第41話 双子 前

 ――話は約十分ほど前まで遡る。


「これで最後ぉ~!」


 風美の放った弾丸が、温羅の中心を貫く。小型の温羅は、自らのど真ん中に空いた風穴に気を取られる間もなく、その場から消滅していった。


「お姉ちゃん、こっちも終わったよ」


 少し離れていた仍美もまた、愛刀で屠った相手が消滅する様子を確認しながら、風美へと報告を行う。

 戦闘時間自体は長くは無かったが、ここまで来ることと敵を補足することに少々時間をかけてしまった為、時間的には中型のいる本隊と同じくらいかかっているだろう。とはいえ、隔離区域から市街への侵入は防げたので、むしろ褒められるべき事柄ではある。


「ん~それじゃ、凪ちゃん達と合流する?」

「その前に報告だけしちゃうね」


 仍美が自身の端末を操作する。報告の対象は凪と観測班に両名。この報告が済み次第、凪達の方へと合流するつもりなのだが……。


「あれ? 繋がらない……」

「どうしたの?」

「通信が繋がらないの。故障かな……?」

「ゲームのし過ぎで通信制限受けたんじゃないの?」

「お姉ちゃんじゃないんだから……」


 何度通信回線を開こうとしても、返ってくるのはエラー音のみ。そもそも巫女に支給されている端末の回線は特別なものであり、その運営は防衛省の特殊な部門が行っており、普通のキャリアの回線と異なり混線や、通信障害が起こる事はまずない。故に、ここまで繋がらないのは明らかにおかしい。


「こんなことって今まであったっけ?」

「ん~……、分かんない」

「お姉ちゃんに聞いた私が間違ってたよ……」


 頭痛を堪えるような仕草をしている仍美だが、反対に風美の方はあっけらかんとしている。いや、それ以前に、先ほどのセリフから、自分はゲームのし過ぎで通信制限を受けたことがあるのだろうか?

 何度か通信を試みるも、やはり繋がらない。


「お姉ちゃんの端末でも無理?」

「ん~……どうだろ? ちょっと待ってね」


 風美もまた、自身の端末を取り出し、操作をしようするが、すぐにその手が止まった。


「お姉ちゃん?」

「ん~、何?」


 何やら風美の様子がおかしい。どことなく余所余所しいと言えばいいのか。


「……」


 仍美の風美を見る目が厳しいものとなっている。まるで、それから逃すかのように、風美が端末を持つ手を後ろに隠した。


「お・ね・え・ち・ゃ・ん? 端末は?」

「べ、べべべべべ、別にゲームし過ぎて電池が切れてたなんてことはないよ!?」

「はぁ……、そんなことだとは思ったけど……。大事な時に使えなかったら意味ないじゃない。そうやってお姉ちゃんはいつもいつも……お姉ちゃん?」


 だらしのない姉に説教を始めようとした仍美だが、風美の様子がおかしい事に気づく。

 どこかを見ている。仍美もまた、その方向へと視線を向けるも、仍美の目には何も映らない。

 全てが全てそうとは言えないが、風美が取る突発的な行動に意味の無いものはほとんど無い。と言う事は、これにも何等かの意図が……。

 そこまで考えていたが、唐突に風美の視線が仍美へと向いた。


「仍美! 逃げて!!」

「え? いきなりどうし……っ!?」


 言われた瞬間こそ、風美の言葉に首を傾げていたが、次の瞬間にはその言葉の意味を知る事になった。

 着弾、後に轟音。


「きゃああああああ!!」

「いやああああああ!!」


 着弾時の衝撃波に煽られ、風美と仍美が大きく吹き飛ばされる。着弾した際に飛び散った瓦礫が二人を襲うが、結界で難を凌ぐ。

 着弾した場所から二十メートルほど離れた場所まで吹き飛ばされた二人。しかしながら、直撃しなかった事と、風美のおかげで意識を失う程までには至っていない。また、無傷とはいかなかったが、傷自体もそこまで深刻なものではない。

 吹き飛ばされた勢いで二度三度転がった仍美だったが、その勢いを逆に利用し、即座に立ち上がると、攻撃飛んできた瓦礫の方向や、衝撃波などからどの方角から攻撃が放たれたのかを計算し、すぐさまそこから死角になる場所へと身を隠す。


「お姉ちゃん、無事!?」

「なんとか~……」


 こんな状況でも気の抜けた声を出す風美だが、むしろ彼女が真剣な話し方をする時の方が厄介な状況に陥っている事を示すと考えれば、まだそこまで切迫した状態ではないと言える。


「今のって……」


 攻撃が飛んできたであろう方向を、遮蔽物の影から覗きながら推測する。

 爆風などは確認されておらず、轟音があったものの、地面と攻撃がぶつかった際に発生した音であるとすれば、少なくともミサイルや爆弾のようなものではない。とはいえ、舗装された道路がはじけ飛び、風美と仍美をこの距離まで吹き飛ばすだけの威力を持っていると考えると、相当な勢いと火力を持つ兵器である事は疑いようがない。

 となると、最初に遭遇したミサイルをばら撒いてくる温羅の類似型。同型ではないだろうが、未来の兵器のような敵である事は間違いないだろう。


「仍美! 次来るよ!」


 いつの間にか体勢を立て直していた風美が、仍美と同じように遮蔽物を利用して敵の様子を窺っている。仍美の位置からは上手く確認出来ないが、風美からは見えているのかもしれない。


「どんな攻撃!?」

「さっきと同じ……、また大きいやつ!!」

「!?」


 仍美がその場から全力で退却を試みる。風美もそれに続こうとするが、背後からかなり離れた場所に、再び着弾し、その衝撃波で吹き飛ばされてしまう。


「ぐ、ぅ……。一体何なの……!」

「大丈夫!?」


 風美が仍美を案じて肩を貸そうとするが、仍美はそれをきっぱりと断る


「大丈夫……。それよりも、敵はどのタイプ!?」

「た、タイプって……?」

「遠距離か、近距離だけでもいいの! お姉ちゃんには分かるでしょ?」

「多分、遠距離タイプだと思う。一発目も、二発目も遠距離攻撃だったから」

「遠距離……、それじゃあ下がるのはダメ。前に出るよ、お姉ちゃん」

「勝てるの?」


 仍美の提案に、思わず聞き返してしまう風美。敵は遠距離タイプだから、近寄ればいい、と風美でも分かる事は分かるのだが、万が一あれが近距離のも撃てるとなると、それこそ渦中に飛び込んでいくことになる。風美としては、本隊と合流するのが得策と考えるだろう。しかし……


「近寄って、懐に潜り込めば何とかなると思う。そのまま、倒す事は考えずに、ただ時間を稼いでいればそのうち先輩達が駆け付けてきてくれる」


 通信が通じないのは一方通行ではない。凪達も、風美と仍美との連絡が不可だと知ると、ここまで応援に来るだろう。二人の目的は、それまで敵を抑えればいい。


「……分かったよ。仍美の言う事に従う」

「ありがとう、お姉ちゃん」


 双子はお互い頷き合い、攻撃が飛んできた方角を睨む。ここから反撃、とはいかないが、耐久戦になるだろう。彼女達二人でどこまでやれるのか。


「行くよ、お姉ちゃん!!」

「うん、任せて!!」

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