第20話スージィ・クラウドの初登校

「スージィさん、学校に通って見る気はありませんか?」


 そうヘンリーさんに言われたのは、わたしが『スージィ・クラウド』になってから二日後の事だった。


 突然だったし、丁度木苺のタルトを頂いていたとこだったので、少しはしたないけれど、フォークを咥えたまま小首を傾げてしまった。


「後二週間ほどで、今期は終わってしまいますが……」

「ふむ、学校はいずれ……と考えていたが、今期の内に行ってしまって良いのかな?」


「はい、この期を過ぎると長期休暇に入ってしまい、学年始めは2か月後です。お1人で過ごされるより、同じ年頃のお友だちで、夏の2か月過ごされた方が良いのでは?と愚考いたします」

「確かに!確かにその通りだ!早速準備をしよう!ヘンリー、手続きは頼めるか?」

「お任せください。既にデイジーとは、この事について話は済んでおります。寧ろ今期中に学校へ、と言うのは彼女の意見です」


 デイジーさんってどなたでしょう?とお訊ねすると。


「デイジーはこのタルトを作った私の妻で、アムカム村の学校の教師でもあるのですよ」


 と教えてくれた。

 をを!そう言えば、この前のチェリーパイもデイジーさんが作られたと仰っていましたね!

 お菓子作りが得意な先生って、何か素敵ですね!!


 でも、展開がいきなり過ぎな気もします……よ?


「スージィは学校へ行くのは嫌かね?」

「いえ・・・いって・・・みたい・・・です・・・けど・・・すこし・・・しんぱ、い?」


 何処から来たかも分らない身元不明な人間が、いきなり学校に溶け込むのって難しいんじゃないのかな?普通は警戒されるよね?

 そんな事を伝えるとハワードさんは「そんな事は無いぞ!」と仰る。


 ハワードさんが言うには、このアムカム村は強い者を貴ぶと云う風潮があり、ハワードさんのお墨付き、更にはウルフを倒した実績が示されれば、何の問題も無く村の人間には受け入れるだろう……と。


 ナニソレ?体育会系村落?それともどっかの戦闘民族?

 ちょっと引くわーーー。


 まぁだから問題無いだろう、とサックリ週明けから通う事が決まってしまった。


 ……思ったんだけど、ウチのハワードパパってば、こうしようって決めると、その後の行動力がすんごいのよね。

 サクサク段取り決めて、みるみる事を進めちゃう。

 経営者体質っていうの?ま、こんなシャチョさんなら、皆安心して着いて行けるよね~!

 ふふン、ちょと誇らしかったりしる。


 ンで、お家に帰って学校の事を伝えたら、ソニアさんの何かのスイッチが入ってしまった様だ。

 妙に鼻息が荒い?

 な、なんだか必要以上に力入ってません?

 翌日、わたしの物を色々揃える為に、ソニアさんと二人で街まで行くことになった。


 最初が肝心なのだから、装備はしっかり整えなければいけない!とソニアママは仰る。

 装備って……。せ、戦闘でもあるんですか?!学校ですよね?!


 この時になって初めて知ったんだけど、ソニアさんは元々脚が丈夫では無く、家の中を動く分には問題無いけれど、長時間立ちっ放しとか、長い距離を歩く事が出来ない。

 遠出をする時は、馬車以外で車椅子も利用すると言っていた。


 家の中でも、あまり重い物を持つと脚に負担がかかるので、力仕事はエルローズさんに任せているのだそうだ。


 これは!わたしがちゃんとソニアママを支えないといけない!物理的にも!精神的にも!!


 街までの道中は、馬車はソニアさんが操車した。

 馬車を扱う事まで出来るなんて……。やはり只の品の良いご婦人では無いのだなと、更に尊敬してしまう。


 でもソニアママの負担を減らす為にも、自分も操車覚えないとな!と心に刻んだ。


 道中はソニアさんと二人だけで、何か妙にテンションが上がってて、また取り留めない話を沢山してしまった。


 でも、大体が食べ物の話だったのは秘密だ!

 これから少しずつ調理を教えて貰う約束もした。



 街へ……コープタウンへと続く道は、赤い土で固められていて、道の周りの草木の、透き通る様なグリーンとのコントラストが目に優しい。

 長閑に広がる麦畑と、所々に顔を出す木々の集まる林や小さな森。

 デイパーラ程の高さは無いけれど、南の彼方に見える薄紫に霞む山々の峰たち。

 そんな景観が、馬車の上からわたしの眼を楽しませてくれていた。


 空は、眩しいくらいに突き抜けたディープスカイブルーで、高さの無い真っ白な雲の塊が、風にゆっくり流されていた。


 風に揺れる帽子を押さえながら、思いっきり風を吸い込むと、麦と緑と空の匂いが胸一杯に広がって、とても気持ちが良い。


 そんな様子を、ソニアさんに愛おしげな眼差しで見つめられていた。

 目が合って恥ずかしかったけれど、それが何故だかとても嬉しかった。


 街までは馬車を使ったが、お店への移動は徒歩になったので、ソニアさんの手は常に取っていた。

 「そんなに心配しなくても平気よ?」と笑って言うけれど……。心配だもの!手は離しません!!


 そして、到着したお店ではファッションショーが執り行われました!

 観客、ソニアママ。モデル、スージィ・クラウド。


 まぁ要するに着せ替え人形?あれやこれやと服を取っ替え引っ替え着せられて、ソニアママが選んで行く……という。


 他にも帽子や靴、新しいバスケットや文具、最後には下着までも。


 下着はやっぱちょっとハードル高く、かなり恥ずかったのだけれど、ソニアさんはノリノリで幼可愛いものから、ちょっとアダルティな物まで、幅広く選んで行った。

 でも、シルクの紐パンやTバックとかは、流石に13歳にはどうなの?と思ったのだが……。


「女の身嗜みは見えない所こそが重要なのよ!」と真顔で言われてしまうと何も言えない。


 買い物が全部終り、荷物を店員のお姉さんに、馬車まで運び積み込んで貰ったら……。荷台には、山が出来上がっていた。

 思わずソニアママと見つめ合い、ケラケラと笑い合ってしまった。


 「帰ったら、ハワードにも頑張って貰わないとね」と、ソニアママが眩しい位な笑顔で仰った。





     ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 学校へ行く当日の朝は大変だった。

 いや、実際の所は、着て行く服を選んでいた前日から大変だったんですけどね……。何を着せるか?でソニアさんとエルローズさんが侃々諤々かんかんがくがくと……。


 結局、着て行くのはピナフォアになった。

 まぁエプロンドレスってやつですかね。

 ジャンパースカートでないヤツです。

 肩の所に羽みたいにでっかいフリルが付いてて、後ろのリボンがまた大っきい。


 エプロンの下に着るワンピースは、アップルグリーン。

 これも、スカートのプリーツが多目でボリューミィ。

 裾のフリルも大きめで、襟も大きくてフリル付。

 袖はフワッとした感じのロング・バフ。


 足元は髪と似た色のルビーレッドのレースアップブーツ。

 先っぽが丸くて靴底厚め。

 甲から筒先まで黒い細紐で絞られてる。


 髪は、後ろをジグザグの分け目にして両側で纏めたツイン・テールならぬピッグ・テールだ。

 纏めた所はビビットな水色の髪紐で結んで、大きな蝶結びを作ってある。

 ……なんかコレ、全体的に可愛い成分過多じゃないですか!?


 なんだかどこかのお姫様みたいですね?

 と照れて、冗談めかしてソニアさんに言ってみたら。


「あら?スージィはお姫様よ?」


 と、またもや真顔で言われてしまった。


 わたしにどうしろと言うのでせう!?

 ホントに恥ずか死んでしまいますよっ?!!





     ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 学校は、クラウド邸からは直線距離で5キロ程の場所にある。


 常緑樹の防風林に囲まれ、白い外壁で青い切妻屋根の教会の様な建物だった。

 建物から伸びている塔には鐘が吊られているのが見える。


 スージィは初日と云う事もあり、この日はハワードの操車する馬車で登校をした。


 校舎内の事務室で、ジェイムスン夫人ことデイジー・ジェイムスンに迎えられた。


 歳は30代中頃。

 ダークブラウンの髪を三つ編みにし、後ろで団子にして纏めている。

 全体的に後れ毛も無く、丁寧に整えられている髪はとても艶やかだ。

 知性を感じさせる灰みがかったブラウンの眼と、それにかかる小さなメガネ。

 そして人懐っこい笑顔が印象的な女性だった。


 あ、仕事の出来るOLな人だ。しかも責任職っぽい!とはスージィの内なる声。


 装いは、ゆったりとした白いブラウスに、寒色で落ち着いた柄のスカーフをネクタイの様に巻き、全体的に清潔感がある。

 膝上タイトスカートと、黒いストッキングが実に女教師風だ。


 一旦、スージィはデイジーに連れられ、教室まで案内された。

 しかし、ハワードと書類の手続きがあるとの事で、デイジーは教室内に居た一人の少女を呼び寄せ、その少女にスージィを任せて事務室へと戻って行った。



     ◇



「アタシはベアトリス・クロキ!アンタの事は父様からも聞いてるわ!」


 少女は、背中まである緩くウエーブのかかったとび色の髪を、カチューシャで後に流し、豊かで広い額を露わにしていた。

 細き引き締まった眉と、光によっては金色に見える大きなアンバーの瞳が、共にその子の聡明さを映し出していた。

 不敵に口角を上げる口元、程よく散ったそばかすは、彼女の気の強さを表している様だった。


 身長はスージィより幾分小さい。

 目線が少し下がる。

 ここに来て初めて会った自分より小さい相手だった。少し嬉しい。


「・・・スージィ・クラウド・・・です・・・よろしく・・・、です!」

「よろしくね!アタシの事はビビでもトリスでも、好きなように呼んでくれていいわよ!」

「・・・じゃ・・・ベア子?」

「ちょっと待って!なんで?なんか良く分んないけど……あんまり好きな響きじゃないわね!」


「・・・ん・・・じゃ・・・ベーヤン?」

「え?いや……いや!なんだろ?なんか前のよりもっと感じ悪いわね!良く分らないんだけど!!」

「・・・むぅ?」


「ん、ん!ま、まあいいわ!とりあえず仲良くやって行きましょ!えと、コッチの子も紹介しとくわ!ミア!」

「あ、え、あの……ミア・マティスンと言います。よろしくね」

「・・・・・・・え?・・・あ・・・あ、スージィ・・・クラウド・・・・・・・・、です?・・・で、す・・・・・・、デス」

「……え?えっと?え?」


 ベアトリスに紹介され、やや慌てた様子でミアと名乗った少女は、スージィよりも随分身長が高い。

 160センチはありそうだ。


 髪はやや青味がかったアッシュブロンドで、前髪を眉の高さで自然に流している。

 腰までありそうな長い後ろ髪を、緩い三つ編みにし、右の肩口から前へ落していた。

 青が群れて集まったようなウルトラマリンの碧眼は、とても穏やかで、見る者に安心感を与える。

そして………。


「アタシ達三人とも同い年だからね!」


 「な、なんだと?!」と目を見開いたスージィが、ベアトリスを振り返った。

 「そーなのよ!」と腰に手を当て、半眼で眉を上げるベアトリス。


 改めてミアを見返すスージィ。

 その視線はその首から下へ……。

 そこで堂々と鎮座しておられる堕肉様へ!!


「くっ!!」


 思わず苦悶の声を上げてしまった。


「え?あれ?え?」


 どうしたのかと戸惑うミアと、ヤレヤレと首を振るベアトリス。


(な、なんっっってこったぃ!!!なんだこのスイカップはっ!?推定F!いや!Gか!?Gの衝撃!レコンギ……。コレで13歳ィ?!何と云う事でしょうっ……くうっ!

スイマセンでした!!自分をト〇イシー・ローズだなんて言って!おごっておりましたっ!自惚うぬぼれておりました!!本物がここに居りましたぁぁ!!!

くぅぅ!しかし何コレ!?目は眼福眼福と喜んでいるのに、心の底から込み上げて来るこの絶・対・的な敗北感!!気を抜くと膝が砕けて両手を付いてしまいそぉぉぉ!!!あうっっ!)


 くぅぅっ!と視線を逸らすと、そこにはベアトリスが居る。

 あぁ、そうだ、コレが年相応だよな。と安心感がスージィを包む。


「ちょコラ!今どこ見て安心した?!」

「・・・え?」


 更に明後日を向くスージィ


「い、言っておきますけどね!アタシは成長期なんですからね!成・長・期!!」

「わ!わたし・・・だって・・・せいちょう・・・、き!!」

「分ってんじゃないのよ!」


 フン!と鼻息を飛ばし手を握り、頷き合う二人の少女達。

 分かり合えたようだ。


「あ、え?えーと……よろしくね?スージィちゃん」


 1人、状況に追い付いて行っていないミアだった。


「なんだい?随分楽しそうだね!?」


 スージィは後ろからかけられた声に振り向くと、そこに長身の少女が立って居た。


 ミアより少し低い程度なのだが、その自信に満ちた佇まいが、彼女を他より大きく見せている。

 長く後ろで束ねたブルネットの髪は、光によってはチェリーレッドに輝き、ネコを思わせる瞳をアクアマリンの様にキラキラと煌めかせていた。


「今、自己紹介を終わらせたところよ!スージィ、ついでに紹介しとくわ!コッチの大っきいのがダーナ。ちっさいのがコリン。二人ともアタシ達の1コ上よ!」

「はは!ついで……とは随分だね?あたしはダーナ・マッケイン。アンタが噂の娘さんかぁ……会えて嬉しいよ!これからよろしくな!!」

「ちっさい……って酷いわ。私ビビとそんなに変わらないのに……。騒がしくてごめんなさいね?私はコリン・ソンダース。よろしくねスージィ」


「スージィ・クラウド・・・です・・・よろしく・・・おねがい・・・しま、す」


 ダーナの陰にもう一人少女が居た。

 コリンと名乗った小柄な少女の身長は、ベアトリスと左程変わらない。

 落ち着いたダーティブロンドの髪を、後でフィッシュボーンで編み下ろし、上品な雰囲気を持つ少女だ。

 大きな丸眼鏡の奥にある、青味がかったグレーの瞳は柔らかく皆を見渡している。


 わあ、ネコ目とミカン目のお姉さん方だ。とはスージィの心の声。


「う、うわさ・・・て?」

「そう噂だよ、ウ・ワ・サ。凄腕美少女現る!……ってね!!」

「ブフゥォっ!?」


 スージィが吹出した。


「す、すご?・・・うぇ?」


 おお?!と声を出すミアとコリン


「この村で強者は大歓迎だからね!それがこんな可愛いとなれば尚更だよ!!」


 いきなり肩を抱かれ、頬を摺り寄せられてしまう。


「ああ!ダーナずるいわ!私も私も!」

「ふぶえっへぇっ・・・!?」


 反対側の頬にはコリンが密着し、二人に頬が挟まれ擦り合わされ、おかしな声が出てしまった。

 「もう!お人形さんみたいーー!」とコリンが言えば「ひゃぁ!赤ちゃんみたいにモッチモチだぁ!」とダーナも歓声を上げる。

 ミアがその周りを、行こうか戻ろうかと二の足を踏んでいた。

 どうやら一緒に抱き着きたいらしい。


 それを見て、ベアトリスが「ヤレヤレ」とため息を付く。


「うひゃーっ!もう匂いまでかわいぃよーー!へへ!カーラ達悔しがるぞぉーーっ!!」

「カーラって言うのはダーナ達よりも1コ上の最上級生でね!後二人、ジェシカとアリシアが居るの!三人とも来週で卒業だから、もうたまにしか来ないのよ!」


 とベアトリスが説明してくれたが、スージィはそれどころでは無い。



 二人にもみくちゃにされ、いつの間にか後ろで抱き着いているミアまで加わって大変な事になっている。

 何気に上級生は二人とも、胸部がスージィよりも立派だ。

 両腕と背中が豊かな肉の波に飲み込まれている。


 その様は、荒波に逆巻く波濤はとうに飲まれ、翻弄される小舟の様だ。


(なななななななんですかーーーこの状況はーーーーっっ!!ココは天国ですかぁぁーーーーっっっ!?背中が!腕が!幸せな感覚に包まれてゆぅーーーーっっ!!

生きてて良かったぁっ!あぁーーーーーーーーーっっっンん!!!!)


「あふぇ!ひふゃっっ・・・!はふぁ!!」


 そこには上へ下へと振り回され、グルグルの渦巻き目玉になっているスージィが居た。


「なんだか騒がしくなってきたわね!」


 年下の子供たちが遠巻きで見守る中、ベアトリスが呆れて呟く。


 と、そこへ、更に騒がしさを増量させる者が現れた。


「あぁーーーーーーーーーーーーーーーっっっ??!!!スージィじゃないかっっ?!!なんで!?なんで教室にいんのっ!??えぇーーーーーっっ?!!」


 ソイツは、バタバタと教室に入って来た途端、大声を上げ騒ぎ出した。


「あ・・・あれ?・・・アーヴィン?・・・こんにち・・・、は?」

「どうしたのさスージィ?!どうしてここに?!あ!もしかしてスージィも学校に通うの?これからは一緒か?!やったーーーーーーっっ!!!!」


 アーヴィンは今にもスージィに抱き付きそうな勢いで近づいて来るが、その間にベアトリスが入り行く手を阻んだ。


「ちょっと!アーヴィンどう云う事!?どうしてアンタがこの子の事知ってんの!?」

「うっ!ビビ!?べ別に!ど、どうだってイイだろ!」


 むぅ!!とベアトリスが眉間に眉を寄せる。


「この前、森でツーヘッドボア回収する時会ったんだよな?だらしなく鼻の下伸ばしてたってフレ兄ぃが言ってたよ!」

「の!伸ばして無い!!」

「ふーん……そうなんだ!……アーヴィンってばやっぱり手が早いんだ?……ふーん、そうなんだ!!」

「い、いや!ビビ!違う!!そう云う事じゃなくてっ!!」


 鼻の下?伸びてた?と小首を傾げるスージィだったが……。


「・・・フレ兄ぃ?」


 誰それ?とダーナに問いかけた。


「フレッド・マッケイン。この前アーヴィンと一緒にボアの回収やってたんだけど、憶えて無いかい?アタシと同じ髪と目の色なんだけど……」


 スージィは「ん~~?居たっけ?そんな人」と、今一度小首を傾げ、思い出そうとする。


「あぁ……フレ兄ぃ、御愁傷様だ……」


 そのスージィの様子を見て、悲しげにダーナが首を振っていた。


 そんなカオスが渦巻く中、もう一人少年がスージィに近づいて来た。


 身長はスージィより随分小さい、天パで赤茶のクセっ毛、そばかすだらけの顔、デニムのオーバーオールで、中に着ているシャツの袖をだらしなく捲り上げている。


 をを!イタズラ小僧を絵に描いた様な子だ。


 とスージィが半ば感心して見ていると、その子も興味津々にキラキラした青い眼を大きく開いて、スージィを見上げてくる。


 その子はスージィの目の前まで来ると、突然、何の前置きも無く彼女のスカートを捲り上げた。


 捲り上げられたスカートの布地が大きく広がる。

 その日降ろしたばかりの、際どいカットを施された薄水色のシルクの紐パンが、余す事無く衆目の前に晒された。


一瞬、時が止まった様だった。


 突然の事に、周りの女子たちは驚愕に目を見開き動きを止め、目撃していた、年の近い少年たちは喜びにどよめいた。


「くっ!このワルガキステファン!!ちっっ!待て!!!」


 いち早く反応したのはダーナだったが、それより早くステファンと呼ばれた少年は疾風の如く逃げ去った。


「でかした!ステファン!!!」

「アーヴィン?!!!」

「はい!男子たち!?そんなに見つめる物では無いわよ?!」

「ふぉ!・・・すかーと・・・めくり。・・・はじめて・・・され・・・、た!」

「あ……スージィちゃん?そこは感心するトコじゃなくて怒るトコだと思うよ?」


 教室内のエントロピーが、更に増大していった。


――――――――――――――――――――

次回「スージィ・クラウドと学校の昼休み」

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