幕間3 魔抜き
チームアリアが、先日のハワードパパ救出の際に見つけた豚の巣の調査に向かうと云うので、一緒に行かせて貰う事になった。
恐らくあの巣に居たオークは全部、アンデッドに取り込まれオークゾンビと化していたのだろうから、巣としての脅威は無い筈だが、犠牲者が居ないかの確認はしないとならないそうだ。
尤もわたしは、奴等が一匹でも生き残っていたら、巣の跡ごと焼き払う所存ではあるけどね!フッフッフッ!
そんなわたしの思惑を知ってか知らずか、アリアがわたしの肩をガシっと掴み いいか!余計な事はするなよ?! と何度も念を押して来た。
わかってますわよ!わたしだってね、そんな無秩序に破壊活動をするわけ無いじゃにゃいのよさ!
大丈夫だと言うわたしに、アリアとイルタさんが幾分ジト目で見て来た様な気がするが、きっと気のせいだ!
そして今回も、何故かアンナメリーは一緒だ。
アンナメリーは、わたしの行くところは何処であろうと一緒するのが自分の務めだ!と仰る。
まあ、この前のでアンナメリーの実力は分かってたから、同行する事に心配はしてないんだけどね。
出発の時、ミアも付いて来ようとしてたけど流石に許可が下りる訳も無く、皆にホールドされていた。
その時のダーナのそれはホールドでは無く、掴んでいたのだと思うんだ!
敢えて言わせて頂こう……。ソレはわたしのだっ!!くわわっっ!
でも、ホールドされているミアと、アンナメリーの視線が中空で交わる時、火花を散らせていた気がしたけど何でだろう?
そのあとのミアの悔しそうな声と、それと対照的なアンナメリーの
まぁ別に、長旅をする訳では無いんだけどね!
大体にしてチームランク『A』の『チームアリア』だよ?アリア本人のグレードも、来月で
何の心配もありゃしないのよ!
場所は村からおよそ25~6キロ地点だ。
前回は、馬で一気に走り抜けた距離だけど、今回は徒歩での移動になる。
大所帯の騎士団が何日もかけた道のりだけど、森を知り尽くしたアムカムの民ならば、徒歩でも一日とは掛からない。
侵食の激しい森とは言え、騎士団が往復した事で道も十分出来上がっているしね。
途中それなりに魔獣はでたけど、チームアリアは危なげなくそれ等を屠って進んで行った。
そしてソレは、目的地に到着するちょっと前に現れた。
まあ、気配は分かっていたけどねー。
この面子が遅れを取るとは思えなかったし、何よりアリアがいち早く気付いて前に出て構えを取った。
「ぅごぉっ!!」
瞬間、アリアが喉の奥から絞り出す様な呻きを漏らし、ガゴォォンと云う、銅羅でも打ち鳴らした様な音を辺りに響き渡らせ、前面で二つ重ねた
アリアが踏み止まりながら直撃を逸らせたその白い塊は、そのまま木々の間へ弾かれ姿を消した。
「気を付けろ!スナッフラビットだ!!」
アリアの叫びに全員その場で身構えた。
イルタさんは魔法を唱え、魔力のシールドを展開し、ケティさんが呼び出した精霊で植物を成長させ、スナッフラビットの進路を塞ぐ。
しかしラビットは、その持ち前の素早さで障害をかいく潜り、チームの皆に跳び迫る。
うーーーん。前に遭遇した時は、そこまで脅威は感じなかったんだけどなーー。
アリア達は結構焦りを感じてるっぽい?
まあ確かにコイツにクリティカル受けたら、一瞬で首が飛ばされそうなおっかなさは感じるよね。
そしてその白い毛玉が猛烈な勢いでケティさんの障害物を掠め、アンナメリーのワイヤーの結界を避け、アリア達の死角を突き、真っ直ぐ突っ込んで来る!
「お嬢様っ?!!」
チームランクAの包囲網を掻い潜り、空間を駆け抜ける白い悪魔の様な奴を視野に捉え、アンナメリーが声を上げた。
そう、奴はわたしに向かって来たのだ。
10メートルはあった距離を、地を蹴り一瞬で詰めて来た。
ドドンッ!と砲撃の様な音を響かせわたしの目前に迫る白い毛玉!そしてわたしは……………。
ムンズとソイツの首根っこを掴んでやった。
ピギューーッッ!!とか押し潰された様なおかしな声出したのは、飛んで来た自分の勢いで首の皮が引っ張られて喉でも締まっちゃったからかな?
そのまま手の中でジタバタ騒ぐので、額にデコピンかましてソッコー止めを刺した。
こんな危険生物は、速やかに駆除しないと危なくてしょうが無いからね!ウン!
「ア、アレを掴んだだと……?」
「お嬢さん、アレが見えてるのね……」
「指先一つで……止めですかぁ?」
「……驚愕」
「流石ですお嬢様!サスガです!!」
なんだか、半ば呆れられている様な気もするが、この際置いておこう……。
やっぱりコイツは、この辺でも厄介な魔獣の一つらしい。
戦闘力そのものは高くないが、とにかく素早くて捉えるのが難しい。
一撃は重いけど、この辺まで来れる団位なら耐えられない事は無い。
警戒すべきはその鋭い牙で、油断してると首を狩られる事もある……。と云う、思っていた通りのヤツだった!
でも厄介な相手ではあるけれど、スタミナはそれ程ないらしく、暫く防衛に徹していればスタミナ切れで動きが鈍るので、ソコを狩るのがセオリーなのだそうだ。
それなのに、動きが鈍る前にわたしが掴み獲っちゃったから、呆れの波動が漂って来ているのだろうか?
「ブレッドビートルが獲れるんだから当たり前か」ってなアリアの呟きが聞こえた気がしたよ……。
首根っこを掴んだソイツを見ていると、去年森の中で一人彷徨ってい居た時の事を思い出す。
あの時はサバイバルスキルゼロで、こんなのの解体も出来なかったんだよねー。
もっとも解体できたとしても、魔獣は瘴気臭くって食べられないって話しだし。
ぁう、またあの時の腐ったみたいな肉の味思い出しそう……、ぅぅう、せめて『魔抜き』ってのが出来てれば違っただろうに……。
ん?『魔抜き』か……。
「……『魔抜き』ってどうやる、の?」
「ま、魔抜きでございますか?」
おもむろにアンナメリーに聞いてみた。
どうやらアンナメリーには出来ないらしい。
「そりゃイルタの領分だな」とアリアが教えてくれた。
「お嬢さん『魔抜き』を覚えたいの?」
「……出来る、なら」
「『魔抜き』はね、魔力で瘴気を洗い流す技術なの。言って見れば浄化の一つね」
だからコレは聖位職の、無の属性を持つ者では無いと出来ないのだそうだ。
此れは昔、まだアムカムが貧しく、食べる物にも困っていた時代。狩り取った魔獣をなんとか食料に出来ないかと、必要に迫られ作られた技術なのだと仰った。
「魔力は血の流れに沿って宿り流れるわ。血抜きと一緒にやるのが効果的よ」
イルタさんに御指導いただき、スナッフラビットを木に吊るして、解体しながら魔抜きのやり方を教わった。
吊るしたラビットを血抜きをして、抜き出す血と一緒に魔力を流し通して、瘴気を洗い流すのだそうだ。「水に聖気を籠めて、瘴気を押し流すようにすると効率が良い」とも教わった。
「魔力を細胞全てに満たす様に、ゆっくりと今ある汚れを押し出す様にイメージして……。元からあった瘴気を、お嬢さんの魔力に置き換えるの」
一気に魔力を流し込むと、ラビットの身体そのものが壊れそうな感じがするので、成るべくゆっくり丁寧に。
これはあれだね、試練の時にトレーニングしていた、枝に『氣』を通す要領に似てるかも。
対象物に、繊細に『氣』や『魔力』を流し込むやり方がそれなりに判っていたから、意外とスムーズに出来ている。
イルタさんにも、初めてとは思えない程手際が良い。と褒められた!
アンナメリーが「流石です!!」と何故かテンションが上がっている。
魔抜きの終わったラビットの肉を試食しようと云う事になり、アリア達が石を積み上げた簡単な竈を用意してくれた。
普通の兎肉なら何日か寝かせないと、そんな美味しくないんだけど、今回は食べられるかどうかのお試しだからね。
とりあえず肉そのものには、あの瘴気独特の腐った様な嫌な臭いは無い。
イルタさんも、此れなら大丈夫だと仰ってくれた。
軽く全体を塩で揉み、保険と云う訳では無いけど、持っていたバジルも使い軽く香り付けもした。
アンナメリーが手伝おうと手を伸ばして来た所を、ミリーさんに羽交い絞めにされ止められている。
ウン、そのまま抑えていて下さいね、危険なので!
ラビットは丸焼きにしてるわけだけど、火が通るにつれ芳ばしい香りが辺りに漂い始める。
前に魔獣を焼いた時は、この時点で既に涙目になっていた事を思うと、これは成功と言えるのではないかしらん?
だって!こんなにも食欲がそそられるんですモン!!
良い感じに焼き上がったので、皆さんに切り分けて試食をして貰う。
ちゃんと上手く『魔抜き』が出来ていると良いんだけど……。
嘗て、瘴気臭い魔獣肉を食した辛い経験がある身としては、上手く出来ていなかったらと思うと心配で堪らない。
でも皆さん嫌がる素振りも見せず、嬉しそうに受け取ってくれた。
まずは『魔抜き』をした当人であり、調理も担当した責任から、自分で一口目を齧る。
…………うん、臭みは無い。
それなりにジューシーだし、塩加減も上々だ。強いて言えば旨味が少し物足りない。
まあ、寝かせて熟成させる訳にもいかないから、しょうが無いんだけど……。
でも十分食べられる!これは及第点かな?
アリア達も、わたしが一口食べた後、皆で肉に噛り付き美味い美味いと食べてくれている。
ミリーさんは「塩加減が絶妙すぎますーーー!」と賞賛して下さるし、ケティさんも、無言でアバラ周りの肉にしゃぶり付いている。
アンナメリーも頷きながらいつもの様に「流石でございます!」と言いながら噛り付いていた。
「ここまで綺麗に『魔抜き』が出来る人はまず居ないわ。流石ね、お嬢さん」
本来は『魔抜き』をしても、術者の力量にも依るけれど、どうしても瘴気臭さは残る物なので、本当に食料の無い時の代用にしかならないのだと言う。
食糧事情に困っていない現代は、長期間イロシオに遠征する以外で、『魔抜き』までして無理して魔獣肉を食べる人など居ないそうだ。
「やっぱりスージィ!アタシのとこにお嫁においで!」
隣に座るアリアが、わたしの肩をガシっと掴んで抱き寄せ、そのまま顔を覗きこみ、又してもそんな事をのたまって来た!
あふン!な、なに?!その男前なセリフの吐き方はーー!?思わず頬が熱くなるじゃにゃい!!
ン?今一瞬、アンナメリーのメガネが剣呑な光を放った気がした……?
「これだけ濃密にお嬢さんの魔力が籠められてると、これはもうお嬢さんの魔力を分けて貰ってるのと同じね」
イルタさんがそんな事を仰った。
「お嬢さんを、美味しく頂いちゃっている、と云う事ね!うふ♪」
悪戯っぽくイルタさんが放った台詞で、何故かその場の空気が固まった。
ほう?と呟き、アリアがわたしの目を見ながらニヤリと口元を上げ兎肉に噛り付く。
アンナメリーの呼吸が荒い?なに?どしたの?
ミリーさんは、「あわあわあわ」とか言いながらやっぱり肉を小さく齧ってる。
ケティさんは、「これは……売れる!!」とか言いながら肉を仕舞い込んでいた!一体何処に売るの?!!
イルタさんは、我関せずな感じでニコニコと上品に肉を食されている……。
なんだ?このカオス。
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次回「温泉へ行こう!」
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