第64話 新学期

 夏休みも無事? に終わり、二学期の最初の日。つまりは始業式の日なのだが、この日も朝一で凪達巫女隊のメンバーが部室へと集まっていた。


「で、今日から正式な活動が再開されるわけだけど……、そこぉ! シャキッとしなさい!!」


 ビシッ、という効果音が聞こえてきそうな勢いで、凪が部室の一角を指差す。そこでは、普段は決して見せないであろう、七瀬がダラけた姿を見せていた。その隣では、葵も似たような格好で机に突っ伏している。


「七瀬ちゃん、またてつげー、って言うの? やったんだね。ダメだよ、ちゃんと寝ないと」

「げぇむぅ? そんな事言って、ホントは宿題が終わってなくて、徹夜で片付けてたんじゃないのぉ?」

「失敬ですね。義務を果たさぬ者に権利無し。前にも言いましたが、課題は七月中に終わらせています」

「そういえばそんな事言ってたわね……。この真面目ちゃんが! いや、徹夜でゲームしてるうえに、居眠りまでしてるからそうでもないのかしら……? あれ?」


 凪が首を傾げている。不、を付けるか否かで、自分の中で随分と葛藤しているようだ。しかし、正直どうでもいい。


「こうして集まりましたが、この後、何かする事があるんですか?」

「んーん、始業式は終業式と違って、変な来賓なんかも来ないし、大してやる事は無いわ。ただ、土壇場になって何かあるかもしれないから集まった、って話」

「はぁ……」


 確かに、急用に備えるのは大事だが、こうして全員が顔を付き合わせる必要があるのだろうか。


「HRまで、まだ時間もあるし、こうしてのんびりするのもいい事だと思うよ」

「いやまぁ、朝早くに招集されたので、多少の余裕はありますが……」


 チラリ、と鈴音が隣に座る人物へと視線を向ける。彼女の隣には、和佐が座っており、ここに来てからずっと腕を組んで目を瞑っていた。


「寝るな」

「うぐっ……!」


 丸めた教科書を頭に向かって振り抜かれ、和佐の口からくぐもった声が漏れる。ぶたれた部分を押さえながら、眠そうな目をなんとか開いて、睨む和佐。

「……痛いんだが?」

「ねーるーなー」

「別にいいだろ、迷惑掛けてる訳じゃないんだから」

「ダラけるな、って言ってんの。夏休みはもう終わり! ほら、シャキッとしなさい!」

「シャキッとしてどうする? 特にやる事も無いのに、姿勢だけ伸ばしてればいいのかよ」

「む……、確かにやる事が無いのは問題ね」

「問題は無いだろうに……。平和だという証拠だ。残暑も厳しいし、出来る事なら今日はこのまま帰りたいんだけど?」

「今日は始業式が終わったら、そのまま訓練に直行よ」

「はぁ……」


 非常にローテンションで喋る口から、重苦しい溜息が吐かれる。

 夏休み中、微妙な空気になったと思われた和佐と他のメンバーだったが、特に険悪な仲になったわけではなかった。話せば会話は成り立つし、こうして凪が絡んでも普通に返してくる。ただまぁ、皮肉や嫌味がその口からしょっちゅう出る為、側から見れば、仲が悪そうには見えるが、実際はそうでもなかった。

 果たして、それが良い傾向なのかどうか、分かる者はいなかったが。


「夏休み中はまともな活動が出来なかったから、二学期こそはガンガン行くわよ!!」


 意気込んだ凪には悪いが、この場にいる半数にやる気という言葉が見当たらない。普段ならば、凪の言葉にしてくれる七瀬も、今だけは先輩に反旗を翻したようだ。凪の言葉に、一切同意の意思を示さない。


「せめて誰か何かリアクションとってよぉ!!」


 挙句の果てには、凪の涙交じりの叫び声が部屋の中に響き渡る。


「まだ暑いわ、先輩は煩いわ、いい事無いな、ほんとに」

「和佐ぁ!! 喧嘩売ってんの!?」

「頼むから室温を上げるような事だけはしないでくれ。こちとら暑さに弱いんだから」

「むきいいいいいい!!」


 いつもの遣り取り、と言うには少々二人の間に温度差があるが、ようやく調子が戻ってきたようだ。


「元気ですね……」

「ホントだねー」


 ヒートアップしていく凪を眺めながらも、ノンビリとした口調を崩さない幼馴染み二人組。

 結局、HRの予鈴が鳴り響くまで、彼女達がその場から動く事は無かった。

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