第41話スージィ・クラウドの胸騒ぎ
「……アリア」
それまで瞑想をする様に瞼を閉じていたケティさんが、徐にアリアに向かって声をかけて来た。
「巣を見つけた。ココから南東に凡そ1キロ弱。少し大き目、恐らくオークの物。
ケティさんの報告で、その場が色めき立った。
ケティさんは召喚魔法で、この付近を哨戒していたのだ。
それは『グリーン・ウィング』と呼ばれる風の精霊で、上空から周りを見渡すことが出来るのだそうだ。
ちょうどドローンを使って、周りを俯瞰で見るのと同じような感覚らしい。
でも、上空から見るだけなので、相手の詳しい数とかまでは分らないと言っていた。
そこでミリーさんが斥候に向かい、正確な敵の情報を把握するのが、チームアリアの何時ものやり方なのだそうだ。
「どうしますアリア。確認しますか?」
「1キロ弱?そんな!昨晩野営した時には、そんな気配も報告もありませんでした!!」
「
「オークの巣程度なら何時でも潰せるだろう?今は放置で良いのではないか?」
珍しく悩むアリアに対し、ルークさんがかけた言葉に女性陣が反応した。
思わず突き刺さった冷たい視線に、ルークさんは一歩後ずさる。
「ルーク。アンタは外のオークと同じに思っているかもしれないが、イロシオのオークは少し違う」
「外と?何が違うと云うんだ?」
「普通のオークの脅威値は『1』だ。これはヒヨッコの
アリアが改めてルークさんに向き直り、強い眼差しを向けながら話し始めた。
「だがイロシオのオークの巣には、間違いなくキングが居る」
「なんだと?!」
「キングの存在で、オーク単体の強さも跳ね上がる。統率力も高く、必ずチームを組んで行動する。1チームの総合脅威値は20~30と見て間違いない。侮れば、痛い目を見る事になる」
「キ、キングがいるとなれば、いずれ群れは3桁を超すぞ!」
「そうだ。そうなったら討伐隊を組むしかない。放置すればロードも何体も生まれて来る。豚の巣を確認したら、速やかに駆逐するのも我々護民団の仕事なんだ」
それになにより奴等は女の敵だからな! というアリアの強い言葉に、騎士団の二人を除く全員が大きく頷いた。
前に学校でしっかり教えて貰ったけど、
あいつらは、女性が生きている間に留まらず、肉体がある限り凌辱し、苗床にし続けるそうだ……。
死して尚女を辱め続けると云う、この世に於いて最っっ低の存在なのだ!
あの時、巣ごと綺麗に焼き払って置いて、本当に良かったよ!!やっぱり『豚即斬』は間違いない!!!
「待って……。おかしい、動く物の気配が無い。……巣が……空?」
「カラ?動きが無いだと?確かにアタシ達がこの距離に居るのに、奴等が嗅ぎ付けて来ないのは可笑しいな」
確かに、わたしもオークの気配は感じていない。他の魔獣の気配はあるけどね。
なんでもオークの嗅覚ってのは凄くて、2キロも先の女性の匂いを嗅ぎ付けるそうだ。
ヤダな、あの時木々の間からアイツらが現れた時の事、思い出しちゃったよ。思わずゾワッと来たヨ!ゾワワッと!!
そんなわたしの様子に気が付いて、アンナメリーが心配げにフードの中を覗き込んで来た。
ウン、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。
そうアンナメリーに微笑むと、アンナメリーも安心した様に微笑みを返してくれた。
「今、巣まで降りてみたけど、やはり空。巣の中も荒らされている」
「他の魔獣に襲われたのではないのか?」
「……確かにそう云う事も珍しくは無いけどな……。よし!ミリー!豚は居ないかもしれないが、一応虫除けは使っておいてくれ!」
「お任せ下さい!既に焚いています!!」
ミリーさんが、焚いた香木の入った小さな籠を、一人ひとりに配って行った。
それを受け取ったチームアリアの皆は、外套で身体を覆い、フードをかぶり直す。
イルタさんも胸元をシッカリ隠してしまった……チッ!
そこの二人!!残念そうな顔をするな!!!
「アンタ達もそれを受け取ったら、マントで身体を覆い、そのキラキラした鎧をしっかり隠すんだ」
「なに?どう云う事だアリア?」
アリアにそう言われたルークさんとケイシーさんは、良く分らないと言った顔で、アリアに問い直した。
「そのキラキラした格好は此処では危険だと言ってるんだ!昨日ここに泊まったなら、ウチの爺さんに何か言われなかったか?!」
「い、いえ!何も?で、でも……、この香木……ですか?この香りはジルベルト様がいつも、虫除けと言って焚いておいでだった物と似ているかと……」
「なるほど!さすがジルベルトの爺さんだ!『転ばぬ先の杖』ってヤツだな。相変わらず抜かりが無い!!」
確かにルークさん、ケイシーさんの装備している騎士団の鎧『
まぁ、森の奥まで進んで来たので、多少の汚れや、くすみは出て来てるけど、それでも白い。
今はマントから肩を出して、鎧の全身が殆ど外に見えているので尚更目立つ。
「とにかく早くフードを被れ……!」
そうアリアが二人を急かしていた。するとその時前方に、何かが炸裂する様な気配をわたしは捉えた。
それは一直線にケイシーさんに向かい、大気を突き破りながら飛来した。
しかし、ケイシーさんに届く前に、わたしは瞬間的に右手だけ伸ばし、それを空中で指先で掴み獲る。位置取りもバッチリなので、右手だけで身体は全く動いていない。
でもその瞬間、タオルを振り切った時に鳴る様な派手な破裂音を、その場に盛大に響き渡らせてしまった。
ほぼ目の前で起きた衝撃に、ケイシーさんと、その後ろに居たルークさんが目を見開いた。
ケイシーさんは、広がる衝撃のあおりを受け、その顔の皮膚が揺れ波打つ。
一拍遅れて、どこかで聞いた覚えのある乾いた破裂音が響いて来た。
やがて、音速で飛来した物体が押しのけた空気の層が、わたし達の居る場所まで遅れて届き、小さな風を巻き上げる。
わたしは、風でフードが捲れぬ様に注意しながら、右手で掴んだ物を確認した。
指先に摘まれ、そこから逃れようとモゾモゾ蠢いているのは、やっぱりコイツだ『ブレッドビートル』。
久しぶりに、見たくも無い懐かしい相手を見て、思い出したくも無い過去が甦って来たので、このまま潰してやろうかと指先に力を入れようとしたら……。
「待て!潰すな!!」
と、アリアが止めに入って来た。
なして? と怪訝にフードの中で小首を傾げると、アリアに呼ばれたミリーさんが、慌てた様に走って来てガラスの小瓶を差し出した。
その中にブレッドビートルを入れろと言うので、中に押し込めると、ミリーさんが火の付いた香木の欠片も一緒に入れて、そのままコルクでシッカリと栓をしてしまった。
「これで良し!」
そう言ってミリーさんは、安心した様に肩から力を抜いて、息を吐いた。
「この『ブレッドビートル』ってのは厄介な奴でね」
怪訝な顔のわたしと、呆気にとられている騎士団のお二人に説明する様に、アリアが話しをし始めた。
「コイツは音より早く飛来して、そのスチール並に硬い殻で目標をブチ抜く。アンタらの装甲ぐらい訳無く貫くから、当たる場所次第では、取り返しがつかなくなる所だったぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!そ、そんなとんでもない魔獣を……、今、この子は……それを、素手で捕まえたというのか?!」
ルークさんが見開いた目で、驚きを隠そうともせずにわたしを指差して来た!
ケティさんも、そんな やっちゃったよコノ子は…… みたいな顔で見るのは止めてーー!
知らなーーい。聞こえなーーーい。分んなーーい。
それにぃー、そんな風にぃー、女の子の事指差しちゃー、失礼なんですよぉーー!
するとアンナメリーが この子の目は特別性なんです と言いながら、わたしを身体の後ろに庇う様にして、ルークさんの視線から遮ってくれた。
「此奴等は豚を餌にしているから、
アリアが、ルークさんの気を逸らす様に脅し文句を口にすると、お二人は慌てた様に、背中側に払っていたマントを引っ張り、中に
そうそう!
……あれ?でもナンカ引っかかるな?……ぅん?白い格好で?巣の近くをウロウロ?……ン?
「それに此奴等は、フェロモン?……っていうか匂いを出して仲間を呼び集めるんだ。もし一匹でも潰したら匂いが辺りに溢れ、たちまち大軍が押し寄せる。もし上手く逃げ切ったとしても、匂いは水で洗ったくらいでは簡単に落ちないから、2~3日は追い回される事になる」
今焚いている香木の煙はブレッドビートルが嫌うので、オークの巣を見つけた時は、これを虫除けとして使うのだそうだ。
この香木は更に、ブレッドビートルが出すフェロモンも消す効果があるから、こうやって捕まえた時は一緒に瓶に詰めれば匂いも消して、燻し殺す事も出来るから問題無い。……と、アリアが続けて教えてくれた……けど。
なんっっっっっっっってこった!!!!!
衝撃を受けました!
危ないトコだった!!
悪夢再び!になってしまう!!
……ってか、皆も危険に巻き込むトコロだったよっっ?!!
それに!あの時わたしが身に着けていたD装備が、白いハーフプレートアーマーだった事を思い出ひた!!
あれはドレスアーマーみたいな作りだから、森の中ではとにかく白くて浮いてた筈!
ブレッドビートルは、白い姿のわたしを狙って襲って来てたんだ。
しかもその時に潰しまくったから、匂いが体に染みついて、翌日のあの悲劇へと…………はぅうっ!!
衝撃の事実を知り、わたしが ズどドォーーーーーーーーーーンッッ!!と、地に沈み込むくらい落ち込んでいると、ミリーさんとアリア、そしてアンナメリーが慌てた様に慰めてくれた。
大丈夫ですから!潰していないんですから匂いは漏れておりません!!
ちゃんと処理をしたんだから何の問題も無い!お前がが気にする所はどこにも無い!ウン!全く全然どこにも無い!!
あの時虫を捕えなければ、彼が大変な事になっていたのですから、お嬢様の判断は正しい。むしろお嬢様だからこそ出来た神業なのです!
お嬢様は誇るべき事をされただけなのです!むしろ、お嬢様の神業を間近で拝見出来た衝撃に、私は感動すら覚えております!あぁ!お嬢様!お嬢様!!お嬢様ぁあぁぁ!!!
3人が、しきりに慰めてくれたり、励ましてくれたりしてくれた……。
てか、アンナメリーがおかしいんですけど?……こんなテンションな人だったかしらん?
とにかく、こんな所で落ち込んでいる場合では無い!今は気を取り直して先に進まないと!
わたしは過去は振り返らない女なのだ!!
わたしはパンパンと両頬を叩き、顔を上げた。
「お?」
「お嬢様……、大丈夫で御座いますか?」
「……お嬢様」
心配してくれたアリアとアンナメリー、それにミリーさんに うん! と、フードの奥で短く頷く。
ちょうどその時、イルタさんが魔力のチャージが終わったと立ち上がった。
それを見たアリアが頷き「出発するぞ!」と号令をかける。
アンナメリーが竈を片付け、ミリーさんが飼葉桶を仕舞い、皆がそれぞれの馬に跨って行く。
わたしもレグレスに跨り「もう少しだよ」とその鬣を撫でた。
その時、胸元にチクリとした痛みに似た感覚が走った。
それがジワリと広がる。
なんだ?コレ?
今までに感じた事の無い感覚に、戸惑いを覚えながらも、動き出した隊列に並び、レグレスを走らせた。
進む程に、その痛みが広く重くなる。
更に自分の中から、何かがポロポロと零れ落ちて行く様な気がして、胸が息苦しくなってくる。
堪らず胸元を押えると、アンナメリーがそれに気が付き馬を寄せて来た。
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
心配してくれたアンナメリーに、大丈夫だとフード奥から微笑んだつもりだった。
でも、覗き込んだアンナメリーが息を飲むのが分った。
わたしは今、どんな顔をしているのだろう?
「この調子なら、後1時間ほどで到着出来るかも知れません!」
そんなわたしを他所に、ケイシーさんが嬉しそうに声を上げていた。
ココから先は崖などの障害物も無く、緩やかな昇り下りが続くので、比較的馬を走らせ易いのだそうだ。
途中に居る魔獣にさえ注意すれば、楽に進める筈だとケイシーさんは言う。
それにルークさんが、張りのある声で答えていた。
士気が上がるお二人とは対照的に、わたしは足首まで埋まる泥沼の様な不安感に呑まれていく。
胸の内からポロポロ零れ落ちて行く喪失感が、わたしの中でどんどん大きくなる。
わたしは今この瞬間、取り返しの付かない何かを失おうとしているのではないのか?そんな不安がわたしの中で溢れていた。
レグレスも何かを感じ取っているのか、さっきから落ち着き無さげに呼吸が荒い。
その時、唐突にわたしの探索範囲に引っかかる物が現れた。
それが無数の生者成らざる物だと分かる。
そして、それに囲まれた生きた人々の反応も認識出来た。
でも、村を出発した調査団の総数よりも、感知している人達の数が少ない。それに、その多くの人が生命力を減らしていた。
中には、今にも命の雫が溢れ切ってしまいそうな人も何人かいる。
その中の一つの命の灯火が、見る見る喪失して行くのが分かる。それは……、わたしがよく知るその灯火は……。
「ハワードパパ!!!」
わたしは森の奥に視線を向け、思わず大きく声を上げていた。
そう、これはハワードパパだ!間違い無くハワードパパがそこに居る!!
あの力強く燃え盛っていたパパの命の息吹が、あんなに細くなっている!
「お嬢様?!」
「どうした?!何があった?!!」
半ば腰を上げ叫んだわたしに、アンナメリーとアリアが馬を寄せ、何事かと声をかけて来たけれど、わたしはそれに答える事も出来ず、ただハワードパパの名を何度も口にしていた。
「御頭首を見つけたのか?!」
「わかりません!……わかりませんが、お嬢様なら……」
レグレスも、何か分っているのかその脚に力が籠り、走るスピードが上がった。
先行するケイシーさんとルークさんを追い越し、集団の先頭に出て、レグレスは尚も速度を上げる。
でもダメだ!こんなペースではどんなに急いでも、あそこまでは1時間近くはかかる!
「レグレス、悪いけれど……」
「先に行くよ」と言おうとしたらレグレスは、ペース配分などお構い無しの競走馬の様な走りで、更に一気に速度を上げた。
その気迫を乗せた走りに、わたしは思わず目を見開いた。
……そう、レグレス。お前もパパの元に戻りたいんだったよね?そうか、……うん、わかったよ。
追い越された事に驚き、何があったのだとルークさんが声を上げるが、それに答える代わりに、わたしは腰のソードホルスターから二本の
そして、囁く様に『唱』を口にした。
《
わたし本来の職『エンチャントチャネラー』の支援魔法だ。
ハープやドラム、ギターなど、思い思いの楽器を持った小妖精達が演奏を奏で、パーティーメンバーの基本ステータスを、5~6割上昇させる。
これにより、ステータスにより決定される攻撃力や防御力、HPやMP等の数値が、倍以上に跳ね上がる。
更に、『3つのコンチェルト』を奏でる。
《バトル・コンチェルト》は、物理攻撃力を50%、魔法攻撃力を80%上乗せし、クリティカルの発生率と、発生時のダメージを40%上昇させる。
《ムーブ・コンチェルト》は、魔法・物理の攻撃速度を80%、回避率を70%上昇させ、移動速度を倍にする。
《リラックシング・コンチェルト》は、
久方ぶりのフルエンチャだ!
レグレスが、自分の走る速度が上がり、体力も跳ね上がった感覚に驚いているのが伝わって来た。
だけど、こんな事で満足して貰っては困る。
「ま、待ってください!この先にはまだ強力な魔獣が!!」
ケイシーさんが後ろから、この先が危険だと叫んでいるけど、そんな事は最初からわたしには見えている。
わたしは、インベントリの中で長い間眠っていたアイテムを使用してみた。
すると、レグレスの身体が瞬間的に青銅色の装備で包まれる。
顔には、前方に突き出した牙の様な装飾まである。
まあ、これは見たまんまの武器なんだけどね。
本来これは、ゲーム内での騎乗竜専用の装備だったんだけど……。
もしかしてコレ使える? と思ってインベントリの中から引っ張り出してみたら、ホントに使えてしまった!
やっぱりこの世界の『馬』は、竜の仲間?って事なのかしらん?
そして、わたし達の行く手を塞ぐ様に、木々の間から魔獣が姿を現した。
『フォレストジャイアント』
5メートルを超える樹木の様な巨人が、レグレスに向け太い丸太の様な腕を振り降ろして来た。
フォレストジャイアントの脅威値は44だ。
本来なら上団位者でもなければ相手に出来ない。
昨夜、ケイシーさんとレグレスは、村へ戻る途中に此奴等に襲われ、大きなダメージを受けたまま夜の森を抜けて来たのだそうだ。
レグレスにとっても、痛い目に合されたばかりの相手だけれど、今は怯んで居る時では無いよ!レグレス!
「ぶち破れ、レグレス!」
レグレスは勢いを殺さず、そのスピードのまま突っ込み、丸太の様な腕を砕き、巨大な胴体へ牙を突き立てた。
フォレストジャイアントはレグレスにその身体を突き抜かれ、辺りを揺らす爆発音と共にその巨体を爆散させて飛び散った。
そう、今のレグレスなら鎧袖一触!
この装備の攻撃力は、騎士団が使っている武器よりも全然強い。
エンチャも、フルでかかっているのだ!
この程度の相手に後れなど、取り様が在る筈が無い!!
その、今の自分の力を理解したレグレスに、わたしは言葉をかける。
「レグレス、後5分で到着、なさい。出来なければ……、置いて、行きます」
レグレスは、わたしのその言葉に対し、任せろとでも言いたげに、力強くブルルと一度鼻を鳴らした。
「そう?……上等」
わたしはスッと、鞍の上に足を揃えて立ち上がる。
そのまま
逆手で抜いた
そしてそのままスキルを放つ。
《インパルス・バースト》
『デュエルバーバリアン』の近接範囲攻撃スキルだ。
本来は、自分に近接している敵に使用して、その周りの敵を巻き込むスキルなんだけど、スキルコントロールの修行のおかげで、スキルの効果範囲や、威力も、自分の意志で、かなり好きな様に調整出来るようになった。
前方で、ガッ!と、空間を切り裂く様に開いた剣先から、スキルが放たれる。
正面に生まれた衝撃波が、一直線に音の速度で突き進む。
その衝撃波は、空気を引き裂く轟音を響かせ、樹木に紛れ隠れていた数十体のフォレストジャイアントごと、わたし達の前方の森を斬り刻む。
一瞬でスキルにより森が切り拓かれ、100メートル以上の一本の路が、わたし達の前に出来上がった。
わたしは再び剣を腰の鞘に放り込み、レグレスの手綱を握り直した。そして、もう一つスキルを使う。
《
短時間、自分の乗る搭乗物の速度を200%上昇させるスキルだ。
「行けレグレス!」
レグレスが風を巻き、森の中を一直線に疾走する。
ハワードパパ、後少しの間だけお待ちください。
今、すぐに参ります!
◇◇◇◇◇
「……くっそ!やっぱりやらかしやがった!」
「アリア様、こうなる事は初めから分っていた事でございます。その為の
「……ああ、そうだな!全くその通りだ!!イルタ!ケイティ!急ぐぞ!!ミリー!はしゃいで無いで早く来い!!」
騎士団のお二人の前で、お嬢様が一瞬で森と魔獣を斬り飛ばしてしまい、アリア様は頭を抱えてしまわれました。
しかし、お嬢様が何か仕出かすのは、
そのフォローをする為に、
それでも皆様、お嬢様の支援魔法で力が上がっている事に、かなり驚かれているご様子。
勿論
あぁ!お嬢様のお力が、こんなにも身体の内に溢れている……。何という至福!!!
ミリー・バレットなど、魔獣をボウガンの一撃で粉砕した事に、キャッキャ!と喜んでいます。
あのはしゃぎっぷりは可愛らしいのですが、今はとにかく先を急がなければなりません!
「な、何という事だ……。これをあの
ふむ、ルーク様がお嬢様のお力に気付かれたご様子。至極当然と言えば当然の事なのですが……。ここは処理をさせて頂くのが順当な所で御座いましょうか……?
「おいルーク!何をしている?急ぐぞ!!」
アリア様が「待て」と言いたげに此方を手で制し、ルーク様に近付いて行かれました。
「アリア!あの娘は本当に初期クラスの『
「当然だ!あの子は間違いなくウチの『
「バカな!どう見ても普通の『
「当たり前だ!並の『
「なにっ!?」
「ミリーを見て見ろ!コイツの索敵能力と攻撃力の高さはアンタも見て来た筈だ!まだ
「い、いや、確かに彼女の実力は、在野のハンターと比べると格段に高い……」
引き合いに出されて「あたし?」と自分の事を指差して、キョトンとした顔をするのも愛らしいのですが、今はもう少し、引き締めた顔をなさるのが宜しいと思いますよ?ミリー・バレット……。
「イルタだってそうだ!ハイプーリストで、コイツ程の『癒し』の使い手が騎士団には居るのか?!」
「い、いや……、居ない。彼女ほどの実力者は、王都本隊でもそうは居ない筈だ……」
「並の実力ではAクラスチームになど入れない!『
「い、いや!私は彼女を侮ってなどいない!!只、彼女の使った魔法の効果が、余りにも……」
「あの子は元から……、昔から高い魔力値を出していたからな。同い年の子供達と比べてもダントツだった」
「そうなのか?!」
「ああ!外の連中と、アムカムの人間を比べられても困るけどな。あの子は端から規格外だったよ。……それにな、女ってのは、一時的に魔力が上がる日ってのがある訳だしね……、おっと、この話にこれ以上首を突っ込むのは、騎士として、男としてどうかと思うぜ?ルーク・トレバー!」
「……ぁ、いや、うむ、こ、これは……、大変に失礼をした……ぅ、うむ、許してくれ……」
男前に口角を上げてアリア様が見つめると、ルーク様はお顔を赤くされ、視線を泳がせてシドロモドロになっておられます。
サスガです!アリア様!!ルーク様の疑念を、強引に、力でねじ伏せておしまいになられました!完全な力技です!!
良かったですね。ルーク様がチョr……ゲフんゲフン!実直なお方で……。
さて、急ぎませんと、お嬢様に距離をドンドンと引き離されてしまいます!
きっとお嬢様は、旦那様のご様子にお気付きになり、全力で向かうと云う選択肢を選ばれたのだと思います。
ならば
「さあ!行くぞ!!あの子が拓いてくれた路だ!!1分1秒たりとも無駄にするな!!突き進め!!!」
アリア様が号令をかけ、馬に鞭を入れてスピードを一気に上げました。
馬がとんでもないスピードを出しております!
馬に、こんな速さを出させる事が出来ると云うのが驚きです!お嬢様ぁ!素敵です!!素敵過ぎますぅぅぅ!!!
さあ、一刻も早く騎士団本陣に辿り着き、お嬢様が後方に気兼ねなく、お力を存分に御使い出来るよう、支援して差し上げなくては!!
あぁ!お嬢様!今、直ぐに追い付きます!!!
――――――――――――――――――――
次回「イロシオの不死兵団」
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