27話小動物事変

「ふぅ、中々緊張感のある会談だったな」

「あら、そう?私は楽しかったわ」

「君は流石だよ、キャリー」


 そう言うと彼女は、実に楽しそうにクスクスと笑いだす。


「だって、ホントに可愛らしい子だったでしょ?一度くらい抱かかえておきたかったわ」

「ちゃんと我慢出来た君はエライよ」

「そうでしょう?!ホントにもう、それは凄く凄く我慢したんだから!」


 彼女は自分がどれだけ辛抱強く、強く意志を貫いたのかを力説している。

 それ程までに彼女は、その誘惑に抗う為に、大変な意志の力が必要だったのだと言いたい様だ。

 一体何を力説しているのやら……。


 確かにあの子は綺麗な少女だ。

 顔はまるで人形かと思う程美しく整い、光が当たれば髪はルビーの様に煌めく。

 彼女はそこに居るだけで、人々の目を捕えて離さない物を持っている。


 彼女を見たという生徒達が、女子男子問わず、興奮した様子で語っている所を幾度も見て来た。

 実際に間近で見てみれば、生徒達の興奮も頷ける。

 だが、そのコバルトグリーンの瞳は、見ていると深い海に沈んで行く様な気がして来て、少しばかりゾクリとさせられた。


「コリンやカーラ達から貰った忠告がありがたいよ。エディ、君の目から見て彼女はどうだった?」

「はい、私お嬢様のお世話をさせて頂く際は、出来るだけ気配を消させて頂いていたのですが、お嬢様は常に私めを捉えておいででした。アムカムの姫君は此処迄の物なのかと、このエド・ハミルトン、只々感服するばかりでございました」

「エディにそこまで言わせるのか……」


 エディは、このサロンの専門バトラーであると同時に、サロンを利用する生徒を護衛すると云う職務にもあたっている。

 そのクラスは『ブレーンウォーカー』と呼ばれる専門上級職だ。

 上位学科の実技講師も務める彼を以って、ここ迄言わせる彼女の実力が推して知れる。


「……あんなに愛らしいのに、少し突くだけでコロコロ転がって、とっても可愛らしいのに……」


 キャリーが頬に手を寄せ、思い返す様に呟き零した。

 目が少し潤んで、頬が僅かに赤味を帯びているな……。

 こんな風に、何かに心奪われている様な顔をしている時、彼女は碌な事を口にしない。


「あんなやわらかな子なのに……、もしも一度ひとたび抜き身の刃を突き付けでもしたら、忽ち此方の身体を一瞬で食い千切ってしまうのでしょうね。……正に顕現したアムカムその物。あぁ!ゾクゾクしてしまう!」

「だから恐ろしい事を言うのは止めておくれよキャリー。そんな事にならない様にするのが、我々の務めだろう」

「あら?分っているわよアンソニー。何度も言っているじゃない。私はあの子が素敵な子だと言っているのよ?」


 彼女はもう一度、自分はちゃんと節度と言う物を弁えている。などと言い出した。

 だからそういうトコロだから……。本当に勘弁しておくれよキャリー。




 アムカムの次期頭首が学園に入学する。

 その事は、少なからずこの学園内に波紋を生じさせた。


 僕達が住むこのカライズ州の者であれば、アムカムの名を、そのブランドを、知らぬ者など殆ど居ない。

 アムカムは、魔獣由来の高級品の生産地。

 その魔獣相手の経験を生かし、各地で魔獣退治を請け負うスペシャリストのホームタウン。

 アムカムに対しての、大方の認識はそんな所だろう。


 しかし、その真の姿を理解している者はそう多くはない。

 あそこは、生半可な者が手を出して良い所ではない。もしその逆鱗に触れれば、国さえも傾きかねない場所だ。


 アムカム本来の姿は、公にするべき物ではないのだ。知るべき者だけが理解していれば良いだけの話だ。

 我々はその関係を、そのバランスを、これまでこの街で上手く取って来ていた。

 これから先は彼女とも、その関係を上手く築いて行かなくてはならない。



 この先、アムカムの旨味にしか目の行かぬ者達は、どうにかして彼女に取り入ろうとするだろう。

 だが、そんな半端な連中に掻き回され、彼女や、アムカムの不興を買う事は全く持って望ましい事ではないのだ。

 そのような事態は起こしてはならないし、起こさせる気も無い。


 今回の茶会が、事実上この学園内でのトップ会談だったと、彼女は気が付いているのだろうか?いや、コリンの話では、あの子はそういう方面に気が回るたちでは無いと言っていた。


 まあ、それはそれで良い。

 要は、我々三人が会っていたと云う事実があれば良い。

 今はその事が皆に伝われば、それで良いのだ。





     ◇◇◇◇◇





 結局ラウンジから解放されたのは、会長がいらしてから30分以上経ってからだった。

 約束があるからと……つまりティーハウスでのバイトのシフトを、1時間ずらしてもらったので、もう学園を出ないと間に合わない。と言って解放して貰ったのだ。


 やっぱり仕事を丸っとバックレてしまうのは、学園の沽券に関わるからね!

 キャリ……キャロライン様はやっと諦めた様なお顔で、ラウンジの入り口まで来て送り出してくれた。


「このラウンジは、貴女だったら何時でも使えるのだから、好きな時にいらっしゃい?今度はもっとゆっくりお話ししましょうね?」

「は、はい、そうです、ね……」

「そうだわ!今度はあの子……、そう!コーディリア・キャスパー嬢と一緒にいらっしゃい。貴女方仲が良いのでしょう?」

「ぁ、えーと……」


 コリンは、今回のお茶会は単なる『顔見せ』だと言っていたけれど、それにしては何とも濃密にして消耗激しい時間だったような気がしるよ。


 コリンが言う通り、キャロライン様のお人柄が良いのは分かったけど、この方からはカーラ達と同じ匂いがするんだよね……。気を付けないと、本気でお持ち帰りされかねないと言う危機感がね!ビンビン感じちゃうワケよねっ!


「実に有意義な時間だったよ。これからも宜しく頼む」

「こちらこそよろしくお願いしま、す」


 ラインバーガー様からは、生徒会のご様子を少しだけお聞きかせ頂いたんだけど、なんか色々苦労してるっぽい。


「いや、ヴィクターは良くまとめてくれる。……まとめてはくれるんだよ」


 苦労話を多少やんわりと語られていたのだが、まあその主たる原因がアムカムウチの者の所為だとなると、そこはかと責任も感じてしまうわけで……。

 



 ヴィクター・フランクはカーラ達と同学年で、わたしらの二つ年上で、メアリーとシェリーのお兄さんで、そんでもって謎の物体Xだっ!


 あれは入寮した日、『薔薇園の惨劇』が起きたその後……実際には『惨劇』では無いんだけど……無いんだけどねっ!!

 皆んなで夕食を頂きに大食堂に向かっていた時、ソレはやって来た。

 いつもの様に音も気配も無く、誰にも気付かれずに身近に迫っていたのだ。


 だがしかし!わがし!!

 わたしとて、何時までも昔のままでは無いのだ!

 背後ににじり寄る、気配無きソレの移動線上に、わたしはスッと自分の肘を突き出す。


 絶妙のタイミングで突き出した肘は、見事に奴の水月を捕らえ「うげぃばろぼぉうぉぉっっ!!」と、人が出したとは思えぬ音を口から噴き出し、そのまま後方へと飛んで行った!


 YES!!


 ふふんだ!もう昔の様には行かないのだわさ!気配の無い相手でさえ、今のわたしなら容易く捉えられるっっ!

 わたしにとってヴィクターの恐怖など、最早恐るるに足りないのだよ!もう、幼いあの頃のわたしでは無………………


「さすがだよベイベェ……君がココ迄成長していてくれて、ボクは今心から感激しているよ!さあ、この先はボクが優しくエスコートして上げようね、ベイビィ」


 思わず目を見開いて固まってしまった。

 後ろへ飛んで行った筈のヴィクターが居るのだ。わたしの足元に!脚の間に!!仰向けに寝て上を見上げていりゅりゅりゅ!!


 ど、ど、ど、何処を見ているのかぁーーーーっっ?!!!


 おまけに奴は睦言を垂れ流しながら、わたしの脚に指を這わせ絶妙な力加減でサワサワサワーーっと動かして来りゅのらぁぁ!!!

「ぃいいいぃいいぃいやあぁぁぁああああーーーーーーーーっっっっ!!!!」

 わたしの喉の奥から勢いよく空気が噴き出され、魂からの叫びが辺りに響き渡った。


 同時に床の変質者の顔面をガツン!と踏み潰す!

 プギュルルッ!と何かが潰れた様な音が聞こえたが構わず踏み続ける!


 黒いアイツはこんな物じゃ死なない!こんなモンじゃ退治できないのよさ!!

 直ぐにわたしの声に気付いたカーラ、ジェシカ、アリシア、ダーナが飛んできて、一緒にGクラスの害虫を踏み付けた!


 ひぃぃっ!動いた!いっ生きてりゅぅぅ?!!はう!速いっ?!!

 ダメよ逃しちゃ!ダメよぉ!!絶対また生えて来るから!生えて来るからぁぁ!!

 ・・・!・・・・・・!!・・・・・・・・・!!!!



 とまあこんな風に、ヴィクターとの再会は悍ましくも騒がしいモノだったんだけれど……。


 でも、あんなのが学園内では、生徒会長に次いで女子人気が高いうえに、生徒会の副会長だなんて信じられますぅ?!!


 びっくりだよね?!ちょっと先輩女子達の神経が信じられないんですけど!

 きっとみんな騙されているに違いない!きっとそうだ!あんなんでも見た目だけは良いからね!見た目だけは!!


 その後に挨拶してくれたアルフォンスさんのトコのアローズは、やっぱり普通の人でとても紳士だったのに!

 普通って良いよね、ホント憧れちゃうわ!こんな紳士なアローズの方が、物体Xなヴィクターよりよっぽどモテると思うんだけどなっ!わたしは!


 でも、そんな女子人気のお陰なのか、生徒同士のトラブルの仲裁(特に女生徒間の!)は上手く纏めてくれるのだそうだ。

 生徒会長であるラインバーガー様は、そう仰っていた。


 でも、それ以上に生徒会に厄介事を持ち込むのも、またヴィクターなんだとか……。

 うんゴメン。アムカムウチの者がホントにゴメンなさい!


 そんなワケで、ラインバーガー様には負い目を感じつつ、ゴールドバーグ様には戦慄を感じつつ!

 この何とも良く分からない緊張感のあるお茶会は、お開きになったのだった。


 わたしゃ疲れたよ、ホント……。



     ◇



 で、仕事には時間通りに行けないので、カレンには先に行ってもらう様お願いしていた。

 勿論一人ではない。メルルさんセルキーさんも一緒だ。

 今朝のゴタゴタの後、カレンとはちゃんとお話出来ていないので、少し心配だったのだけど、彼女の事はセルキーさんにはお願いしてあるから、多分大丈夫だろう。職場にはセルキーさん達だけでなく、先輩方も居るしね!

 ちゃんとしたお話は、帰って落ち着いた後、寮のお部屋でする方が良いのだろう。

 あまり、急いて話す事では無いと思うしね。


 カレン達には、先に行ってもらうのだけれど、ビビとミアはわたしを待っていてくれると言ってくれた。

 やっぱり組合のランクは一緒に上がりたいものね!とはビビさん談。

 ビビってば、友達想いの良い子よねホント!


 二人とは正門の所で待ち合わせしているのだが、予定より少し遅れているので、少し早足に林道を進んで行った。

 と、どういう訳か、林道の途中でビビ達の気配がある。しかも居るのはビビとミアだけではない。


 ……これは、コーディリア嬢?

 なんでビビとコーディリア嬢が、こんな所で対峙しているんだ?


 近くまで行くと、ビビの傍にいるミアが、何とも言えない呆れた感じの顔で、その場に立っているのが見えた。

 相手のコーディリア嬢のお付きの二人は、なにやらワタワタと慌てている様子だ。



「ノービスのウチから従魔を従えているのが、自分だけだとは思わないで頂きたいですわ!」


 コーディリア嬢がなんか言い出した。


 ビシィィっとばかりに伸ばした指先を、ビビに向かって突き出している。

 何だろ?何かのパフォーマンスでも始めるのかな?


「あ、そ!」


 対するビビは興味なさげな塩対応だ!

 その肩口ではアルジャーノンがキキキュッと鼻をピクピクさせながら、主人とは違って何やら興味があるご様子。


「ご覧なさい!わたくしの従魔を!まだ幼な子ではありますが、やがて神獣へと成長する(予定)、そのたけしい姿を!!」


 をを!なんかコーディリア嬢ってばテンションアゲアゲだぞっ?!!

 あ、お付きの二人がコッチに気が付いた。


「ち、違うのですクラウド様!コ、コーディリア様は少し自分を失っておりまして……声のかけ方が少し!少しばかり!あの!その!」


 何だか私に縋りそうな勢いだな?もう一人の背の高い方の子も、ちょっと顔色が悪いんだけど、相方に合わせて、凄い勢いで首を縦に振っている。何だかこの二人とも、朝とは全然雰囲気が違っているのは気のせいかな?


 入学初日は、コーディリア嬢のお付き然として、結構キビキビっとした動きをしていた様に記憶していたけど……。

 なんか今の二人からはその時の印象からはだいぶ違ったモノを感じるな。


 あ、顔色が悪い方、あんまり無理しない方が良いんじゃないかな?具合悪いなら早く休んだ方が良いと思うよ?

 そうだ、ソニアママから持たされたハーブの一つが、血行を良くして健やかな睡眠に導いてくれる、ってのがあった筈。あとでアンナメリーに持って行って貰おうか。


「出ていらっしゃい!スタージョン!!」


 コーディリア嬢は、右手をビビに向けたまま、高らかに声を上げた。

 すると、その声に応える様に、彼女の足元で白い影が素早く動く。

 それは彼女の身体を駆け上がり、ビビに向けて突き出された右手の先まで来ると、そこで誇らしげに胸を反らして立ち上がった。


 む?これは白い仔猫か?

 いや、身体が細いな、長いな!耳が丸い、顔ちっちゃ!

 あれだ!これオコジョだ!小っさいオコジョだっっ!!

 尻尾含めても10センチくらい?30センチはあるアルジャーノンの、半分も無いぞ!


 ピキュピキュキュとか、鼻先ピクピクさせながら鳴いておる!

 ぅわあぁ、掌の中に収まっちゃう位、小っさいんじゃないの?


 ヤバい!コイツ可愛い!カワイイぞっっ!!


「さあ!刮目なさい!この仔は神獣ブラン・ルナールに連なるわたくしの従魔!このまま成長すれば、何れひとかどの神の獣となるでしょう!我がキャスパー家の始祖は、神獣を操る優れたテイマーとして名を馳せた御方!わたくしもやがてはこの仔と共に、伝説の『幻獣使いファンタスティカ・テイマー』となるのです!今!あなた方は、その伝説の第一歩を目撃しているのですわ!!」


 コーディリア嬢が高らかに何か言っている様だけど、わたしの意識はその手の上に居る、白い小動物に釘付けだ!


 ナニこいつぅ、なにコイツぅ!

 黒いつぶらな目がクリックリしちゃってもう!

 後ろ足で立っちゃって、前足突き出してピキュピキュ言ってる姿がもう!

 この小っちゃいのがカワイ過ぐるんですけど!もう!!


「うん?!」

「スタージョン?!」


 わたしがその可愛さに悶えていると、アルジャーノンとそのオコジョは、突然主人二人の肩と手から飛び降りて走り出した。

 二匹は、あっという間に対峙する女子二人の、ちょうど中間地点に到達して向き合う。


 ビビとコーディリア嬢は、突然動き出した二匹に驚いて声を出していたけど、当の小動物達は主人の驚きなど意にも返さぬ様に、キキキュッ、ピキュキュと何やらコミュニケーションを取り始めている。


 後ろ足で立ち上がり、オコジョを見下ろすアルジャーノン。

 普通の自然界でなら、ネズミってオコジョに捕食される立場だと思うんだが……。


 自分の半分程度の身体しかない相手に、なんだかアルジャーノンが偉そうだな?

 キキキキュッ!とか鳴きながら、胸を反らすような仕草をしとる。

 対するオコジョは、ピキュと頭を下げる様な仕草!

 ふわ!ナニ今のスッゴイ可愛いんだけどっ?!


「……ふ」

「ス、スタージョン?!!」


 をを、なんか小動物同士で上下関係構築しちゃったのか?

 身体が大きいとは言え、ネズミがオコジョの上になるとか、これもファンタジーって事なんだろか?


 この様子を見ていた主人二のリアクションも実に対照的だ。

 ビビってば、勝ったと言いたげに鼻で笑ってるし、コーディリア嬢は強気な彼女には似合わない、泣きそうな顔になってる。


 まあ従魔同士の世界っていうの?付き合いとか仕来りとか?良く分かんないけどさ!そんなモノの遣り取り話し合いでもしてるんだろかね。


 頻りにアルジャーノンが、オコジョに何やら指導でもしてる雰囲気だ。

 でも、相手がちみっちゃいからって、ちょっとアルジャーノンってばマウント取り過ぎじゃね?随分と偉そうに、キキキキュ言ってるようにも見えるよね!


「え?え?ア、アルジャーノン?ナニ言ってんの?!何をやるって?!ちょっと!アンタ……!」

「なななななな、なにを?スタージョン?ス、スタージョン?!!」


 ン?なんだ?主達二人が妙にワタワタし始めたぞ?どした?

 当の小動物二匹はコチラに鼻面を向けると、一直線にわたしに向かって走って来る。


 おや?アルジャーノンってば、その小っさいのをわたしのトコに連れて来る気か?ほうほう!アンタ気が利いてンじゃないのよ!

 ホ~ラ、お姉さんの胸に飛び込んでおいで!たっぷりモフって上げるよ!!


 脇目もくれず、真っ直ぐこちらへ向かって来た二匹は、目の前でトトンッと地を蹴り飛び上がると、放物線を描いてわたしの胸元へと飛来した。

 ウゥ~~ン!胸元でモフモフ~~~~……。

 しかし!そんなモフを感じられたのは、ほんの一瞬の事だった。


「ンにゃぁっ?!にゃぁ!ンあ!んにゃひゃひゃぁああぁ!あ?!ぁ!あにゅにゃぁああぁぁぁぁーーーー!!」


 胸元へ到達した瞬間、この小動物共はあろう事かわたしのシャツの隙間から、一瞬でその内側に潜り込んだ来たのだ!!

 ばっばか!アルジャーノン!ちょまっ!そ、そこは?!そりはっっ!!


「ンにゃ!んにゃにゃっっ!!ひゃうぅ!!」


 こいつ達はとんでもない事をしてくれていりゅ!シャツの内側乙女の秘所で、二匹してアッチやコッチを絶妙に動き回り続けるのだ。

 わたしは只それに翻弄され、のた打ち回り、腰は砕け、珍妙な悲鳴を上げ続けるしか出来なくなった。


 そしてついに力尽きたわたしは、腰砕けで座り込んだまま、息を荒くして地面に両手を付いてしまったのだ。

 すると、下を向いたわたしのシャツの隙間から、二つの白い影がヒョイヒョイっと飛び出した。その抜け出る反動で、更にビクビクンと身体が動く。


 目の前で後ろ足で立つ大っきい方、アルジャーノンがキキュッキキッキュ!キッキッキュー!と、なんか胸を張る様にして偉そうな感じで鳴いてやがる。

 その正面で立つ小っさい方、オコジョもピュキキッ!とか、それは清しそうに鳴き答えてる!


 ……今の会話、なんとなく解かったゾ!

 姐さんをよろこばすポイントはこんなトコだ!分かったか?!的な事言いやがったな?アルジャーノン!

 ンでオコジョの方は 分かりやしたぁ!親方ー!てな感じで答えたろ?!ええ?!オイ!!


「ぁ、ア、あ!アルジャーノン!何言って……ナニやってんのっ?!アンターーーー!」

「スススススタージョン?!スタージョン!な、ななな、何を……何ををを?!!!」


 辺りに主二人の叫びが響いたのと同時に、白い毛玉共はその場から走り消えた!

 それこそ、ピューーッって書き文字でも見えるかのように、見事に逃げ消えやがった!!


「あ、あのねスー!こここれは、これはアレだから!アレ!」

「ああああああのののの、クククククラウド様……、こここれは、これは、これは……、も、もも、も申し訳御座いませんでしたぁああぁぁぁーーーーー!!!」


 恐る恐る近付いて来るビビと、謝り叫びながら遠ざかって行くコーディリア嬢の声……。

 だがわたしには、そんな二人に反応してやる余裕など在ろう筈も無く。

 魂を口から僅かに覗かせたまま、ただプルプルと小さく身体を震わす事しか出来なかったのだ!

 何と言う屈辱!!

 お、お!お!おにょれぇ、小動物どもぉぉ~~~~~っっっ!!


――――――――――――――――――――

次回「スージィの思惑」

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