きらしく、よくお1人でチビチビとやられている。

 いつの日か、ご相伴にあずかれれば良いなーとは思ってるけどね。



 いつの間にか、用意していたホルモンは綺麗に食べ尽くしていた。

 スープは明日の朝、朝食として頂くつもりだから、まだ残してあるけどね。


 食器を洗って片付けたら、速やかに寝る準備をしてしまおう。

 今朝も早かったし、夜の森の中で夜更かしするってのも、何だかなーと思うしね。


 まぁ、前の野営時は、大体の時間は……いたしていた……ワケで……。

 こ、今夜も……しるけど……ね。

 うん、やる事も他にないしぃ……さっさとテントに入って……しまぉ。


 と云う訳で、周りを片付け、竈に魔獣除けの香木を投げ込んでテントに入った。

 この香木からの煙は、セーフゾーンに居る様な弱い魔獣位なら、近づけさせないのだそうだ。

 だから一欠けら火にくべれば、セーフゾーンなら朝まで安心して過ごせるんだって。



 テントの中に入ったら直ぐに装備を外して、肌着だけになってシュラフに潜り込んだ。

 ホントは毛布が良かったんだけど、ちょっと嵩張るからねぇ。

 たった一週間だし、小さく畳めるシュラフにしたのだ。

 でも十分に温いわ。


 さて、森の夜は長い。

 これから一週間こうして過ごす訳だしね、十分楽しもう♪


 あ、声は気を付けないと!

 森の中では、大きい声出しても良いと自分の中で約束事として出来ちゃってるからね!注意しないとイケナイよね!

 さすがに大丈夫だと思うけど、アリア達に気付かれたら大変だものね!!


 そうだ!あした朝……起きたら下の沢で……水浴びも、しないと……ね……ぅン。


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次回「ミリー・バレットの報告書」

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