第23話スージィ・クラウド真夜中の検証

《インヴィジブル・ムーヴ》

 エンチャントチャネラーのスキル。

 一定時間その存在を消し去り、Mobからの先制攻撃を受けなくなる。

 Mobに対する攻撃行為を取る事で、その状態は解除される。



 深夜、スキルで姿を消したスージィは森へと向かった。


 室内で一旦D装備に換装し、スキルを使い窓から外へ出た。

 スキル使用中は自分の存在は誰にも認識されないので、クラウド邸の人々は勿論、深夜に森の警戒に当たっている村人にも気付かれず、森の奥深くまで進んで行った。


 家を出て15分ほどで、最後に野営をした水場に到着した。

 村からおよそ20キロの所にある場所だ。


「あれからまだ一週間と経ってないのに。……なんか、随分前の事のように感じるなぁ」


 最後にテントを張った場所に立ち、河の流れを眺めながら感慨深げに呟いた。


「ここで『村娘の普段着』を着たんだよな」


 そう言って、装備をD装備から『村娘の普段着』へ替える。


 先日、ウサギに破られ、森を駆けずり回った為にズタボロになった『村娘の普段着』は、その後洗濯され、エルローズの綺麗な針仕事で補修が成されていた。


「こうして改めてお着替えしてみると、チョと感慨深い?」


 つくろわれた跡を撫で付け、確かめながら呟いた。

 そして今度は、部屋で着ていた寝間着に換装する。


「ンで、この寝間着が『インベントリへ収納出来た』という不思議!」


 今まで色々な物をインベントリに収納しようとして、悉く失敗していた。

 屠ったMobや小物や服や靴や道具類、あとチェリーパイ一切れ……とか。

 全て何一つ収納できなかったのだ。


 寝間着を脱いで、ショーツ一枚になる。

 手に持った寝間着をインベントリに収納しようとするが、……出来ない。


 もう一度寝間着を着てから、D装備に換装する。

 今度は寝間着とショーツが、セットでインベントリに収納された。


「つまり、収納されている装備と交換なら、新しい物でも収納可能って事……かな?」


 もう一度『村娘の普段着』へ着替えた。


「イベントアイテムの壺に、水を入れても再収納は出来た。まだ試して無いけど、壺に品物を入れれば、コレも収納は可能になるのかな?」


 ジャコンッ!とGゼロ武器に換装してみる。

 そのまま、AからDまで装備を変え続け、最後に武器を収納して無手の状態にした。


「それにしても収納数とか、重量制限とかシカトされてるよねコレ。ひょっとして物質として存在して無いんじゃね?まるで只どこかにデータとして在る物の様な……」


 もう一度Gゼロ二刀を装備する。

 ジャコン!と凶悪な様相の二振りの剣が、スージィの両手の中に現れる。


「データって言うと、ゲームのままの気もするけれど、う~~ん……どうなの?やっぱりインベントリ、今の自分には謎過ぎーーーっ!もういい!わっかんない事は後回し!先送り~~!」


 Gゼロ装備から寝間着に戻して、バンザーイとお手上げポーズをとってみた。


「でだ!今夜のメインは魔法の検証な訳で……」


 インベントリから武器をを取り出し、装備し直した。

 『初心者のダガー』。ゲーム初めに持っている、初心者装備の一つだ。


「コレが、持っている武器の中で、一番魔法攻撃力の数値が低いからな、……でも、今日使ったタクトの方が、もっとずっと弱い……。あれが貰えたら、今度はアレを使おう」


 手に持ったダガーに、少しずつ魔力を籠めて行く。


「んーーー、……それでも、コッチの方が魔力の制御はし易いな」


 対岸にある一本の樹木の中程を狙い、魔法を放った。


《エア・ストライク》

 全魔法職の初期攻撃スキル。

 圧縮された空気弾を敵に撃つ、風属性の攻撃魔法だ。


 空気弾の当った樹木は、中間部を1~2メートル程の円形に抉られ、上部がメキメキと音を立て倒れ、周りの木々を巻き込みながら地上に落ちて行く。


 枝に乗り、此方を襲うタイミングを伺っていたMobは、空気弾の直撃で四散した。


「最弱装備の最弱魔法で、これだけの威力。……次は、出来る限り弱い魔力を籠める様にして撃ってみよう」



 今日やった様に、一滴だけ武器に籠めるようなイメージで、……撃つ!

 二匹目のMobは、胴体に大穴を開けられた。その身体は二つに千切れ、そのまま地上に落ちる。


「弱くしてもこの威力。……もっと弱めに出来るか?は、要練習だね」


 ザワザワと周りの樹木が揺れ、多くのMobが集まって来たのが分る。


「『イエロー・エイプ』か、前にこの辺には居なかった連中だな、数は……20。群れってトコか。ここよりも奥から来てるっぽいね。なら!」


 ココへ来た理由のもう一つ。

 ハワードさん言う所の、中層より深い所から来る魔獣。そいつらが侵食して来たら殲滅する。


 元々村近くのMobは、自分のヘマで粗方殲滅し尽くしてしまった。

 その隙間に、余所から必要以上に強い魔獣が侵食して来たら、村に深刻な被害が出るかもしれない。

 それを何とかするのは、今の自分の責任だと思っている。


 今度は少し多めの魔力を籠めて、群れの中心を狙って撃った。


 広範囲で、森の樹木がなぎ倒された。

 直径10メートルに及ぶ、巨大な空気弾が抉り取った跡だ。

 群れの殆どが巻き込まれ、消し飛んだ。


 直撃を受けなかった個体も、無事な者は居ない。

 風圧で薙ぎ払われ、樹木共々吹き飛ばされた。


「ちょ!ちょっと多めに籠めただけで数倍の破壊力!?『エア・ストライク』って単体攻撃の筈だよねっ!?これ、倍の魔力を籠めれば、威力も倍とかって次元じゃないゾ!不味い!ホントに威力の調整覚えないと村を潰しちゃう!」


 自分の不注意で、村を廃墟にする事を想像して泣きそうになる。


「あ、もしかして山頂で使った魔法も、力入り過ぎて威力がバカみたいに上がってたとか?魔力効率の悪い剣使ってあの威力だったって事は、杖使ってたらどうなってたの??ヤバイ!アレより上位のエレメンタルバースト系とか絶対に使えない!下手したら星が抉れる!フ〇ーザ様に成っちゃうよ!!封印だ封印!絶対封印!!」


 思わず取り乱してしまったが、胸に手を置いて呼吸を整え落ち着きを取り戻した。


「取敢えず自前の上位攻撃魔法は使わない。使うなら学校で教わる精霊魔法スピリットマジックで、基本ナントカしよう。制御はココで弱い魔法を使って、少しずつ調整を覚えよう」


 精霊魔法スピリットマジックと云うのは精霊にオーダーする事で、少ない魔法値でも大きな効果が期待できる方法だ。


 対して自分の元から使っている魔法は、エーテル情報を直に操作でもしている様に感じる。


 消費魔力も、精霊魔法スピリットマジックよりも明らかに多く、その効果もかなり大きい。

 使用魔力の増減で変わる効果は、今、見ての通りだ。


 スージィは、この世界の人たちが、エーテル情報を直接操作するという方法を取るには、使用出来る魔法量からしても、大変難しい事なのだろうと推察する。


 この世界で、魔力やMPとかを数字変換するのは余り意味が無い気がするが、敢えてするなら。


 ココの人たちの持っているMPは、多くても恐らく『20』は無い。

 ヘンリーさんで恐らく『15』位だろうか?ベアトリスやミア達で『5』か『6』だと思う。


 精霊魔法スピリットマジックは、消費魔力が多くても、『1』程度で使用可能なのだと思う。

 ベアトリス達は一日に魔法が、5回か6回使えると云う事なのではなかろうか?

 いや、もしかしたら、更に0.5とか0.6とか、もっと細かく刻んでいるかもしれない……。


 対して自分の使う魔法は消費魔力が多い。

 先ほど使った『エア・ストライク』。

 これは威力も最弱で、消費魔力も最小の『15』だ。

 だが、その消費量ではこの世界の人たちの魔力量では、到底使う事は難しい。


 ミアやベアトリスでは、きっと使う事も出来ない。


 更に言えば自分の魔力量は、恐らく魔法職のパッシブが効いているので5桁は行っている筈だ。


「こりゃ間違いなく底無しだわよね……」


 軽い眩暈を覚え、額に指を添えた。

 根本的な設定理念の違う世界に来た感がハンパ無い。


「まぁ、自分が合わせて調整して行くしか無いんだけどねぇー。大変そうだけど、何とか物にしないとネ!」


 この世界で生きて行く以上、この世界の常識に合わせて行くしかない。


 だって自分が目指すのは、目立たぬ庶民なのだから!

 少しでも悪目立ちしないよう、自重する術を模索して行かねばならない!!


「さて!あんまり遅くなってもいけないから、軽く見回りして来ようかしらね!……ンで、終わったら自分へのご褒美あっても良いよね?折角人気の無い、開放的なトコに居るんだし、……ネぇ?エヘ!」


 えへへと内股になり、少し頬も染めてモゾモゾしはじめる。


「よし!サクッと終わらせてさっさとしよう!!うん!しよ!!」


 そう言うと、待ち切れないと言う様に、その場から飛び出して行った。

 サッサと何かをする気満々だ。

 本当に自重する気があるのか?甚だ疑問である。


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次回「スージィ・クラウドと朝の教室」

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