64話デケンベルの包囲網
寮を出てから最初に話を聞きに行ったのは、ベア商会の『
まだ事務所に居るかどうかは分からなかったけど、ダメ元で中洲の荷受け事務所まで行ってみるとまだ幾つかの窓に灯があったので、中の気配を確認してからドアを叩かせてもらった。
『姐御』は最初こそわたしの突然の訪問に驚いていたけれど、話をするうち、色々と詳しい事を教えてくれた。
初対面なのに有難い事だ。
これも日頃の行いの良さのおかげかな?
この場合はアーヴィンのだけどさ!
休み明けに学食で、何かご馳走してあげようではないか!ウム!
姐御からは色々な話を聞く事が出来た。
中でも、デケンベルの成り立ちに関する歴史的な話はとても興味深かったのだけれど、今はまあそれは良い。
今回ハッキリ分かったのは、『ベア物流商会』という会社は、マグアラット第一河港全体を裏も表も全てを仕切っている、謂わば任侠の大組織だったって事だ!
アーヴィンやダグラス君が初日に喧嘩を売ったのは、間違いなくその筋の人達だったっていう事実!!
何やってんの?アイツら!
全くさ、『
そんな『
国外から来た半グレ集団である筈の奴らは、何処からかの資金をバックに相当好き勝手な事をやっていた。
恐喝、強盗、人身売買、違法薬物は当たり前。
その末端を潰しても、どこからか次から次へと涌いて来る。
拠点を潰そうにも特定の場所を定めずに、複数のアジトをどんどん使い潰して行くという。
大きな拠点を突き止めたと思っても、乗り込んだ時には既に肝心の資金も幹部もいなくなっていた。なんて事はざらだったそうだ。
今では『バックドア』とかの事もあり、デケンベル全体から見ても見過ごせない程に根を張った、厄介な集団と化しているのだという。
今姐御達は、ウチの叔父様を始めとした複数の機関と協力し、連中に対しての包囲網を敷いていたのだとか。
そんで、今回カレンにちょっかいをかけて来たのは、幹部の1人であるフルークという男らしい。
何故、幹部が態々出向いて来たのかまでは分からないが、姐御達はコレを良い機会だと捉えた。
フルークは組織の金庫番でもあるから、そのまま泳がせ、奴の拠点を全て抑えようと考えたんだとか……。
ふ~~~ん、ウチのカレンをオトリ扱いね。そなんだ…………。
ヤバイ、チョとだけ苛っとしちゃったゾ。
圧で窓ガラスにピシリ!とヒビ入れちゃったな……。
落ち着けモチつけ。クールに行こうぜクールに。
姐御も黙っちゃったよ。う~む、失敗したな。
しょうがない、十分情報は仕入れたし、もうココは撤退しよう。
黙ってしまった姐御に、突然夜分に訪問した事の無礼をお詫びして、お暇を告げる。
そのまま『インヴィジブル・ムーヴ』を使い気配を消して、ソッと事務所から失礼させて頂いた。
ちょっと礼儀から外れてたかな?
後でアーヴィンに上手く取り繕って貰おう。ウン!そーしよう。
さてさて、何はともあれ姐御のおかげでターゲットが確定した。
寮を出た時の、手掛かり無しの状態から凄い進歩だ!
まあ、何処にいるかは分らんが。
だがしかしオカシ!探す当てはまだある!!
連中が、国外からの半グレ集団ってので、ピンと来たんだよね。
姐御の話を聞いている間に、広い範囲で気配を探ってみたら繁華街の端の方で見事に見つけた。
ジュール・ナール……。
あの時、馬車強盗と一緒に居たの、アンタだよね?
アイツらと繋がりがあなら、何か知ってる事あるんじゃないのか?
気配を追って行くと、なんだかそっちこっちとウロウロしてる。何やってんだろ?
まあいいや、あんまり時間もかけたくないから、トットと会いに行こう。
『インヴィジブル・ムーヴ』を解いて近くまで行ったら、なんか路地の隅で青い顔してしゃがみ込んでた。
どうした?悪酔いでもしたか?
止めてよね。目の前でケロケロとかしないでおくれよ?
わたしが「聞きたい事がある」と言うと、「何でも聞いてくれ!」と食い気味に答えられた。
随分と勢いが良いな……ちょっと引いちゃうよ。
まあ、教えてくれるならどうでも良いんだけどさ。
だが、予想以上だった。
予想以上にジュール・ナールの情報は、姐御の持っていたモノを上回っていた。
最も、姐御が全てを開示してくれる気だったかどうかは分からないが、少なくともさっきの話の時点でアジトの候補地は3つ。今、何処にいるかの確定は出来ないと言うものだった。
だが、このジュール・ナールはアジトの場所を五か所提示した。しかも地図付き!
更には、「今のこの時間なら此処に居る」とまで明言した。
何よ何だよジュール・ナール!アンタひょっとして使える男?!
外側から情報を集めている姐御達より、もっと内側の地域に生きていると思われるコイツの方が、生の情報を期待出来るかも?と漠然と思っていたけど、その期待を超えて来たよ!
ちょっと気分が良くなったので、報酬を弾んであげる事にした。
指先で、ちょい大き目のコインをピン!と弾く。
それを空中で掴み取ったジュール・ナールが、手の中を確認して目を見開いていた。
「ちゅ、中金貨?!5
「ウン、情報料。足りなかった?」
こういう情報料の相場とか、わたしには判んないからねぇ~。
その内アンナメリーにでも聞いておこう。
やっぱ今回は、大金貨の方が良かったのかな?
「い、いえ!そんな事は無いっス!!」
聞いてみたらそんな事は無いらしい。大丈夫っぽい?
「ちゃんとヤツが居たら、成功報酬も上げる、よ?」
「へ?」
「あ、アンタは別に何処に居ても良い、よ?コッチで勝手に見つける、から」
「ひゅっっ!」
こっちから見つけて上げると言ったら、変な音出しながら息を吸い込んで、顔が紙みたいな色になってった……。
ダイジョブか?まだ酔っ払ってる?まあどうでも良いが。
さてさてそれじゃ、目標の所にお邪魔してみますかね!
ジュール・ナールが示した地図では、スラム
相手は女の子を道具としか見ていない、正真正銘のクズだと言う話。
ウチのカレンにそういう目を向けていたであろう奴を、優しく扱う理由は全く無い。
……さて、どうしてくれましょうかね?
取りあえず、顔を見てから決めようかな!
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