第25話スージィ・クラウドの学校生活

 その日は、昨日来ていなかった最上級生たちも、少し遅れて登校して来た。


 カーラ・エドガーラは比較的小柄で、わたしとダーナの中間ぐらいの身長の子だった。ショートボブの黒髪と、黒い瞳が日本人ぽくて、親近感が沸いた。


 アリシアとジェシカは背も高く、ミアと同じ位か少し高いのかな?年相応って事かしらん?


 アリシア・ルゴシは、少し癖のある柔らかそうなアッシュブラウンの髪を、白いリボンでポニーテールにしていた。


 ジェシカ・カーロフは、ストロベリーブロンドの髪を三つ編みにして、両肩から垂らしていて、スラリと伸びた手足は、モデルを思わせるスタイルの良さだ。



 結局、この三人にも捏ね繰り回された。


 どうやらわたしは、ココでは愛玩動物のポジションを確保しているらしい。


 また今日も、波に翻弄される小舟の様になってグルグル目玉になっていると、最上級生の1人ヴィクター・フランクと云う男子が音も無く傍に寄って来た。

 そしてわたしの肩に手を置き、何かを囁いて来たのだが……。

 その言葉を認識するより先に、すかさずアリシアが、ヴィクターの顔の真ん中へグーパンチを減り込ませた!ホントに減り込んだよ?!


 ヴィクターは綺麗なブロンドをなびかせて、教室の後ろの方へと飛んで行く。


 突然の展開に「え?なに?ナニ?」と驚いていると、いつの間にかヴィクターがミアの傍で、その腰に手をまわしていた!

 次の瞬間、目を伏せたカーラの華麗なパンチがヴィクターへ炸裂し、ギャラ〇ティカ・〇グナム宜しく、遥か彼方へすっ飛んで行った!!


「良いかいスー。アレと目を合わせちゃいけないよ?近寄ってもイケナイ!傍に寄って来られたら、ちゃんと大きな声を出す事!いいね?!」


 と、カーラに両肩をシッカリと持たれ、真剣な眼差しで注意を受けた。

 女子たちは全員力強く頷いた後、大きな溜息を吐いた。


 あぁナルホド、彼はそう云う男なんだ……。

 カーラには笑顔を引き攣らせながら「わ、わかりました」と小さく頷いた。


 そこへ一つ下のメアリーが「ウチの兄さんがごめんなさい」と謝って来た。

 更には「いつもご迷惑おかけして申し訳ありません」とその下のシェリーも言って来た。


 6段位のメアリーと、4段位のシェリーは二人とも、ヴィクターの妹なのだそうだ。


 「あんた達は悪くないのよ」「あやまる事じゃ無いわ」とカーラとアリシアが二人を慰めている。


 二人は「こんな調子じゃ、街へ行ったらどうなるのか……」「今から心配で心配で……」と不安を吐露しているが、「大丈夫よ!私達がちゃんと首に縄括なわくくって置くから安心なさい!」とジェシカが胸を叩いていたら……。


「はっはっはっ 大丈夫だよ妹達!ボク達はこんなに愛し合っているんだ。一体何を心配すると言うんだい?」


 と、ジェシカの後ろから彼女を抱き、その首元で微笑み囁く様に語るヴィクター!

 一体いつの間に!?口元の白い歯が今キラリッと輝いたよ??


「アナタの事よ!ア・ナ・タ・の・こ・と!!」


 そう言って、ヴィクターの顔面にアイアンクローを噛ますジェシカ。

 メキメキッ!という音が聞こえて来た。


 ヴィクターはしきりにジェシカの腕をタップしているが、ジェシカはおさげを静かに揺らしながら、クローを噛ました手はどんどん上に持ち上げて行った。

 そして最後に一際大きく、メキャッ!と何か潰れたような、してはいけない音が響いた後、ヴィクターの身体はブラリと力なく垂れ下がった。


 ジェシカはそれをポイッと窓の外に投げ捨て、改めてメアリーとシェリーに向かい 「大丈夫だからね」と微笑みを向けた。


 な、なんなのコレ!?何が起きたの?!彼はどうなったの?生きてるの!?

 余りの出来事に、一人ワキワキと動揺しているとコリンが傍に来て……。


「大丈夫よ。何時もの事だから心配いらないわよ?」

「い!?いつもの・・・こと・・・、なの?」

「そう。彼は心配する必要は無いの!そういう『モノ』だと思って置けば良いのよ?」


 とメガネをクイッと持ち上げながら、優しくコリンが言ってくれた。


「それよりも……ね?ステファンにはあんなモノになって欲しくないでしょ?ちゃんとやってはイケナイ事を教えて行ってあげないとね?」


 そうだ、あの純情悪戯少年には真っ直ぐに成長して欲しい。

 こんな変なモノにはなって欲しくない!


 わたしは力強くコリンに何度も頷いた。


 最上級生のもう一人の男子、アローズ・ビーアスは「騒がしくしてゴメンね」と謝って来てくれた。


 ああ、良かった普通の人だ。しかも紳士!何かとても安心する。

 普通って良いよね!普通って!!普通がホントに一番だよ!



 因みにだけど、ねぇ~。他の男子たち……?

 今朝、わたしちゃんと気付いてますからね?


 一個上のウィリー・ホジスン。

 同い年のロンバート・ブロウク、勿論アーヴィンも。

 一個下のロング家のベルナップと、カーラの弟アラン。

 その下のスミス家のクラークと、アシュトンの双子達。


 ステファンがわたしに近づくのに気が付いて、ゾロゾロとわたしの後ろに回り込みましたよね?

 あまつさえ、わたしのお尻を見て「おおぅ!」って歓声上げてたでしょ?


 わたし、気が付いていますからね?


 ……とは言っても、みんなまだ子供だしねぇ。子供にパンツ見られたからって、どうってことは無いのだけれど。……それに、その気持ちも良く判るし。

 スカートが捲れ上がると分っていれば、ワタシなら間違い無く行くもんネ。

 ウン、間違い無く行く!男の子なら当然だよね!それが男のサガってもんだ!!


 だがしかし!おかし!!

 わたしの中で育ちつつある娘心的な何かは、『この事案忘れまじ!』と思っているのも事実!


 やっぱりステファンに、こんな事やらせてちゃダメだ。


 でも、ホントさっきは血の気が引いた。

 一瞬頭ザクロったかと思ったし……。割れて無かったけど……。

 それでも、中身が落とした豆腐になってたらどうしよう!?って、マジで泣きそうになりますた。


 間違いなく脳震盪は起こしてた。

 とっさに額に手を当てて『氣』を送ったけど、所謂いわゆる『手当て』というヤツだ。

 ヒールを使わずに済んだのは、この『手当て』の効果が高かったからだと思う。


 今思えば、あの時ハワードさんの傷を治したのも、この『手当て』だったんだな、と思い当たる。


 解毒の魔法『キュア』との併用だったけど、今の私なら小さい傷位なら『手当て』で治せるって事だね。


 どっちにしても、ステファンが無事に目を覚ましてくれてホント良かったよ。


 次からは『氣』を纏う事で『手加減』する方法を試してみよう。

 そう『氣』を緩衝材にするつもりで纏う。

 どうせあの手の子は諦めず、しつこい位に狙って来るだろうから、あの子には申し訳ないけど少し練習台になって貰おう。


 そのかわりと云っては何だけど!コッチを狙ってくる限りは鍛えてあげようと思う。


 隙の緩急つけたり、立ち位置変えたりしてちょっとずつ……。

 フッフッフ、何時でもおいでステファン!わたしがキッチリ仕込んであげるからね!!



     ◇



 その日のお昼はとても賑やかになった。


 昨日の6人に加え最上級生の3人、それとジェシカの妹の3段位のジャニス。

 わたしを含め合計11人、学校の女子の半分以上が集まってしまった。


 まぁそんな事は関係無く、ソニアママのお弁当が美味しいのは正義なんですけどね!

 今日のランチは、厚切りベーコンとフワフワ卵のバゲットサンド。


 コノ塩味の効いたバゲットとベーコンの旨味、卵の優しい甘みが絶妙に其々それぞれを引き立てる!

あぁン!ソニアママってばっ!どうして貴女はこんなにも、わたしの好みを的確に突いてくるのかしらん!?


 そんな風に、わたしが幸せそうにバゲットを咀嚼していると。


「スーちゃん幸せそうねぇ~。おいし?」


 とミアがニコニコしながら聞いて来た。


「ん!・・・おいしいの!・・・おいしいは・・・しあわせ・・・なの・・・、です!」

「良かったらコレ食べてみる?」


 ミアは、フォークに刺した腸詰肉を突き出して、コレをお裾分けしてくれると言って来た。

 これはマティスン家特製羊のウインナーで、おばあちゃまが作ってくれたものらしい。

 肉に加えるハーブや塩、スパイスの配合が秘伝だと言う。


 「ハイあ~ん」とミアが差し出す腸詰を、一口パクリと頂いた。


 口の中で羊の腸を噛み切ると、溢れ出る肉の旨味とハーブの香り!

 ぁふにゅン!!あぁ!あああ!旨味の刺激で顎の付け根が!耳のちょと前の辺りがきゅきゅぅぅ~~~ってなりゅぅぅ!!

 コ、コレはっ!ホッペ落ちるってヤツだぁぁ~~~!!


 思わず頬を両手で抑え、フニュフニュしてしまう!それを見ているミアが嬉しそうに……。


「スーちゃん、おいしい?」


 と当たり前の事を聞いて来る。

 何を言っているの!当たり前じゃない!!なのでちゃんと答えてあげた。


「おいっしぃ・・・、のぉ!」


 ミアの顔がそれを聞いて嬉しそうに蕩けた。

 更に、それを驚いたような顔で見ていたカーラが。


「ス、スー!私のこれも上げるよ!食べてみて?ホラ!あ~~ん」


 と分厚く切ったボローニャソーセージを差し出してきた。


 有難くパクリと頂くと、これもとっても美味しくてフニュフニュしてしまう。


 それを皮切りに皆が我も我もと、わたしに食糧を与えてくる。

 まぁどれも美味しくて、とても幸せだったんだけど……。

 でも、ちょっと待って!これってアレじゃない?子供が小動物にエサを与える的なヤツ!?

 やっぱ、わたしってば愛玩動物の立ち位置だったのか!??



     ◇



 午後の研究会にはジェシカが来た。


 カーラとアリシアは、修練場で下級生の指導に当たるそうだ。

 わたしは今日も次の属性と契約したいと言ったら、それは無理だとコリンに言われた。


 なんでも複数相性がある人の契約は、エーテル体が消耗するので、その回復を待たないと次の契約は出来ないのだそうだ。


 普通なら数週間から数か月、長い人では半年ほど経たないと戻ら無いと言う話だ。


「あ!でもアンタは普通じゃないし……試してみる?」


 とかビビに言われた。

 なんて事を言うんでしょうか!この子はっ!失礼しちゃいますね!


 何の属性が良いか聞かれたので『火』をお願いした。

 すると今回は赤い光が浮かぶケースを持って来てくれた。

 早速それをまた五精盤にセットする。


 エーテル体が回復していれば反応するそうなので「手を乗せて試してみろ」とビビが言うので乗せたら……、昨日と同じ様に淡く光を帯びた。


 ビビってば「ホントに反応した!」と呆れた様に言ってきた。

 他の皆は、目を見開いて固まってる。

 もうそれ止めません?なんか度々その反応されると、凄く居たたまれなくなるのですよ?


 これで契約できるかと思ったら、「今日はヘンリーさんも神官も居ないので無理ね!」とビビ。


 だがそこに、「わたし神官見習いだから出来るよ?」とジェシカが手を挙げた。


 ジェシカは回復魔法の使い手で、神官の勉強もしているから初期契約なら出来るのだそうだ。


 折角なので、火の属性契約をお願いした。

 更にジェシカに、後三つ契約できる事を伝えると、目を丸くして驚いていたが、それなら私時間あるから、毎日日替わりで契約やっちゃう?と何とも軽いノリで契約する事を決めてしまった。


 火の精霊との契約も終わったので、「よ~~し試すぞぉ~」と昨日と同じ様に外に出ようとしたらコリン、ミア、ビビの三人に思いっきり止められた。


 水の時、あんな規格外な水玉出したのを忘れたのか?

 あんな感じで火柱なんて出されたら、どんな事になるか分らない!

 子供しか居ないのにそんな事させられない!!

 今度また神官が来た時、その監督の元試せ!

 ちょっとは自分のやった事かえりみなさい!


 と、なぜか説教をされてしまった。

 えぇーー?わたし、悪い事はしてないと思うんだけどな~~……解せん!!





     ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 本日の教程が終了して、また昨日の様にみんなで井戸端っていると……、やはり昨日と同じ様に、わたしに近づく気配があった。


 やっぱこの子凄いな、周りの子達誰も気が付いて無いよ。

 ま、わたしには丸判りだけどね!


 そして、彼にとってはベストポジションな位置に滑り込み、わたしのスカートに手を掛けた瞬間。

 彼の額にスッと人差し指の腹を添える、それと同時に指に『氣』を纏わせた。


 柔らかく人差し指を真綿で包む様なイメージで……。

 よし!これなら行ける!


 わたしは軽~~く、ポンと彼の額に指の腹を当てた。

 ポォォンッと何かを叩く様な音を響かせ、そのまま頭を仰け反らせて、後ろにある植え込みに頭から突っ込むステファン。


「なに!?今の音!?」

「あれ?植え込みから出てる足、ステファン?」

「なんだって?!またかワルガキ!」

「あ~、でも今度こそ未遂ね」

「ンふ!・・・うまく・・・できた・・・、です!!」


 わたしが自慢げに腰に手を当てると「やれば出来るんじゃない!」「流石ね!スー」と皆が褒めて来て、何故かもみくちゃにされるるる。

 あふゅぅンん!!


「で?なんであんた達はそこで集まってんの?」


 と、アリシアがわたしの後方に集まっている男子達に問いかけた。


「けさも・・・いた、です・・・よ。・・・めくられ、た・・・とき?」


「「「「「「「……え?」」」」」」」


「カールと・・・ねんしょう・・・の・・・こ、たち・・・いがい。・・・みんな・・・いた・・・、です」


 今朝、カール・ジャコビニだけは他の男子が集まって来た時、一人溜息を付き首を振って後ろに来なかった。

 わたしの中で、この子のポイントは高いのだ。


「あんた達……、もしかして……?」

「え?ウソ!ウィリーもなの?」

「ふん!アーヴィンはやっぱりなのね!」

「アラン!アンタまさか!!」

「「「「うぇ!!」」」」


 蜘蛛の子を散らす様に、一斉に男子たちが逃げ出した。


「待ちなさい!アンタらぁ!!」


 その逃げる男子を、ダーナやカーラ達が追いかける。


 そんな中、ウィリーだけはミアとコリンに掴まって、二人のお説教が始まっていた。

 ウィリーって見た目は知的なメガネ男子なのに、妙に要領が悪いのよね。

 でも、ムッツリなのはバレましたからね?


 ステファンが植え込みから顔だけ出して、なに?なに?とキョロキョロしている。


 実に何とも平和な光景だ。

 思わず楽しくなって笑ってしまう。

 ウン!わたし、この村好きだ!!


――――――――――――――――――――

次回「オルベット・マッシュの愉悦」

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