12話受験日閑話

 ミリアキャステルアイの入学試験では、座学の他にも体力魔力を試される。

 去年、ダーナが魔力値が出せなくて、コリンが焦っていたのは良い思い出(?)だ。


 体力試験は基礎体力を図る様な物だった。

 やったのは、長短距離走のタイム計測と、試合形式の立ち合いだ。


 長距離走は、5キロの距離を走り切るタイムを計る物で、わたしはミアの後ろをくっ付いて走り、その後からゴールする感じで済ませた。


 短距離は50メートル走のタイム測定だった。

 わたしは、一緒に走る子より一歩遅れてゴールした。一緒した子はそこそこ速かったので、タイムはそんなに悪いものでは無かったと思う。


 立ち合いは、1ラウンド(3分)の試合形式で行うもので、その相手をしてくれたのは、騎士の養成学校から来られた準騎士の方達だった。


 本来なら、30秒も立っていられれば十分合格ラインなのだそうだが、脳筋アムカムの皆は全員勝利を収めてしまった。

 曲がりなりにも準騎士が相手だというのに、これってどうなのでしょうか?


 まあ、アーヴィンとロンバートが瞬殺してしまったのには、立ち合いがダルそうな事言ってた二人に、わたし達が後ろから『全力でやれオーラ』を出していたので、当然の結果と言えば当然の結果なのだけどね!

 アムカムの男に手抜きは許されんのだよ?


 でも、ビビとミアまで勝っちゃうってどうなのだらう?準騎士の方涙目だったよ?


 まあ、わたしは目立つなと言われていたので、とりあえず3分間目一杯迄粘る様にした!

 ンでもつい、3分経過する直前に、わたしの立ち合いを見ていたビビが よし!と言うように拳を握ったので、わたしもそれに拳を握って返したら、使っていた木剣が相手の方の良い所に決まってしまったらしく、気が付いたら準騎士の方は転がってた。

 転がされた準騎士の方は、驚いた様に目を見開いていたけれど私もビックリしたよ!でも、持ち時間一杯使い切ったから、ま良いかなー?と。

 ま、問題ないよね?セーフよね?




 午前中は体力試験だけで終わり、午後からの魔法試験が始まるまでは昼食タイムだ。

 昼食は、校内の教室でも、立ち合いをした講堂内でも、校庭でも好きなところでとって良いと言われていた。天気も良かったし、折角なので校庭の端にある日当たりの良い芝生の上に、アンナメリーにクロスを広げてお昼の準備をしてもらった。


 そこに、リリアナ叔母さまがお昼用にと持たせてくれた、大きめのバスケットの中身を広げる。それには色んな種類のサンドイッチが、これでもかとたっぷり詰め込まれているのだ。


 ローストビーフサンドは、柔らかくてジューシーなローストビーフとレタスを何層にも重ね、その断面はまるでローストビーフのミルフィーユ!


 こっちのバケットを使ったサンドは、スライスした香辛料タップリの牛の燻製肉と、タップリのカマンベールチーズが溢れていてやっぱりボリューミー!


 卵サンドはゆで卵がゴロっとあふれてて、連なる黄身が、まるで宝石みたいに輝いている様だった!


 料理上手なリリアナ叔母さまの手料理だ。どれも美味しいに決まっている!

 男子二人は座った瞬間からガツガツと、並べられたサンドイッチを片端から減らして行った。


 案の定、慌てて食べるアーヴィンが、喉にサンドを詰まらせて咽始めた。

 その背中をビビが摩って、なに慌ててるの!とスープの入ったカップを差し出した。

 アーヴィンが、わるい と言いながらスープのカップを受け取ろうとして互いの手が触れあい、ハッと頬を染める二人……。

 なんだ?この絵に描いたような流れは?


「あ!アーヴィンまた口の横にソース付けて!」

「え?い、いいって!自分で取れ……、あ!」

「もう!もっと落ち着いて食べれば良いのに……。ハイ!取れた!……ン」

「あ、バ、バカ!何で指で取ったソースを、そのまま舐めてんだよ?!」

「え?!ぁ、あ!……ゴメン……っ、っぃ……」

「……いや…………ぅん……」

「「「…………」」」


 二人の世界を作る隣で、空気になったロンバートがチキンサンドを無言で咀嚼している。

 わたしとミアも、そのラブコメ模様をハイライトを無くした目で冷ややかに眺めながら、静かに卵サンドに噛り付く。

 なんだこの夫婦……。とっとと結婚しろ!



 まあ、バカップルの事は置いておいて、改めて周りを見渡すと、結構な数の受験者が居る事に改めて気が付いた。ちょっと見にも100人近くいる気がする。


 試験は二日に分けて行われる。

 前日には筆記試と面接が行われた。二日目の今日が体力と魔力に関する試験になるのだけど、受験する人数が多い為、これを3回に分けて行われるのだと、アンナメリーが教えてくれた。


 つまり総受験者数は今ココにいる人数の3倍。300人くらいになるって事か?でも確か合格者は50人程度って話だったよね?

 あれ?コレ結構な倍率じゃね?


 アムカムの先輩方がみんな受かっていたから、もっと気楽に考えてたけど……、受ければ誰でも受かる様なトコじゃなかったの?実はミリアキャステルアイ寄宿校って、かなりなエリート校?あれれぇ……?

 なんか自分の持っていた認識にズレがある事に気が付いて、ジワリと背中に汗が垂れるのを感じてしまったお昼時だった。




 午後の魔力試験は、五精盤ごせいばんを使用した適性属性の確認と、魔力量の計測。後は精霊魔法の発動試験だ。


 入試で使われた五精盤ごせいばんは、村の学校にあった物と比べると随分大掛かりな物だった。


 手を添える石板の前に、クリスタルで出来た様な、1メートルくらいの長さのパイプが五つ並んでいる。

 魔力を石板に流し込むと、それぞれの属性に沿ったパイプが反応して、光が立ち上がって行くのだそうだ。


 ついでに、パイプにはそれぞれ目盛りが刻んであり、それが立ち上がる魔力の光に反応するので、所定時間魔力を流し込み、その魔力量を数値で計測出来るという代物だ。

 流し込むと目盛りが上がるという装置の説明を受けて、なんだか昔やった肺活量の検査を思い出してしまった。でも、ありったけの魔力を吐き出すわけでは無いからちょっと違うのかな。


 普通は、この目盛りが合計10~20で合格ラインに達するそうだ。受験生レベルなら、高くても50~60の魔力量が出れば良い方なのだとも言われた。


 だがビビは、五つの属性全てのパイプに魔力の光を立ち上げ、その合計は200を超えるという規格外ぶりを見せ付けた。


 さらにミアも、『無』以外の4つの属性の光を立ち上げ、その合計はビビを上回る250超えという、こちらも規格外の魔力量を叩き出したのだ。


 二人のおかげで試験会場は、それはそれは騒然としたものになっておりました。

 イヤよね、自重の出来ない人って!


 一方わたしはと言えば、精一杯抑えに抑えた魔力の制御が上手く行き、5属性全部に反応が出たとはいえ、合計魔力量は50程度という実に普通の結果を出す事に成功した!ウン!これぞ日頃の制御鍛練の成果だよね?!!



 その後に行った魔法発動の試験場は、やはり村の学校にあった魔法鍛練場に似た場所だった。

 要するに、弓道場とか射撃場の様に、離れたところに『的』があり、周りを頑丈な石造りで固められている広々とした空間だ。


 ココで、自分の使える精霊魔法の発動を成功させる事が、ここでの試験合格基準なのだそうだ。

 うん?発動に成功?


 いつも村のみんなは普通に使ってるよね?魔法が変な暴発するとかはよく見てたけど(してたけど!)発動そのものを失敗するなんて事あったっけ?

 そう思って首を捻りながら試験を見ていると、成程、失敗している子がチョコチョコと居た。


 んーー……、普通はそういうものなのかな?

 この時になって、今更初めて、アムカムと世間との常識の差に、僅かな疑問を感じていた。



 試行は3回までとか、試技回数も決められていた。陸上競技かっ?!


 タクトを的に向け、水を飛ばす子がいた。

 チョロチョロ~っと、水が放物線を描いて1メートルほど先に落ちた。水芸かっ?!!でもやり終えた子はなんか満足気だ。


 ミアの『ウォーター・カッター』なら、この距離であの的くらいなら、サクサクとスコーンでも切る様に裂いちゃうと思うんだけど?



 タクトを振って、火の玉を飛ばす子がいた。

 ヒョロロ~~っと、小さな火の玉が……マッチの先に灯る位の奴が、飛んで行って的に当たって弾けて消えた。やった子は何か得意気だ。


 カールの撃つ『ファイア・ブレッド』なら、あの的を粉砕してその後ろの土壁に、オークが一匹まる丸入る位の大穴穿っちゃうと思うけど?

 


 魔法を発動させた子達は皆、上手く出来た!よくやった!十分だ!と喜び合っている…………。これって……ぁれぇ?やっぱコレが普通なのか?アムカムの皆がおかしいの?これが世界の真理とでもいうのかぁ?ぁれぇぇ??わたしの常識は常識じゃ無かったのか?!頭の中がグルグルに回って行くゾ。


 そうこうする内、ビビが前へ進み出て来た。いつもの様に自信満々に両手を腰に当て、ニヤリと片方の口角を思いっきり上げて、試射場の真ん中で仁王立ちだ。


 ビビはその場でスッとしゃがみ、大地に手を当て精霊魔法を発動させた。


 《ストーン・ウォール》

 ドン!ドゴン!ゴゴゴン!!と、ビビを中心にして扇が広がる様に、分厚い石の壁がせり上がって行く。

 ビビから10メートルほど離れた距離で立ち並ぶ壁は、試験場の地面を大きく変形させていた。


 場内騒然である。試験の監督官の人は大口を開けていた。

 ……あぁ、あの大口を開けている絵面は見覚えがあるなぁ。良く、ビビやコリンにあんな顔をさせていた事があったっけ……。

 今では良い思い出よ……ふっ。


 そんな思い出に浸る中、ビビがこれで良いか?と言いたげにその監督官に目を向けていた。監督官は大きく何度も頷いてた。


 それを見たビビは、満足気な様子で再び地面に手を当てれば、立ち上がっていた壁が地面に沈み込み、忽ち何事も無かったように平坦な地面へと変わって行く。再び場内騒然だ。


 そんな中をビビはやり切った感満載で、フン!とばかりに肩にかかる髪を払い、颯爽とした足取りで試験場を後にした。

 スゲぇ派手だった!彼女の辞書には『自重』の二文字は無いのだろうか?!ウン!



 そして、ビビと入れ替わる様に場内にはミアが入って行った。

 ミアは少し思案気に口元に指を当てていたけれど、直ぐに、思いついた!と言うように手をポンと叩くと、そのまま精霊魔法を発動させた。


 《レストリング・ソーン》

 たちまちまとの足元が割れて、そこから茨が伸び上がって行く。

 試験場に置いてあるまとは丸太製で、所謂木人と呼ばれるタイプだ。手足を模した部分が無い、太い胴体部分の上に、頭に見立てた小さい丸太が乗っている簡単な物だ。それが等間隔で、5つほど立ち並んでいるのだ。


 ミアが出した茨は、その5つ全ての足元から伸び上がり、まと全てを綺麗に飲み込んでしまった。


 茨に纏わり付かれ締め上げられて、丸太のギシギシ、メキメキという音が試験場内に響き渡る。

 茨が何本も触手の様に伸び上がり、木人を締め付ける様は中々にえぐい絵面だと思うんだ。

 周りで見ている人たちが何人も、ヒクヒクと顔を引き攣らせていた。中には、ゴクリと生唾を飲み込む人までいた。


 でもそれをやった当人は、監督官に合格を貰ったと、無邪気に喜んでいる。当然こちらも場内騒然なのだけど……。

 ヤバいな?アムカムクオリティ……。



 ミアの次はわたしの番だ。ミアと入れ替わりで、わたしが試験場の中央に立った。

 二人の派手なパフォーマンスの後だから、多少の事では目立たないだろう。

 だからと言って、わたしも派手な事ヤル気は毛頭無いけどね!

 ここは目立たない、地味な奴をやらせて貰おうと思っている。


 《エア・ブロック》

 これは任意の場所に空気を集めて、圧縮された空気の塊を作るという、見た目は何をやっているか分からない地味な魔法だ。


 芝スキーとかする時に、お尻の下に空気のクッションを作ったのは、これの応用みたいなモノなのだ。

 傍目には、何をやっているかは分からないだろうけど、監督官の方には、ちゃんと魔法が発動しているのが分るから、問題無しだ!


 『精霊魔法スピリットマジック』と云う物は、精霊に魔法をオーダーして、自分の魔力を提供する事で、代わりに精霊に魔法を発現させて貰うものだ。提供する魔力の大きさ質で、その発現する魔法のスケール、威力も変わってくる。


 魔力範囲を大きく、密度を薄く……か。はたまた、魔力範囲を小さく、密度を上げるか……。

 そんな魔力の調整も、この魔法を使うとイメージし易いと、魔力コントロールのトレーニングでは、良く使われる魔法のひとつだったりする。


 だから、魔法を発動させるだけで良いなら、この基礎魔法で、テニスボールくらいの大きさの空気の塊を作れば十分だろうと思っていた。



 ……思ってたのに!なんで風がこんなに集まって来るかな?!必要以上に空気を圧縮するつもりなんて、全然まったく無かったのに!エラい勢いで空気が集まって来てる気がしるよ!なんか精霊さんが頑張っちゃってる?!!


 た、確かに少しはギュッと空気を固めようと、チョットだけ意識は向いたかもだけど……、魔力は十分抑えたはずよ?!でも、集まる空気が……手元に吹いて来る風が半端ない!!これヤバイ?!圧縮された空気が熱を持ってプラズマなんか生まないよね?!わたしは、あっしゅく!あっしゅく~!とか思って無いからね?!!ビビとミアが「やらかしやがった!」って感じの目でこっちを見てるぅぅぅ!チキショーーー!


 このまま続けると、なんかスゴくヤバイ気しかしないので、魔法の発動をキャンセルする事にした!

 とりあえず、監督官は『精霊魔法スピリットマジック』の発動を確認している筈なので問題無い筈だ……、ウン!問題ない!!


 ってワケで、魔法をそこでキャンセルしたのだけれど……。


 本来であれば魔法を完成させた後、集まった空気の塊は、柔らかく周りへ散らすか、風船の空気を抜く様に、外に空気を放出するという方法が取られるものだ。だけど、収束中に突如その状態を解除された空気の塊がどうなるか……。


 試験場内全体から、風が吹きまくる様にして集まって来た空気の塊だ。内側へ引き付ける力が突然無くなれば、力は必然的に外側へ向かう。しかも十二分に圧縮された上での開放だ。空気が音速を越えて解放されたのだ。


 大破裂ですわ。


 もう、そりゃ凄い音を立てて破裂した。

 限界まで空気を押し込まれ、直径10メートルくらいに膨れ上がったパンパンの巨大風船が、一気に破裂したらこんな感じになるんじゃなかろか?


 わたしの掌の上で、そんな大破裂が起こりやがったワケです。


 近くで見ていた監督官の人は、そのまま風圧で吹っ飛ばされゴロゴロ転がって行き、試験場の外で様子を窺っていた人達も、やっぱり風圧で仰け反り飛ばされかけ、エライ騒ぎになった様だ。それでも怪我人は出ていないから良かったよ。……ホント良かった。誰もケガしていないからセーフだよね?


 試験も『魔法の発動は確認した』と云う事で、こちらもクリアだ!何はともあれ全体的にセーフだよ、セーフ!!



 そう思って喜んでいたら、ビビとミアが近くに寄って来た。共にこの喜びを分かち合おうと、わたしも笑顔で二人の傍に急いで向かったら、ビビにガッツリ肩を組まれて捕まった。


「あれ程目立つなと言われたのに何やってんの?!代わりにあたし達が派手な事やってるのに、意味無くなるじゃない!少しは自重しなさい!!」


 と、顔を寄せられ小さくドスの効いた声で囁かれた!ミアまでウンウンと頷いているよ!!

 ぅえぇぇ?!何でぇ?わたしセーフだよね?なのに自重してない人に自重しろ言われたぁぁ?


 ってな事を呟いたら、耳ざとくそれを拾ったビビに思いっ切り睨まれ、アウトだアウトぉ!とキッパリ言われてしまったとさ……シクシクシク。


――――――――――――――――――――

 魔力量内訳

      風  火  水  地  無  総量

   ビビ:50  40  30  60  40 =220

   ミア:60  50  70  80  00 =250

 スージィ:10  10  10  10  10 =50

アーヴィン:30  40  00  00  10 =80

ロンバート:00  00  20  40  00 =60



次回「霊印(エーテルシール)」

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