57話護りの証

「ね、ねぇルシール?こ、コチラで間違いはございませんの?」

「はい、ココで間違いありません」

「そ、そう……。ルシールが調べてくださったのだから、間違い無いのでしょうけれど……」


 ルシールの調査能力は信頼している。しかし、がそうだと言われても疑問しか浮かばない。



 曲がりなりにもあの子は、ミリアキャステルアイに入学した身だ。

 その身内の幼い子供達の行き場が無いとなれば、学園側がその場を用意する制度もあるのだと、国元を出る前にコーディリアは父親から教わっていた。



『心配する必要はないよ、私の優しいコーディ。そうそう在る事例ではないけれど、そういった子達を護る施設も制度も学園にはあるんだ。学園に入学が認められたと言う事は、ケインとリーラの子供達は学園の保護下に入る事になる。彼の学園が、あの子達を守ってくれる』


 コーディリアが、学園に彼女が来ると知った時。

 その幼い弟妹はどうなるのか?と聞かれた彼女の父であるボーナ・レイヴン・キャスパーは、娘とよく似たブロンドの髪の間から、愛おし気な眼差しで彼女を見詰めながらそう語って聞かせた。


『だからね、愛しいコーディ。私からは君にこれを送ろう。……我が家の習わしとして、旅立つ子に親から送られる物だ。これがきっと君を守ってくれると信じている。どうか君と君の友人達に、幸多からん事を……』


 父から送られた物は、金色の石がはめ込まれた小さなブローチ。

 コーディリアは父の言葉を思い出し、胸ポケットの上にそっと手を添えた。


 学園では、見える場所に装飾品を身に付ける事を禁じられている。

 肌身離さず傍に置く様にと言い付かっていたコーディリアは、そのブローチを常に胸のポケットの中へと忍ばせていた。


 ポケット越しにその存在を感じながら、父の『あの子達を守ってくれる』という言葉を思い出す。




 しかし実際はどうだ?幼い双子は学園内の施設ではなく、学外の、しかもこんな場所にある施設に居ると言う。


 周りの建物も石畳も、とても整っているとは言い難い。

 近くに繁華街でもあるのか、この場所に来るまでに幾つもの転がっている酒瓶も見ている。

 コーディリアから見て、とてもここは小さな子供が過ごして良い場所には思えなかった。



 ルシールは、選択クラスに『空間哨戒科』を選んだレンジャー志望でもある。

 その調査能力は確かな物だし、彼女の事は誰よりも信頼している。

 だが父が語ってくれた話と、今目の前にある現実にどうにも共通点が見いだせず、コーディリアの頭は混乱し続けていた。


「それにしても流石ですねコーディリア様」


 混乱するコーディリアに向け、キャサリンがさも感心したと言いたげに腕を組みながら言葉を発した。


「お店では相手にされなかったから、帰って来るであろう場所で張り込もうなどと言う発想。普通は中々出来ません。流石コーディリア様です」



 お店でお話し出来ないならしょうがないじゃない。

 それならお仕事が終わってから外でお話すれば良いのですわ!

 クラウド様のお話では、彼女今日は少し早上がりなので、あと一時間もすれば仕事が終わるという事です。

 ならば彼女が帰る場所へ先に行ってお待ちして、そこでお話しすれば良いのですわ!


 コーディリアはその自分の思い付きにテンションを上げ、前もってルシールが調べておいたというこの場所へ颯爽とやって来た。


 何故ルシールが事前にこの場所を調べていたのか?コーディリアはそんな疑問は持ちはしない。

 ただキャサリンだけは「前もってコーディリアの行動を読んでいたな」と眉を少し上げて、この優秀な従妹の行動に1人納得する。



 今コーディリアは自分のその発想を認められたと、今まであった不安を吹き飛ばす様、フフン!とばかりに肩にかかった縦巻のブロンドを払い上げた。


「そ、そう?ま、まあわたくしくらいになれば、この程度の考えは……」


「そのストーカー気質が実にキショくて、とても良いと思います」

「……………………ぇ?」


 途端にコーディリアの瞳から光彩が消え、目を見開いたまま不思議そうに首を傾げ、抑揚のない声がその口から洩れて出る。


「流石コーディリア様です」

「ぇ?わ、わたくし…………え?スト……?ぇ?」

「そ、そんな事ありません!そんな事ありませんよコーディリア様!!」

「だ、だってわたくし、あの子と…………え?」


「大丈夫ですよコーディリア様!きっと彼女も落ち着いて話す事が出来て喜ぶと思います!」

「で、でも、キ、キショ……い?……は?ぇ?え?」

「その無自覚さがとぉっても尊ぉございます」

「もう!キャサリン!!いい加減にしなさい!!」


 目も虚ろにプルプル震える挙動不審のコーディリア。

 満足気な顔でしきりに頷くキャサリン。

 何度も大丈夫だとあやす様に繰り返すルシール。


 実にカオスな絵面が、唐突にその場で展開されて行く。



「ここに何かごようですか?」


 そして、そんな彼女達の空気を斬る様に、不意に背後から声をかける者が現れた。

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