第33話 パラダイス 3

「いやまぁ、予想はしてたさ。してたけども……、ここまでか?」


 三人仲良くお使いをこなす為に隣――とはいえ、多少距離はあるが――の海水浴場に向かったものの、そこでひしめいていた人の量に、思わず和沙がぼやく。


「もうすぐ八月ですからね……。こうもなりますよ」

「うわー、人いっぱい」

「向こうがプライドビーチだから人がいないだけで、普段はこんなにいるんですね」

「どこもかしこも休みなんだろ。全く、何を好き好んでこんなクソ暑い中、海になんぞ来るんだ。これだからパリピは……」

「ぱり……?」

「何でもない、気にすんな」


 心底嫌そうな顔をしながら、和佐は少しでも人の少なそうな道を選び、目的の場所へと向かう。


「和佐先輩、人が……」

「あーれー」

「あぁ、もう……」


 和佐が痺れを切らし、二人の手を取って歩き出す。この一瞬の事に、二人は驚いたが、お互い顔を見合い、小さく笑うと手を引かれるがままに付いていく。

 そうして歩く事十分程、ようやくドリンクが売られている屋台の前まで来た和佐は、人の多さに当てられたのか、息も絶え絶えになっていた。


「やっと着いた……」

「けど、帰りもあの中を通らないといけないんですよ?」

「あぁ……、もう嫌だ……」


 と、そこでまだ手を繋いでいた事に気づいた和佐は、二人に手を離すように促すが……。


「まーだ♪」

「もうちょっと、このままで……」

「?? 何なんだ……」


 両サイドの二人に大きく手を振られ、されるがままになっている和佐は、妹の面倒を見る兄のようだ。……いや、その見た目を考慮すると姉だろうか。


「おや、随分と仲の良さそうな姉妹だことで」


 屋台の男性が顔を綻ばせながら、和佐達に声をかける。


「おっちゃん、ジュース!!」

「おっちゃんじゃなくてお兄さんと呼びな!!」

「おじさん、これと、これと、これと……」

「あぁ、もうおじさんでいいよ」


 この双子、意外と図太い神経をしている。仍美が次々と商品を選んでいく中、特に何もする事のない和佐は、周囲を見回して時間を潰している。というより、未だ二人が手を離してくれないので、手持ち無沙汰になるしかないのだ。

 ようやく解放されたのは、仍美が会計の為に財布を開いた時だった。しかし、商品を風美に引ったくられ、帰ろうとした時には、再び先ほどと同じように手を取られる。


「……はっ! そういえば、あのおっさん、俺達の事を姉妹とか言ってなかったか!?」

「そういえば……」

「言ってたねー」

「ちょっと言い返してくる」

「いいじゃないですか、別に不利益を被ったわけじゃないんですから」

「尊厳の問題だ! それに、水着姿なのに何故間違えた!?」

「あの位置だと上半身のパーカーくらいしか見えませんでしたし、間違われても仕方がないです」

「納得いかん!!」

「もー和佐くん、文句はダメだよー」


 しかしながら、戻ろうとしても双子に手を引かれ、文句を言いに行きたくてもいけない。結局諦めるも、その後も悪態を吐き続けていた。

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