18話メランコリック・スージィ
ダニエル・デイビス君は、第4組に席を置く男子生徒だ。
この一週間で何度か顔を合わせているので、知らない仲という訳では無い。
勿論それは、初対面の印象が鮮烈すぎると云う事もあるからなんだけどね……。
あの日、わたしの捻りを加えられた拳は彼の顔面を鋭く捉え、それはそれは綺麗に彼を吹き飛ばしてしまったのだ。
思わず、お星さまになるかしら?と思った程よく飛んだよ!
でも!あんまりな物言いをされたとはいえ、瞬間的に手を出してしまい、入寮したその日に生徒を一人お星さまにしてしまうなど、ヤバいにも程がある!
最低レベルまで、自分の力は落としてはいる筈だけど、彼が吹っ飛ぶ様を見て一瞬で正気に戻り、サァーっと血の気が引いたのを良く覚えている。
彼が飛んでった先は、幸いにも植込みの只中だったので、その一部を抉り取るだけで辛うじて済んでいた。
涙目で彼の元に飛んで行って、息をしているのを確認して、どんなにホッとした事か……。
ああ!なんだかとってもデジャブ!!
勿論!速攻で単体全回復魔法の《ブライトヒール》をかけましたとも!
彼が直ぐに意識を取り戻してくれた時は、安心のあまり力が抜けて、その場に座り込んでしまった。
目を覚ました彼に、土下座をする勢いで謝ったのだけれど、彼も直ぐには状況が掴めなかった様だった。まあ、無理は無いんだけどね……。
状況を理解したデイビス君は、逆に女性に対して大変失礼な物言いだったと、彼まで土下座をし始めた!
どうやら彼は、校門でのラッキースケベ発生時に、その場に居合わせていた様で、アーヴィンの後ろで目をひん剝いていたらしい……。
彼はその事も併せて、大変申し訳なかった! と、更に頭を地面に擦り付ける始末!
結局全部
いやいや!こちらこそが! そんな!コチラのせいで!!
と、お互い譲らず、頭の下げ合いがエンドレスで続きそうになっていたトコロ、庭師の『おにいさん』が呆れた様に笑いながら、「とりあえず、彼は無事な様だけど、大事を取って今日はもう休んだ方が良い。彼にはボクが付き添うから、君ももう寮に戻りなさい」と、二人の間に入り、わたし達の土下座合戦を諫めてくれたのだ。
まあ一言で言って、彼との出会いはこんな感じで最悪な物だった。
こちらとしては、それは、それは大変に申し訳なく思っていたたワケでして……。
それでも!短い時間の遣り取りだけで、彼の人となりは、大変好感の持てるものだと思っていた!
初対面であんな目に合わせたのに、すんなり許してくれたしね!!
その後、入学式の直後にも挨拶を交わしているし、他でも何度か顔を合わせているけど、話すほどに彼の人柄の良さが分かってくる。
そう、彼は良いヤツだ。実に良いヤツなのだ!
なのに!わたしは彼を警戒し、その距離を取ろうと考えているのだ!
それが何故かと言えば…………。
「おい!ちょっと待てお前!ウチのスージィに何か用か?」
「あ……、いや、たまたまお見かけしたので、声をかけただけなんだが……、不味かったかな?」
アーヴィンとロンバートが、コチラに歩み寄るデイビス君の前で立ち塞がった。
流石にウチの制服を着てるとはいえ、学校の外で知らない人間が近付けば、普通は多少の警戒はするものだよね。
ウンウン、ウチの男共、ちゃんとボディーガードの仕事出来てるじゃない!エライ、エライ!
……エライ、のだが、何故だらう?このアーヴィンとデイビス君の邂逅に、わたしはそこはかとなく、不穏な胸騒ぎを感じてしまった……。
うん、不穏だ。そして途轍もなく不安だっ!!一体何故だっっ?!
「悪いな、知らない人間を、ウチのスージィに近付けるワケには行かないんだ」
「あぁ!そうか、それもそうだな!申し遅れた。自分は第4組のダニエル・デイビスだ!よろしく頼む!」
「お?おお!オレは第1組アーヴィン・ハッガードだ!こっちがロンバート・ブロウク。同じく第1組だ」
「アーヴィン・ハッガード!君がそうか!体術試験ダントツ1位の!話をしてみたいと思ってたんだ!会えて光栄だよ!」
「……ぉ、おう!よろしく……ン?ダニエル……デイビス?デイビス?あ……お前!ひょっとして、入学式前にスージィにぶっ飛ばされたって奴かっ?!!」
「……あ、うん、お恥ずかしながら、多分その認識は間違ってない……、そいつが自分だと思う」
「そうか!お前かっ!!いやーーースゲェ!!大したもんだ!!」
「……え?」
……え?
「スージィにぶん殴られて生きてるなんてさ!アムカムの外でも、そんな奴が居るなんて思っても居なかったからな!お前スゲェ奴だな!!」
「え?え?そ、そう……なのか?それは……え?生きて?」
「いやーー、オレもお前に会ってみたかったんだよ!いやースゲェ!!なぁ?!ロン!お前もそう思うよな!!」
ちょっとアーヴィン何言ってんの?!何言ってんだか全然分んないんですけどぉっっ?!!
ちょっと?!ロンバート迄、ウンウンとか頷いてんじゃないわよ!
はっ!ミアまでが感心したような顔して、腕組みしながら頷いているだとぉ?!
どゆことぉーーーっっ?!!
ちょいとみんな!わたしに対する認識、随分失礼過ぎやしません事ぉ?!
ぅおっ!アーヴィン!デイビス君の背中、笑いながらバンバン叩いてンじゃないわよ!初対面の相手に失礼でしょうが!
ああ!今度は肩まで組んで!!だから初対面の人に対する距離感じゃ……でぇぇ?なんで?デイビス君までも肩組みあって楽しそうに笑ってんのよ!?
なんで、このわずかな時間で、この二人意気投合しちゃってんのぉーーっ?!
何コイツら?!え?まぢで!!
「クラウド様!クラウド様!!第4組のデイビス君とお知り合いだったんですか?!」
「ふぇえっ?!」
2人のコミュ力に、愕然としているわたしの背中にビタッとくっ付いて、クゥ・メルルさんが声を弾ませ、そんな事を聞いて来た。
彼女のテンションが妙に高いのにも、ちょっとビックリだ。
「すごいスゴイ!ハッガード君だけでなく、デビイス君までいるなんて!!」
「え?え?!ど、どうしたんです?何だかいきなり盛り上がって、ません?」
「だって、だって!第1組のアーヴィン・ハッガード君。第3組のゴードン・ウェイナー君。そして第4組のダニエル・デイビス君は、今年入学した男子の中でトップ人気の3人じゃないですか!!」
へ?そうなの?
「上級性も含め、内部生の女子の間では、この三人がトップ人気なんですよ!!それが今こんな所に二人揃って居るなんて!うわぁーーどうしよう!!」
「え?アーヴィンですよね?え?え?」
「そうですよ!ハッガード君です!彼、女子の間では一番人気ですよ!!」
「ぅええぇぇ?!」
え?コレ、どれからツッコんだらいいの?!
メルルさんが思わず、ミーちゃんハーちゃんな面を持ってたのも驚いてんだけど……、内部生女子は何やってんの?!
それよりも、アーヴィンだよ?え?アーヴィンが一番人気?なんだそれ!だって、アーヴィンだよ?!!
わっかんないわーーー……。あ、こんなこと言ったらビビに首絞められそうだけど……、だって、ねぇ?
まぁ、確かに……、確かにハッガード家の兄弟は、造形だけ見ればイケているとは思うけどね。
アーヴィンも、ライダーに比べれば幾分落ちるけど、整っているって言えば整ってるし……。
でも……ねぇ?アーヴィンだよ?
あーーヤバい!アーヴィンにキャーキャー言ってしまう、女子の感覚がワカンネ!
ぅお、カレンさん迄、頬を僅かに上気させ、両手を握り締め、アーヴィンとデイビス君のツーショットに見入っているよ?!
それとそっか、うーーん、デイビス君もね……。
確かにデイビス君って、女子受けする甘いマスクだしなぁ……、性格も悪くないし。
そっかぁ、女子人気高いのかぁ……。
それでも!あの男子二人がつるんでいるの見てると、わたしは悍ましい予感しかしないのですよ!何故かっっ?!!
「うわわぁぁ!見て下さいクラウド様!お二人があんなにくっ付いて!あっ!か、顔があんなに近く!!尊い!尊すぎますぅぅ!!」
「っぅえええぇぇ?!」
ちょっと待ってよメルルさん?!
アナタひょっとして腐海の国の住人の方ですか?!
もしかして、さっきから二人をそう云う目線で見ていたって事ぉ?!!
え?!まさかカレンさんもか?!!
うああぁぁぁ……!なんだこれ?
向こうでは男子共が、どんどん勝手に盛り上がってるし!
そしてそれを見て、わたしの後ろで嬉しそうにピョンピョン跳ねて燥いでいるネコミミクラスメイトと、目の中の星を煌めかせているルームメイト!!
わたしだけですか?この場にカオスを感じて、独り脳汁零れそうになってるのは?!はぅあぁぁ!!
かくて、ビビとセルキーさんが受付から戻って来た時には、おかしな盛り上がりを見せる仲間たちを他所に、1人頭を抱え、ウンウン唸るわたしがそこには居たのであった!
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次回「週末の黙示録」
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