第22話ジェイムスン教授の魔法講座
魔法組の研究会は、週の初めは神殿から神官が来て指導をし、それ以外の日は皆それぞれの課題に打ち込み、翌週に成果を改めて神官に見てもらう。というローテーションを繰り返しているのだそうだ。
いつもは若い神官さんが来て、その人が指導に当たってるそうなのだが、今日は……。
「こんにちはスージィさん、もうお友達は出来ましたか?」
「ヘンリーさん・・・?」
「いつもはコチラの若い者に任せているのですが、今日はスージィさんの初登校日ですからね。つい様子を見に来てしまいました」
そう言って、若い神官さんの前に立ったヘンリーさんが、わたしに笑いかけて来た。
「それに、講義の続きをするお約束もありましたし、魔法を使うには必要な知識です。この機会に如何ですか?」
「あ、・・・はい・・・おねがい・・・し、ます!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
前回はエーテル体についてお話ししましたね。今回はその次にある、『感情体』『精神体』について一通り大まかな解説をいたしましょう。
『感情体』は『アストラル体』とも呼ばれ、人の『感情』を。
『精神体』は『メンタル体』とも呼ばれ、人の『意志』をそれぞれ司っています。
アストラル体は良くも悪くも物質にも影響を与えます。
大きなアストラルの波は、エーテルへ干渉し物質をも変化させるのです。
世界にあまねく存在しているエーテルにも、『
この『意志』が乗り、大きな流れを作ったエーテル流を『マナ』と呼びます。
宇宙を覆うマナの流れは、この世界に到り、世界全体を覆う様に流れているのです。
我々は、このマナの流れ、意識の流れを『
『
この『
更に細分化されたマナの一部は、感情体が強く表れて個体としての性格も出て来ます。
これが我々が認識する所の『精霊』と言われるものです。
精霊は更に、あるものは『風』の、あるものは『水』の、あるものは『土』の、あるものは『火』の、それぞれ属性を付加され分化して行き、自然界の事象の
我々はこの精霊達と契約する事で、互いのエーテル体を繋ぎ、情報の交換が簡易に出来る様になります。
そして魔法力でエーテル情報に介入し、物理現象を変化させる事が可能になるのです。
これが魔法と呼ばれる奇跡を行使する為の、基本的な仕組みです。
魔法を使用する為の魔法力の強さや量と云った物は、行使する人間の持つ『
『
『
そうですね例えとして、筒状で押し出し棒の付いた水鉄砲を想像してみましょうか。
この筒の太さ長さが『
そして棒を押す力が『
この水鉄砲に入っている水の量が、その人の持つ魔法力の大きさ。
押し出された水の量が、使用された魔力量。
押し出す力が、魔力圧です。
この使用魔力量と魔力圧の数値を掛けあわせる事で、使用した魔力エネルギーの数値、つまり魔力値が算出出来るのですが、それはまた別の講義でのお話ですね。
感情が薄ければ大きい力は使えません。
簡単に波立ち、揺れ惑う様では安定した力も使えません。
感情が豊かで大きく安定していれば、より大きな力が使えます。
意志が弱ければ折角の大きな力も使う事が出来ません。
強い意志あってこそ、大きな力を強く使う事が出来るのです。
意志の力こそが、世界を改変し、創り上げる根幹だと云う事を、しっかりと覚えていて下さい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ジェイムスンせんせい・・・しつもん・・・、です」
「はい、何でしょう?スージィさん。……時に、何故、貴女はマティスンさんの膝の上に座られているのでしょう?」
そうヘンリーさんに尋ねられてしまい、わたしは小首を傾げて微笑んでごまかしてみた。
今はミアにしっかり抱えられ、背中は豊満な胸部に支えられ沈み込んでいる。何コノ堕肉ソファー?すっごい背中が心地良過ぎの天国なんですけどーーーっ!?
「お昼に、ずっとダーナとコリンが占領してたから、今はわたしが抱っこする番なんです」
と、事も無げにミアが答えると、隣でベア子が「やれやれ」と肩をすくめた。
部屋の端で、神官さんに指導されながら魔法具に手をかざしているコリンが、肩越しに「むぅ」と言う顔をしてる。
この子達にとってのわたしってば、一体どんな立ち位置にいるのでせう?
「そうですか、……早速お友達が出来たのですね。それは良かった……。それで、ご質問は何でしょうか?」
ヘンリーさんが嬉しそうな笑みを浮かべながら、改めて聞いて来た。
「はい、・・・つかった・・・みずは・・・どう・・・もどる・・・です・・・、か?」
「水鉄砲と言うのは比喩的な表現で、実際に魔力を使用しても消費する物はありませんよ。
自らのエーテル体を情報の媒体にするので、一時的な疲労感はありますが、直ぐにニュートラルに戻る物なので、消費されるものでは無いのです。
『
消耗を感じるのは精神疲労から来るものですね。
魔力を使用するために必要な集中力は大変なものです。精神力の増減により、感情体の厚みも比例して増減します。精神力の強さが魔力使用量と言って良いでしょう。
ですから、気力を使い果たしてしまえば魔法を行使するどころか、意識すら保てないでしょうし、気力が戻れば使用量も戻ります」
そか!微妙な消耗感は精神疲弊か。
確かに今のわたしなら僅かな精神の動きも敏感に感じ取れるし、消耗しても回復はあっという間だよね。
あれ?でもこれひょっとすると自分、魔法使用量底無しになるんじゃね?
……なんか一筋汗が垂れた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それでも『
『
『氣』の流れ、強さをコントロールできる今は、魔法の威力もコントロールできると云う事だ。
あ、もしかして、とてつもなく強い『氣』を籠めれて念じれば、呪文とか無くても、そこに火の玉とか生じさせる事出来るんじゃないかな?
「そんなワケ無いじゃない!」
そんな事が出来ないか聞いてみたら、アッサリとベア子に否定された。
「そんな簡単に事象を改変できるほど世界は甘く無いわよ!ちゃんとした手順が必要なの!それが『魔力』を使う『方法』であり『技術』なんだから!」
「恐らくそれは、とても大きな『
クロキさんの仰る様に、正しいプロセスを経て行使される『方法』ならば、もっと少ない力で遥かに大きな効果が得られます」
一通り講義が済むと、「では精霊との契約を行ってみましょうか?」とヘンリーさんが仰った。『契約の儀式』なるモノをするのだと言う。
まず、どんな精霊と相性が良いのかを調べてから『契約』を行うのだとか。
相性は『
これは直径30センチ程の円盤で、真ん中に五芒星が刻んであって、その頂点にそれぞれ丸い刻印がある。
この五芒星の真ん中に魔力を通すと、相性の良い精霊を司る部分が光るのだそうだ。
早速やってみようとすると、ミアとコリンが驚いていた。
本来なら魔力を感じて扱う所から始める物なのだが、コレを使えると云う事は、少なくとも魔力を操れると云う事になる。
この、魔力を操る為の最初のトレーニングが意外と大変で、コレで向き不向きが出てしまうらしい。
この最初で嫌になって、身体を使う方へ行ってしまう子も少なくないそうだ。(ダーナやアーヴィンがそうらしい……)
まあヘンリーさんは、わたしがハワードさんに回復を行ったのを知っているから、魔力が使えるのが分ってた訳で……。
……でも、ベア子も知ってたっぽい。
クロキ家って言うのは『アムカム御三家』の一つだそうだから、お父様から伺っていたんだろか?
で、手を置いて魔力を流し込んだら(掌から息を流し込む様に……『氣』を流すのと同じ要領だね)全部光っちった。
普通は一つか二つが、ボゥッと光る程度らしいんだけど、光の柱が立ってしまいまつた。
ヘンリーさんも驚いてた……。
う~~む、少しだけ流し込んだつもりだったんだけどなぁ。
ヘンリーさんは、直ぐに納得した様に頷いてたけど、周りの子達はみんな目を見開いて固まってた。
あれ?ワタクシ……なんかやらかしました?
で、直ぐにヘンリーさんから、どの精霊と契約するのかを聞かれた。
全ての精霊と契約する事が出来るそうだけど、まずは自分が欲しいと思う属性の精霊を選んでみては?と言われ、とりま『水』にしてみた。
サバイバル生活の時に、水は必要だよなと改めて思ったからで、あの時結局水場から離れなかったけど、あれで水が無かったらと思うとゾッとする。
なので『水』に感謝を籠めて、最初の契約をさせて貰う事にした。
五つの属性は其々『風・緑』『火・赤』『土・黄』『水・青』『無・白』となっていた。
五大元素って事なのかな?これで更に『光』と『闇』とか出てきたら実に厨二っぽいよね!
『契約の儀式』は直ぐに始められた。
今使った『
ケースの中には青い光球(?)が浮いていて、これが水属性の精霊との媒体になるらしい。
手を乗せると、ケースの中が淡く光を帯びた。
その状態でヘンリーさんが何か祝詞の様な物を唱えると、五芒星とケースの縁の金属が光を放ち、掌が暖か味を帯びるのが分った。
程なく光が消え、「儀式は終わりです」とヘンリーさんに言われた。
これでわたしのエーテル体に、精霊との繋がりが出来たのそうだ。
ただ、これだけで魔法が使える訳では無く、使う為には術式が要る。
それは呪文であったり、魔方陣であったりと、精霊にコンタクトし、オーダーを伝えるための方式が必要なのだそうだ。
すると、ヘンリーさんに「では試しに使ってみましょうか」と言われて、タクトの様な物を渡された。
これは練習用の魔法の杖だそうだ。
をを!ハリポタ的なアレだねっ!!
このタクトには、ごく小さな『
この『
因みに、剣などの武器にも魔導性の高いレアメタルを組み込むことで、『
そんな話を聞きながら、屋外の魔法練習用の場所へと案内された。
そこは弓道の射場っぽい場所で、わたし達が立っている所から20メートルほど先に、
ここは、火力のある魔法の試し撃ちや、練習に使う場所なので、少し位の事では壊れない様、頑丈に作ってある。とコリンが教えてくれた。
でも、「あくまで子供たちの力なら……という前提ですけれど」と、ヘンリーさんにそっと耳打ちされてしまった……。
いあ、モチロン大丈夫ですよ?!ワタクシ特別アブナイ事などしないとですよ?!
そんで、教わった呪文……と言うか『|祝詞(のりと)』だね……は単純な物だった。
「
つまりは、何処の何者が、誰に対して、何を求めているのか伝えれば良いらしい。
呪文はまぁ良いんだけど、神経使ったのは魔力の込め方!針の穴に糸を通す様に、ゆっくり慎重にホンの一滴だけだけタクトに通す様に……やったんですが
なんか目の前に、軽自動車位の水の塊が浮いている……。
あれぇ?どないしましょ? 的な感じで後ろを振り返ったら、ヘンリーさんはしきりに感心した様に頷いて、ミアやコリンやベア子は、口が開きっぱなしになってる。
ダメよ!女の子がそれはハシタナイと思うの!!
どうも、本来ならどこの何て言う精霊にお願いするのか?自分はそれに対してどういう立場の者なのか?その辺をキッチリ詰めないと、大した結果は出ないんだとか……。
その辺はこれから勉強して覚えて行くものだから、今回はお試しで相当に大雑把な物なので、出ても精々ピンポン玉程度の水玉で上出来!って事だったらしいんだけど……ね。
「アンタ!どんだけバカげた魔力持ってんのよ!?」
とベア子に盛大に呆れられた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「今日一日で、アンタが話しに聞いてた以上に、どんだけ規格外なのか分かった気がするわ!」
「うぇっ!?・・・それ・・・おおきな・・・ごかい・・・おもう・・・です!・・・、よ?」
「なんでスーちゃん最後は疑問形なの?」
学校初日を終えて、何故か校舎の外でみんなと、まるで主婦の井戸端会議みたいに、他愛無いお喋りをしていた。
「ホント、いきなりあんな大きな水を出せる人なんて、初めて見たわ」
「あたしだけ仲間外れは寂しいよスー!早くコッチにもおいでよーー!」
「ダーナ、貴女も少しは瞑想の時間も持った方が良いわよ?」
「うっ……あたし苦手なんだよー。ジッとしてると、お尻が落ち着かなくなるんだもん!」
「アーヴィンも似たような事言ってたわね!」
「へいじょう・・・しん・・・たもつ・・・たいせつ・・・、です」
「うぐっ!まじかっ!?……父さんにもよく言われるんだよね……」
「ダーナってばすぐ寝ちゃうもんね」
そんな話をしていると、自分の背後に近づく気配を感じる。
……また何か狙っているな?
後に近づく気配が、ステファンのモノだと分るけど……まぁ子供のイタズラだしなぁ、甘々に容認しとこかなぁ……。
と、そのまま様子を伺ってみていたけど……。アッサリと後ろからスカートをバサァッと捲り上げられて、わたしの小さなお尻が丸々晒されてしまった!!
わたしの可愛いらしいおヒップががが!!!
「うぴゃンっ・・・!」
う、後ろの見えない所で、お尻が剥き出しにされるのは、ちょっとビックリなのねっ!思わず変な声出ちゃったわよ!
で、でも何だろコレ?自分、思ってた以上に恥ずかしさ感じてるのかな……?これって、乙女の恥じらいってヤツ?!いつの間にやら自分の中に、娘心的な物が育ってるってか??!!
「こンの!またステファン!!ちっ!やっぱり逃げ足が速い!!」
「あらぁ、すっかりあの子に気に入られちゃったわね」
「スー!アンタもやられっぱなしで居ないで、ちゃんと怒りなさい!男なんて直ぐ図に乗るんだから!!」
「そぉよ、男の子直ぐエチぃ事考えるから。……スーちゃんも気を付けないと、ダメだよ?」
まぁ、ミア相手ではしょうがないよねぇ?
その堕肉様は、思春期ボーイ達には刺激が詰まり過ぎですわよ?
「エチぃ・・・、の?」
とスカートのお尻をパンパンと払いながら後ろを見ると……アーヴィンと目が合った。
「ほら!ああやってイヤらしい目で見るし!」
と、ベア子に冷たい目を向けられてアーヴィンが、ウグッ!とか言ってる。
「アーヴィン・・・も・・・エチぃ・・・、の?」
と小首を傾げて問いかけてみたら、アーヴィンは顔を赤くしながら猛烈な勢いで首を振りまくってた。
「あっ……!ステファン!!なんて事しやがんだコノヤロ!!待てっ!!!」
そう叫ぶと、遥か彼方に居るステファンに向かい、猛ダッシュで走り出した。
「逃げたな」
「逃げたわね」
「逃げたね」
「ふん!」
「でもさ、スーならあんなの、余裕で避けられるんじゃないのか?捕まえる事も出来るんじゃないの?」
「そうなの!?アンタまさか……露出狂!?」
「ち!ちが!う!・・・ろしゅつ・・・きょう・・・ない!!・・・こども・・・やること・・・おおめ・・・みのがし・・・いい・・・かな?・・・、て」
「あ、ホントに避けられるのね……。『大目に』……ねぇ?どうかと思うわよ?」
「・・・え?」
「そうだよ!ああいうのは犯罪行為みたいなモンなんだからさ!ちゃんと叱ってあげるのが本人の為だよ」
「そのまま成長して、変な大人にはなって欲しくないものね」
「・・・あ・・・わかり・・・ました・・・つぎ・・・は・・・しかる・・・、です!」
「なんだかアンタって、抜けてるんだかシッカリしてるんだか分んない子よね!」
「うぅ・・・ぬけて・・・、る?」
4人全員に揃って頷かれた。
――――――――――――――――――――
次回「スージィ・クラウド真夜中の検証」
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