24話博士達の呼び出し

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「オレ達の様な『渡航者トラベラー』……いや、『遭難者サバイバー』は今の所確認されていない」

「そっか……、それはそれで安心材料……なのかな?」

「どうかな?だが記録では『遭難者サバイバー』が現れた後、10年以内に大きな揺り戻しとも言うべきモノは起きている」

「でも、わたしが居た時にも『溢れ』は起きたよね?」

「あの程度の『溢れ』はそんなに珍しいものじゃない。数年に一度は起きているさ」

「そっか……」

「『大災禍グレートディザスター』とも言うべき巨大な災害級の溢れは、およそ200年に一度は起きている。その前兆とも言えるのが、オレ達の様な『遭難者サバイバー』の出現なんだ」

「うん……、まだ気は抜けないって事だね」

「大丈夫だ、その為の準備もしてる。スズは自分のやりたい事をしていれば良い」

「ありがとう、トール君……。でも、そのときには、必ず力を貸すから!」

「ああ、期待してるさ」

「ふふ……、でもさ、『遭難者サバイバー』なんて呼び名、トール君が考えたの?うふ、なんかトール君らしいよね?ちゅーにっぽい?ふふ」

「ちゅうに?!……だ、だって、それが一番シックリくるし!大体!あんなトコで、何日もサバイバル生活出来るヤツなんて、そう呼ぶ以外無いじゃん!」

「うふふふ。そうかもね!でも、トール君がサバイバルスキル全く無かったのには、ちょっと驚いたよ?」

「しょ、しょうがないだろ!普通、都会に住んでりゃ、生き物捌くなんて出来るワケ無いじゃん!驚いたのはコッチだったよ!何でスズがあんなにサバイバル強いんだよ?!」

「うん、まぁ、お兄ちゃんに色々教わってたし……?後は師範の仕込み……かなぁ」

「師範って、スズが通ってた道場の?何だっけ?合気道とかだっけ?」

「うん、古武術かな?親類だから、小ちゃい時から通ってたしね」

「ふ〜ん……でも、何で古武術でサバイバルスキル身に付くんだ?」

「えーとね……、なんて言うかね、うちの道場、何日か独りで生きて来い!って身一つで『御山』に放り込まれるんだよね……」

「なんだそれ?!まぢかっ?!でも……それって、アムカムのアレに似てないか?」

「あははは!確かに似てるかも!……でも、ウチの場合は一回二回じゃ済まないんだけどね……ぁはは」

「そうなのか?うわぁ……、スズの強さの理由、分かった気がするよ」

「……強いとかさ、女の子に対して言うのはどうかと思うよ?」

「……あ、いや、でも実際、強いしさ……」

「まあいいわ……、兎に角!何かあったらちゃんと呼んでね!」

「……うん、よろしく頼む。……その、ゴメン」

「ふふ、もうイイよ。トール君だし!」

「……う、だからゴメン」

「そう言えばトール君!アレ作ってるんでしょ?」

「え?ああ、何とかすこしは形に……なって来たかな?」

「ホント?凄いじゃん!」

「グラスフットのおかげで、大豆も小麦の栽培も出来る様になったしな。スズには感謝してるよ」

「そっかぁ、それは何よりだよ、へへ」

「豚骨もボアで代用できたし……あとは」

「まだ何か足りないの?」

「出汁がね……、鰹節なんかは流石に手に入れられなくてさ」

「ああ、それは流石に無理っぽいかな?」

「でも、この前オセアノスで温泉掘り当てたから……」

「は?温泉?」

「いや、何か地形的に温泉出る様な気がしたんだよ」

「それで掘ったら出たって事?」

「……うん。だから旅館ぽい岩風呂作ってみた」

「あははは!何やってんの?トール君ってば」

「でも、そのおかげで何かやたら喜ばれてさ。色々協力してくれる事になったから、そのうち海鮮物も何とかなりそうなんだ」

「へぇ!凄いじゃん!良かったねトール君!じゃあその内、本格的に出汁とか作れるようになったり?」

「うん、上手く出来ると良いな、と思ってる」

「『ネギチャーシュー』食べたがってたモンね!ふふ」

「うん、皆のおかげで何とかなるかもしれない」

「そっかぁ……、そだね。いつか食べられると良いね」

「うん、その時には……」

「いつか……いつか、わたしにも食べさせてね。温泉もね!」

「そうだな、いつか……案内するよ」

「うん、いつか……」

「いつか……」



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「ふむ、霊質記録庫エーテルアーカイブが系統化される以前に最も多く使われていたのが精霊魔法スピリットマジックだった訳だがね。しかしそれでも直接魔法ダイレクトマジックを使う者は少なからず存在したんだね。

 だけど更にそれ以前は儀式魔法リチュアルマジックが一般的だったんだね。儀式魔法リチュアルマジックは魔力が殆ど無い者も使用する事が可能だった為嘗ては最も広く使われた魔法様式でもあったんだね。

 しかし現代魔法に比べ儀式の為に用意する触媒や事前準備等の多くの手間が取られる上で得られる効果が期待ほど大きく無かったんだね。なので現代では使用する者は余り居なくなってしまったんだね。まあゼロでは無いんだがね。

 だがしかし先人達が遺したその大系は現代魔法を学ぶ我々にも大いに参考になる物ばかりなんだね。だから興味ある者は積極的に学んで欲しいんだね」


「ふむ、話を戻そうかね。直接魔法ダイレクトマジックに於いても精霊魔法スピリットマジックに於いても使用者にとって忘れてはならない物が『属性』なのだね。

 これは使用者其々に依って持つ傾向が違う事は今此処に居る君達ならば実感として理解していると思うがね。属性は大きく分けて『地』『水』『風』『火』と4つに大別されるのは知ってると思うがね。所謂四大属性と言う物だね。これに『無』と呼ばれる物を足して五大元素とも称されるワケだね。

 更にこの四大属性を組み合わせて表わされる『木』『金』『空』『砂』『霧』『星』の上位六属性と全てから隠される『陰』と呼ばれる属性があるんだね。これら全十二属性が魔法発動の根幹にある事を覚えておいて欲しいんだね」


「ふむ、そして属性の本質は波長なのだね。君達が魔法を使用する時エーテル帯にある種の波が伝播するんだね。これが魔力波またはエーテル波と呼ばれているものだね。

 この波は発生させた個人個人でその波長が違うワケだね。その君達の発生させた波長に近い精霊帯の属性が同調し諸君らは力を得ているのだね。別に個人的に気に入られて精霊が力を貸している訳では無いのだけどその辺の事を理解出来ない者も少なからず居るのが今の社会と言う物らしいね」


 今週から始まった、『魔導基礎』を教えて下さっているセイワシ・メルチオと名乗られた、このやたら早口で喋る金髪エルフの先生は、確かどこかで見た事ある気がするのは気のせいだろか?

 この先生、早口がもの凄いので、皆それに着いて行くのに必死だ。


「ふむ、結局のところ突き詰めれば魔法精度を上げる為の最重要要素は術者のイメージ力と云う事になるんだね。どれだけハッキリシッカリ具体的なイメージを持って発動させられるかそして如何にその結果を頭の中で描き上げる事が出来るかにかかっている訳だね。

 心象をより明確に具象化できるイマジネーションとそれを形作り貫く意思の力が必要なんだね。強く濁りのない意志の力はそれだけで己を変え世界を創り宇宙さえも構築できる事を覚えておくと良いね」


 やはり気のせいでなければ、この先生はあの時のお三方のお一人だと思う。

 講義の合間に時々目が合うと、『分かっているね』と言いたげにニッコリと微笑まれるのが何ともコワイのよ。


 その後にあった魔導鉱石学のモリス・バルタサルと仰るドワーフの先生も、やっぱりバッチリ見覚えがあった。

 更にその後の魔法生物学のノソリ・カスバル先生の見事な反sy……いえ、失礼いたしました……も、当然の様に見た覚えがある。


 間違いなくこの方達は、前にイロシオ遠征に同行された専門家の三博士方だ。

 だってこんな濃い人達、そうそう居る訳ないジャン?!間違え様が無いと思うんだよね!

 なんと言っても、2年前のあの時、村に戻ったあの日、三博士に囲まれ激しく詰問されたのは鮮烈な思い出なのだ。


 あの回復魔法はどうやって使った?どういう術式か?!一体どこで身に付けた?!!

 あの馬に装備させていた鎧の素材は何だ?どこで手に入れた?!どうやって加工した?!!

 あの召喚した生物はなんだ?どんな存在か?!どうやったら呼び出せる?!!


 三人に肩を掴まれ、ガクガクと揺さぶられたのをよく覚えている。

 あの時は、大隊長のマイヤーさんが慌てて間に入り、取りなしてくれたのだ。

 その後、騎士団が村から引き上げるまで、御三方とは顔を合わせない様、コソコソして居たのだけれど……。

 まさか、こんな所で再会するなど想定外の話だ。





 そして、やはりと言うか恐れていた通り、授業が終わった後、三人の先生方に呼び出しを受けた。

 お昼休みに、魔法学科の奥にある、魔導研究棟へ出頭しろと言うのだ。

 最早逃げること叶わぬこの身としては、猛烈に嫌な予感しかしない……。


 だか、魔法学科の研究棟!

 魔法を教える学園に在って、なんと魅力的な響きを持つ建物なのでしょうか?!

 思わず溢れるロマンを抑えきれず、吹き上がるワクワクが、嫌な予感さえも押し戻してしまいます!


 まあ、それでも!待っておられるのはあの三博士!

 怪しさと胡散臭さまで絡みまくって来るのは、最早どうしようもないのではないでしょうか?

 



 そして午前の授業が終わり、お昼時を頂きに大食堂へ向かえば、既に食事を終えたコリンとダーナが、寛いだ様子で食後のお茶をしていた。

 いつもは食事が終わると直ぐに席を立ち、「槍の立ち合いだー」とか言いながら、嬉しそうにどっかに飛んで行っていたダーナが、何故か今日はゆっくりしている。「仕事じゃしょーがないけどさ」とか言いながら、妙にムスッとしている感じもする。コリンが何やら慰めている様だけど、どうしたんだろ?


 お昼を頂いた後は、ビビ達に見送られ、わたしは一人で校舎の北側にある魔法学科へと向かった。

 ビビは「気を付けて行ってらっしゃい」と、彼女としては珍しく、何とも気遣わし気に言って来た。ふむ、ビビなりに心配してくれているんだね。友達の心遣いってありがたいなぁと思いながら、わたしは食堂を出て魔法学科へと足を向けたのだ。


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次回「博士と助手とボディーガード」

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