第24話スージィ・クラウドと朝の教室

 翌朝は特に声がかれている事も疲れも無く、健やかな目覚めを迎えた。


 何故声がかれる心配があったのかは、夜中に大声を出しまくったからなのだが、何をしたからかは禁則事項なので明かす事は出来ない。

 だが本人は良く分っている。

 改めて思い出すと、何故か恥ずかしくなるのは困った物だと思うスージィだった。


「ろしゅつ・・・きょう・・・ちがう!・・・おもう・・・よ、ね?」


 自信が無くなって来た。……とても焦る。


 エェイッ!とばかりに焦りを振り払う様に飛び起きた。

 パンパンッと頬を叩き気合を入れ、窓を開け放ち「あぁ、今日も気持ちの良い朝ね」と、外の空気を思い切り吸い込んだ。


 たちまち焦る想いは立ち消え、健やかな心持になる。

 スージィは心の切り替え、立ち直りは早いのだ。




 その日の朝、クラウド家にスージィを迎えにミアが訪れた。


「おはようスーちゃん。お迎えに来たよ」

「おはよ・・・ミア?」


 どうやらミアは、上級生二人に占領されがちなスージィを、通学路が近いと言うアドバンテージを生かし、いち早く彼女を確保をする為に動いたようだ。


「スーちゃんのお家って、屋根がこうカクカクってしてて可愛いよね。前から近くで見たかったの」


 そんな事をクラウド邸前の丘陵を下りながら、ミアが言ってきた。

 随分前から、このクラウド邸独特の屋根が気になっていたそうだ。


(そうだ思い出した、これって『ギャンブレル屋根』と言って、形が将棋の駒に似ているから『駒形切妻屋根』と言われている形だ!)


「可愛い緑色の切妻だよねぇ」


 ハタッと気が付いた。「きり……づま……だと?……緑の切妻屋根?」恐る恐る屋敷を振り返る。


 丘陵の下から見上げているので、屋根だけがしっかり見えている。


 緑色の屋根、切妻屋根、グリーンゲ……。次いで自分の髪を摘み、改めて確認する。

 赤毛だ。ヘタリと力なく地面に手を付いてしまった。


「ど、どうしたのスーちゃん!?どっか痛いの?」


 ミアが慌ててスージィの傍に寄り添う。


「あ・・・あ・・・な・・・なんて・・・なんて・・・こと・・・を!!!」

「だいじょうぶ?スーちゃん!」


 プルプルと震えるスージィを気遣い、ミアがそっと声をかけた。


「わたし・・・わたしわぁ・・・!あ、ぅーーーんっっ!!!」


 突然、滂沱ぼうだの如く涙を流し泣き崩れるスージィにミアが慌てる。


「スーちゃん!だいじょぶ!?具合悪いの?お家戻ろうか!?」


『なんてことだーーー!!わたしは!わたしはぁ!!ごめんなさい!全世界のモ〇ゴメリファンのみなさま!!ワタシの様な人間がこんな……こんな!!!こんな立ち位置に居るなんて!!ゆるしてください!ごめんなさいーーー!!グ、グリーン〇イブルズ!あ……赤毛!!うあーーーーっっごめんなさいーーー!!!そんなつもり無いんですぅーーーー!!!わたしの様なヤツぁ破風窓から異次元に連れて行かれちゃえば良いのよっ!!!うわわぁぁ~~~~~~~~ん!!!!』


 スージィがイヤイヤと首を振りまくり、滝の様な涙を撒き散らす。


「ス、スーちゃん!?言葉が分んないよ?!ね?落ち着いて!落ち着こう?」


 ミアが、スージィを落ち着かせようと、その豊かな胸にヒシっと押し抱いた。


「ふみゅぎゅ!」


 スージィは一瞬抗ったが、直ぐに大人しくなった。「はふぅん、何コノ幸せ感覚……」ふにゅふにゅしてゆぅ~~と、両手で顔を挟む柔らかい物を掴み揉みしだく。


「あっ!ス、スーちゃん!……く、くすぐったい……よ?ン!」


 尚も揉む手を止める事無く、上へ下へ寄せたり離したりと、その至高の感触を、掌と顔面で、存分に味わい続けていた。


「スー……ちゃん?も、ン!いい……かな?ンん!いいんじゃないかな?かな?!ぁ!」

「ん・・・も・・・すこしぃ・・・このままぁ」

「ンもう、しょうがないなぁ、……ンん!」


 スージィはすっかり持ち直していた。立ち直りは早いのだ。



 落ち着きを取り戻したスージィは、ミアと手を繋ぎ学校への道を歩いている。

 手を繋いでいるのは、ミアがスージィを心配し、繋いで行こうと言い出したからだ。


「でも、ビックリしたよ?いきなり泣き崩れるんだもん。ホントにもう大丈夫?」

「ん・・・ごめんな、さい。・・・むかしの・・・かなしい・・・じじつ・・・おもい、だし・・・いたたまれ、なく・・・なた、です。・・・も・・・へいき・・・、よ?」

「そか……悲しくなったらいつでも言ってね?わたしで良ければ、いつでも抱っこしてあげるから……ね?」

「うん・・・ありがと・・・ミア・・・だい、すき」


 にこぉ~~っと頬を染めミアに微笑むスージィに、ミアの胸の中では、ドキューーーーーン!!と擬音が鳴り響いていた。


 あぁ!か、可愛いよスーちゃんっ!可愛過ぎよ!!

 このまま持って帰っちゃ駄目かな?だめかな?!ダメかなぁぁ?!!


 などと危ない考えを渦巻かせていたが、当のスージィには知る由も無い。




 学校へ到着する手前で、ベアトリスとも会った。


「おはよう二人とも!あら?一緒に来たのね?」

「おはようビビちゃん。そうだよお迎えに行ったの」

「おはよ・・・ビビ・・・ビビも・・・あした・・・いっしょ・・・、する?」


 スージィが、小首を傾げてベアトリスに訊ねてみる。


「……そうね!並木道の入口で待ち合わせるなら、二人に遠回りさせずにすむかしらね?!」


 少しの間、考えてからベアトリスが答えた。


「じゃ・・・あした・・・さんにんで・・・いっしょ・・・、ね!・・・えへ」

「何嬉しそうにしてんのよ!アンタは!」


 満更でもなさそうに、ベアトリスがスージィの頬を突くと「やぁ~~」と笑いながらスージィが逃げて行く。

 それを見て、「独り占めの時間が減ってしまう~~」とミアが頬を膨らませた。



 「おはようスーちゃん!」と、年少の二人の少女が、学校の入口で纏わり付いて来た。


「おはよ・・・レイラ・・・メイベル」


 そう言いながら、交互に二人の頬に自分の頬を擦り合わせるスージィ。


 教室に入ると、既に室内でコリンが本を読んでいた。

 コリンと挨拶を交わしていると、後ろからまた、昨日からお馴染みになった気配が近づいて来る。


(あぁ、やっぱり気に入られちゃったのかしらん?普通男の子は気に入った女の子にしかスカート捲りとかしないし……そんな少年の気持ちをかんがみるに、あんまり酷い仕打ちはしたく無いしなぁ……)


 そんな事を考えていると、近づいて来たステファンに思い切り後ろからスカートを捲り上げられた。

 ちなみに今日は由緒正しい水色縞パンだ。


「ぅぴゃぁっ!」


(あふ!やっぱりお尻丸出しにされちゃうと、ちょいと恥ずかちぃかも。

あ、あれ?でもひょっとして、これって挨拶なのかな?おはようの挨拶?挨拶代りのスカート捲り?昨日のも、サヨナラ代りのスカート捲りだったり?

あぁ!純情悪戯少年のしそうな発想だ……あハは。

しょうがない、ちょと叱っておこうかな?あんまり酷くしないように……。

デコピンで大丈夫かな……?)


 そんな思考を刹那で行い、ステファンが逃げの体制に入る直前、彼の額の前に親指で抑えた中指をスッと出し、軽~~~~~~く、スージィ基準では相当に軽~~~~~~く、中指を弾いた。それこそ、チョコンと。


 直後、パゴォォン!と、とんでもない音が辺りに鳴り響き、ステファンの身体が勢いよく、教室の後ろへと吹き飛んで行った。


 教室内は机が吹き飛ばされ引っ繰り返り、ステファンが当たった壁が軋み、甲高い悲鳴の様な音を上げていた。

 生徒達は目を見開き固まって、身動き一つ出来ずにいる。


 ちょうど教室に入ろうとしていたダーナも、目の前にステファンが飛んで来たのを目撃してしまい、同様に目を見開いて固まっていた。


「あ!あう!あっ!・・・ス!ステファン!・・・だいじょぶ!?・・・ぶじ!?・・・だいじょぶ!?・・・ねぇ?・・・だいじょぶ!?・・・あう!」


 スージィが大慌てでステファンに駆け寄った。もう半泣き状態だ。

 あぅあぅと泣きながら、スージィはステファンを抱きかかえた。


「ぁ、あ!・・・だ、だいじょぶ?・・・あっうっ・・・へ、へいき?・・・ぅう」


 エグエグと涙を溜めながら、スージィがステファンの額にそっと手を当てた。


「な、なに?え?どうなったって?え?」


 ダーナが我に返った様に状況を確認しようとする。


「ダーナぁ・・・ステファン・・・だいじょぶ?・・・かな?」


 スージィが縋るような目で見てくる。


「どれ?どうなったって?」


 ダーナがスージィに近づき、膝をついてステファンの様子を見ようとした時。


 カッと目を見開いたステファンが、ガバァッと立ち上がった。


 周りの皆が、うおっ?!と引くのを余所に、ステファンはあれ?何があったっけ?とばかりに周りを見渡した。

 そして涙目のスージィと目が合うとバッと額を両手で押さえ、顔を見る見る真っ赤にして教室から飛び出して行った。


 残されたスージィは……。


「よ、よかった・・・よかたよぉ~~・・・ぶじ・・・よかたぁ・・・」


 と、ヘナヘナと床に座り込んでしまった。



     ◇



「スーちゃん大丈夫?」

「ん・・・みゅ・・・も・・・だいじょぶ・・・むみゅぅ」


 今、スージィはミアにしがみ付き、その胸に顔を埋めている。

 既にスージィにとって、ミアの胸部は癒しポイントとして定着したようだ。

 よしよしと、ミアがスージィの頭を撫でている。


「つめが・・・いたかった・・・かなぁ?」

「スー!それはそんなに問題じゃ無いと思うわ!」

「ンーー?・・・でも・・・げんこつ・・・は・・・かわいそ・・・、だし」

「スーちゃん?そう云う事でもないんじゃないかなぁ?」

「大体にしてさスー、なんで黙ってスカート捲られたんだ?スーなら避けられたろ?」

「あ!やっぱりアンタ露出狂?お尻見せるのが好きなんじゃ!?」

「ち!ちが!・・・ちがう・・・です!・・・おしり・・・ちがう!・・・、もん!」

「わ、わかったわよ!分ったから落ち着きなさい!」

「・・・ちがう・・・もん」

「でもスーちゃん、捲られてからじゃ遅いと思うよ?」

「・・・でも・・・なにも・・・して・・・ない・・・しかる・・・ちがう・・・おもう・・・、です」

「あー、そうね、確かにそうね。スーの言う事は正しいと思うわ。だけどねスー考えてみて?コレがスカート捲りだからまだ良いけど……いえ、良くは無いんだけどね。もしも、誰かを怪我させるような事だったら?怪我をさせるまで何もしないの?事が起きる前に、未然に防ぐって大切な事じゃない?」

「・・・あ」

「スーなら出来るだろ?」

「うん・・・わかた・・・です!・・・つぎから・・・ふせぐ・・・、です!!・・・うん!・・・でも・・・コリン・・・しっかり・・・してる・・・すごい!」

「だから!アンタが抜けてるだけだってば!」

「ぁうっ・・・それ・・・きのうも・・・きいた・・・です・・・、ょ?」


 四人が揃って頷いた。


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次回「スージィ・クラウドの学校生活」

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