第34話 パラダイス 4

「そこぉ!!」


 凪の放った強烈なスパイクが七瀬&日向ペアの陣地へと落ちる。鈴音によって、凪と風美のペアに点が入った事が告げられると、ハイタッチを交わす二人。反対に、七瀬と日向は悔しそうな表情をしている。

 海で遊ぶのにも飽きたのか、それとも純粋にやりたかっただけなのか、唐突に始まったビーチバレー対決は、凪と風美のペアが圧倒的な強さを見せつける。


「もう一回です!」

「おぉ! 七瀬ちゃんがそう言うなら私も!!」

「いいわよぉ、何度でもかかってらっしゃい!」

「かかってこーい!」


 完全に火の付いた七瀬が、リベンジを告げると、それに対し挑発で返すチャンピオンコンビ。この闘い、もはや誰にも止められない。


「この暑いのによくやるよ……」

「凪先輩、定番だーとか言いながら、物凄いやる気を見せてましたね。それに、この後はスイカ割りもやるって言ってましたよ」

「満喫してるなぁ……」


 凪だけではない。体を動かすのが好きな日向や風美は当然の事、七瀬や鈴音までそのノリの付いて行っている。逆に和佐はインドア派なので、盛り上がれば盛り上がるほどにテンションが下がっていく。とはいえ、こんな所まで来た以上、空気の読めない発言をするつもりは無いのか、促されれば参加する程度はしている。

 隣で一緒になってビーチバレーの様子を見ている仍美は、先程まで風美と一緒に参加していたが、流石に風美の体力には付いていけなかったのか、今はこうして休んでいる。


「そういや、一つ疑問に思ったんだけど」

「なんですか?」

「風美はああいう性格上、前衛向きだと思うんだが何で銃なんだ? 仍美もどっちかと言うとサポート寄りなのに二刀だし」


 それは彼女達の戦闘スタイルに対する疑問だ。確かに、彼女らの性格や動きから本来は逆であってもおかしくはない。むしろ、そちらの方がしっくり来る。


「簡単ですよ。お姉ちゃんは派手な方がやりやすいんです。よく動き回るので、派手な攻撃で気を引いたり、近くのが難しい相手でも積極的に攻撃を行えますから。逆に、私は相手の死角に入ったり、隠れ潜んで、不意打ちを狙う事が得意なので、そういう武器なんです」


 二人の武器は彼女たちの性格や戦い方にマッチした物が選ばれていた。思い出してみると、確かに和佐の初めての戦闘でも、仍美はいつの間にか温羅の背後に回り不意打ちを行なっていた。逆に、風美の方はとにかく弾をばら撒き、敵の気を引く事が主だった。


「それじゃあ、あれか? 仍美の御装がくノ一っぽいのもそれに起因してるのか?」

「あ、あれは! 最初は私のやり方に合う服にするって言われて……」

「で、出来たのがあれ、と」

「露出は低いので、見られてもそこまで恥ずかしくはないんですけど、開発した人がむしろくノ一はそれくらいが一番だ! とか言い始めて……、御装を着たまま変なポーズを要求される事も……」

「もしかして、御装って開発者の趣味が入ってたり……」

「しますね……。流石に一人で全部やってるわけじゃないんで、みんながみんなそうじゃないとは思いたくないんですけど……」

「ところどころ変な露出あるしなぁ……」


 御装は防具の役割を担う以上、全体的に露出が控えめだ。しかし、人によってはところどころ装飾が施されたり、和佐の言ったように防御にそこまで影響しない程度に露出があったりもする。脇や首筋、太ももなど、中には際どいものも存在する。


「あれ? でも和沙先輩の御装って……」

「うん? 俺の御装がどうかしたか?」

「いえ、そういえばなんですけど、和沙先輩の御装って、どことなく私達のとはデザインが違いませんでした? 私達のって、ヒラヒラしてたり、どことなく独創的なんですけど、和佐先輩のはなんていうか、衣装というよりも、戦闘服、といった感じがしたので」

「そう言われてみれば、そう見えない事もないか……」


 確かに、和佐の御装は他のみんなの物と比べると異色に感じる。まず、基調となっている色が異なる。他のみんなは全員白を基とし、そこからそれぞれのパーソナルカラーのような物が散りばめられているが、和佐の御装は主に黒だ。そこにところどころ白が混じっている、といった感じか。また、形の印象も異なり、凪達の物は礼装のようなパーツが多く、戦闘服と言うよりも、衣装と言った方が近いか。それに比べ、和佐の御装は衣装や礼装のような飾る物はほとんど無く、戦闘への最適化に特化している印象を受ける。


「本局所属の巫女の中に、和佐先輩に似たような御装の人がいるという話を聞いたことがあるので、もしかしたら、先輩の御装は本局でデザインされたものかもしれませんね」

「本局、ねぇ……」


 なんとも言えない表情を浮かべながら苦虫でも噛んでいるかのような声を出す。地方の祭祀局は、本局とはあまり良好とは言えない関係、と話していたのは誰だったか。


「まぁ、機会があれば会ってみたいもんだな」

「機会があれば、ですね」


 そんな機会などそうそう来ない。そう言いたげな二人は視線を、目の前で繰り広げられている死闘へと戻す。

 やはり、凪と風美は強い。根本的なフィジカルに差があるのだろう。日向もかなり運動神経が良い方だが、凪ほど体格に恵まれているわけではない。また、七瀬もそんな日向に付いて行ってはいるが、どちらかと言うと考えて動くタイプの為か、直感で動く日向と比べるとワンテンポ遅い。指揮官タイプの落とし穴、と言ったところか。


「ウィナー!!」

「勝ったー!」


 凪と風美の万歳が響く。逆に、日向と七瀬はその場で蹲っている。


「そこまでショックか?」

「ゲーマーとして、勝ち負けに拘るのは当然の事です……。が、認めましょう、今日はあの人達が強かった」

「今日はって……。リベンジでもするつもりかよ」

「そのうちに」


 本当にそのうち、だろうか? 七瀬の様子から、今日中にもう一戦、とか言いそうだ。


「さぁ、次は誰!」

「あんの、体力おばけめ……。まだやる気か」


 底無し、とはまさに凪の事を言うのだろう。とはいえ、前で防御役をするには、ここまで体力が必要なのだろう。事実、相手の攻撃を全身で受け止め、それを押し返すのには、かなりの力やスタミナが必要な筈だ。そう考えると、彼女の体力の多さには頷ける。……が、何事も限度というものがある。


「よし! じゃあ、そこでさっきから一人だけ傍観者ぶっている和佐!」

「はぁ!?」


 いきなり指名を受け、思わず素っ頓狂な声が漏れる。


「これもコミュニケーションの一環よ。この私が直々にシゴいてやるわ!」

「あ、兄さんがやるなら、私も一緒にやります」

「ほう……、天下の鴻川家兄妹が相手か……。相手にとって不足はない!」

「なーい!」

「ほら、行きましょう兄さん」


 和佐の選択肢は何処へやら。こうなってしまったら、拒否するなど空気の読めない事は出来ない。

 和佐はなんとか回避する手段を模索するも、最終的には諦め、鈴音の隣に立って、目の前の少女二人の相手をする覚悟を決めた。


「ふははははは! 受けてみるがいいわ、今必殺のおおおおお!!」

「俺は殺されるのか……?」


 呆れと疲れが混じった表情を浮かべながら肩を落とすも、目の前に暴君は止まらない。

 和佐に安息が訪れるのは、もう少し先になりそうだ。

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