第93話 乱入?
「久しぶり、鈴ちゃん!」
鈴ちゃん、その人物はそう呼ぶが、ここにいるメンバーで、日常的にそう呼ばれる者はいない。いるとすれば、その呼び名が名前の一部となっている一人だけ……。
「ちょ、その呼び方はやめてください!」
案の定、鈴音が慌てた様子で少女の口を塞ごうとしている。どうやら、鈴ちゃん、とは鈴音の愛称のようだ。それも、この施設に入ってきたという事は、一般生徒ではなく、候補生だろう。つまり、候補生の中では、鈴音は鈴ちゃんと呼ばれている事になる。
「へぇ~、鈴ちゃんね、へぇ~」
「随分愛嬌のある呼び方じゃないですか」
「か~わい~い」
口々に持て囃され、顔を真っ赤にするものの、如何せん相手が相手なだけに強く言う事も出来ず、されるがままとなっている。そんな鈴音の姿がおかしかったのか、少女が口に手を当てて笑いを堪えている。
「その呼び方は外ではやめてって言った筈ですけど!」
「いやぁごめんね~。久しぶりに会ったから、つい出ちゃった」
「久しぶりって……、普段から学校で会ってるでしょう……」
「プライベートで、って事よ。マイハニー」
「あなたはそうやっていつも訳の分からない事を……」
同級生だろうか、少なくともそれなりに親しい間柄のようで、年相応の話し方になっている鈴音を見ていた他のメンバーの頬が緩む。
「これはこれは、何やら親密な間柄のようで?」
「あぁもう、そういう事に勇んで首を突っ込む人がいるんだから……」
意地の悪い笑みを浮かべた凪が、少女の傍に近づいていく。ご丁寧に、片手を頬に当て、まるで内緒話でもするかのような仕草を見せている。
「気になります? アタシと鈴ちゃんの蜜月の夜が」
「興味しか無いわね!!」
「そんな変な話をするような事なんてしてません!!」
熟れたリンゴのように顔を真っ赤に染めて二人を引きはがそうとするも、それが二人の少女の嗜虐心を煽る。
「そんな! アタシとの関係は遊びだったって言うの!?」
「鈴音、お母さんはアンタをそんな風に育てた覚えはありません!!」
「これは……凪先輩は二人に増えましたね」
「ダブル先輩……、和佐先輩の胃に穴が空きそうな布陣だね」
冷静に分析? をしている先輩約二名は、役に立たないと判断したのか、そろそろ力づくで少女を抑えようかと考え始めた時、ようやくこの悪ふざけが終わりを告げる。
「あっはっは、いやぁ、やっぱり鈴ちゃんを弄るのは楽しいね」
気持ち良さそうに豪快に笑うものの、その隣ではふくれっ面で納得していなさそうな鈴音が少女を睨みつけていた。
「悪ノリした後で悪いんだけど、結局この子誰?」
「知らないでノッてたんですか……」
絞り出された声からは、非常に疲れている様子がうかがい知れる。少し前までは、その役を和沙が担っていたのだが、どうやら妹へと受け継がれた様子だ。
「……コホン、彼女は
「それだけじゃ、な・い・で・しょ」
「……クラスメイトでもあります」
苦虫を噛み潰したような表情で口にする辺り、普段からどのようなやり取りがされているのか、目に浮かぶようだ。
「では、改めまして、磐田美月です。年は十四歳、今の候補生のまとめ役のようなものをやってます」
「言ってしまうと、候補生の隊長ですよね? そんな方が私達に何の用でしょうか? 今、候補生の人達は新型の洸珠への対応で忙しいはずですが……」
「そうですね。実際、候補生のみんなはそれに四苦八苦してます。特にこれと言って用があったわけでは無いんですけど、ちょっと気になった事がありまして……」
「気になった事?」
「今まではサポート、って話を聞いてたんですけど、今回の作戦内容を話してもらう際に、その中心となる人物、つまり鈴音さんのお兄さんの事です」
鈴音の兄、ここにいる誰もがその人物が誰なのか、一瞬で理解出来た。
一般だけではなく、候補生にも和沙の事を隠している辺り、その警戒の強さが見て取れる。とはいえ、流石に彼女達と毎回出ていくところを見られると、流石に不信に思われるので、そこはサポートということで通している。例え身内と言えど、その警戒のしようは尋常ではなかった。
そうしてひた隠しにしてきた情報を、今になって明かす事となった。これが意味するのは、候補生の少女達にも真実を知ってもらう為か、それとも別の意図があるのか。
「……公にされたとは聞いてないわ。多分、候補生と本隊のやり取りを円滑にする為、と言ったところね。間違いではないけれど、些か時期尚早だと思うのは私だけかしら?」
「私もそう思います。連携に関わるとはいえ、本隊と候補生を繋ぐだけなら私達の誰かが行えば良いですし、どのみち知られるとしても、大事の前に不確定要素を知らされても、士気に影響が出かねません」
「そうですよね。だから、アタシがそれを確認しに来たんです。候補生の仲間の命がかかってる以上、その辺あやふやにする訳にはいきませんから」
責任感、だろうか。例え本隊でなくとも、リーダーとしてやっていく以上、メンバーの不安要素になりかねないモノは取り除きたい。そんな思惑が見えるものの、それは決して悪い事ではない。命に関わるのであれば、どのような手であれど、最善手を取る事が重要だ。
「な~るほど、納得したわ。ま、そういう事ならいいんじゃない? 確認って言っても、喧嘩吹っ掛けるわけじゃないのよね?」
「当たり前ですよ! どんな経緯であれ、本隊にいる人に迂闊に喧嘩なんて売れません! 例え、候補生の段階を踏んでいなくても!」
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