65話夜の大掃除

「黙れ煩い喋るな臭い」

「ごべしっっ!!」


 口を開き、またも臭い息を垂れ流そうとしたので蹴り飛ばした。

 そのまま身体は宙を舞い、ぶつかった建物の扉を砕く。

 お、動いた。大丈夫、まだ生きてるな。


 壊れた扉から、ワラワラと汚物共が外に出て来た。

 そいつらに向け、絶妙に『氣』を乗せたデコピンを放つ。

 指先から放たれた氣を纏った衝撃波は、汚物を片っ端から吹き飛ばして行く。

 

 これで七カ所目のアジトだ。

 ココには女の子もいるお店の様だ。

 最初の場所程酷い事になっている女の子はいないけど、何故か『呪いカース』状態の子は何人もいる。

 うむ、予定通りココのオーク共も一人も逃さず綺麗に潰そう。



     ◇◇◇



 最初に突入した場所は、実に最悪な場所だった。

 どうやら普通の娼館では無いこの店は、特殊性癖を満足させる事を主としていたらしく、見るに堪えない惨状が其処彼処に見受けられたのだ。


 顔面が原型も分からない位腫れ上がっている子。

 手足がまともな形状を留めていない子。

 只々正気を無くした叫びを上げ続ける子。

 凡そ真っ当に生きている人間なら、生きている間に知る必要も関わる事も無い様な行為が、下品な嗤いの響きと共に行われている場所だった。

 女の子が絞り出す様に上げる悲痛な泣き声に、昂まりを覚える性癖になど、わたしは1ミクロンたりとも理解が及ばない。


 胸クソ悪い事この上ない。

 

 ココでわたしの奴らに対する認識、評価が確定した。


 要はコイツ等はオークだ。

 そう理解した瞬間、自重する気が綺麗サッパリ消え失せてしまう。


 客らしき変態も含め、汚物の様なケダモノ供を片っ端から潰して行こうと決めた。


 大変な事になっている女の子達には、『ブライトヒール』と『グレーター・ピューリファイ』を、場合によっては『ブライト・オブ・パージ』も使った。

 傷が綺麗に治り、薬物による中毒状態が浄化されて、彼女等のボロボロだった皮膚に艶が戻って行く。

 『ブライト・オブ・パージ』を使ったのは、『呪いカース』状態にまでなっている子が何人もいたからだ。

 ホントなんなのだ?一体ココは!


 潰して潰して治して潰す。

 それまで響いていたか細い悲鳴が、野太く汚い絶叫に置き変わっていくのに、2分とはかからなかった。

 ゴミ虫駆除に、2分は掛け過ぎだったかもしれないが。


 粗方片付いたので、ジュール・ナールの情報にあった3階の事務所へと向かう。

 一応『インヴィジブル・ムーヴ』を使って気配を消し、部屋の中へと入り込んだ。

 もしかしたら有用な情報……カレンと交わしたと言う契約書?とか確保できないかという淡い期待もあったからだ。


 だけど、コイツの言い草聞いてるうちに、そんな消極的に探し物なんかしてられるか!と思った。

 大体、コイツに出させりゃ良いだけの話じゃん!ねぇ?


 なのでまず、ソイツの座っている机を叩き割った。

 勢いでひっくり返ったヤツが、間抜け面でコチラを見上げている。

 ノタノタと男2人が寄って来たので、ソイツらの鼻先に手を伸ばして指パッチンをかます。そこから発生した小さな衝撃波が男達を吹き飛ばす。2人には、そのまま全身で壁と親睦を深めて頂いた。

 


 フルークに、残りはお前1人だと告げるが、頭が悪いのか余り理解していないっぽい。

 良いから黙って契約書を出せと言っても、口汚い言葉を羅列するだけで埒が明かない。


 オークの口から人の言葉が出て来るのは不快でしょうがないので、コロコロと何度か転がしてやったら、漸く言葉を吐くのをやめた。

 

 改めてカレンの契約書ってのは何処だ?と問えば、目を小刻みに震わせながら机だった物の残骸の方を見たので、目線が向いた辺りの潰れた抽斗をこじ開けてみる。

 中から厚く纏めた紙の束が出て来た。それをパラパラと見ると、見覚えのある字で書かれた紙が一枚目に付いた。

 カレンの字だ。

 カレンの手書きで『約束が守れなければ、出来る限りの事をするとお約束します』的な事が書かれていた。

 

 随分と一方的な要求しか記されていないぞコレ。

 他の紙もみんな手書きで似たような内容だ。

 ひょっとして下に居た子達もみんな、こんな一方的な約束押し付けられ、無理やり連れて来られたって事?


 

 

 ふっざけんなよコノヤロぉ……。



 

 おっと、また窓を圧で割ってしまったよ。

 今度はヒビだけじゃなく、パリンパリンと全部割れた。

 フルークは白目向いて、ビクビクン!と痙攣ひきつけを起こし始めてる。

 しかも何か垂れ流してるし!きちゃね!!


 取りあえず汚物は放っておいて、今見付けた紙の束を手の中で『ファイア』を発動させ灰にした。


 ……そういや『契約書』って単語に反応する様に、何度か壁の方にも視線向けてたな。

 

 見ていた辺りの壁を蹴り飛ばすと、隠し扉が吹っ飛んで、更に隠し部屋が現れた!

 ウム、絵に描いたような展開だね!

 中は物置?ちょっとした倉庫かな?書類棚や薬品棚で壁が埋まってる。せまっ苦しい。

 お?金庫もある。

 そう言えばコイツ、金庫番なんだっけ?


 金庫の扉は、少し力を込めたら意外と簡単に引きちぎれた。

 結構脆いのか?

 メンテはちゃんとした方がいいと思うよ?


 中にはお金は勿論、その他に契約書?あと帳簿?アンナメリーが言ってた、裏帳簿的な物か?そんな物がタップリと詰め込まれていた。

 まあ、よくは分からないが碌な物じゃないだろう。


 お金は、下の女の子達にばら撒いちゃっても良いんだけど……。まあ、このまま開放しておこう。

 この建物の周りを探ってる人達が、適当に処理してくれると思うしね。


 そんな訳で次の場所へ向かうべく、フルークを窓の外へと蹴り出した。

 何がそんな訳かと言えば、コイツに別のアジトを案内させる為だ。


 姐御はアジトの候補が三ヶ所あると言っていた。

 ジュール・ナールは五ヶ所だと。

 だが、「他にも幾つかあるかもしれないが」とも言った。

 あんな女の子達が他にもいるなら、このまま放っておくつもりは無い。

 

 なら他のアジトも全部、コイツに案内させれば良い。

 折角ココまで来たのだから、やれる所までやっちゃうよわたしは!


 

 アジトを特定するのは意外と簡単だった。

 地図に記された辺りまでフルークを蹴り転がして行くと、仲間らしき連中がパラパラと出て来る。

 そいつらが出て来た建物を探り、動きのあるフロアとか部屋にフルークを放り込めば、ソコがアジトかどうか中の連中が教えてくれる。

 後はそいつらを潰して制圧し、隠し部屋とか金庫があればそれも破壊して終わりだ。


 

 裏通りとは言え繁華街の中を男を蹴って進んでいれば、それなりに人目が集まって来る。

 サッカーボールと違って蹴るたびに、「げびょっ!」とか「がギョッっ!」とか一々変な音出すし、体格の良い男が血をピューピュー噴き出しながら転がり捲ってりゃ、そりゃ目立ちもするよね。


 わたし自身は、蹴り上げる時以外は気配を精一杯抑え込んでいるので、『インヴィジブル・ムーヴ』を使うまでも無く、一般の人には気付かれていない筈……多分!



 それでもわたし達の様子を、遠巻きにして窺っている集団が幾つか居る。

 多分1つは姐御の所の人達じゃないだろうか。気配がダダ漏れなので、偵察のプロという感じではない。

 他はみんな、プロっぽい統率の取れた動きをしているんだよね。

 

 でもその内の1つは、多分アムカムウチの関係者だと思う。アンナメリー配下かな?

 いや、バイロス家ではなく、エドガーラ家の手の者か。

 屋根とか壁とかを立体的に機動してるし、そしてなにより黒装束だものね!黒装束!!


 まあ、アジトを壊して回った後の片付けは、みんなこの人達に放り投げちゃえば良いと思えば、思い切った事も出来るってものだ!うん!


 そんなワケで、今夜中にフルークのアジトは片端から全部潰す。

 今の所、潰した手下の数も3桁は超えていると思う。まあ、どうでもいいが。


 夜は長いとは言え、使える時間は限られているのだ。

 夜のお掃除はこれからだよ!

 


     ◇◇◇


 

 抜け出してから2時間ほどで、寮に戻って来る事が出来た。

 良い仕事をしたな!と心地よい達成感に満足して部屋に戻ると、何故かわたしのベッドには怖い顔をしたビビが居た。

 え?なんで?と疑問を口にする間も与えてもらえず、わたしはその場で床に正座をさせられた。

 そしてそのままビビからお説教を受けたのだ。

 

 どうして?何でよ?解せんのだけれど??

 

 そんなわたしの内なる疑問が膨れるのを感知し比例する様に、ただでさえ上がり気味のビビの目尻が、ドンドンとつり上がって行く。

 

 更に、言葉に強さと勢いが乗ったビビの御小言の雷撃は、それから小一時間もの間、延々とわたしに向け放たれ続けられたのであった。

 ぅひぃいいぃぃ――――。

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