28話スージィの思惑

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「スズが送り出してくれた人達、上手い事こっちに根付いてくれてるよ」

「ホント?良かったぁ。中央では、ヒューマン以外の人達への当たりがきついから……」

「ふん!連中、中央至上主義が酷いしな。貴族共や元老院が今のままじゃ……存在してる以上はどうしようもない」

「……そうだよね。どうでも良い事で、簡単に犯罪者や奴隷にまでしようとしてるのって、わたしやっぱり許せなくって……」

「コッチに来て、皆ノビノビしてるよ。アムカム西の平地に住処を作り始めたグラスフットは、色んな作物の栽培に手を貸してくれてるし、エルフは森の瘴気を散らす為に、色々と工夫をしてくれている。ドワーフ達なんかは殆どがウァードの鉱山に籠りっきりだ」

「ウァードの鉱山?あそこにドワーフ達が籠る程の鉱脈があったの?」

「うん、なんでもウァード村の鉱山って、希少なミスリルやグラビステン、果てはマナデュウムまで採れるって話でさ、目の色変えて山に籠ってるよ」

「あはは!凄いね!やっぱり送り出して正解だったね」

「うん、採れた鉱物は、鍛冶場を作ったコープタウンへ送って、そこで装備も作って貰ってる」

「へぇー、ひょっとして村の戦力強化に繋がってる?」

「ああ!装備の魔導効率が全然違うんだ!なんでも、アムカムで採れる鉱石の魔導性が、他の土地の物とは段違いなんだってさ!」

「へぇぇー!そうなんだ?!全然知らなかったよ!」

「今は浅層の魔獣程度、村の大人なら苦も無く処理してる」

「おぉーー!それは凄い!」

「魔獣の素材も、前より沢山手に入る様になったしさ。それを使った装備の性能も、今迄より効率的に上げられる様になったからね」

「やっぱり、ドワーフさん達の技って凄いんだねぇ」

「いや、その辺はエルフやハーフエルフの人達の技術かな?魔獣素材に、特効を付与する技術が凄いんだよ」

「なるほどー!天然素材だけに、やはりそこはエルフさんかー」

「そうなんだろね。アムカムに昔からある素材加工の技と相まって、今、凄い事になってるよ」

「ほほぉーー、ちょっと、どんな事になってるか気になっちゃうな」

「今、スズの専用装備、『勇者様専用装備』!を作って貰ってるからさ!それを身に付けたらきっと分かるよ」

「ちょ、ちょっと、『勇者様』って、止めて欲しいんだけど……」

「ハーフエルフ達が、素材加工した物を売る商をコープタウンに立て始めたからさ、それを流通させる為の商会も立ち上げたんだ」

「コープタウン?あの、馬車の待合に使ってた、小さい集落があったトコ?」

「そうだよ。今は、小さいながらも立派な町になりつつあるぞ」

「へぇぇー、何だか今日は感心する事ばっかりだよー。……それで、その商会は上手く回りそうなの?」

「……カライズ州の流通は、アルコンネン侯爵家が真ん中で牛耳っているからな」

「そう、そうだよね……やっぱり」

「だけど、今なら……、ドワーフ達が力を借してくれた今なら、強力な船を作る事も出来る。そうすれば、オセアノスと協力して、新しい航路だって開けるんだ」

「え?ドワーフさん達って造船技術も持ってるの?」

「いや、造船はオセアノスの技術だ。コチラからは強力な素材の提供だよ」

「そうか!アムカムの森の木材だね?大きな船体を作る為には、奥の……、強い魔獣の居る奥にある木を伐採しないといけない。でも今の戦力なら……」

「アムカムの森から切り出した木材は、下手な鉄板よりも丈夫だからな。ウチにはその木材を切り出し加工する技術もある」

「言いたいことが分かって来たよトール君。それを使って、海の商工ルート作るつもりだね?」

「そうさ!そうしてドッカリ胡坐をかいている奴らの足元を、今にひっくり返してやる!いつまでもアムカムを、アルコンネンや中央の食い物にさせておくものか!」

「……トール君。お願いだから無茶はしないで?あの人達が、そんな事を黙って見ている筈がない」

「大丈夫だよスズ、決して無茶はしない。あいつらが気付いた時には、その喉元に既にナイフの切っ先を当てている、位じゃないとダメなんだ!だから……、慎重に進める」

「トール君!わたしはアナタに、危ない事をして欲しくないって言ってるんだよ?!分かってるの?!!」

「大丈夫、大丈夫だから!怒るなよスズ!大丈夫、無茶はしない!危ない事もしない!ホントだからスズ!」

「ホント?本当に?本当に危ない事しちゃダメなんだからね?」

「しない、しないから、危ない事はしない。ホントにしない」

「ホントだよ?約束だからね?危ない事しちゃイヤなんだからね?約束だよ?」

「ウン、わかった、約束する。しないから、もう怒るなよスズ」

「……うん、トール君が分かってくれるなら……」

「そうだ!船が出来て、航路が使える様になったらさ、スズの装備を届けに行くよ!」

「え?!」

「海を使って大陸をグルっと回り込む事になるけど、必ず行く!」

「そんな、そんな事、出来るの?!」

「ああ!必ず、必ず1年以内にはお前の所に辿り着く!」

「……1年」

「待ってろよスズ、今度こそ必ず逢えるから!」

「今度こそ……、ホントに?ホントに?!!」

「ああ!必ずだ!約束しても良い!」

「……約束?」

「お前との約束を必ず守るって証明してやるよ!だから、1年待っていろスズ!」

「…………わかった。待ってる、待ってるからトール君!必ず来て!」

「ああ、約束だ!」

「……うん、約束……トール君」



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 今週に入ってから、村で14歳になった時に『初期クラス』の『ジョブ』を身に付けていたわたし達は、学園に入学して霊印エーテルシールを刻んだ後、『基本職』といわれるモノにクラスを上げる事が出来た。

 わたしは当初の予定通り、『占者ウァテス』から『吟遊詩人バード』になった。


 アムカムの皆も、それぞれ自分の上位のクラスへとクラスアップを済ませている。


「これで、何時Dランクになっても問題無いわね」


 と、クラスアップを済ませたわたし達を見回して、コリンが静かに頷きながら言っていた。

 ビビは「抜かりは無いわよ!」と胸を張って息巻いていたけど……。

 Dランクって冒険者組合のランクの事だよね?『ジョブ』のクラスを上げる事と、組合のランクアップとなんか関係あるのかな?よくわかんないぞ。


 それと、コーディリア嬢が言っていた『ノービス』と言うのは、初期クラスになる前の段階を指している。

 ビビはアルジャーノンを、小さい頃にお父様に頂いたって言っていたモノね。ノービス前なのは当然の事だ。

 そんでもってベアトリスさんは、テイマー職になるつもりは全く無いのだ。


 従魔系は、『吟遊詩人バード』や『マジシャン』から進める『召喚術士サモナー』から。

 又は『レンジャー』から派生する『テイマー』を選択すれば成れるんだけど。ビビは、今回自分が進んだ回復職である『詩い人フィリ』の最上位職で、お父様であるサイレンスさんと同じ『ソウルロード』を目指すと公言しているからね。従魔系に進む気は端から無いのよね。


 コーディリア嬢は基本職どうするんだろ?

 目指すと言っている『幻獣使いファンタスティカ・テイマー』って、『テイマー』から直系のマスター職だから、普通に考えればまずは『レンジャー』を目指すのが王道だ。

 でも、言っては悪いが、彼女はあまり身体を動かす事が得意そうには見えない。となるとやっぱり魔法職の方から入るのかな?


 来週からは、自分が希望する『ジョブ』に合った選択授業も始まるし、意外と彼女とはそこで一緒になるかもしれない。

 まあ、そうなったら、それはそれで楽しそうだよね!


 あ、因みに、入学早々この時期で『基本職』に就くのは、アムカム出身者くらいなんだってさ!

 大抵の子は、入学時に『ノービス』になっていれば早い方なのだそうだ。


 本来であれば、学園に入学してからじっくりと自分の適性を見極め、自分に最も適した道を模索して行くものなのだそうだ。

 最初の1年はその為にある様なモノだ、とアーシュラ先生も仰っていた。

 確かに自分の進むべき道だからね!シッカリと考えて答えを出して欲しいトコロよね!


 まあ、とは言っても、アムカムではそんなのんびりしていたら、生きては行けない。

 第一アムカムの子供達は皆、タグを貰ったら直ぐに『初期クラス』に就いて、1stファーストとして護民団の一員になる日を待ち焦がれているんだもの!

 魔獣を見た事も無い町の子供達と、常に魔獣の脅威がある村の子供達では、同じ価値観であるワケが無い。

 この辺のズレは、やっぱり致し方無いのかもしれないよね。



 カレンもそう言えば、まだノービスになっていないと言っていたな。

 二属性も適性があるので、魔法職に進むつもりだと言っていたけれど、カレンってばどっちかって言うと、身体を動かす系の方が向いている様に見えるんだよね……。

 まあ、こういう事は自分自身で決めるものだから、わたしはアドバイス程度に留めておく事しか出来ないけど。でもカレンには、後悔の無い選択をして欲しいと思う。


 カレンと言えば、寮に戻ってからルゥリィ嬢との事を少し聞いてみたけれど、やはりあまり話したい事ではないらしく、とても口が重くなってしまった。

 無理に聞き出すべきでは無いな、と改めて思ってしまう。


 それでも、ルゥリィ嬢とは顔を合わせたくないと言うカレンの気持ちは読み取れたので、少なくとも食堂や寮内とかの、わたしの目が届く場所では、シッカリきっちり目隠しガードをして行こうと思っている!


 でも、校内ではやはりクラスが違うので、同じクラスのコーディリア嬢にお願いしたいと思っていたんだけど……。

 どうも、この前の一件を気にしている様で、話をしようと近付いて行っても、彼女達、わたしと目が合うと、逃げる様に離れて行ってしまうのだ。


 わたしは気にしていないんだけどなぁ。


 あ、勿論、小動物共は別だけどね!奴らに対して、わたしは十分気にしている!!

 あいつらアレ以来、主人の呼びかけにも答えず、学園敷地内の森の中を逃げ回ってやがる。

 アルジャーノンめぇ、必ず捕まえてビビに引き渡してやるんだからね!!


 そんなこんなでしょうがないので、コーディリア嬢には間接的にお願いしようと思ってる。

 あの、顔色が悪かった背の大っきい方のお付きの子、あの子にアンナメリーにお願いして、ハーブティーを届けて貰うのだ。

 ハーブティーと一緒に、わたしが気にしていない事と、カレンの事をお願いする旨を書いたメッセージカードを添えて、コーディリア嬢に伝えて貰えれば……とか考えていたりする。


 勿論、カレンの事は直接お会いしてお願いするのが一番いいんだけど、今のところは顔を合わせてくれないからな~。

 なので、わたしの代りにアンナメリーにメッセンジャーをお願いしようと思っている訳です。


 でもアンナメリーは最近、寮の仕事だけでなく、学園の事務仕事の手伝い迄やっているという話で、意外と忙しそうなんだよね。


 だからと言って、こんなわたしの個人的なお使い仕事を頼まなかったりすると、「お嬢様のお世話こそが自分本来の仕事なのですから、何故お声がけ頂けないのですか?!」とか言っちゃって怒られちゃうんだよねーきっと。

 まぁ、空いている時間に、ちょろっと届けて貰えば良いかな?


 まずはカレンを、ルゥリィ嬢とニヴン家の子倅こせがれから、ガードする壁を構築するのが第一だしね。





「オイ!てめぇ!どういうつもりだっっ?!!」


「?」


 そんな思惑を巡らせながら、学園生活も軌道に乗り始めたなぁ、などと感じていた週の半ばのお昼休み。

 わたし達が食事をしている大テーブルの端で、声を上げているやからが一匹湧いていた。


 そちらに目をやれば、くだんのニヴン家の何某なにがしが、大盛汁おおもりしるだく玉入ぎょくいり牛丼を、今まさにかき込もうとしていたアーヴィンのシャツの襟もとを、横から掴み上げていた訳で。

 アーヴィンと言えばはソイツとは目も合わさず、盛大にわざとらしい溜息を吐きやがる。

 当然の様に相手は額にビキビキッ!と青筋を浮かび上がらせる始末。


 おいアーヴィン、今度は一体なにやったのさ?


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次回「騒がしい食卓」

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