105話ダイノサウル

 かなりデカいのが地底に居るようだ。

 それが身を揺らしながら外に出ようと暴れているのか、さっきから連続して突き上げる様な振動が続いている。

 地上の史跡後は積まれた石壁が音を立てて崩れ、今や倒壊寸前だ。


 人喰人獣ライカンスロープでは無い普通の人間の盗賊共は、この闘技場に居た殆どが魔獣に潰されたか、壁とか床の石にとかに挟まれ圧迫されて大変な事になっている。辛うじて生きているのもそこそこ居る。流石しぶといだけが取り柄の盗賊共だ。

 盗賊以外の騎士だか騎士崩れだかの連中は、そいつ等よりは幾らかはましか?まあ元の身体の出来も違うのだろうしね。

 でも、魔獣に潰さていなかった騎士らしき奴等も、さっき下を走り回った時、ついでに蹴り倒しておいたので起きているヤツなど一人もいないが!


 でもこの砦に居た騎士の半数ほどは、他の場所に居たのでこの闘技場パーティーには参加していなかったようだ。

 だけど魔獣が溢れた事に異常を感じ、様子を窺っていたのだろう。

 そして今、大地が酷く振動し、底から地響きのような、唸りの様な不気味な音が辺りに響き渡っている。

 全方位警戒態勢ってトコロかね……。いや?撤退準備を始めてる?状況判断が早いな。


 しかし、さっきわたしが掛けたデバフが効いてるので、その動きはとても遅い。ひどくトロい。

 コイツ等も証人にするからね。逃がしゃしないよ?


 その時、一際大きく下からの突き上げる衝撃が起き、砦全体が大きく揺て爆発音が辺りに響く。

 次の瞬間には闘技場の壁の向う側から、噴火でもしたかのように土砂の壁が立ち上がり、客席の中程までも吹き飛ばした。

 闘技場の外側の地下から何かが爆発でもしたようだ。

 そこには深い大穴が穿たれていた。



 今わたしとゴゥルが居る場所の、向かい側の客席がガラガラと崩れ落ち、大穴の縁が闘技場の中まで及んでいた。

 この場所からも、その大穴の端が見える。

 そしてその奥で蠢く巨大な何かの気配も。


「……なるほ、ど。コレがアンタの切り、札?」


「どうしようもなくなった時、アレを放ってヘクサゴムを踏み潰す手筈だった!最終最後、正真正銘の奥の手だ!いくらテメェでもアレはどうしようもねぇぞ!くかかかか……がふっ!!」


 これを呼び出すのに随分と負荷が掛かったのか、ゴゥルは喉の奥から血を噴き出した。

 まあ、こんな事でちにはしないだろ。大体にして元がアンデッドだしね!

 今はコイツを放っておいても問題は無いだろう。


 でも、一応拘束はしておくか……。


『マス・フィールド・ルーツ』

 自分周辺の複数の敵を一定時間ホールド状態に陥れる、エンチャントチャネラーのデバフスキルだ。


 ゴゥルを含め、この砦に居る蠢く人喰人獣ライカンスロープ共や生き残ってる盗賊共、騎士崩れや擬きを、余す事無く魔力の蔦が絡みつきその場所に拘束する。


 突然身体が魔力蔦に囚われ拘束された事で、ゴゥルが何やら喚いているが、気にする必要はない。


 それよりも先ず今は、目の前の『奥の手』ってヤツの対処だ。

 かなりデカい魔獣なのはわかる。


 まずは上空から目視しようかと、取りあえず大穴に向けてジャンプをしてみる事にする。

 客席で踏み切ったらその場所が崩れ、ゴゥルが巻き込まれて下まで転がった様だが、まあこれも気にはすまい。



 跳び上がり穴の奥が見えた所で、その奥から急速に魔力が収束するのを感じる。

 そしてそこからわたしに向け、勢いよく何かが撃ち放たれてきた。


 それは岩の塊だった。

 直径3メートル程の岩の塊が、穴の奥からまるで砲弾の様に一直線に飛んで来た。

 実際、砲撃をする様な爆発音も聞こえていたのだ。


 だが、わたしは向かって来た岩の砲弾を、空中で思いっきり蹴り飛ばす。

 岩はその場で激しく爆散し、礫の破片を辺り一面に撒き散らかした。


 蹴り飛ばした反動と岩が爆散した勢いで、わたしは僅かばかり後ろへ流され穴の縁へと着地した。


 そこから中を視認してみる。穴自体はかなり深い。巨大鍾乳洞の天井が崩れて、巨大な洞窟の入口が現れたって感じか。


 穴の縁はボロボロとまだ崩れ続けていてかなり危険だ。

 でも、天井が崩された土砂で足場も出来ていて、ここからの出入りは可能そうだ。

 天井の残骸で出来た大小の岩塊で作られていて、人にとっては厳しい登攀ルートだろうけど、巨大な魔獣が出入りするには十分かもしれない。



 そこへ気配が近付いて来る。

 辺りを揺らす振動も大きくなる。巨大な物が大地を踏みしめる振動だ。

 そしてソイツが辺りを揺らし、洞窟の奥から姿を見せた。


 グロロロ……と言う威嚇するような音を響かせ、赤い双眸がユラリと揺らめく。

 それが二対。四つの赤い目が、漆黒の洞窟の奥から星明りの元へと現れた。


 それは『ダイノサウル』と言う名の魔獣。

 その姿は、巨大で長めの首が二本あるコモドドラゴン。

 体長は30メートル以上はあるかな?


 かなりの大きさだがコイツは『竜種』とは違う。

 前に魔法生物学の授業で、ノソリ先生が教えてくれた。

 竜種とトカゲなどの爬虫類との違いは、骨格で見分けが付くのだと。

 竜種の四つ足は、象とかの哺乳類と同じで胴体の下に垂直に付く『直立四足』と言うのだそうだ。

 一方のトカゲやワニとかは、胴体の下で水平に広がっている『水平四足』と呼ばれる物なのだと。

 だからどんなに身体が大きくても、『水平四足』は竜では無く爬虫類でトカゲなのだと力を籠めて仰っていた。


 今、目の前にいるデカ物の足の付き方は後者だ。

 つまりコイツはデッカいトカゲだ。巨大爬虫類だ。


 そいつと目が合った。

 どうやらわたしを視認したようだ。


 ヤツの左の首がコチラに向いて伸び、その口を大きく開いた。

 そしてそこに再び魔力が収束する。

 見る見る開いた口の中で、岩塊が形を成して行くのが分かる。

 岩が口の中一杯まで育った所で、またしても砲撃の様な爆発音が鍾乳洞内に響き渡った。

 コイツがその岩を撃ち出したのだ。


 下方から飛んで来た岩弾はわたしの足元に当たり、そこで盛大に爆散する。

 わたしが立っていた場所の地面は大きく抉られ、大量の土砂を巻き上がらせていた。

 飛び散る土砂が凄い。視界が完全に塞がれる量の土煙だ。


 まあ、わたしは既にその場所には居ないけどね。

 鍾乳洞内で足場になりそうな岩へ飛び移り、その内部へと既に降りていた。



 コイツが使っているのは魔法だが、岩を飛ばす中級位の『岩砲弾ロック・ブレット』とは少し違う。

 ひとつの首が基本魔法の『岩塊ロック・ブロック』を作り出し、もうひとつの首がやはり基本魔法の『空気破裂エア・バースト』を使って撃ち出しているのだ。

 片方の首が岩塊を作り出している間に、もう片方の首が空気を取り込み体内で圧縮し、それを爆散させた勢いで岩を撃ち出しているワケだ。

 それを二つの首が交互に行っているのだ。

 謂わば、岩塊を使った巨大エアーガンだ。


 なるほど、この砲撃を使って鍾乳洞の天井を撃ち抜いたんだな。


 僅かに溜めの間はあるけど、その威力は充分に高い。

 基本魔法でも、これだけの規模で使うと大変な脅威になると言う、いい見本みたいなもんだね。

 だけど身体の中で何度もエアバーストさせても平気でいるとか、どんだけ丈夫な肺持ってんだよ!魔獣だから良いのか?


 下から見上げるとコイツのデカさが良く分かる。

 体高は5~6メートルかな。

 頭から尻尾の先までは40メートルくらいありそうだ。

 正に怪獣だ。


 でも、昔見た本物のドラゴンと比べると、存在感が……密度が薄い?

 図体だけデカいだけで、なんかスッカスカな印象を受ける。




 さて、今コイツはわたしの事を見失っているようだ。

 そこでちょいと近場にあった岩の塊を蹴り飛ばし、ダイノサウルにぶち当ててみる事にした。


 岩の大きさは5メートル程。

 蹴った岩はコイツの撃つ岩弾よりも速い速度で命中したが、当たった瞬間に粉々に砕けてしまった。

 多分この岩は、鍾乳洞の天井の一部だったのだと思う。きっと、それ程の密度は無かったんじゃないかな?


 ダイノサウルは当たった瞬間に少しよろめいたみたいだけど、余りダメージは入っていないっぽい。

 やっぱ結構頑丈そうだ。


 なるほど、コイツは衛士さんが200や300居ても、到底手には負える相手では無いなと思う。

 コイツが一度外へ放たれたら、ヘクサゴムの街などは容易に蹂躙されてしまう。


 脅威値で言えば30以上か?

 コレを相手にするには中団位の6thシックス以上の戦闘値が必要だろう。

 今のビビやミアにはちと荷が重い。


 ビビ達が今この山の麓まで来ている事も、わたしの探索範囲内なので分かっている。

 今、この大型魔獣を外に出す訳にはいかない。

 勿論出すつもりは更々ないが!

 だから速やかにココで処置してしまおうと思う。


 ちょっと獲物がデカぶつ過ぎて、チマチマ剣を使って斬ってたんじゃ面倒な事この上ない。もうサクッとスキルを使って終わらせようと思う。


 勿論、スキルも手加減して使うつもりだ。

 使用する武器もDランクの物だから、それ程ヒドイ事にはならない筈!



『ナイン・ライトスター』

 神化近接職デュエルバーバリアンのスキル。

 光の速さで九つの光跡を描き、自分の周りの敵を無差別に攻撃する、近接範囲最高威力のスキルだ。


 わたしを発見したダイノサウルが砲撃を再開して、連続で岩弾を撃ち込んで来るが、そんな攻撃は物ともせずにスキルを使う。


 スキル発動の衝撃で、激しい光と轟音が辺りを包む。


 光速で大気内を移動した事により、その軌跡の外側の大気が瞬間的に圧縮される。

 複数の洞窟内に描かれた破壊を齎す光跡は、広範囲に超高圧のプラズマが発生させていた。


 その超高圧の中心に居た大型魔獣の肉体は、瞬時に原子に還され骨の欠片も残さず消滅してしまった。

 更に高圧プラズマに晒された鍾乳洞は、その内側から塵と化し山ごと吹き飛んでしまったと言う。




 その時、山の麓まで来ていたビビとミアは、地響きと共に「山が噴火でもしたかのように、途轍もなく太い光の柱が立ち昇るのを見た」と合流した後で教えてくれた。


 その時のビビの目が、とてもとーーってもコワかったのよさ!

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