第21話スージィ・クラウドと学校の昼休み

 教科書は9段階に分けられ、子供達はそれぞれ自分の段位の教科書で学んでいた。


 数を数える事や文字の読み書きを覚える7歳の1段位から、この学校で教えられる最上である15歳の9段位までの子供達が、一つの教室で学んでいる。


 1段位、男子2人、女子2人。

 2段位、男子3人、女子1人。

 3段位、男子2人、女子2人。

 4段位、男子1人、女子2人。

 5段位、男子2人、女子1人。

 6段位、男子3人、女子2人。

 7段位、男子2人、女子2人。

 8段位、男子1人、女子2人。

 9段位、男子2人、女子3人。


 男子18人、女子17人。合計35人が全校生徒だ。


「そこにアンタが入るから、女子18人で合計36人になるんだけどね!」


 とベアトリスに教わった。



 子供達は、それぞれの段位ごとに机を寄せて勉強している。


 カリキュラムによって先生が直接指導するようだが、解らない時などは近くの上級生に教わるなど、基本的には生徒が自主的に学んで行くシステムの様だ。


(ニュースとかでしか知らないけど、日本のフリースクールみたいな感じなのかな?)


 とりあえず、先ずは文字を憶える所から始めなくてはならないスージィは、一段位の7歳の子たちの近くで勉強をする事になる。


 ミセス・ジェイムスンから文字の書き取り指示を受け、教本の書き写しを始めたが、幾らもしないうちに周りの子供達の視線に気が付いた。


 目の前に座っている少女は、チラチラとスージィの髪を見ていて、完全に手がお留守になっている。

 その隣に座る子も同じだ。

 どうやらこの子たちは、スージィの事が気になって、勉強どころでは無い様だ。


「きに・・・、なる?」


 問いかけられた少女はハッとして、見る見る顔を赤くしながら俯いてしまった。


「さわって・・・、みる?」


 もう一度問いかけると「え?いいの?」と顔を上げて聞いてくる。


 「いいよ」と顔を横にして、纏めた髪の先が少女に向く様にする。

 わざと少しだけ距離を取って。


 恐る恐る触ろうと、腰を上げて顔が近付いた所で……頭を揺すり、毛先で少女の鼻先をくすぐってやった。


 「きゃーーーん!」と声を上げて、少女のはしゃぐ声が響いた。

 改めて顔を突合せ、スージィと少女が笑い合う。


 わたしも!わたしも! ともう一人の少女も言って来たので、顔を近づけさせて毛先でくすぐってやると、肩をすくめながら「やあーーーん!」と、こそばゆそうに声を上げた。

 男の子二人も羨ましそうに見ていたので、同じようにくすぐってあげた。


 それ以降は子供たちにすっかり懐かれ、女の子は二人共スージィの両脇に密着して座ってしまった。


「こんなきれいな赤い髪、初めて見たの!」


 髪を触り「キラキラしてる」と目を輝かせる少女たちに。


「『あか』・・・どう・・・かく、の?」


 とスージィが聞く。

 すると子供達は、我先にと教えてくれる。

 その後も子供たちの判る字の書き方、読み方を教わりながら、数術は問題を子供たちに読んで貰って、解き方はスージィが教えていた。


(なんていうか、昔からガキンチョとケダモノにはよく懐かれたっけなぁ……。身体や世界が違っても、同じなのか?あれ?でもミセス・ジェイムスンってば、こういう状況になる事読んでた……?)


 教室の向こう端から、此方をにこやかに見ているミセスを見ていると、そう思えてしまう。

 やっぱり出来る上司なOLの人だ……。

 そんな風に思ってしまうスージィであった。



「なんだかあの子、子供の扱いうまいわね!」

「スージィちゃん優しそうだもん」

「小さい子の面倒見てくれるのは助かるわ」

「凄腕美少女は腕っぷしだけじゃないってか?はは、ハードル高そうだ……。あ?アイツいつの間にあそこに行った?」




 後ろから、思いっきり此方を狙っている気配を感じる。

 遠慮も何もなく、両のおさげを両手でガッチリ掴む気満々なのが良く分る。


 狙いすまして思い切りよく伸ばされた手を、スッと躱す。


 くうを掴んで一瞬呆けた様だが、直ぐキッと睨んで改めて掴みかかる。

 ふたたび、三度みたび、次々躱され向きになって、何度も何度も掴みかかる。

 周りの子たちもその様子に気が付き、驚いて目を見開いていた。


「……なっ……なんでっ………!」


 ついには息を切らし、大きく肩で息をするステファン。


「・・・なに?」


 小首を傾げて問い返すスージィ。


「な、何で!そ、そんなに!髪の毛………ま、真っ赤なんだよ?!!」


 頬を赤くしながらステファンは、スージィに向かって思い切り怒鳴っていた。


 スージィは、そのステファンの顔を、……頬を両手でそっと挟み、顔を近づける。

 「うぐっ!」とステファンが、弱弱しく呻きを漏らした。

 鼻と鼻が触りそうな程顔を近づけて、スージィが一言。


「なんで・・・、かなぁ?」


 と小首を傾げながら、零れ落ちそうな笑顔をステファンに向けた。


 ボンッ!と破裂音が聞こえたかと思うくらい、真っ赤になったステファンは「わあぁぁぁぁ!」と叫んでスージィの手を振り解き、教室から逃げ出してしまった。


 それを見送るスージィは、後ろ頭に手を置いて「あ、あははは?」と、照れた様に笑っていた。


「……い、今の見たか!?」

「すごーい!スージィちゃん、ステファンを軽くあしらっちゃった!」

「あらぁ、アレは……落ちちゃった……かしらね?」

「やっぱり子供の扱い慣れてるわよね!……というより男子の扱い??!」

「そーじゃないって!あの動き!!なんだあれ!?」

「ん?動き?そんなに動いてなかったと思うけど?」

「そうね!なんかユラユラってしてた感じよね!」

「それが凄いんだって!あれだけで全部躱すとか普通出来ないからね?!しかも椅子に座った下半身なんか微動だにしてない!ありゃ達人の領域だよ!!」

「ふぅ~ん…流石は武闘派、私達とは見てる所が違うのねぇ」

「え、と……後ろにも目がある……みたいな?感じなの?」

「後が見えてたってありゃ出来ないよ!!見てみなよ!アーヴィンだって目見開いて固まってる。あ!ヤバい鳥肌立って来た!」

「ふん!アーヴィンは違う事で固まってると思うわ!」

「あぁー、羨ましかった……のね?」



     ◇



 お昼は校舎南側の芝生の上で皆で食べた。


 スージィの両脇は、午前中からずっと懐かれた二人の下級生に独占されていた。

 レイラ・カーターとメイベル・ボーモント。

 二人して「スーちゃんスーちゃん」と纏わり着く。


「わたしもスーちゃんって呼んで良い?」


 とミアが聞いて来たので「いいよ」と答えると、「じゃ私も!」「あたしも!」と全員にスー呼びで固定されてしまった。


 食事中、ふとベアトリスの肩に乗る小動物に気が付いた。


(あれ?ハツカネズミ?にしては大きいか……ハムスターかな?白いハムスター?でも尻尾なっがいなぁ)


 体長は12~3センチ程、尻尾を入れると30センチにもなりそうだ。

 その白いネズミが、ベアトリスの肩の上で彼女から餌を貰い一緒に食事をしてる。

 それは何なのかベアトリスに聞いてみた。


「ん?この子?この子はアルジャーノンって言うの!アタシの従魔よ!とーーっても賢いの!」

「賢過ぎて試験の時は教室から出されちゃうけどな!」

「ビビよりお利口さんだから代りに解答しちゃうものね」

「ンもう!そんな事無いもの!」


 そんな会話を理解しているのか、アルジャーノンはスージィを見て鼻をヒクヒクさせている。

 まるで「アンタの事は知ってるよ」とでも言ってる様だ。

 突然、アルジャーノンはスルリとベアトリスの肩から降りると、真っ直ぐスージィへと向かって来た。

 そのまま、何のためらいも無く彼女の肩口まで登って来ると、クンカクンカと耳元の匂いを嗅いで来る。


「ぅひゃぅっ」


 スージィは思わずこそばゆさで身を縮めてしまった。

 アルジャーノンは、肩周りを何度かクルクルと周った後、肩の上からスージィに向けて「キキュッ」とひと声鳴いて、そのままベアトリスの所へ戻って行った。


「あら!挨拶して来たの?アンタこの子に気に入られたみたいね!」


 やはりケダモノにも懐かれるようだ。


「午後からは!剣とか槍とかの実践修練と、魔法の研究会に分かれるんだけど!アンタはどうする!?」


 皆の食事が済んだところで、ベアトリスに聞かれた。


「どっちでもいいのよ?みんな自分の得意な方やってるから!日によって替えてる子もいるしね!何をどうするかは自分の自由だから!」


(ほほぅ、部活やクラブ活動に近い感じかな?自主的な参加が基本か。きっとサボる子とか居ないんだろうな。この村の人たちは子供も含めて強さを貴ぶと言ってたから。まぁ物騒な森の脇で生活してるから、弱さイコール生命の危機で、身を護って行く為には当然と言えば当然なのかな……。

自分はどうしよう?剣の修行もみんな元気だから楽しそうだけど、取敢えず魔法かな?ここでの魔法の在り方とか知り得るのはありがたい)


「まほう・・・しり・・・たい・・・、です!」

「えぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!?」


 それまで、キラキラとした目でスージィを見つめていたダーナが、不満の声を上げる。


「なんで!?あれだけの動き出来る人が魔法!?そりゃ無いよ勿体無いよ!一緒に手合せしようよスー!」


 うぁ!っと身体が引けてしまう。手を付いて迫って来るダーナに少し圧倒されてしまった。


「ダーナ。残念なのは分るけど、スーを困らせるのは駄目よ?」


 コリンが上目で、メガネを指でクイッと上げながらダーナに注意を促す。


「うっ!こ、困らせるつもりは無いけど……さ」

「スーちゃん剣とかも扱えるの?」

「つかう・・・ます・・・、よ?」

「でも、剣の修練はしないの?」

「まほう・・・ならう・・・ようす・・・おちつき・・・たら・・・けん・・・しゅうれん・・・も・・・したい・・・、です!」

「ホントっ!?なんだぁー。魔法クラス一択かと思ったよー。じゃ魔法の勉強の区切りが出来たら、修練にも来るって事でいい?」


 「う、うん」とダーナの勢いに押されつつ頷く。


「よかったよーーっ今日手合せ出来ないのは残念だけど……、近いうちに一緒に出来るんだろ!?」

「ん。・・・がんばり・・・ま、す!」


 魔法の勉強頑張って剣の修練に行くね!とダーナを見ながら両の拳をグッと握って見せた。


「ありがとーーーっ!嬉しいよ!スーっ!!」


 ガバァっとダーナに抱き付かれた。その胸元に顔が埋まり一瞬息が出来なくなる。


「あーーーっ!もう!やっぱスーは可愛いなぁ!このーーーっ!!」


 ダーナが更にワシャワシャと抱き締めてくる。


「あびゃぶっ!!」

「あぁ!もうダーナ!独り占めはズルいってば!!」


 コリンがダーナからスージィの奪還に入ると「わたしも!わたしもー!」と年少の二人もスージィにしがみ付いてくる。


 ダーナからスージィを奪えたものの、オマケの二人も一緒に付いて来て、三人の重さに潰されるコリン。


 再びスージィを奪い返し三人そろって振り回すダーナ。

 レイラとメイベルの二人はキャッキャと喜び、スージィの目はグルグルと渦巻いている。


 それを見ながら「わたしは後で一杯抱っこしよー」と呟くミアと「アタシがしっかりしないとダメねこれは!」と気合を入れるベアトリス。


 長閑にお昼の一時が過ぎて行く。


――――――――――――――――――――

次回「ジェイムスン教授の魔法講座」

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