第47話 祭り 前

 そして、約束の日時。なのだが……


「遅い!!」


 集合場所に集まっているのは、凪、七瀬、日向の三人。そこに和佐の姿は無い。

 端末の時間表示へと視線を向けると、とうに約束の時間は過ぎている。


「何かあったんでしょうか?」

「単にバックれただけ、という可能性もあるわね」

「否定出来ないのが辛いところですね……」

「こうなったら……」


 不敵な笑みを浮かべる凪の手には端末が握られていた。画面上には、「生意気な後輩」の文字が浮かび上がっている。


「何するんですか……」

「んふふ……、身勝手な理由で捨てられた元カノを装って電話して、それを聞いてる周りの人達から変な目で見られるがいいわ!!」

「先輩って分かった途端に切られそう……」

「私はそもそも電源が切られているとかで繋がらない方に賭けましょう」

「あんた達! 少しは先輩の肩持ったり応援とかしなさいよ!!」

「だって……ねぇ?」

「ねぇ?」

「ねぇ? じゃないわよ!! 全くもう……」


 通話の表示に触れると、コール音が端末から聞こえ出す。

 一回、二回、三回目……、一向に出る気配が無い。まさかの無視か、と思った頃、ようやく通話音が鳴り、画面の向こうから和佐の声が聞こえてきた。


『……何?』

「ねぇ! 考え直して!! 私はあなた無しじゃ生きられ……、あれ? なんか声近くない?」

「そりゃそうだ。あんたの真後ろにいるからな」

「うぎゃあ!?」


 おおよそ年頃の少女とは思えない声を出しながら飛び退いた凪の後ろには、いつの間にやら和佐がいた。ご丁寧に、現在進行形でかかってきている先輩からの通話画面を見せつけるようにしながら。


「あははは! 凪先輩、うぎゃあ! って、うぎゃあ! って……!」

「く、くくく……」

「笑うな!!」

「何やってんだあんたら……」


 未だに繋がり続けていた通話を切った和佐は、ツボに入ったのだろう七瀬と日向、真っ赤な顔で二人に怒りを向ける凪に呆れていた。


「元はと言えば、あんたが遅れるからでしょうが!!」

「仕方ないだろ、家の人間に捕まってたんだから……。祭りに行くなら浴衣だー、なんて言って俺に浴衣を着せようと追い回すんだぞ? 撒くのにどれだけかかったか……」

「いいじゃない、浴衣ぐらい。むしろ何で着てこなかったのよ」

「女物だぞ」

「ぶっ……!! お、女物ってあんた……、流石に女に間違われる程の女顔だからって……!!」

「やっぱりその口、縫い合わすか……」


 和佐の言葉に吹き出すのを堪えきれなかった凪。そんな先輩の姿を、和佐は非常に苦々しげな表情で睨みつけるも、腹を抱えて笑っている凪に一切視界に入っていない。


「いいじゃないですか、女性物でも。和佐君なら似合いますよ」

「似合ってどうする!!」

「支部長の浴衣とかじゃだめだったんですか?」

「まず体型が合わん。20センチくらい差があるんだぞ」

「和佐君、同年代の中では低い方ですからね」

「最低でもあと10センチは欲しいんだけどな……」

「強く生きろ、少年……」

「やかましいわ」


 肩に手を置いて、哀れんだ目で見てくる凪を一蹴すると、彼女達に背を向ける。


「ほら、何してんだ、さっさと行くぞ」


 そう言うだけ言うと、先に歩いて行ってしまう。その後ろ姿を見ながら、待ちぼうけと置いてきぼりを食らった三人は、顔を見合わせながら小さく笑っていた。

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