第14話スージィ料理を振舞われる

 泣きながら走りました!

 泣きながら跳んで走って突っ込んで、片っ端から殴って行ったさ!!


「うひぃぃ~~~~~~ん!なんなんだよこの数ぅ!ぷぇっ!4桁居んじゃ……くぁ!ねぇの!?てぃっ!!逃げ……ぶぁっ!回ってんじゃ……ぬりゃ!ねぇよっ!!うぷぁっ!ちくそぉーーーー!!ぬぅん!サカナぁ!!とうっ!腹減ったぁよ~~~っ!!うぴぃ!なんだって……ちぇい!こんなに……でりゃっ!いやがんだっ!とぁっ!誰のっ……ぷきゃっ!せい……くぬっ!だっ!?おゎたぁっ!オレだっ……ぐぷぽっ!オレだっ!うらぁっ!オレかぁ!!うえぇぇ~~~~~~んっ!!」


 その数およそ数百!四桁に迫る勢い!!

 スキルで範囲攻撃も出来ない。

 直線上に居る訳も無く、森の中は障害物だらけ。

 直接一体ずつ屠るしかない。

 始めは、一々二刀を使ってぶっ叩いてたんだけど……。


 アレ?手足一緒に使った方が良くね?

 ついでに岩とか砕いて、指弾なんか撃った方が効率良くね?


 と考えて、徒手空拳で殴ったり、蹴ったりして飛び回ってる。


 結果、なりふり構わず突っ込んで、藪や枝、岩肌や地面に激突したり返り血を浴びまくったりで、結構酷い有様になった。

 可愛かった『村娘の普段着』はズタボロですよ!シクシクシク……。



 彼此かれこれ1時間ほどかけて、半径10キロの広範囲に渡るMobを駆逐して回った。


「どーだコノヤロ!大体片付いたろがっ!?……ちくそ~~、もう人里まで1キロも無いトコまで来ちゃったよ。危なかったわぁ……あ、まだこの先に何体か居る。うぇ!人も居んじゃん!ヤバいっ!!」



 大慌てで、取りこぼしたMobの元へ飛んで行くと、森の中に切り開かれた場所があった。

 そこでは双頭の蛇と、おじいちゃんが対峙してた。


「うお!第一村人発見!って、それどころじゃ無ぇ!蛇が更にもう1体、狼も……10体くらい居るな。群れか!おじいちゃんを群れで囲む気だな?させるかよ!」



 直ぐ様移動し、狼を次々と殴りで、指弾で潰していく。


「コイツら気配消してるつもりだろうけど、コッチからは丸見えだよ!おぉっ!おじいちゃんスゲェ!あっという間に蛇をぶった切った!!あ!しまった!一匹行かれた!クソッ!!」


 おじいちゃんは蛇1体を倒した後、飛び込んで来た狼も切り伏せたけど……。


「やっぱり、あのおじいちゃん、やるなぁ……あ、でも動きが……毒か!?不味いぞ!チクソっ間に合え!!」


 今、おじいちゃん達の居る広場のような場所を、木の上から俯瞰で見てた。

 おじいちゃんと蛇は、広場のほぼ中央に居る。

 それを真横から見ている形だ。

 ヤバいと思ったので、とりあえず手近な枝を折って、おじいちゃんと蛇の間に「ていっ!」とばかりに投げ付けた。


「をを、一刀両断かぁ、凄いわぁ……ぬ?最後の犬っころが、広場の反対側からおじいちゃんを狙ってるな……。毒も消してあげないと不味いし……しょうがない!」


 本当は、地元民との接触は、まだ極力避けたかったし、もし人里に入るとしても、もっと慎重を期したかったけど……。今はそんな事を言っている状況ではない!

 急いで木の上から飛び降り、おじいちゃんの元へ近付くと、一言かけてからおじいちゃんを抱え上げた。


 よし、このまま狼とは反対側へ避難させて……ん?なんで驚いた顔してんだろ?変な事言っちゃったかな?

 ま、いいや、とりあえず日影で休ませないと!


 おじいちゃんを日影に横たえて、直ぐに中央に置きっぱなしの剣のところまで戻った。


 よーし、犬っコロめ、こっちに狙いを変えたな。

 やっぱ、おじいちゃんの目の前で、素手や自前の武器使って倒すと悪目立ちしそうだもんね!


 この武器なら蛇も両断してたし、問題無いっしょ?

 見た感じ、ゼロランクの中位ってとこかな?

 この程度の武器でも『氣』を纏えば、あれ位は出来るって事だね。


 おじいちゃんキッチリ『氣』を籠めてたもんな!

 ん?……って事は、コッチの人も『氣』が使えるって事なのかな?


 そんな事を、剣を持ちながら考えてたら、狼は直ぐオレに向かって飛び掛かって来た。

 そのままサクッと両断したけどね!


 直ぐにおじいちゃんのトコへ戻ったら……ヤッバぃ!結構毒が進行してんじゃん!

 早くしないと!でもどうしよ?高レベルのヒーラースキルだと、さすがに大げさだよな、きっと見た目も派手なエフェクトになるし……。


 初期の解毒魔法に、『氣』を合わせて流してみようか?……それなら地味で目立たないよね?

 まずは毒を消してから!治療はその後、傷の状態見て考えよう!!


 おじいちゃんの傍らで膝を付き、掌を脚の傷口に当て、解毒魔法を唱えながら『氣』を流し入れていく。


 をぉ!いい感じ!おじいちゃんにオレの『氣』が覆っていく感じだねぇ……。お?傷も治ってく!

 『氣』に乗っかって、解毒魔法の回復要素が細胞の活性化に繋がって……ってトコかな?

 なんかこじ付けっぽいけど!わははは!


 お?おじいちゃんも喜んでくれた♪

 ……は?え?只者じゃない?え?両断も、解毒も?普通じゃないの?

 うそぉーーーん!?



 それにしても、ちゃんと言ってる事が分るなぁ。

 おじいちゃんが使ってる言葉は、やっぱり上に居た鎧と同じものだ。知らない言語だが、言ってる事が分る。

 変な感じだね。ヒヤリングは出来るけど、言葉を見つけながら話してる感じ?ちゃんと発音あってるのかな?


 あ、ハワード・クラウドさん……ですか?ども!スージィでっす。

 え?あうろーら?わかんないですぅ。


 は、はい?何処から来たかって?あ、あの……あ、あっちの方から……なんですが……。

 うひぃ~~~ん!そんな興奮しないでぇ!血圧によくないですよぉ!

 両親?親なんていません~~!一人ですゴメンなさいぃ~~~~っっ!!



 クぅ~~~~~~~~~……。



 !!はぐぅ……な、なんって辛抱の無い胃袋かぁぁっっ!しっかも何でこのタイミング!?

 あふぅぅ……あぁぁ!そんな、そんな目で見ないで下しぃぃ!

 恥ずかしすぐるですよぉぉ!!ごめんなすぅぃぃぃ!!



 は?い、今、な、何とおっしゃいまして?

 しょくじ?りょうり?たっぷり?

 な、何て暴力的に魅力のある単語でせうっ!一気にライフが削られたわよっ!!


 なぁっっっ!?し・お、だとぉぉぉ!?はぁーぶ……とり?

 ぐはぁっっ!止めですか?!止めを刺しに来たんですかぁっ!?

 うあぁぁぁ!く!口の中が洪水にぃぃぃ!!


 良いんですか?お宅に伺っても!迷惑になりません?お邪魔じゃないんですか?ご家族の昼食に!

 こんな知らない土地で、イキナリ親切な事言われたら、泣きそうになっちゃうんですけどぉぉぉ!!


 ホントならこんな女子(見た目)が初対面の男の人の家に付いて行くとか、とんでもない話なんだろうけど……。

 無理ですぅぅぅ!こんな誘惑耐えきれる自信ありまっしぇぇんんん!!


 お願いしますヨ!良いんですよね?手離しませんからね?私をゴハンに連れてって!ふらぁーいみぃとぅーざごはーん!!



     ◇



 そんで、森の外に置いてあるって言う、クラウドさんの馬車まで来たら、もうビックリさ!


 馬車って聞いてたから、馬だと思ってたけど……馬じゃなかった。

 クラウドさんは、コレを『馬』だって言うんだけど……。

 確かにシルエットは『馬』だね。


 でも鱗あるよ?あと蹄?爪じゃね?いや蹄か?蹄っぽい爪だな!

 いあ、蹄も元々は爪から進化した物ってのは、知ってるけどね……。


 顔もさ、耳が無いよね?歯が尖ってるしさー……この顔、トカゲよね?

 でも、たてがみと尻尾は馬なんだよねぇ~~。謎生物ですわ!


 まぁ、コレがこの世界の『馬』って事なんだろけど。

 やっぱココは知らない世界だわぁ……。



 クラウドさんの話を聞いていると、どうやらココはアウローラという国の、アムカム村という所らしい。


 ここから南へ20キロ程進むと、コープタウンという町があって、この馬車だと一時間程で行けるって言っていたから、こいつはママチャリくらいのスピードが出るのかな?


 そこから更に南へ300キロ程度下ると、12都市の一つデケンベルという都市に行けるらしい。

 更に、さらに!そこから1200キロ以上南に行くと、『王都』があるそうだ!


 王都!!王様がいる!ファンタジーだぬぅ!

 でもここからだと片道1500キロ越え。

 本州縦断する距離だ。


 時速100キロで突っ走る超能力の男でも、15時間はかかる。

 お気楽に行ける距離ではないねぇ。



 車上では、どうやってここへ来たのかを繰り返し聞かれたが、いつの間にか森の中に居た、としか答えられなかった。


 実際、その通りだからね!


 このアムカムの森ことイロシオ大森林(って言うらしいんだが)は、魔獣が多く生息していて、オレみたいな少女(?)が、一人でいられる場所では無いらしい。


 ……どうもこのクラウドさん、会ってからずっとオレの事を子ども扱いするんだよね……。

 この身体、成人してると思うんだけどなぁ………。日本人である自分から見る感覚と、若干ズレがあるのかしらん?


 因みに、魔獣っていうのはオレから見てMobの事だね。

 ココでは魔獣と言うらしい。

 で、さっき見た蛇とか狼の魔獣は本来、もっと中層以上の深い所にしか居ない連中で、こんな村近くに現われる今は異常事態なんだそうだ。


 背中に嫌な汗がドドッと流れた。

 大変なんですね、と答えたけど顔は引き攣って無かったかな?

 大汗ものだよ?


 あと、あの蛇たちも結構浅いとこに居ましたよ……、と言い訳したかったけど流石に言えない。



 色々と話ながら馬車は進んだけど、道中では村の景色が楽しめた。


 田舎に住んだ事は無いし、こんな田園風景は電車の車窓からならサックリ眺めたことあるだけで、こんな風に生の風を味わいながら進むのは初めてだったから、ちょっと感動してしまった。


 池というにはちょっと大きい、ホジスンの池(という名前の池だと教えて貰った)の水面は雑木林を映し込みながら、太陽の光を反射してキラキラしてた。


 ポプラの並木が延々と続いている街道とかは、空の青さと相まってどこのカレンダー写真だよ?!って感じだった。


 起伏のある土地で、地平線までうねりながら続いてる麦畑とかは、見てるだけでいつの間にか溜息が出てた。


 そんな様子をクラウドさんに、面白い物を見るように眺められてしまった。

 やめてください!そんな小動物を見るような目で見るのは!!

 なんだか恥じ入ってしまうではないですかっ!


 因みに、来週から収穫が一斉に始まるので、この景色を見られるのは今だけらしい。

 いい時期に来たのかな?




 そんな話をしているうちにクラウド邸に到着した。


 少し丘陵になっている場所で、防風林に囲まれて建っていた。

 白い壁でL字型の建物だ。

 東西に長く、東側から南へ一段飛び出した様な造りだ。


 屋根は傾斜が途中から変わる二段角度の屋根だ。

 こういう屋根何て言うんだっけ?


 L字のへこんだ部分にひさしが付いて、テラスになっている。

 こっちが南側だね。


 西側の切妻側1階に立派な扉があった。

 これが玄関だね。


 その玄関の前に女性が一人立っていた。

 クラウドさんの奥さんだと思う。

 50代かな?灰味がかったグリーンの瞳が煌めいて、綺麗な栗茶色の髪をフワリとした感じで、上品に頭の上で纏めている。


 見るからに品の良い優しい奥様って感じだ。



 馬車を止めて降りる時にクラウドさんが、コチラの手を取って降りる手助けをしてくれた。

 をを!クラウドさんマジ紳士!!

 自分まるで淑女ちっく!

 わはは!ちょとその気になったので上品に振る舞う様にしたよ!


 奥さんが「どなた?」と聞いて来たので淑女らしく挨拶しようと思った。


 つっても、スカート摘み上げるみたいな洋風の挨拶は知らないので、日本人のビジネスマナーにならって……。

 姿勢を正し手を体の前で重ね、目を見つめながら自己紹介をして丁寧にお辞儀をする。


 どうです?綺麗な姿勢だったと思うんですけど?


 奥さんも優しく自己紹介を返してくれた。


「初めまして、私はハワードの妻ソニア・クラウドです。宜しくねスージィちゃん。可愛いらしいお嬢ちゃんね」


 めっちゃ柔らかい笑顔が返ってきましたーーーーーー!なんかスンゴイ嬉しくなった!


 ン?アレ?可愛いらしいお嬢ちゃん?やっぱり子ども扱い?


 て言うかさ!今まで比較相手居なかったから気付かなかったけど……。自分身長低くね?

 クラウドさんが、メッチャでかいのは分るんだけど、……自分の目線、ソニアさんの胸の辺りなんですけど?

 身長差10センチ以上あるんじゃね?


 ニコニコと、淑女らしく微笑みながらそんな事考えていたら、クラウドさんの『命の恩人』って言葉で、ソニアさんが心配した様子でコチラへ駆け寄ってきた。


 ああぁもう、大丈夫ですのにぃ!

 ……と更に笑顔を深めようと思ってた時、そいつは突然やって来た!



 グるギュるるるるるるるるるるるるる……。



 ぐはぁぁっっ!!(吐血)


 コ、コイツ(胃袋)は!一度ならず二度までも主を裏切るのかぁぁっっ!?


 確かに、確かにさっ!この敷地入ってからさっ!スッゴイ良い香り漂って来ててさっ!口の中なんか、メッチャ洪水状態になりそうなの堪えてたけどさっ!


 さっきといい、今といい!何?このタイミング!?

 何?このでっかい音!?


 折角、淑女っぽく折り目正しく振舞ってたのに……。も!台っ無しぃぃっ!!


 しかも!会ったばかりの、本物の淑女なソニアさんの前で鳴らすとか、被った皮が一瞬で剥げたわよ!!!

 何この羞恥プレイ!?顔が上げられないっすよぉぉ!うひ~~~~ん!!!



 と、羞恥に震えてたら、隣でモノ凄い勢いで吹出す人が居た!!!


 うぁぁぁ……し、信じらんない!信じらんないよクラウドさん!

 貴方、私がお腹減ってるの知ってましたよね!?

 それなのに、それなのに!そんな風に笑うなんてェェ!!!

 ……あ、なんか泣きそう。

 泣くよ?泣きますからね!!



 プルプルしてたらソニアさんが寄って来て、顔を拭いてくれた。

 ……あ、綺麗なエプロンが汚れる……。

 泣くき出す前に、エプロンで拭い取ってくれたのかな?


 ソニアさんホントに優しい人だよぉぉ~~~!



 で、結局お風呂へ入れて貰える事になった。

 お風呂!

 コッチ来てから、水浴びはしてたけどお風呂は初めてだ!ちょと嬉しくなってきた。


 お風呂場に着くと、エルローズさんって方が浴槽の準備をしてくれてた。


 エルローズさんは、スリムなソニアさんと比べると、シッカリとした体型の女性だった。

 太ってるって云うんじゃなくて、何て言うか『肝っ玉母さん』的な?力強さを感じさせる方だ。

 身長はソニアさんよりちょっと高い?


 白髪の混じった黒髪を、ビシッとひっ詰めにして、頭の上で団子を作ってる。

 歳はソニアさんより上かな?60代ではないよね?


 オレをエルローズさんに預けると、ソニアさんは着替え取って来ると言って、お風呂場を離れた。



 エルローズさんは腰に手を当てて、オレを一回上から下までササッと眺めた後、フムッと鼻息を飛ばしてから バンザイして と言われたので両腕を上げたら……。


 パパパーーーッ!と一気に裸に剥かれた!

 ビックリしたり恥ずかしがったりする間もなく、そのまま抱えられて湯船に入れられてしまった。


 湯船にお湯はまだ半分くらいしか入ってなかったけど、お腹まで浸かって半身浴的?でちょと気持ち良い。

 その状態のまま、頭からシャワーでお湯をかけられた。

 アププってなったけど、暖かいシャワーはやっぱり気持ち良くて あ゛~~~~ ってな声が出てしまった。


 なんか、エルローズさんがクスッとした気がする……。


 その後、シャンプーで頭をガシガシ洗われ、でっかいスポンジで全身隈なく洗われた。

 それこそ余す事無く、全部丸っと見られて洗われてしまった。


 なのに!恥じ入ってるのはコッチだけ?!

 エルローズさんは全く気にした様子も無い。

 何だか、この方こう云う事(子供をお風呂に入れる的な?)に凄く慣れてる感じ。

 ひょっとして、この人からもお子ちゃま認定されてゆ?



 身体の泡を流し落としていると、ソニアさんが着替えを持って戻って来た。


「エルローズ、ありがとう。着替えは私がするから、貴女は食事の準備をお願い」


 ソニアさんが、持ってきたタオルで身体を包んでくれながら、エルローズさんに指示を出していた。

 エルローズさんは一礼すると、直ぐ様浴室から出て行った。



 身体にタオルを巻いて貰ったら、ソニアさんが何かの道具を持ってきた。

 ドライヤーっぽいなーと思ってたら、ホントにドライヤーだった!


 粗方髪が乾いたところで、ソニアさんが持って来てくれた下着を着け始める。

 をを!ピンクな縞パンツ! 


 でも人に見られながらパンツ履くのって、凄い恥ずかしいね!

 ブラはスポーツタイプ?シャツみたいに伸びてジャストフィットした。


「あら?丁度ピッタリだったみたいね。見た感じ合うとは思ったのだけれど、良かったわ」


 そう言って、ソニアさんはにこやかに見守っている。



 服は浅葱色したワンピースだった。

 スカートの方から、ズポっと被って着させて貰った。

 襟の無い丸首で、首周りに白いラインが入ってる。

 喉元が開いているので、首を通した後、そこに通っている紐を結んで蝶々結びをつくってくれた。


 その後、鏡の前で髪にブラッシングをしてくれた。

 そういえば、ブラッシングって初めての経験だな。

 気持ち良いんだけど、何だか照れ臭くって、鏡に映った自分を見る事が出来なかった。


 ソニアさんは始終ご機嫌な様子だった。

 嬉しそうにブラッシングしているのだが、その穏やかな視線が尚の事、気恥ずかしい。


 ブラッシングした後、髪を後ろで綺麗な水色をした紐で纏めてくれた。




「おまち・・させ・・・した・・・です・・・すみま・・・せん・・・、です」


 ソニアさんに食堂まで連れて来て貰って、入口でクラウドさんにお待たせした事をお詫びした。

 クラウドさんは驚いた様に此方を見ている。


 そりゃね、磨き上げて頂きましたからね!見違えた!って顔なのは分りますが、そんなに見られると照れ臭くって敵わないので勘弁してください!


 エルローズさんに席まで案内して貰ったら、目の前には天国が広がっていた!

 鳥の香ばしい匂いや、鼻をくすぐる香辛料の香り!


 危ない!!口水警報です!付近の方は十分に警戒し、決して口元には近づかないで下さい!!


 あ、失礼しました。身体が前のめりになってましたね……。


 ハワードさんから、食べて良いとのお許しが出た。

 エルローズさんが鳥を切り分けて、目の前のお皿に置いてくれる。


 鳥の身を切り開いた事で、中に入ってた野菜やハーブの香りが一気に溢れて来た!

 切り分けてくれた鳥肉と一緒に付いて来た香りが、鼻腔に直接攻撃をしかける。


 眩暈がした。きっと傍からは、目がグルグルと渦を巻いているのを確認出来たに違いない。


 一口大に切って、フォークに刺した切り身を目の前へ持ってくる。

 良いんですよね食べて?

 やっぱりダメとか言いませんよね?

 ウッソぴょ~~~ん!とか言いだしませんよね!!?


 クラウドさんを見る。

 笑顔で大きく頷いてくれた。

 よし!食うよ!!パクリっと頬張る。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うンンンンまぁぁぁぁっっっ!!!!

 ンなんってジューーシィーーッ!ウマッ!ウままっ!!ンまいよぉ~~~~!!

 肉汁がジュワワワ~~~て!舌ベラの奥の両側がキュゥゥゥッッとなたぁーー!

 旨味が!ウ!マ!ミ!がぁっ!!


 あぁ!コノお芋のオムレツみたいのもンまいぃ~~っ!

 何コノぜつみょーーな塩加減ンーー!!

 あうぁぁ!味があるってこんなに幸せなのねンん!!!


 手が!口が!止まんないぃ~~~っ!

 えぐっ……美味しすぐて!はうぐうっ……。

 勝手に……はぐっ泣けて……、くりゅぅ~~……っえぐっ……おいし……よぉ~~~~……!!


 兎に角ひたすら食べた!エグエグと泣きながら……。

 こんな美味しいモノ、生まれて初めて食べたと思った。

 感動が幸せで勝手に泣けてしまうのですぅ!!


 ソニアさんとエルローズさんが、二人で食事の面倒を見てくれた。

 こりでは幼児ですがなっ!と一人ツッコミ。

 でもナンカ嬉しくって、されるに任せてしまった。


 涙やら食べカスやらを拭ってくれる、ソニアさんのおかあさんちからが半端なかった。

 これから心の中でこっそり、ソニアママと呼ばせて貰いますっ!




 食後に、エルローズさんが淹れてくれたお茶も、すんごい美味しかったぁ……。


 そうだよねぇ、この世にはお茶ってものもあったんだよねぇ?今の今まで忘れてましたワ。

 食後の美味しいお茶っていうモノは、こんなにも人を幸せにしてくれるものなんだと、初めて知りました。


 幸せの余韻に浸っている時に、クラウドさんが今日あった事をソニアさんに伝えていた。


 狼を断ち切った事を聞いたソニアさんとエルローズさんは、目を丸くして驚いてた。

 うーーん、クラウドさんの剣で斬っただけなんだけどなぁ……。

 で、クラウドさんはこの後、オレをどこかへ連れて行くつもりらしい……神殿?

 ソニアさん、エルローズさんとはもうお別れなのかな?折角お知り合いに成れたのにな……え?直ぐ戻って来るって?なんだ、そうなんだ……へへ。


 うぇ?しか?鹿肉のステーキとかっすかぁ??うおぉ!あがるぅぅ……!

 う゛!ソニアさんに食いしん坊言われたぁ……。

 ぐっ、エルローズさんの目には、育ちざかりの子供に見えている事が確定したっ!


 あぁ、それでもこうやって皆で食事を一緒にするのって、良いもんなんだね。

 美味しいだけじゃなくて、楽しいよね。


 今から夕食が楽しみだねぇ、え?いや、鹿も楽しみですけどさ!

 只こう云うのもさ……、なんか良いなって思う訳ですよ……うん。

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次回「スージィ真実を知る」

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