17話ノースミリア冒険者組合
「ノースミリア冒険者組合へようこそ!登録のお申込みですか?」
「ええ!登録をお願いしたいの!手続きはコチラで良いのかしら?!」
「はい!コチラでお伺い致します!」
冒険者組合のカウンター越しに、受付のお姉さんが零れんばかりの笑顔で、ビビと登録の為のやり取りをしている。
ここは、商業施設やオフィスが立ち並ぶ、『アルファルファ大通り』と呼ばれるデケンベルのメインストリートの一角にある建物の中だ。
建物はどこかの博物館か何か?ってぐらい立派な物だったし、場所も馬車の停車場から50メートルと離れていないので、立地も随分良さそうだ。
なんか冒険者組合ってスゲーと、建物を目の前で思わず呆けた様に見上げてしまいましたよ。
ま、スゴイと言えば、馬車を降りてからココに辿り着くまでも凄かったんだけどね!!
馬車を降りてからは、50メートルにも満たない短い距離の筈だったんだよ。
そう、50メートルも無い短い距離なのだ。
そんな短い距離なのに……。
ナンデあんなに絡まれちゃうかね?!
5歩程度進むだけでチャラいのが寄って来た!「ヘイ!カノジョ!」とか呼び掛けて来る生物が、本当にこの世に存在している事も、今日初めて知ったよ?!
まあ大体のやつらは手が届く距離に来る前に、ロンバートの『圧』に屈して逃げて行くのだけどね!
何と言っても190近い身長と、肩幅も広く胸板も厚いロンバートからの睨みがあれば、大抵の奴ならそれでビビる。
それでも、その圧を越えて来る輩も、中には居る事は居る。
で、そいつらは大体ミアに寄って行くのだ!
勿論!声をかけられてもミアは華麗にスルーだ。
それでもしつこく「チョッ!待てよ!」なんて言って、ミアの身体に手を触れようとしたモノなら、次の瞬間、ミアが笑顔のまま放つボディーブローがそいつの懐深くに重く突き刺さる。
そしてそこには、悶絶する汚物が一つ出来上がるワケです。
……コワいですね。
まあ、ミアに手が伸びる前に、ウチの男共に何とかしろ!って話もあるけどさ……。でも、アーヴィンはビビ専用機と化していたし?
ロンバートは、わたしと手を繋いでいるカレンさんを、メインでガードしていたから、ミアが自然とソロになってた。
ヤロウ共のつけ込む先も、ソコなんだろうし、大体にしてあれだけの質量を2つ、バインバインと揺らして歩てりゃ、そりゃ寄っても来るわな!!
そっれにしても、男共の寄って来方がホントにキモかった!次々湧く様は黒い害虫を思い出しちゃったんですけど!
カサカサ言いながら寄って来た様は、まぢ鳥肌モンだったわよ?!!
で、ミアがすっかり『チャラ男ホイホイ』と化してしまった頃に、やっとココに辿り着いて今に至っている訳です。
「お友達のグループでの登録ですか?女の子同士のグループは大歓迎ですよ!今なら4名以上のご登録ですと、お祝い金として、お一人に50
「あーー、一緒に登録だけど!女子だけではないのよね!」
「あ、そうでしたか!失礼いたしました。それではこちらのお二人もご一緒ですね?」
「そうね!今日はこの6人で登録しに来たの!」
「畏まりました!いずれにしても4名様以上ですので、お祝い金の支給は御座いますので、ご安心ください!」
「あら!そうなの?ありがとう!」
「グループでのご登録は、どちらにしても大歓迎ですので!」
受付のお姉さんとビビが、淀みなく会話を続けていた。
やっぱビビッて、こういう事に慣れているんだなぁと改めて感じてしまうよね、ウン。
「では、こちらの用紙に必要事項のご記入をお願いします」
お姉さんから人数分の登録用紙を受け取ったビビが、みんなに手渡して行く。
ほむ、意外と書く項目は普通だな?
冒険者組合ならもっと、得意が剣なのか魔法なのか?とか、所有スキルは?とか申請するもんだと思ってたけど……特に必要無いのかな?
「あ、それと、皆さんも『ミリアキャステルアイ寄宿校』の生徒さん達ですよね?用紙へのご記入は、お名前と出身地だけで結構ですので、終わりましたらご一緒に生徒証をご提示下さい」
「あら!随分と簡単なのね!」
「ミリアキャステルアイの生徒さんなら、間違いありませんから」
お姉さんは笑顔で『ですので入会審査も必要ありません』と続けた。
なるほど、確かに生徒証は身分証そのものだもんね。
それにしても、やっぱウチの学校って結構信用あるんだなぁ……と、改めて思ったりもする。
「では、簡単にではありますが当冒険者組合について、一通り説明させて頂きます」
皆が用紙に記入し、生徒証を見せ終わると、受付のお姉さんはカウンター前の椅子をわたし達に勧め、全員座ったのを確認してから話を始めた。
「まず、当冒険者組合の会員様には等級があり、今日登録されたばかりの皆様には、初等の『Fランク』からスタートして頂く事になります」
おお!やっぱりランク制か!ウンウン!冒険者組合の鉄板だよね!ン?でも冒険者の事を会員って言うんだ?変わってるなぁ。
「『Fランク』は試用期間になります。3回お仕事をして頂ければ、次の『Eランク』へ昇級します。ただし、お仕事とお仕事の間は10日以内にお願い致します。まあ、1週間に一度して頂ければ間違いありませんね。間が10日以上空いてしまいますと、また初めからカウントし直しになってしまいますので、ご注意ください。
次の『Eランクは』見習いと呼ばれるランクです。こちらは、3か月以内に合計で10日お仕事をして頂ければ、次の一般会員である『Dランク』へと昇級致します。そして――――」
こんな風に受付のお姉さんは、淡々と説明を続けてくれた。みんなも、ウンウンと熱心に話を聞いている。
ほうほう、Cは『チームリーダー』って称号なのか。んで、Cに上がるには同じ『チームリーダー』の推薦が必要なのね。
Bになるには更に上からの承認も必要で、ランクが上がるほど収入も増える訳か。それは当然だよね……。
で、Sランクはないのかな?
うーーーん、でもなんだろ?何だろこの違和感は?
最初は仕事を受けるだけでランクが上がって行くって、随分簡単だものね……。冒険者になる時とか、ランクアップの時に試験とか無いのかな?
「――――ここまでで何かご質問はございますか?」
「あ、あの、ランクが上がる時に、昇級試験とかは無いのです、か?」
「はい?昇級試験ですか?ランクアップは今申し上げた様な、既定の条件を満たして頂ければ良いので、特に設けてはおりませんが?」
「なるほど……、そう、なんですね……、分かりました。ありがとうござい、ます」
「他はございませんか?他にご質問が無いようでしたら、説明はここで一旦終了にさせて頂きます。今説明させて頂いた内容や、その他の組合の決まり事などは、こち他の小冊子に詳しく記して御座いますので、必ず内容には目をお通しおきください」
冒険者の昇級試験も、鉄板だと思ってたんだけどなぁ……。入る前の、実力試験みたいなものも無いみたいだし。
お姉さんには、「説明したと思いますが……」ってな感じで困ったような笑顔を向けられてしまったよ。
その後、文庫本サイズの薄い手帳を人数分出して、ひとり一人に配られた。
「それでは、これでコチラからのご説明を終了とさせて頂きます。皆様のカードが出来上がるまでまだ少し時間がかかりますので、あちらのソファーで暫しお待ちください」
なんとなくモヤっとした物を抱えながら、言われた通り待合のソファーまで皆で向かった。
そう、この待合所も思っていた冒険者組合のソレとは違ってんのよね。
やっぱ冒険者組合の待合と言えば、想像するのは『むくつけき野郎共』がたむろする場末の酒場みたいな待合室じゃん?
そこで登録しに来た子達に、質の悪い酔っ払ったベテランが絡んでくるのも鉄板ジャン?!!
ところがココは、待合室もカウンターも、まるで銀行のソレみたいに綺麗で整っていた。
ま、綺麗なのは良いんだけどね!汚いよりは綺麗な方が良いに決まっているんだけどね!ウン!
でもなんだろ、このそーじゃない感はっ?!
待合室に居る人達も、大人し気に座ってファイルみたいの見ていたり、多分仕事が貼ってある掲示板かな?それを見ていたしてる。
室内に居るのは20人弱かな?どっちにしても皆さんお行儀が良くて、大人しく静かだ。
あ、ウチの学校の生徒も何人もいるな。大体が上級生か?お?こっちには同級生も居る……。
と思ってたら、その同級生の内の二人がコチラに近づいて来た。
「あのー、皆さん今日はご登録にいらっしゃったんですか?」
「ええ!今登録を済ませたところよ!」
ニコニコと、人懐こそうな笑顔で声をかけて来た同級生は、クラスメイトでもあるクゥ・メルルさんだった。
「それでは、今はカードの発行待ちですね?」
物静かな物言いで話しかけてきたもう一人は、やはりクラスメイトのセルキー・マウさんだ。
「そうなんです。お二人は、もう既に登録を済ませているのです、か?」
「はい、わたくし共は夏季休暇に入ると、直ぐにしてしまいましたから」
フワリと、軽いウェブのかかった赤茶の髪が可愛いクゥ・メルルさんは、ここデケンベル出身の
青く長い髪が綺麗なセルキー・マウさんは、オセアノス出身の
お二人共、初等舎からミリアキャステルアイに席を置く、所謂『内部生』と言われる方達だ。
対して、わたし達の様に、受験で中等舎から入る生徒達を『外部生』と呼ぶらしい。
如何せん、入学したばかりの今は、わたし達外部生と、何年もミリアキャステルアイで学ぶ内部生の間には、まだ微妙な空気が在ったりするらしいんだけど、このお二人はまだ学校になれていない外部生に積極的に声をかけ、気を使って下さる気持ちの優しい方達だった。
それに、クゥ・メルルさんは、実はそのお名前からも分かる様に、デケンベルに来る道中でご一緒した、あのクゥ・エメルさんの妹さんなのですよ!
初めて教室でお会いした時は、ホントに驚いた!
更にセルキー・マウさんも、アムカムとは繋がりの深いオセアノス出身だし。
そんな事もあって、このお二人とは、入学初日に既にお友達になっていたのだ。
「皆さん、登録が済んだらどうされるんです?」
「直ぐに出来る仕事が無いか、聞いてみようと思っているの!短時間で済む仕事があれば、済ませてしまいたいのよね!出来るだけ早くランク上げてしまいたいし!」
「それでしたら……、わたくし達の受けたお仕事はどうでしょうか?まだ募集の枠も空いている筈ですから……、お仕事も1時間くらいで終るものですし」
「あら!それは魅力的なお誘いね!ちょっと聞いてみようかしら!」
「では、わたくしも受付までご一緒して、確認してみましょう」
ビビとセルキーさんが、一緒に受付までお仕事の確認をしに向かっていった。
なんか、早くも最初の仕事が決まりそうな雰囲気だ。
「あ、あの……、本当にわたしもご一緒させて頂いて宜しいんですか?」
「勿論ですカレンさん。初仕事がカレンさんと一緒に出来て、わたしは嬉しいです、よ?」
「あ、ありがとうございます。そう言って頂けると……」
未だに何故か遠慮をしているカレンさんの両の手を取って、安心する様に、と握りしめた。
ココへ来るまでのカレンさんの話では、出来るだけ早く、冒険者組合へは登録したかったと言っていた。
どうして早く登録したかったのか、その辺の事情は聞けてないけれど……、折角寮も同室で、友達にもなったのだもの、どうせなら一緒に始められれば嬉しいモノね!
カレンさんは、ほんのりと頬を染めてわたしの手を握り返してくれた。とりあえず安心してくれたみたいだ。
……それにしても!手を握られて、モジモジとはにかむカレンさんてば、可愛いったらありゃしないじゃない?!
このまま抱き締めちゃったらダメかな?駄目かな?!流石にココでは他所様の人目があるから、そんな行動は控えるべきなんだろね。
きっとこれがミアなら、人目もはばからず事に及ぶのだろうけれど!まあ、わたしには良識と言う物があるからね!ウン!控えるよ!
でもやっぱり、カレンさんはカワユス!
「ああ!やっぱりクラウド嬢だ!こんにちは!こんな所でお会いするなんて奇遇ですね!」
わたしとカレンさんの甘い空間に、唐突に空気も読まず声をかけて来る者が居た。
それは、この待合室に居た、もう一人の同級生からのものだ。
ウン、気付いていたよキミの事は。
わたしもね、まさかこんな所でキミに会うなんてね、ホントに思ってもいなかったわよ!
「あら?ご機嫌ようミスターデイビス。本当に奇遇です、わね」
今初めて気が付いたと云う様に、その声の主に向け応えた。
応えた先に居る彼は、片手を上げてニコニコと屈託のない笑みを浮かべ、コチラへ向かって歩いて来る。
彼は、第4組に在籍するダニエル・デイビス君。
わたしが入寮したその日に、薔薇園で怒りのコークスクリューを撃ち放ち、派手にブッ飛ばしてしまった男子生徒だ。
――――――――――――――――――――
次回「メランコリック・スージィ」
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